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75 優しい心

 となりでシノノメが大騒ぎしている。

 キーキーと何言ってるか分からないが、「ユウキ様は私のものです!」的なことを繰り返し言っているだけだ。

 もう隠すも何でもない事に、こいつは気づいているのだろうか。


 アイカは口を覆って、笑いを堪えるのに必死だ。ルイちゃんもイズモもあまり変わらない様子である。


「女王様、あまりからかわないでくれ」

「違います。私は本気ですわ」


 身分が高い奴は何を考えるか分かったものではない。


「そして戦ってほしいのです。ドワーフ代表として」

「何の話だ」


 女王は俺の目の前から離れ、天蓋付きのベッドの戻った。

 あまり体調が良くないのだろうか。

 それとも座って話す方が楽という、単純な問題かもしれない。


「近々大会が迫ってきています。人間族、ドワーフ、エルフ、小人族、サハギン、リザードマン等々。合同で大会を行い、選出会を行う予定です」

「選出会? 何の選出だ?」

「勇者を」





 何もかもわからない。

 だからこそ、一から聞く必要があった。

 これほど無知な人も初めてだと、女王には驚かれた。


 曰く。

 この国。

 いや世界は、完全に一つの種族に負けつつある。


 不死族。


 名前の如く死なない、なんてことはない。


 圧倒的力を持つ不死の王(ノーライフキング)の台頭によって、千年も前から戦争状態が続いている。

 最前線では日々、人間族が主導して不死族を水際で進行する事を防いでいる。

 この国、世界では辺境と称される場所だ。


 今も血を流して、世界を守護する人間がいる。


 それは冒険者にも言える。


 迷宮は不死族が放った奴隷たちであり、内部から人間たちを殺す先駆者でもある。

 故に、冒険者という職業は必要になり、安定的に町を守るため騎士団も必要になる。


 しかし不死族は死ぬと言えど、圧倒的な寿命と数を誇る。

 エルフにも負けない寿命と、人間にも劣らないその数。


 人間の上位互換であるという奴もいる。

 知能も高く、決して話が通じない相手ではないが、不死の王は世界征服をたくらんでいるらしい。

 らしいというのは、不死族が基本戦闘狂なので、不死の王がそういう命令を出しているのではないかと推測されているだけだ。


 兎にも角にも強い者が必要だ。

 それに肩書も。


 全世界最強の勇者主導のもと、不死の王を討つ!


 それが世界の悲願であり、今も最前線で戦う人が願ってやまない事だ。


「その選考会に出ろっていう事か?」

「はい、ユウキ様なら大丈夫です。なんせ、クイーンを殺すほど! 勇者がドワーフの推薦人とは、誉れ高いことこの上ないです!」

「待て、クイーンを殺したのは俺たち(・・・)五人だ。決して一人でやった訳じゃない」

「しかし、リーダーなのでしょ? 一番強いのでしょう?」


 イズモが頷いているのが分かる。何勝手に同意してるんだ。


「かといって、ドワーフ代表が人間で良いのかよ。ドワーフ出せ、ドワーフ」

「勿論、私としてもそうしたいのは山々ですが、皆仕事が忙しいと誰も出てくれないのです。ここにいる隊長だって、私を守るのが役目で、世界を救いたいわけではないと頑として出場しようとしないのです」


 頑固者ばかりだ。

 別に、出るのはいい。


 地獄の沙汰も金次第。

 今俺には金が無い。


「金、くれ」

「はい、かしこまりました。幾らに致しましょう?」


 いいのかよ。ドン引き発言したと思ったのに。

 にこやかに返されてしまった。


 銀行口座ももう使えない。 

 持ち運べる量で適切に。


 ん、あんまり持ち運べないな。

 どうせ行くあてもない。少し金を貰って、適当に選考会はすごそう。


「そちらに任せる。誠意を見せてくれ」

「分かりました。では、後日使いを送りますので。指示に従って、また黒鉄宮に来てください。皆さん、今日はありがとうございました」


 こうして、俺の行く末が決まり始めた。

 最悪に向かい、着実に歩を進めている。





 二日の間、特に何事もなく過ごしていた。

 その間は親父さんが義手を簡単だが完成させてくれた。


 装着してみて違和感もない。

 表面は黒鉄石でコーティングしてあり、耐久性は抜群。

 重さもいい感じになっていて、右手との違和感もない。重心のずれが解消されている。

 癖で重心を若干ずらしていたのだが、これからはそれを心配する必要もないようだ。


 しかし、左手を再現するほどの技術はなかったようだ。

 基本は木製だし、細かな操作はできない。

 それに、左手フックだしな。フック。どっかの海賊船の船長みたいだ。


 フック部分も黒鉄石で作ってくれたため、大変頑丈にできている。

 日常生活にも戦闘にも支障はないと、親父さんのお墨付きだ。


 片腕だけ黒くなってしまったが、ちょっとカッコいいかもと思ってしまった俺は男の子らしい。


 あと有志で俺の武器を作ってくれる奴がいた。

 義手を親父さんが作ってくれるというので、他の奴は武器や防具を無償提供してくれた。


 売れ残ったものだが。

 それでも有難い。

 イズモやシノノメには黒鉄石の鎧は重いので、俺とアイカ、ルイちゃんの三人分用意してくれた。


 断る理由も無いので、ありがたく武具を貰っておいた。


 特に気に入っているのは、この黒い剣だ。

 エストックと同じくらいの長さだが、途轍もなく重い。

 黒鉄石と何か違う金属で合金したようで、頑丈で重いとてもいい金属らしい。


 だが高すぎて買い手がつかなかったので、この機会に廃品処理という形で武器を譲ってくれた。


 これがいい。とてもいい。

 エストックは軽すぎてどうにかならないかと思っていたところだった。

 この黒い片手直剣は、両手剣のように重いにもかかわらず、このコンパクトサイズ。

 密度が凄い。


 絶対刃こぼれしないし、曲がらない。

 そう譲ってくれたドワーフも豪語していた。


 絶対という言葉に逆に不安になるが、手に取ってみて分かった。

 これはそう簡単には折れない。


 左腰に吊るしておいた。

 勿論、エストックもだ。

 魔法を使うときにちゃんと使うつもりだ。


 そうしてドワーフの鍛冶の技術の恩恵を受けていると、遣いが来た。


「行けますか?」

「ちょっと待ってくれ」


 玄関先に遣いを待たせて、装備を持ってくる。

 かなりの重量だ。

 どうやって運ぼうか思案していると、ドワーフが上がり込んできた。


「運びます」

「あ、そう。ありがと」


 数人で板金鎧等々を台車に運んでくれた。

 ルイちゃんも同じだ。

 

 白銀色のエストックの漆黒の片手剣を持って、外に出た。

 簡素な格好だが、これで良いだろう。

 

 ルイちゃんの両親に世話になった事を伝え、家を出た。


 数人の使いが俺たちの荷物を運んでくれるようだ。

 少し離れた所に数匹馬がいた。


 中央の馬にまたがっている馬から女王が降り立った。


 少し見とれていると、シノノメが足を踏んできた。

 相変わらず、無駄なところで勘が良い。


「黒鉄宮に来てと言いましたが、待ちきれず来てしまいました。行きましょう」


 気が早いことこの上ない。

 せっかちな女王様のようだ。


 女王様の旅路だ。

 護衛がつくに決まっている。


 親衛隊が護衛を務め、俺が選考会代表として大会に出場する。


「旅費は全てこちらが持ちますので。鉄鋼高山のふもとに馬車を用意しています。まずはそこまで移動しましょう」


 準備は万端のようだ。

 こうして俺たちは鉄鋼高山を後にした。

感想待ってます。

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