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74 女王

 討伐証明をするためクイーンの遺体を持ち帰ることにした。


 俺たちがクイーンと戦っている場所から出ると、たくさんのノームが待機していた。

 クイーンの凱旋でも待ちわびていたのか、それとも違う理由か。


 しかし結果はノーム達の期待を裏切る形になったのは間違いない。


 ノーム達はクイーンの遺骸を見ると、瞬く間に慟哭し始めた。

 ピギャアアァ、ピギャアァと泣き崩れ、地に伏せる。


 どいつも手を出しはしない。

 それどころか俺たちから逃げる個体すらいた。

 いや、すぐに全個体が逃げ始めた。


 ノーム達は俺たちとクイーンの遺骸を見た途端泣き出し、逃走する。

 俺たちはそれを追いかけて、外に出る事が出来た。


 帰り道が分からなかったから、どうしようかと焦っていたので、良かったと言えばよかった。


 外に出てみるとドワーフとノーム達がてんやわんやしていた。


 俺たちから逃げ出そうとするノームだったが、ドワーフたちがそれを邪魔する。

 

 ドワーフ視点に立ちかえれば、ノーム達が一斉に巣から出てきたように見えるだけだ。

 里を守るため、女子供まで出張ってきてノームを殺している。

 

 そういうノーム達は戦う気力などないのか、土魔法を使っていない。

 逃げようとするノームを一方的にドワーフが殺しているだけだ。


 洞窟手前はうず高くノームの死体が積み上がり、ドワーフたちは息を切らしていた。

 ドワーフ側の損害はとても軽微だった。


 そんなところに、俺たちがクイーンの死体を運んできたからあら仰天。

 なんやかんやあって、俺たちは祭り上げられた。


 クイーン殺しやら女王殺し。ノーム殺し。いろんな風に呼ばれた。

 討伐した事だけ広まれば問題はない。


 一括でクイーンもノーム達の遺体も燃やしておいた。

 ドワーフたちが武勇伝を聞かせろとうるさかったので、適当にルイちゃんに語らせておいた。


 その日は祭りだった。

 といっても、町ぐるみで飲み食いする訳では無い。


 ドワーフは町の中からいなくなり、全員黒鉄石を掘りに行った。

 さびしくなった町の中をぐるりと回っていると、不意に呼び止められた。


「ユウキ殿、ですかな?」


 真っ黒でいてとても艶やかな鎧を着たドワーフが俺の名前を呼んだ。

 初見からドワーフにしてはでかいな、と思っていたが、俺と同じくらいありそうだ。


「親衛隊隊長さんですね」

「如何にも」


 無策でノーム達に挑んでいったドワーフとは同じに見えないほど、理知的な瞳をしていた。

 落ち着いていれば、こんな顔もできるのだと、感心するほどである。


「此度の件は、真に重畳であった。明日、黒鉄宮にお越しいただけますかな」

「悪いが、場所が分からない。それに用が分からないな」

「すまない。説明不足であったな。女王が話がしたいとおっしゃっておられる。故に、女王がおわす黒鉄宮に来ていただいて、そこで話をしてほしいのだ。なに、そうはかからん。ハイハイ言っていれば、すぐに終わるだろう」

「……親衛隊隊長がそんな事言っていいのか?」

「駄目だな。だが、女王は今日話したいと我が儘を貫き通そうとしたところを、儂が止めたのだ。少しは愚痴らせてもらっても罰は当たるまい」

「確かに、今日は行かないな。明日なら行っても良い」

「行っても良い、か」


 ギロリと親衛隊隊長が睨んできた。

 おっと。軽はずみな言動は慎んだ方が良さそうだ。


「行かせてもらおう」

「よろしい」


 隊長はそれから少しだけ雑談して、去っていった。

 遠ざかる背中に、聞き忘れていた事を聞いた。


「俺だけが行くのか?」

「全員で来ると良い」

「分かった」


 俺も散歩の続きをする事にする。

 明日はやる事が出来た。





「寝れたもんじゃねーな」


 今日はどこもかしこも黒鉄石の搬入があったおかげで、ドワーフの里は活気にあふれていた。祭りだ。

 どの工場も稼働していた。カンカン金槌を下ろす音が耳に痛い。


 散歩から帰ると親父さんが真っ黒な煤を付けて、仕事に精を出していた。

 お前のおかげで仕事ができるなどと言って、破格の値段で義手を作ってくれるという。

 というよりかは、ドワーフ全体の意志に近い物だと聞いた。


 何か欲しい物はないのかと聞かれ、そこかしこで「義手」と答えていたのが実を結んだのだろうか。


「そうですね」


 当たり前のように隣で寝ているシノノメも寝れないようだった。

 独り言に反応されると恥ずかしいな。

 やっぱり一人が最高だ。


 だが、この金槌を振る音は俺が出した成果だと思うと、少しは心地いい。


 いや、俺たちだった。

 そんな事を考えつつ、目を瞑った。

 すり寄ってくるシノノメと覗いている3人は明日ぶん殴る事で折り合いをつける事にした。





「黒鉄宮?」


 頭にたんこぶつけたアイカが復唱した。

 

「お姫様がいるんだと」

「女王よ」


 ルイちゃんが義務的に訂正した。

 朝食の際、昨日女王に呼び出されたことを言っておいた。

 ルイちゃん一家は驚きと納得の両方の顔をしていた。


 今は黒鉄宮にルイちゃんが案内してくれている。

 普段は立ち寄るような場所ではないようなので、ルイちゃんもうろ覚えのようだ。

 あっち行ったりこっち行ったりしてる。


 三十分くらい歩くと、とても横に大きな建物が見えてきた。

 二階建てのようだが、横にとても長い。

 庭もドデカイし、高貴な人が住んでいるという印象だ。

 ただ黒鉄石で出来ているのか、家自体は真っ黒だった。


 とても雰囲気はよくありませんことよ。

 

 まぁ、見様によってはカッコいい建物であることに違いはない。

 門の前まで行くと守衛のドワーフが俺たちに立ちはだかった。


 型にはまったような「何の用だ?」という文言を受け取った。


「呼ばれてきた。人間のユウキだ」


 一応種族名も告げておいた。

 ドワーフから見たら分からないかもしれないという、俺の紳士的対応だ。


 ドワーフは俺の名前を聞くと、快く中に迎え入れてくれた。

 庭に足を踏み入れると、すぐに建物の中から親衛隊隊長が出てきた。


 今日もカッコいい鎧を付けている。

 あれ着ないとダメなのか?


「よく来た。案内しよう」


 俺たちの前を歩き、それに続く。

 中に入っても黒一色の内装だった。

 とても統一感がありますね。


 それでも採光窓がふんだんに取られていたので、中は明るかった。


 黒光りする廊下を歩いて、二階に上がった。


 さらに歩くこと一分程度。

 家の中を一分歩くってなんだ。


 そうこうすると、親衛隊隊長がとある扉の前に止まって、数回ノックした。

 すると鈴でも打ち鳴らしたような、凛としている声の持ち主が入室を許可した。


「失礼します」


 親衛隊隊長が扉を開く。本人は中に入らないようだ。

 ぞろぞろと俺以下5名が中に入った。


 一人、ドワーフらしき人がいた。

 らしきというのは、とても繊細に見えたからだ。

 ドワーフは指先以外は繊細さの欠片も無いような連中ばかりだった。

 殴っても壊れない、落としても割れないような種族だ。


 それがどうだ。


 目の前にいるドワーフは。

 折れそうで、はかなそうで、とても美しい。

 指先一本取っても陶器のように綺麗で、割れそうだ。

 これは厳重に保護しなければならない。そう思った。


 ポカンとしていたのは、俺だけではなかったようだ。

 目の前のドワーフは、白い長髪を耳に撫でつけた。

 その所作だけでも金を払う価値がある。おいくらですか?


「どうかしましたか? ユウキ一行?」

「あ、いや、別に。どうも」


 視線を合わせる事も出来ない。

 圧倒的格の差というか。

 要は、恥ずかしい。

 

 こんな芸術作品と目を合わせていいのかという怖れを抱いてしまう。

 畏怖と敬意。

 敬愛。


 こんな言葉が似つかわしい。


 一歩前に進み、当たりを見渡した。


 女王と思しき女性は天蓋付きのベッドで身を起こして、こちらを見ている。

 というか、寝室だな。ここ。


 ベッド以外置いていない。


 どうしたらいいか悩んでいると、女王は手を鳴らした。


「椅子を」

「御意」


 いつの間にか後ろにいた親衛隊隊長が、扉から出て行った。

 無言の時が幾ばくか。


 黙っていると、ドワーフ五名が椅子を持ってきた。

 一列に並べて、親衛隊隊長だけ残った。

 ベッドの上に座っている女王の横に佇むようだ。


 俺たちは並べられた椅子に適当に座る。


 全員腰かけると、女王が話を始めた。


「それでそれで、本当にクイーンをやっつけたんですか!?」


 身を乗り出して、興奮している様子だ。

 イメージとは若干かけ離れているが、これくらいの方が話やすくていいのではないだろうか。


「あぁ、倒したぜ」

「ど、どうやってですか!?」

「えぇっと、……結構グイグイ来るな」


 ボソッとつぶやいて、適当に説明を挟んだ。

 いちいち騒ぐので、なかなか話が進まない。

 若干イラッとしている。

 一時間くらい話し続けると、ようやく火魔法で殺害したことを伝えた。


「魔法が使えるのですか」

「ほら」


 小さく火球を作って見せた。

 おぉー、と感心したように女王は感嘆した。


「すごいですね」


 女王に褒められた。

 鬱陶しい奴かもしれないが、見目麗しい人に褒められて嫌な気分になる奴はいない。


 隣のシノノメが肘鉄を喰らわせてきた。

 勘のいい奴だ。


「ん、シノノメさんはユウキさんの事がお好きなのですか?」

「は、ハァ!? そんな訳ないでしょ!! バカなこと言わないで!!」


 立ち上がり、顔を真っ赤にしながら反論する。

 アイカたちはプークスクスと笑っている。

 シノノメだけはバレていないと思っているので、大変心臓に悪い。


「そうなのですか? では、失礼して」


 女王はベッドから降りて、真っ直ぐ俺のもとまで来た。


「ユウキさん。私のものになりませんか?」

感想待ってます。

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