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82 遠当て

今日は三話投稿。

これが一話目。

 ノイ・アルマトランの襲撃によって、副団長の首が宙を舞った数秒後、三百六十度、余すことなく不死族の軍勢が襲い掛かってきた。

 全員焦げ茶の肌をしている。

 日に焼けているというよりは、肌が劣化しているような色だ。

 一体何年生きているのかと思わせる奴もいる。


 どいつも剣を持って、騎士たちに斬りかかる。

 完全に包囲されており、突如降ってきた不死族に人間側は対応できていない。


 一人、また一人と斬り殺される。


 俺は焦る気持ちを押さえつけて、光の加護(プロテクション)を全員にかけた。

 これだけはやっておかないと、絶対に後悔する羽目になる。


 目下、最大の敵はノイ・アルマトランだった。

 ノイ・アルマトランの戦闘力は、そこらの騎士では絶対止められないと分かるほど、圧倒的だった。


 四本の腕で竜巻のように回転しながら、周りの騎士を斬り殺す。

 滑稽には見えない。

 まるで演武でもしているような華麗さがあった。


 反撃を試みる騎士の攻撃を一本の剣で受け止め、三本の剣で斬り殺す。

 単純だが、あれをやられればどうする事も出来ない。


 攻撃も防御も圧倒的だった。

 一人見覚えのある奴がノイ・アルマトランに攻撃を仕掛けた。

 

 あいつは、確か大会で最初に当たったリザードマンだ。

 槍使い。

 距離を保って攻撃できるあいつなら、ノイ・アルマトランとは相性がいいかもしれない。


 勇者候補であったリザードマンに期待がのしかかる。

 それを知ってか知らずか、リザードマンは攻撃を開始した。


 槍を一突き。疾風怒濤の速さで突きまくる。

 ノイ・アルマトランの装甲はそこまで厚くない。

 槍の一撃はノイ・アルマトランの鎧を砕くには十分な威力を保っていた。


 心の中でやっちまえと叫んだ。

 ノイ・アルマトランは今この場で暴れている不死族の大将だ。

 総大将は不死の王だが、この戦場を牛耳っているのは間違いなく奴だ。


 ノイ・アルマトランは槍を受け切れず、傷を多く負った。

 だが、全く倒れない。

 顔には笑みが張り付き、強者の登場に歓喜しているようにすら見えた。


 ノイ・アルマトランは前進する。

 全く止まらない。

 槍の暴風にも負けず、突き進んだ。


 気合一閃、槍が瞬く。

 リザードマンの槍はノイ・アルマトランの腹を突き破った。


 周りの騎士が喚起した。

 オォォォ!? と若干の疑問と士気の向上。

 騎士は勝利を疑わず、目の前の不死族に打ち掛かる。


 これでこの場の趨勢は分からなくなった。

 副団長の死という事故はあったが、盛り返すことも可能だ。


 リザードマンはいい仕事をした。

 あのノイ・アルマトランとかいう奴を殺したのだ――!?


 我が目を疑った。

 腹を貫かれてなお、ノイ・アルマトランは笑っていた。

 

 フフフと。嘲笑だ。

 嘲笑っている。

 狂気渦巻く戦場で、奴は笑っている。

 すると、周りの不死族も笑い始めた。


 ゲゲゲ、とか。ギギギとか。薄気味悪い。

 大将がやられているにもかかわらず、不死族の連中は笑みを崩さない。


 例えるなら、この状況はまったく不利ではないような。

 ノイ・アルマトランはまだ健在だと。

 自分たちの大将がそう簡単に死ぬはずがないと、確信している笑いだ。

 だからこそ、各々戦いに集中できている。


 目の前の人間を殺す事に集中し、己が使命を果たす。


 リザードマンは不気味に笑う不死族に困惑していた。

 しかしすぐに立て直し、ノイ・アルマトランに突き刺さる槍を引きぬいて、止めの一撃を加えようと力を加えた。


 だがその前にノイ・アルマトランの方が早かった。

 ノイ・アルマトランは四本握るうちに剣の一本を地面に突き刺し、片手をフリーにすると、リザードマンの槍を直接つかんだ。


 リザードマンは両手に力を込めて、引っ張っているのだろう。

 一刻も早くあの拘束から解き放たれ、ノイ・アルマトランに致死の一撃を叩きこもうと企んでいるに違いなかった。


 リザードマンは両手に力を込めて、槍を引っ張る。


「フフッ」


 ノイ・アルマトランは笑った。

 喜びと侮蔑の笑み。


 不死族は戦闘狂。その言葉を思い出した。


 リザードマンが引く槍は一ミリも動く事なく、その場に固定されているようだ。


「馬鹿な!」


 リザードマンが困惑に困惑を重ねて叫んだ。

 

「何故力負けする!?」


 さらに槍を引く力が強まった様に見えた。

 しかし動かない。

 リザードマンは両手。対してノイ・アルマトランは片手なのにだ。


 ノイ・アルマトランは笑う。

 勝利の味を知っている奴の笑みだ。

 圧倒的強者の顔。

 弱者を踏みにじり、勝利を得る事を知るものの笑いだった。


 グイッとノイ・アルマトランが槍を引っ張った。

 リザードマンが槍に引かれて、ノイ・アルマトランに一歩近づいた。


「逃げろ!」


 俺の叫びなど、この土砂降りの雨でどこまで届くのか。

 ノイ・アルマトランがあえて、剣を持ちかえている。

 刃のついていない峰で、リザードマンの頭を滅多打ちにしている。

 三本の剣が止まる事はない。


「これだ! 陛下! 最高の力です! あなたは最高だ!」


 ノイ・アルマトランは高らかに笑った。

 上空を見上げながらも、リザードマンを殺す手を止めない。


 いや、もう。駄目だ。

 あそこまで頭の原形が無くなっているやつを、生きていると呼べるはずもない。


 戦場が凍りついた。

 勇者候補だった奴が瞬殺された。

 その現実。圧倒的真実。


 自分よりも数段は強いであろうリザードマンが、なすすべなく敗れた事実に、騎士たちはどう思ったのだろう。


 俺には分からない。


 誰も動かない戦場で動き続けるのは、ノイ・アルマトランだけだった。

 他の不死族もリザードマンが殺される様子を興奮気味で見ていた。


 そのうちテンションが上がり過ぎたのか、リザードマンの頭を完全に潰してしまった。

 ノイ・アルマトランは打ち震えていた。


 ビクビクと痙攣している。

 上を見て、雨にさらされている。

 

 リザードマンの体は、自然と地面に崩れた。

 槍を握れなくなり、その手を放す。


 ノイ・アルマトランは何でもないように槍を引き抜いた。

 槍を捨てて、地面に突き刺した剣を手に取った。


 先程までの笑みはどこかに消えていた。

 冷血。

 ぞわりとしたのもが、背筋を這いまわった。


 誰が、あいつと戦うのだ。


 なんだ。あいつは。

 さっきから。

 レベルは? 年齢は? スキルは? 実戦経験は?


「勇者様!!」


 誰かが叫んだ。


「あいつを殺してください!!」


 木霊する。その声は誰の耳にも届いた。

 勇者様、勇者様。


「殺してくれ!!」


 ノイ・アルマトランが周りをぐるっと見渡した。


「勇者ぁ?」

 

 やめろ。

 その名を呼ぶな。

 ノイ・アルマトランが興味深そうにつぶやいた。


「どいつだ?」


 嫌だ嫌だ嫌だ!!

 あんな規格外なんて聞いていない!!


 無理だ。勝てるわけない。

 

 それに心が。


 あの惨状を見て、恐怖しない者が居るのだろうか。

 ノイ・アルマトランの足元に転がるリザードマンの死体。

 

 ノイ・アルマトランの強さは良く分かった。

 その上で言ってやろう。


 戦いたくない。


 勝てるか分からない。

 一歩引こうとした。

 あいつとやり合うにしても、正面からなんてあり得ない。


 背後から一突きにする。

 でも今動いたら、自分が勇者と宣伝するようなものじゃないか?

 動かしかけた足をすんでの所で止めた。


 アイツとだけは正面はない。

 だが今動いたら確実に目を付けられる。

 

 ノイ・アルマトランが痺れを切らした。


「出てこないなら、出てくるまで殺すだけだ」


 絶対零度の声に続いて、ノイ・アルマトランが動く。

 近くにいたという理由だけで、騎士が惨殺された。


 今度は刃を使い、一振りで殺している。

 次だ。


 ノイ・アルマトランが狙ったのは、アイカだった。

 アイカが短剣をノイ・アルマトランに向けた。


 殺される。


「こっちだ! ノイ・アルマトラン!!」


 黒剣を抜いて、アイカとノイ・アルマトランの間にでしゃばる。

 やってしまった。


 ノイ・アルマトランは笑っている。

 四本の腕が蠢く。


「邪魔だどいてろ!!」

「ひぃぃぃ……!!」


 アイカが頭を抱えて逃げ出した。


 周りから勇者様という声が聞こえてきた。


 ノイ・アルマトランは微塵の恐怖も感じていない。

 負けるとは思っていないようだ。


「お前が勇者か」


 感慨も無くノイ・アルマトランは呟く。

 必殺の一撃が俺に来る。

 来てる。来ちゃってるよ。

 四本だって。

 どうやっても防ぐことはできない。


 二本だ。

 二本までなら保証できる。

 黒剣で一本。義手で一本なら弾ける。


 いや、いけるか!?


「フッ!!」


 一本目を黒剣で弾く。

 ノイ・アルマトランの腕は四本。

 まだ三本の剣が俺に迫っている。

 左から来るもう一本の剣を義手で防ぐ。


 肩甲骨から生える右腕が、俺の頭を狙う。左側頭部を狙っている。

 これでは義手では防げない。

 頭を下げる。


 兜の頂点を擦過していく剣に恐怖していると、目の前に剣が映った。

 左肩甲骨から出ている腕の剣か。


 顔面に迫りくる。これを喰らったら死ぬ。

 足。足あげろ足!


 右足を上げた。 

 打ち上げられるノイ・アルマトランの剣。

 黒鉄石の脚当てに剣がぶち当たった。


 脛を強打される痛みに襲われた。

 すぐさま足を組み替える。

 義手をかち挙げる。

 鍔迫り合いしていた一本の剣が、上空高く舞い上がった。


「おっ」


 ノイ・アルマトランが驚いた。

 少しではあるが。

 力負けしていない。


「撫で斬り!!」


 ノイ・アルマトランは完全に油断していた。

 右腕を切り裂いた。

 

 ノイ・アルマトランが飛んだ腕を見送る。

 腕が一本無くなったというのに、とても冷めた反応だった。


 周りから歓声がわいた。

 追撃の撫で斬りを放つ。


 首を狙い、剣を振りぬく。

 血がわき出るノイ・アルマトランは、一歩引いて剣を躱した。


 後ろに飛んで俺から離れた。


「なかなかやるな。勇者の名は伊達じゃないか」


 ノイ・アルマトランが自分の斬り飛ばされた腕を拾い上げた。

 傷口に接着しようとしている。


 アホだ。

 そんなんで治る訳ないだろ。


「やはり私では無理か」


 ノイ・アルマトランが自分の腕を捨てた。

 

「失血死しろ」


 ノイ・アルマトランの左腕の傷口からは、大量に血が流れ出している。

 勝った。

 やってやった。


 この分なら逃げるだけで、ノイ・アルマトランは死ぬ。

 そう思ったが、不死族の名は伊達ではなかった。


「なっ……!」


 ノイ・アルマトランの傷の断面がもう塞がり始めている。

 いや。

 リザードマンに付けられた傷に至っては、もう塞がっていた。


 周りの不死族を見た。

 どいつも似たようなことになっている。


 なんて回復力だ。

 これでは死なない。 

 違う。

 死ににくい(・・・・・)


 ノイ・アルマトランは左を振って、感触を確かめているようだ

 回復力が高いと言っても、腕が生え変わるレベルではなさそうだ。


 取り巻き連中もノイ・アルマトランと同じような力を発揮していた。

 そんな。

 完全に人間の能力を上回る力を持っている。


「チィッ!!」


 タッと地面をけり出す。

 生半可な攻撃では死なないと分かった以上、一撃必殺を狙うしかない。


 ノイ・アルマトランも残る三本の腕で構える。

 口元には笑みが張り付く。


 剣を振りぬく。

 コンパクトに剣を出し入れして、ノイ・アルマトランに反撃の隙を与えない。

 まだ三本ある腕には要注意だ。

 右二本、左一本。

 

 こういう時になって、左腕が無いのが悔やまれる。

 エストックが握れれば……!


 ノイ・アルマトランも俺の剣の重さに気付いていた。

 右腕と左腕で剣を一本握り、残る右腕で補助的に剣を捌いてきた。

 要は二刀流になった。三刀流よりマシかもしれないが、一撃一撃が完璧に防がれ始めた。

 

「兜割り!」


 一撃必殺の兜割りでノイ・アルマトランの頭を割りに行く。

 しかしノイ・アルマトランも俺の狙いは看破している。

 剣を交差させて剣を受け止められた。


 ノイ・アルマトランは、ガッと剣をずらした。

 力が受け流される。若干前のめりになるのは防げない。


 そのままノイ・アルマトランは斬られた左腕で、俺の顔面を殴った。


「ぐぉ!」


 剣を持っていなかったから、無警戒だった。

 鼻が潰れたようだった。鼻から呼吸できない。

 血が流れる感覚が。


「フンッ!」


 ノイ・アルマトランの両手で握った剣が、俺の左わき腹に直撃した。

 黒鉄石の鎧が軋む。右足でその場に踏ん張る。


 ノイ・アルマトランは二刀流だ。まだ追撃が来る。

 

「ハハッ!」

 

 笑いながらノイ・アルマトランが剣を繰り出した。

 兜の頂点を砕かんばかりの衝撃が、脳みそをシェイクする。


 強い。負けるかもしれない。

 ノイ・アルマトランが剣を振りかぶっていた。


 頭では理解しているのに、体が動かない。硬直している。

 死――。


「待ったぁぁああ!!」

「まだよぉぉ!」


 アイカとルイちゃんが左右から剣を差し出した。 

 短剣とハンマーが交錯する。

 二人とも両手で武器を持って、来るべき衝撃に備える。


 ガツンと短剣にノイ・アルマトランの剣が当たった。ルイちゃんがハンマーで短剣を支える。

 二人に顔に余裕はなかった。

 ルイちゃんが支えているにもかかわらず、ノイ・アルマトランは剣を押し込んでいた。


 ノイ・アルマトランのこめかみがピクリと動いた。

 いけない。イラついている。

 早く体勢を立て直そうとする


 だが、ノイ・アルマトランの方が早い。

 肩甲骨から生える右腕が、さらに追撃に加わろうとしている。


 あれを喰らったら武器が砕ける。

 そう思わせる一撃だ。

 そうなれば、まずアイカが死ぬ。次にルイちゃんだ。

 よくて腕が切断される。運が悪ければ、失血死する。


 黒剣を構え、ノイ・アルマトランの剣を弾く準備に取り掛かった。

 それでも俺には仲間がいた。

 遠くからなら、好きなだけやれる。


「鏃合わせ!」


 イズモがシノノメに一発だけ殴られた後、矢を放った。

 寸分違わず、ノイ・アルマトランの右手の甲に突き刺さった。


 反射でノイ・アルマトランの掌が開いた。

 剣が遥か彼方へ飛んで行った。


 ここ!


 身をかがめ、交差する短剣とハンマーの下をもぐる。

 

「くくっ!」


 俄かに信じがたい。

 必殺の一本突きを放とうとしている俺に向かって、まだ笑うか。

 ノイ・アルマトランは回避が間に合わない事を知りながらも、後ろに下がった。

 

 黒剣がノイ・アルマトランの腹を浅く突き破る。

 ノイ・アルマトランは軽い呻き声を出した。

 そのまま下がる。

 時間がたてば回復される。

 

 常時、光魔法がかかっているような連中だ。

 今を逃せば、また命を削る戦いをしなければならない。


 剣術、レベル7!


「遠当て!!」


 その場で剣を振り下ろす。まったくノイ・アルマトランにはかすりもしない位置だ。

 だが俺の斬撃は飛ぶ。

 

 射程距離のある斬撃。

 ノイ・アルマトランが違和感を感じ取り、不可視の遠当てをなんとか防ごうとする。

 顔には先程の笑みは消えてなくなっていた。


「ぐ、おおおおお!!」


 遠当ての斬撃がノイ・アルマトランの二本の剣にぶち当たる。

 ノイ・アルマトランの体がジリジリと後退する。遠当ての威力に押されているのだ。


「もう一本!!」


 射程距離がそれほど長くない遠当てを当てるため、一歩踏み込む。

 周りの騎士や不死族は何が起こっているのか分かっていない。

 お遊戯でもしているのかと疑っているのかもしれない。


 二本目の遠当てがノイ・アルマトランの防御に激突した。


「うぐぁ!?」


 ノイ・アルマトランの顔から完全に余裕が消えた。

 押せ押せ!

 遠当ては有効だ。


「うおおおお! 死ねぇ!!」


 上下左右、黒剣を振り回し、遠当てを連発する。

 飛翔する見えない斬撃は、確実にノイ・アルマトランを苦しめている。


「イズモォォ!!」


 後ろで見ているだけだったイズモがハッとした。

 すぐさま矢を放った。

 頭を狙った攻撃は避けられたが、それでも一瞬意識が逸れた。


 遠当ての斬撃に押し込まれる。

 イズモがまた矢を放つ。


 今度は足だった。上手い。

 

「ぐ、おのれ……!」


 太ももを貫かれたノイ・アルマトラン。踏ん張りが利かなくなっている。

 俺の遠当てとイズモの鏃合わせが、ノイ・アルマトランに殺到する。


「アイカ! ルイちゃん!」


 二人ともわかっていた。

 痛いだろうが、シノノメの等価強化を受けた後、ノイ・アルマトランに向かって駆け出していた。


 それを見たノイ・アルマトランは、必死に死の包囲網から逃げ出そうとした。

 しかし、遠当てと鏃合わせを受け続けるこの状況では、それは不可能だ。

 その場に縛り付ける。


「おい!」


 ノイ・アルマトランが叫んだ。

 その直後、近くにいた不死族がアイカとルイちゃんの相手をし始めた。

 しまった。

 相手もなりふり構っていない。

 使えるものは使わなければ。


「誰か! 行ってくれ! 今ならノイ・アルマトランを殺せる!」


 しかし誰も行かない。

 誰もが目の前の不死族の相手に必死になっている。

 眼前にいる不死族を無視すれば、死んでしまうのは自分だ。


「そのまま撃ち続けろ!」


 最後に遠当てをぶち込んで、黒剣を構える。


「縮地突き!!」


 弾かれた様に加速する。

 ノイ・アルマトランはすでにボロボロだった。

 遠当ての余波とイズモの矢で、大量の血を流していた。


 それでも凄まじい回復力で、塞ぎかかっている傷もあった。

 確実に仕留める。

 

 未だ遠当てと競り合うノイ・アルマトランの交差した剣の中心部分に、黒剣による縮地突きが激突した。

 絶大な威力を発揮した縮地突きは、結果として一本剣を折るに至った。


「なにっ!?」


 得物が残り一本となる。

 剣で防いだことにより、ノイ・アルマトランの体勢が完全に崩れた。

 立て直そうとしてるが、イズモが放った矢はそれを阻害する。

 いくら傷が治るのが早いと言っても、即完治するレベルじゃない。


 太ももに何本も矢が刺さっている状態で、すぐに動けるはずがない。

 倒れそうになるノイ・アルマトランに向かって飛びかかった。


「兜割り……!」


 必死に繰り出す。

 斜めに振り下ろし、頭を真っ二つにするつもりで黒剣を振り切った。

 ガツッとした手ごたえが掌に伝わった。


 手首を返す。


「撫で斬り!!」


 崩れ落ちるノイ・アルマトランの首筋。

 がら空きの首に、撫で斬りが炸裂した。


 斬るというより、叩き潰すという表現の方が妥当な破壊力だった。

 爆発でもしたかのように、首がはじけ飛んだ。


 ノイ・アルマトランの体は司令塔が居なくなり、痙攣を繰り返した。

 最後の一本となった剣を取り落し、膝を屈した。


 倒した、か……?


「いや……!」


 不死族なんて言う名前だ。

 本当は死んでいない可能性もある。


 すぐさま黒剣をしまい、エストックを抜いた。

 切っ先をノイ・アルマトランの体に向けた。


「火槍」


 何本も叩きこむ。

 爆発音が混乱する戦場に轟きわたった。


 攻撃の最後に残ったのは、動かなくなったノイ・アルマトランの死体だけだった。

 頭は無くなり、体だけある。

 これだけだとノイ・アルマトランだと証明はできない。


 だが、この手でノイ・アルマトランの頭を叩きつぶし、首を叩き切った。


 嬉しさが爆発する。

 嬉しさというか、達成感だ。


「うおおおおおおおおおお!!」


 剣を掲げ、勝鬨を上げた。

 不死族は撤退を開始した。 

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