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8 晴れやか

日間25位でした。

ありがとうございます。

 町は遠目で見た限り大きいように見えたが、そこまででもなかったようだ。


 中に入るときに何か確認でもされるのではないかと思い、ローブの中に盾を隠しながら入ったが杞憂だった。


「なんだここ……!?」


 俺と同じく武装している人が数人いた。

 それがまるで普通であるかのようだ風だ。


 よく考えれば、俺に襲い掛かってきた奴らも普通に武装していた。

 もう確定的だ。


 考えないようにしてはいた。


 頭がくらくらする。

 あってはいけないことだ。


「地球じゃない……」


 それを思うと、世界の見え方が変わった。

 さっきの奴らもやはり地球の常識とはかけ離れたものであったが、認識しないように努めていた。

 ゴブリン。たぶん。ゴブリンのようなものだ。


 ゴブリンというのが何かは分からないが、そういう単語が思い浮かんだことは事実だ。

 俺のいた地球とは異なる。


 それが分かれば十分だ。


 俺の周囲の記憶がなくなっているが、常識という点は失ってはいなかったのは僥倖だった。

 地球。

 そう。

 俺は地球という星で生まれた。


 当たり前すぎて、思い浮かばなかった。

 しかしここは違う。


 街並みを見ると、古い。

 そういう風な印象を受ける。

 服装も俺の着ている制服とは異なり、粗雑なつくりだ。


 素材からして違う。

 麻とかそういうのかもしれない。


 街並みを確認しながら、どこか泊まれるような場所を探す。

 ふとした時に、文字を見た。

 読めるな。


 それに昨日は会話だってしていた。

 日本語なのか? そうは見えないが。


 読める分にはいいだろう。

 そうしてあまり怪しまれないように、武器を露出させ歩いていると一軒の宿を見つけた。

 金はある。


 安い方が良いが、相場が分からない以上、突撃するしかない。


 ドアを開けて、宿の中に入ると愛想のいいお嬢さんが出迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、食事ですか? お泊りですか?」

「泊りなんだけど、これでどれくらい泊まれるかな?」


 爺から奪った金を渡した。

 金色の硬貨だ。

 一番高そうなので、差し出してみた。


「おお、こんなにたくさんいいんです? これなら1か月はいいですよ。本当にいいんです?」


 どうやら高級な宿屋みたいだった。

 見た目が良いとかそういうのもあったので、この宿を選んだが、いいのだろうか。

 他の宿も見た方が良いかな。


 でも、鐘はまだある。

 この金色の硬貨もまだ3枚はあるし、そう言う事ならあと4か月はここに泊まれるという事だ。

 まぁ、いいか。


「大丈夫です。取りあえず、1か月分、よろしくお願いします」

「わ、本当です? やったぁ。お父さん、お母さん、上客だよぉぉぉ!!」


 そう言ってお嬢さんは奥へと駈け込んでしまった。

 手持無沙汰になっていると、両親と思しき人がやってきた。


「本当にいいんですか? 金貨1枚何て大金ですよ。て、冒険者の方じゃない」

「冒険者?」


 聞きなれない言葉に、オウム返しで問い返した。


「違うんですか?」


 奥さんが間違いを訂正しようとした。

 いや、間違いなわけだが。しかし、大切な情報源だ。しかと聞き届けよう。


「冒険者って何ですか?」

「知らねぇのか?」


 親父さんが不思議そうに言った。

 やばい。常識らしい。


「え、いや、なんというか。田舎者で。俺も冒険者になるというか。どこに行ったらなれるのかぁ? みたいな?」


 適当な事を言うと、お嬢さんが指さした。


「目の前のギルドで登録するだけですよ? 今からでも行ってきたらどうです?」


 後ろを振り帰っても、扉が見えるだけだ。

 迂闊さに恥ずかしくなりながらも、あまり心を許さないように気を締めた。

 この世界の奴らは俺たちを拉致監禁。今や、どうやって俺たちを誘拐したのか分からないが、全員敵と考えても良い。


 目の前の人の良さそうな親子にも、あまり気を許さない方が良いだろう。

 何かあってからでは遅い。


 心の中で深呼吸して、3人に振り返った。


「それじゃ、行ってきます。あとからまた来ますので」


 外面だけはよくしておこう。

 


 扉を出て目の前には大きな建物があった。

 確かに俺と同じように、武装した人たちは出入りしていた。


 なんだろう。

 傭兵部隊だろうか。


 しかし、看板には冒険者ギルドとしか書いていない。

 有名なのだろうか。

 冒険者ね。

 冒険でもするのか。


 話の流れとはいえ、変な事になったな。

 しかし、登録とやらはしないといけないだろう。


 後から何を言われても困らないようにしなければ。


 解放されたドアを通り抜けて、室内に入る。

 顔の怖いおじさんたちがたくさん居たが、努めて冷静にする。


 ぎこちない足取りだったが、自信を持て。

 限定奪取(リミテッド・スチール)があれば、だいたいの人間には勝てる。条件を満たせばだが。故に限定か。恐れる事はない。


 受付っぽい所に行くと、きれいなお姉さんが応対してくれた。

 受付嬢は綺麗というのはいいものだ。


「今日はどのような用件でしょうか?」

 

 丁寧に対応してくれる。だが、気を許すな。

 しかし愛想はよく。


「あ、えっと、登録? みたいなのを勧められて、来たんですけど。出来ます?」

「はい、できますよ。少々お待ちください」


 受付嬢さんはカウンターを漁っている。ややすると、カードみたいなのを差し出してくる。


「ステータスカードです。情報を提供することが、加入の条件になります」

「ステ? 加入?」

「個人情報を提出してくださいという事です」


 うぇぇ。マジか。

 どうしよう。何かデメリットがあるだろうか?


「加入しないと、何か不都合があるでしょうか?」

「そうですね。仕事が割り振られませんね。それにこの施設を使う事は不可能ですし、他の協会からも白い目で見られる可能性があります。必須といっても過言ではありません。……知らないのですか?」


 これも常識かよ。


「い、いえ。確認ついでですよ」


 若干慌てながら応対させてもらう。


「そ、それで、ステなんとかには、何があるんでしょうか?」

「ステータスカードはその個人の強さを反映します。数字で表示されるので、客観的な強さが分かる重要な指標です。情報はちゃんと管理するので、安心してください」


 クソ。安心できない。

 何かあってからでは、遅いだろう。

 どうするべきだ。


 いや、恐れるな。

 何かあれば逃げればいい。

 そういう気構えで行こう。


「分かりました。加入させてください」

「では、ステータスカードを」


 カードを手渡された。

 カードに触った瞬間、情報が表示された。


ゲンキ・ユウキ

レベル4

クラス なし


 クラスというのは何だろうか? 

 意味不明だが、当たり前そうだし聞きづらい。


「へぇ……」


 目の前の受付嬢さんが驚いたような目でこちらを見てくる。

 なんだ。何か変だったか。


「何か……?」


 恐る恐る聞いてみる。


「いえ、なんでも。……言い忘れていましたが、登録料が必要です。払えますか?」

「うそ。いくらですか?」

「一万ギル程です」


 分からん。

 単位がわからん。

 高いのか安いのかすらわからない。


 俺は皮袋から金貨一枚を手渡した。


「こ、これで……」

「はい、確かに」


 お釣りを期待したが、一銭たりともお釣りは出なかった。

 金貨は一万ギル。

 覚えておこう。


 まてよ。

 という事は、さっきの宿は一泊300ギルくらいか。

 安いのか高いのか。

 そのうち分かるだろう。


「レベルが10になったらまた教えてください。クラスを決めるので」

「はい」


 意味不明だが、当たり前のようにふるまう。

 レベルが10?


 はぁ。クラスね。クラス。

 常識、常識。


「換金はギルドでお願いします。協会に持ち込んでも、売買は禁止されています。って、知ってますよね」

「ええ、そりゃ勿論」


 知らない。

 知っているはずがない。


「ここまでが定型文です。それでは、何か質問でもありますか?」


 質問か。変な質問すると目をつけられそうだし。ここは、退散だ。


「いえ、大丈夫です。ありがとうございました」


 俺は一礼して、ギルドとやらを後にした。

 その足で宿に戻る。本当に近い。


「戻りました」

「お帰りなさい! ちょっと、カード見せてください!」


 帰るやいなや、宿のお嬢さんがせそう俺にせがんできた。


「か、カード?」

「ステータスカードですよ! ちょっとだけ! ちょっとだけですから――アィテッ!」


 興奮する娘さんに対し、女将さんは冷静だ。

 一発お嬢さんの頭をたたき、頭を下げさせる。


「毎度言うがね、オルガ。冒険者さんがそう簡単にカード見せるわけがないだろ? 迷惑だからやめな」


 お嬢さんの名前は、オルガらしい。

 そのオルガがぶつくさという。


「でも、気になるし。どれくらい強いかなって」

「レベルだけじゃ分からないじゃないか」

「10有れば、クラスがあるんだよ? 結構違うもんだよ、お母さん」


 やはり、話から推測するに、クラスというのは大事なものらしい。


「オルガ、さん? はクラスがあるの?」


 試しに聞いてみる。情報収集だ。

 

「オルガでいですよ。えっと……」

「ユウキです」


 しまった。本名を名乗ってしまった。

 いや、まて。カードには本名が書かれていた。不用意に偽名を使うほうが危ない。


 俺の焦りはオルガには伝わらなかったようだ。よかった。


「ユウキさんも変なこと言いますね。私がクラスなんてあるわけないじゃないですか」

「というと?」

「そりゃ、戦わないですし?」


 当然の様だった。クラスを獲得するためには、戦わないといけないらしい。

 もっと何か聞こうと思ったが、女将さんの邪魔が入った。


「あんたも仕事しな。ほれ、行くよ」


 そう言うと女将さんはオルガの首根っこを掴んで、奥へと行こうとする。

 とするが、俺に鍵を手渡してきた。


「これ、二階の鍵だからね。案内はいるかい?」


 鍵を見れば番号が書いてあった。これなら部屋に行くのも難しくない。


「大丈夫です。ひとりで行けます」

「そう? なら私たちは仕事があるから」


 女将さんたちはそれだけ言うと、奥に行ってしまった。

 夕食の時間を聞きそびれてしまったが、暗くなれば夕食くらい出るだろう。


 俺は階段を上り、自分の部屋番号の扉の前まで移動する。

 鍵を開けて、部屋の中に入った。


 部屋は小ぢんまりとしたものだった。

 机とベッド。それくらいだ。

 最低限はそろっているし、一人なら全然問題はない。


 剣と盾を置いて、ローブを脱いだ。


 気候は割と温暖だったので、制服の上からローブを着ているのは割と暑い。


「ふぅ……」


 ベッドに腰掛けて、溜息を吐いた。

 

 胸がもやもやする。

 自分の現在位置。

 というか、位置取りというか。


 状態。


 そうだな。状態だ。

 異常過ぎる。


 拉致監禁されたと思えば、何人か突入してきて殺されかけ。

 森をさまよえば、ゴブリンと思しき怪物に襲われる。


 しかも、ここは俺の元居た場所ではない。

 地球ではない。


「多分だけどな」


 でも月が2個ある時点でおかしい。

 落ち着いてきたからこそ、現状を把握しようとする常識が崩壊していく。


「やべぇよな……」


 この世界も俺の現状も。


 これからどうすれば良いのだろうか。

 肩を落として、外を見た。


 空は憎たらしいくらい、晴れやかだった。

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