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76 邂逅

 鉄鋼高山を出て早一週間。


 とうとう王都と呼ばれる場所まで来る事が出来た。

 この国一番の首都らしい。

 名前は長ったらしいので忘れた。


 女王のマシンガントークの雨あられに耐えつつ、この一週間を過ごした。


 思ったより話す女性なようで、体調が芳しくない事を除けば、活発と言える女だ。

 

 体が弱いなら里に居ろという話だが、代表も選考会を観戦する事が規定されている。

 それに顔合わせという意味もある。


 各種族の代表者との顔合わせ。

 その者達と、選考会予選を勝ち上がった選りすぐりの戦士たち。


 俺は選考会をシードで戦う事になる。

 どうせなら予選で適当に負けて、金だけ貰い、とんずらしようかと思っていたが、そうはいかないようだ。


 整った街並みを馬車の中から見渡した。

 どいつもこいつも綺麗な服を着ている。


「本当に戦争状態なのか?」


 馬車のうるさい移動下で、俺のつぶやきは誰にも届かない。


 今まで何とも思わず、町を転々としてきたが、戦争という感じはなかった。


 所詮は僻地の出来事で、対岸の火事程度にしか考えていないに違いない。

 最前線の兵士は、日々少ない物資で戦っているはずなのに。


 こいつらがこうして生きているのだって、不死族とやらを食い止めている人たちがいるからだという事を理解しているのだろうか。


 俺だって理解していない。

 今日までこの幸せとは程遠い生活だって、最前線で活躍している人材がいるからだったのだ。


 この選考会とやらを開催するよりも、持てる戦力を持って不死族と戦った方が良いのではないだろうか。

 

 勇者とやらを決める選考会。


 ただの演劇会にしか思えなかった。





 借り切った宿屋で俺たち一行は、宿泊を決め込んだ。


 部屋には女王と親衛隊隊長もいる。

 もちろんアイカたちもだ。


 この王都で開かれる選考会は明日からだという。

 早速だという感じだった。


「出るのは俺だけか?」


 だいたいいつも複数人で戦っていたのに、一人で戦うというのも不安が付きまとう。

 女王が今更だと言わんばかりに、ため息を吐いた。


「もちろんです。一対一の死合いです」

「試合だよな?」

「死合いです」


 噛み合っていない気がする。

 すると女王はふふっと笑った。


「冗談です」

「何がだよ」


 女王は改めてルールの説明をしてくれた。


「ルールは一対一の時間無制限。棄権・気絶・死亡。いずれかの戦闘不能状態になるまで、試合が継続します。武器は自由。防具も自由。各々、各自の才能と研鑽を発揮し、世界最強を目指す。それがこの選考会のルールです。要は、自由です」

「ただの殺し合いじゃないか」

「そうですね」


 女王は親衛隊隊長が差し出した水を一杯飲んだ。

 

「ユウキさんの本気が見れる数少ない機会ですね」


 アイカが呑気に言ってる。ふざけんなよ、俺はこんな事やりに来るなんて知らなかったんだ。

 シノノメが憤慨している。


「ユウキ様がそんなものに出る必要はありません! こんな女無視して、さっさと帰りましょう!」


 素が出ているが、大変賛成だ。


「優勝賞金、金貨一万枚」

「なん……だと……?」

「一万枚で、御座います」


 一万枚って、いくら?

 分かんない。

 それほど。


 待て。優勝したら勇者になってしまう。


「じ、準優勝は……?」

「五千枚です」

「出よう」

「ユウキ様!?」

「俺は全力で準優勝を狙う!!」


 かくして金に目がくらんだ俺は、呆気なく戦いに参加する事を選んだ。

 金は重要だ。

 そうだろ? 

 今まで10枚とか100枚とかで争ってたんだぜ?


 それが一万枚とか五千枚とか。

 

「ふっふっふ……」


 金は頂いた!





 翌日、各種族と予選を勝ち上がった一名の顔合わせとトーナメントの組み合わせを決めるために集まった。

 人間やら何やらが大勢集まっている。

 中にはエルフも居て、イズモとシノノメがあいさつに向かった。

 

 代表者とその仲間、推薦人。

 最低でも三名で来ているので、かなりの人数だ。


 この選考会は客に見せる目的もある。

 勇者が決まり次第、大々的に国に広めるためだ。


 俺たちは大会会場の大広間に集められ、各自で顔合わせをしていた。

 ドワーフの女王もそつなく挨拶を済ませていく。


 ここまで獣人やらエルフやら小人族やらたくさんの人種と面会した。


 最後に、人間族の代表だった。


 硬直した。

 見覚えがあった。

 

 人間族の代表はジジイだった。

 俺を襲撃してきたジジイ。

 傍らにはさらに歳食った大ジジイと水魔法を使う女。


 あっちも俺に気付いたようだった。


「なっ……!?」


 ジジイが柄にもなく驚いた事で、隣の女も俺に気付いた。


「生きて……!?」


 ジジイが腰に吊るした剣に手をかけている。

 

「謀反だ!!」


 俺は絶叫した。

 俺に視線が集中した。


「人族代表が女王を手にかけようとしている! 皆、警戒しろ!」


 俺と親衛隊隊長が女王の前に躍り出た。

 親衛隊隊長がジジイに問いただす。


「どういう事だ。マクスウェル。何を企んでいる。その手を下ろせ!」

「ち、違う、その隣の男が……!」


 ジジイ――マクスウェルが戸惑う。

 しかしそれを制したのは、大ジジイの方だった。


「静まれぇぇぇぇえい!!」


 本当にジジイかと思うほどでかい声だった。

 人族とは思えないほど筋肉で隆起した肉体。

 蓄えられた髭。貫録のある鋭い眼光。


 あれがマクスウェルの推薦者。

 女王と同じくかなりの権力の持ち主だろう。

 それだけの雰囲気という物があった。


「マクスウェル、何事か」

「……例の――。いえ。すみません。完全に私の手違いで。お騒がせしました」


 マクスウェルは剣から手を放した。


「ドワーフ代表が怨敵に真に似ていたため、剣を抜きそうになってしまいました。陳謝いたします」


 マクスウェルが頭を下げ、女王は問題ないと突っぱねた。

 親衛隊隊長は不満そうだが、女王が問題ないと言えば、従うほかない。


 次第に周りも俺たちに興味が無くなったのか、会話を再開した。


「ジジイ。知ってることは吐いてもらおうか。女王も良い所に連れてきてくれた。お前にはいつか会いたいと思っていた」


 女王は人族の推薦人と話し込んでいて、俺たちの会話に気付いていない。

 隣のアイカやルイちゃんは若干引いて、会話の行く末を見守っていた。


「生きていたのか……」


 マクスウェルが苦虫を潰したような顔になった。


「夜影森を脱するとは。あの状況からどうやって……」

「無視すんなよ。悲しくなるだろ? なぁ。今どういう気持ちだ? キマイラを怖がって、俺たちを追いかけなかったのは失敗だったな」

「貴様がユウキだったのか……! 話には聞いていたが、まさか。キマイラを……」


 エルフたちは影人の脅威が大分緩和されたことを話しまわっていた。

 時折、俺の名前も出していたようだ。


 それでも俺と対面すると、渋い顔をされた。 

 あまりいい顔はされないようだ。


「楽しみだな。マクスウェル。知っていることは、試合で吐いてもらおうか。俺と当たるまで負けるなよ」


 マクスウェルの瞳を覗き込み、その場を去る。マクスウェルの体が若干だが、打ち震えていた。

 武者震いか。それとも――。


「それでは、抽選会を始めたいと思います」


 目的が変わった。

 金なんてどうでもいい。


 視線がぶつかり合った。

 マクスウェルも俺を意識している。


 次々と各代表がくじを引いて行った。

 黒板のトーナメント表に次々と名前が書きこまれる。


 徐々に埋まっていく空欄に、マクスウェルの名前が書きこまれた。

 一番だ。


 二番。二番よ、来い!

 あいつをいたぶり、情報を吐かせる。


 そのためには二番が必要だ。

 

 俺はくじを引く。

 箱の中に手を突っ込んで、一枚の紙を引いた。


「八番ですね」

「ぐっ……!」


 反対側のブロックだ。

 決勝まで当たらない。


 マクスウェルも黒板の結果を見て、息をのんでいる。

 水魔法の女はどうか。無表情だ。


 負けるわけにはいかない。


 この状況は、皆がつむいでくれたか細い糸。

 これに縋り、情報を掴む。


 この場にいる全員、俺のために死んでくれ。

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