78 結末
今日は二話投稿。
こっちが二話目。
次の準決勝も大したことはない。
俺の現在のレベルを考えれば、世界トップクラスという可能性もある。
力でも技術でも準決勝の相手の小人族を上回り、圧倒的勝利を収めた。
オッズによる予想に反しての俺の決勝進出は、大変盛り上がっている。
見世物という側面を持ち合わせるこの選考会は、今は大成功と言えた。
観客の熱狂も最高潮に至り、次の試合を今か今かと待ちわびている。
俺のレベルを知るアイカたちは納得といった表情だが、俺たちとは反対側にいるマクスウェルは驚きの表情を禁じ得ない。武闘場を挟んだ反対側から睨み合う形になっている。それでも良く見えるし、俺から見ている。
とうとうこの時が。
目を瞑る。
あの不条理な監禁から何日が経過しただろうか。
一か月のような気もするし、一年のような濃密さだったような気もする。
何かを知っている人物が俺のすぐ先にいる。
みんな。
待ってろ。
もうすぐだ。
必ず仇は討つ。
奴を地獄の業火に包み、情報を吐かせ、俺たちを拉致した連中の身元を吐かせる。
怒りと執念に身を焦がしていると、入場のファンファーレが鳴る。
後ろから「いってらっしゃい」と、声をかけられた。
頷いて、進んだ。
円形の武闘場が俺たちを迎え入れた。
それなりの壁の高さがあり、観客には被害が及ばない造りになっている。
想定の範囲内の話だったらだが。
エストックを引き抜きながら、マクスウェルの前に立ちはだかる。
マクスウェルは白髪を撫でつけており、顔は歴戦の勇士が見て取れる。
白銀の鎧を着用していて、所々青い線が入っていて、とても清潔感のある鎧だ。
対称的に俺は黒い鎧と兜を付け、完全防備にしている。真っ黒だし、俺は悪者に見えるかもしれない。
マクスウェルは兜を脇に抱え、観客に手を振っている。
観客からは「総団長ー!」と呼ばれている。
何かの組織のトップらしい。
「余裕だな」
俺がエストックをゆっくりと掲げた。
「まさか。死ぬほど怖い」
マクスウェルが腰に下げた白銀の騎士剣を掲げ、俺のエストックと軽く打ち合わせた。
カツンと音がすると同時に、銅鑼が鳴った。
銅鑼が振動する音が鳴りやまない中、俺たちは動かなかった。
「なぜ俺たちを拉致した?」
「言えないな」
「言いたいようにしてやる。待ってろ」
その瞬間弾かれた様に俺とマクスウェルは後退した。
俺は魔法を撃つため、マクスウェルは魔法を警戒して下がる。
「駆け抜けろ!!」
火槍が数本、顕現するとそのまま直進する。
マクスウェルは距離を取った事が幸いし、回避を成功させていく。
まだ序の口だ。
火槍を量産していき、次々と発射する。
轟音を上げながら、目標物を焼きつくそうとする火槍が、マクスウェルに襲い掛かる。
しかしマクスウェルは動じない。
以前俺の火槍を見ているし、防ごうと思えばいつでも防げるという事だろう。
魔法銀の補助を受けていても、火槍ではマクスウェルは殺せないという感じが、ビシバシと伝わってきた。
マクスウェルが火槍を掻い潜り、凄まじいスピードで迫りくる。
「軽戦士だな」
これほど早く動くには、それなりの職業が必要になる。
俺には素養がなかったようだが、マクスウェルはセカンドジョブ、若しくはサードジョブに軽戦士を持っているはずだ。
杖代わりのエストックを鞘に仕舞い込み、黒剣を引き抜きつつ、光魔法を使った。
「光の加護」
俺の体に光が点り、左手に収束した。身体能力、その他諸々が上昇し、羽毛のように体が軽くなる。
会場が俺の初の光魔法を見て、どよめいた。
数少ない光魔法の使い手。
そして光の加護まで使えるとなると、一握りとなる。
「使われたか」
マクスウェルとしては、使われる前に決着を付けたかっただろう。
俺も最初から使えばよかったが、それが隙になって攻撃を受けてはかなわない。
マクスウェルの体がグンと引き伸ばされた様に、加速した。縮地突きだ。
体をさばいて、突きを避ける。
しかしマクスウェルは縮地突きをおとりに、連続で剣を振り回してきた。
黒剣でそれを受けつつ、俺は落胆していた。
「こんなものだったか?」
捌きつつ、マクスウェルの実力に疑問を抱いていた。
前回は手も足も出ず、遁走する事になっていた。
だが、今はどうだ。
簡単とは言わないが、連続攻撃を防ぎ、偶には反撃する余地すら見える。
いやわざとかもしれない。
それでもこういう事を考えていては、話が進まないというものだ。
あえて死地に赴く。これが釣りだとしても、一歩踏み出す勇気が必要だ。
賭けるのは俺の命。
とはいえ、俺は全身を黒鉄石で保護されている。
狙う個所は少なく、安全性は高い。
マクスウェルの愚直な一本突きを避け、俺が逆に一本突きを放った。
その時、マクスウェルの必死な表情と言ったら。
笑える。
これがやりたかっただけかよ。
「斬り返し!」
凄まじい速度で俺の一本突きがいなされ、剣術レベル6の斬り返しが俺の胴体に襲い掛かる。
観客がわっと沸いた。
それがどうした。
迫りくる騎士剣を冷静に見つめつつ、左腕の義手を体と剣の間に挟み込んだ。
激突する剣と腕。
しかし結果は斬れないという単純なものだ。
義手の表面は頑丈な黒鉄石でコーティングされているし、そう簡単には砕けない。
それに、それはミスリルだ。
そんな軽い剣では、黒鉄石の硬度には絶対に勝てない。
ギギギッと音を立てて、マクスウェルの刃が滑る。
狙いが変わったようだ。
義手の上を滑り、そのまま俺の首を取りに来た。
そうやって俺に見えている時点で、終わっている。
「ふん……」
つまらなさそうにため息を吐いて、上半身を後に逸らした。
マクスウェルの剣が空を切るが、怒涛の連続攻撃はまだ続く。
「兜割り!!」
体勢がまずかったか。背骨が逆に曲がっているし、今の体勢からは避けられない。
「ふぬぁぁあああ!!」
マクスウェルが余裕なさげに、咆哮した。
俺はそれを冷めた目で見つつ、兜割りを黒剣で受け止めた。
それでも体勢は崩れ、地面に倒れ伏せた。
地面に寝転びながら、黒剣でマクスウェルの騎士剣を押し込みに対抗する。
マクスウェルは剣を両手で持ち尚且つ上から押し込んでいるにもかかわらず、一ミリも剣が動かない。
下から対抗する俺は剣を片手でしか持っていない。
観客が悲鳴にも似た驚嘆の声を出した。
「軽いんだよ、総団長殿」
皮肉を込めて鼻で笑う。
騎士団長の顔からは滝のような汗が流れていた。
意識が剣に向き過ぎている。
俺の下半身に対する警戒がおざなりだ。
「おら!」
寝た状態からマクスウェルを蹴りあげた。
「ぐぬっ!?」
マクスウェルは若干後退し、俺は立ち上がり、加速する。
「縮地突き!」
黒剣が白銀色の鎧に激突した。
体勢の悪いマクスウェルはわざと地面に転がり、どんどん離れていく。
「手ごたえは、軽いな」
直撃する寸前に後ろに飛ばれたみたいだ。
衝撃が軽すぎる。
これではあまり致命的な攻撃にはなっていない。
さっきから「総団長!」という声が五月蠅い。
まるで俺が悪者のようだ。
しかしその声も心地いい。
「あぁ、圧倒している。皆。見てくれ。もう少しだ。あと少しで、手掛かりが得られる」
マクスウェルが遠くから、狂乱者を見るような目で見てくる。
「化け物め」
「化け物結構。喋ってくれれば、殺しはしない」
「抜かせ。儂の立場もある。ここで敗れるわけにはいかない」
「そうか。死んでくれるなよ」
また攻防を始める。
俺から走り出し、マクスウェルが防御の体勢に入った。
「オラァ! ハハッ! どうした! 総団長!! さっきから! 防ぐだけか!? おおっ!?」
「ぬあぁあああ!!」
マクスウェルは両手で必死に防ぐ。俺が片手なのに対し、もう力でも負けている。
「装備も!」
「ぐぁ……!」
撫で斬りがマクスウェルの鎧を横っ腹から砕いた。
「技術も!」
「ごはっ!」
一本突きがなんの予備動作も無く放たれ、マクスウェルの胸に直撃。鎧が砕けた。マクスウェルが血を吐きながら、後退する。
その日止まった距離を詰め、左手でぶん殴った。
フックがマクスウェルの露出した頭に激突して、血を流す。
「すべてが!!」
そのまま回し蹴りを首筋に叩きこみ、マクスウェルは壁まで吹き飛んだ。
「俺の方が上なんだよ! マクスウェル! あの時と違う、俺の力だ! 俺たちの、皆の復讐を誓った力だ!」
俺の口上に耳を傾けず、マクスウェルは鎧を脱いだ。
パパパッと連続で機動を行い、狙いを絞らせていない。
ジグザグに移動を繰り返し、凄まじいスピードで近づてくる。
「甘いんだよ!!」
黒剣をしまい、エストックを引き出す。
切っ先を適当にマクスウェルに向けた。
火魔法、レベル4!
「爆発!!」
以前、ルインが使っていた爆発する魔法を俺は取得している。
マクスウェルは必死に回避をしようとするが、この魔法の範囲から逃れるすべなど存在しない。
それに俺に近づきすぎて、着弾まで時間が無い。
鎧を脱いだ判断は間違いだ。
マクスウェルの近くに魔法が着弾した。
その瞬間、爆光と爆炎が広がり、武闘場を吹き飛ばすかの威力を発揮した。
当のマクスウェルは――。
「ぐぁ……ぁ……ぅ」
壁にもたれかかり、左腕が無くなっていた。
ゆっくりとマクスウェルのもとまで向かう。
あぁ。来た。
この時が。
マクスウェルの近くまで来て、話を聞こうとした瞬間、カッと目を開かせ、剣を振ってきた。
「死ね、蠱毒!!」
俺は一歩下がり、撫で斬りを避けた。
しかし切っ先が俺の頬を裂いたみたいだった。
立ち上がる事もままなっていないマクスウェルの腹に蹴りを叩きこんでおいた。
「ごほぉ……!」
頬から痛みが流れる。
ちょうどいい。
うつぶせで転がるマクスウェルを仰向けにして、その上にドカッと座った。
「なぁ、剣術レベルいくつだ?」
「それがどうしたと――ぎゃあああぁあ!!」
質問に素直に答えない奴にはお仕置きが必要だ。
エストックで肩を突き刺し、グリグリと動かす。
「いくつ? 剣術だよね?」
「あ、ああ、そうだ、6だ。それがどうした!?」
「成立だ」
エストックを仕舞い込み、右手でマクスウェルの首を掴んだ。
久しぶりだな。
人の人生を奪うのは。
目を覗き込んで、ゆっくりと唱えた。
「限定奪取」
流れ込んでくる。
こいつの経験値。すべてが。剣術の粋が流れ込み、俺の糧となっている。
「何を……」
「まぁ、どうでもいい事さ。それより、いいか? 何を知ってる? 俺たちを拉致した連中はどこだ? 目的を知っているか?」
「言えない」
「何故だ? 殺すぞ?」
「それでもだ」
どうしたらいい。こいつはもう無力化したというのに、目が死んでいない。
何もかも放り出せばいいのに、何をそんなに固執している。
「癒し手」
傷口に手を当てて、治療を開始した。
「何をしている?」
「失血死しても困る。まだ死ぬなよ。情報を吐け」
左腕が吹き飛んでいることを考えれば、即座の治療が必要になる。
周りからは拍手喝采となっていた。
端から見れば、負傷者を治療しているに過ぎないからな。
「話せ」
「無理だ」
マクスウェルはどこからか小刀を取り出した。
「今更の抵抗はやめておけ。苦痛が長引くだけだ」
治療をしながら、抵抗しようとする意志だけは買っておく。
しかしマクスウェルの狙いは違った。
「悲願は成る! 貴様は勇者となり、不死の王を殺る! これほどの喜びがあるだろうか!?」
それを最後に、マクスウェルは自分の心臓に小刀を突き刺した。
「なにっ!?」
自殺だと!?
さらに自分の喉を掻っ切った。
観客の悲鳴が木霊する。
しまった。ここまでの覚悟があるとは。
いや、待て。
まだだ。水魔法の女から情報を――!?
俺たちとは逆方向からの選手入場口に目をやると、自殺する女が目に入った。
この分では、マクスウェルの仲間は死んでいる確率が高い。
俺の下では笑みを浮かべて、死んでいる一人のジジイだけが残り、俺は勇者になった。
感想待ってます。




