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68 死なないで

 どこにでも仲の悪い奴らはいる。

 人間には魔物が。

 エルフには影人が。


 ドワーフにはノーム。


 ノームの外見は、歳っ食ったじいちゃんみたいな奴ららしい。

 身長は一メートルと少し程度。ドワーフより小さい。

 鉄鋼高山の奥地に住み込み、鉄鋼を採取し、金属を喰らう。

 水はもちろん生きていくうえで必要なのだが、ノームの主食は金属だ。

 故に、鉄鋼高山に住むノームは食料に困らない。


 そんなノームだが、当然ドワーフと仲が悪い。


 ドワーフのほとんどが何かしら作って、生計を立てている。

 それは鉄鋼高山から産出される黒鉄石によるものである。


 黒鉄石はとても固く、とても重い。

 武器によし、防具によし、その他用途でも活用しても良い。


 そんな万能金属だ。


 ドワーフはそれらを使用して、金を稼ぎ、日々を生きる。


 その生活の邪魔をするのが、ノームだ。


 ノームは小さいためか成長が早い。

 生まれてすぐに大きくなるし、そうなると繁殖力が高くなる。


 ドワーフが生まれて長しと言えど、ノームが全滅して黒鉄石を独占した試しはない。


 ノームも一生懸命生きる。

 黒鉄石はノームの主食。

 あちらから見れば、ドワーフは食べ物を盗んでいく蛮族でしかない。


 人間が米盗まれたらキレるのと同様だ。米じゃなくても、食べ物盗んだらキレる。大体キレる。


 ドワーフは鉄鋼高山に住み、ノームも住む。


 そうなれば争いが多発する。


 ことあるごとに戦争になり、どちらも数を減らす。


 だが、ノームの繁殖力は高い。

 その内形勢が悪くなり始めた。


 ドワーフは数が減る一方なのに対し、ノームは増え続ける。

 それでも血気盛んなドワーフは、ノームと戦い続ける。


 そんな事を繰り返したそうだ。


「そんな訳だ」

「どんな訳だ」


 親父さんが一方的に話していたが、どうも要領を得ない。


「つまり、どういう事だよ」

「つまりなぁ。素材がどこにもねぇんだよ。黒鉄石がとれねぇの。ノーム共が幅を利かせちまってよ。木製でもいいなら、木材でも取り寄せても良いぜ? 木製の義手で良いならな」


 俺は腕を組んで唸った。

 それは困る。


 木製か金属製かと言われたら、金属が良い。

 とりわけ、耐久性の高い物が良いだろう。


 これから先、どんなことがあるか分からない。

 そんな中、木でできた義手では乗り越えられるか分からない。


「とはいえ、全部金属で作ったらとんでもない重さになる。木材に黒鉄石をコーティングする形になるだろう。それでもだ。黒鉄石は無い。どこにもだ。そろそろどの工場でも黒鉄石の在庫が無くなる」


 そこで一区切りおいて、親父さんは外を見た。


「戦争、だな」


 お袋さんは暗い顔になった。

 ルイちゃんを見てもそれほど驚いてはいないようだ。


 ノームとやらと戦うのは日常茶飯事のようだった。


「どうすればいい」

「やるのか?」

「どうしたらいいか聞いたんだ」

「生意気だな。……有志で戦いに行くことになる。ノーム共を殺して、その隙に黒鉄石を奪う。いつもこんな感じだ」

「そうか……」

「やる気なのか?」

「そうしないと、黒鉄石は手に入らないんだろ? 行くしかないだろ」


 イズモが行きたくないと、ブーブーと豚さんの如く鳴く。


「留守番でもしてろカス」

「こ、言葉のあやですよ。行きますから」


 睨まれてイズモが縮み上がった。

 シノノメは、まぁ、来いって言ったら来るからいいや。


 アイカが自分を指さして、おずおずと言葉を発した。


「私は行きたくないな、なんて……」

「テメェ……」


 睨んだ。


「なんてわけなくてぇ! 超行きたい! うわー、楽しみだわー。どんだけぶっ殺してやろっかなぁ」

「その意気だ」


 アイカが目元をそっと拭った。どんだけ行きたくないんだ。


「ルイちゃんも来てもらおうか」

「良いわよ」


 こっちはあっさりしたものだ。

 ひらひらと手を振って、了解の意を示している。


「よし、次は商売の話だ。防具を売ってくれないか?」

「それはいいが、いくらある?」

「後ろのエルフはもう防具があるからいい。俺とそこの犬、それとルイちゃんが防具がない。一人金貨九枚ある。買えるか?」

「新品は駄目だ。金貨がその程度じゃ無理だな。家では扱ってない。紹介状書いてやるから、中古の防具を売ってる店に行け。金貨九枚あれば、そこそこ良いのが買える」


 親父さんは席を立って、紙とペンを持ち出した。

 さらさらと何か書いて行く。

 それを受け取った。紹介と地図だ。

 店の名前まで書いてくれている。


「すぐにノームの討伐隊が組まれる。報酬も少ないが、出るだろう。冒険者なんだって? 期待してるぜ」

「片腕だけどな」


 皆引き連れて店に向かった。




 店に向かい、中に入り紙を渡した。

 それを見て店主は機嫌良さそうに、出迎えてくれた。

 何か買ってくれるわけだから、機嫌が悪いはずがない。


「お客さん、観光?」

「いや、ちょっと用事があったんだ」


 所狭しと並んでいる防具を見ていると、店主が話しかけてきた。


「義手を作ってもらおうと思って」


 左腕を見せる。

 店主の顔が引きつったが、それも一瞬だった。

 納得したような顔になり、話を続ける。


「それで、何で防具がいるんだい? 義手と関係なくないか?」

「黒鉄石が足りないんだろ? ノームから奪うのに参加すんだよ。それで、防具がいるの」


 俺の体に合いそうな板金鎧があった。

 中古だから自分に合いそうなものを見つけなくてはならない。

 ちょうど宝探しをしているような感じだ。


「なるほど。参加すんのか。そりゃ豪気だ」

「だろ」


 手に取った板金鎧を着てみる。

 ちょうどいい。直して貰う必要もない。ぴったりだ。

 板金鎧は黒鉄石でできているようで、真っ黒だ。

 少しおどろおどろしいが、耐久性はピカイチだという。


 ドワーフの里を出て、手に入れようとすれば、相当な値段になるらしい。

 ここに来る人間や、そのほか種族は必ず何かしら買っていくらしい。


 それだけあって、防具には多種多様な大きさがある。

 これならアイカやルイちゃんにも合った防具が見つかるだろう。


 全身の防具を見繕っていると、合計で7枚の金貨が飛んで行った。

 これでも安いというのだから恐ろしい。


 アイカも軽めの防具を買った。


 ルイちゃんは安い。

 ドワーフの里という事もあり、ドワーフの体に合った防具は格安で売られていた。

 ルイちゃんは浮いた金で黒鉄石でできた馬鹿でかい槌を買った。

 ミスリルの片手槌は売ってしまうらしい。


 それも高く売れた。

 ミスリルの武器は貴重だ。

 店長も喜んで買ってくれたし。


 装備を整えたら、帰宅するだけ。

 さっさとルイちゃんの家に図々しくも帰る事にした。




 ルイちゃんの家はそれなりに広い。

 というか、ドワーフの家は軒並みデカい所が多かった。


 それだけ儲けているという事だ。


 親父さんは俺たち、とりわけルイちゃんが止まる事に反対したが、そこはお袋さんが宥めた。


 それぞれに部屋があてがわれた。

 一人一部屋だ。

 うん。


 一人一部屋だ。

 良い待遇だ。


 一人一部屋。


「なぁ。一人一部屋だけど?」

「はい。それがどうか致しましたか?」


 そこまで大きくも無い個室に布団を運び込んで、それを敷いていると、シノノメが普通に入室してきた。

 扉の隙間からアイカがそっと見ていて、ニヤッと笑っていた。

 睨んでやると、ぴゅーっとどこかに行ってしまった。


 野郎。面白がってやがる。


 シノノメは持ってきた布団を俺の布団の横に並べる。

 なにやってんだ、こいつ。

 

 少しの隙間もなく、布団が並べられていた。

 シノノメが追い出される前に、さっさと布団にもぐりこんだ。


「………………………」


 俺は立ちすくんでしまった。

 俺の記憶上、こんなパターンは存在しない。

 記憶なんてないけど。


 女の子と一つの部屋で寝るなんて。

 寝るなんて。


 何も思わない。

 なんだこれ。

 もっとドキドキしても良いんじゃないの?

 

 もっとわくわくしたって罰は当たらないんじゃないの?


 俺も布団に入って、横になった。

 

 隣にはシノノメがいる。

 二人きりだ。


 ……なぜ反応しないのだ。我が息子よ。

 ガッチガチになったっておかしくない状況じゃないの。

 知らんけどさ。


 駄目だ。

 何とも思わないし、昨日だって同じ馬車で一緒に寝ている。

 あれと変わらない。


 シノノメはどう思っているのかは知っているのだが、期待に応えられない。

 別に行為がしたいという訳では無いだろう。


 隣のシノノメだって大人しいし。


 チラッチラ俺の方を見てくるが。

 するとキィと小さな音を立てて、扉が小さく開いた。


 目が三つある。

 覗かれてる。

 あいつら……!


 クスクス笑って、こっちを凝視している様は途轍もなく腹立たしい。

 笑い転げたいが、シノノメがいる手前それはできないという事だろう。

 

 つーか、シノノメは聞こえてないの?


 シノノメを見る。目があった。

 

「あっ……」


 なに。「あっ……」て。

 何故頬を染める。

 それくらいで。

 お前、昨日中指立てて死ねって言ってきただろう?

 同じ人なの? 本当に同一人物?


 扉の向こうの三人が笑いを堪えている。

 あいつら、明日は制裁だ。


 心の中でどうやってあいつらを懲らしめてやろうかと考えていると、シノノメが行動に出始めた。

 僅かではあるが、こちらに移動しつつある。


 バカな……!

 この状況から俺の布団に移動しようとするだと……!?

 こいつ、アホなのか。


 いや、アホだ。

 決定的にアホだ。

 基本エルフはアホだ。

 頭がイッてる。そんな種族だというのは、今日までの付き合いで分かっていたはずだ。


 だいたい、こいつの好意は常軌を逸している。

 義務か責任か、それ以外かは知らないが、こいつは確実に歪んだ恋愛観を持っている。


 そんな重圧にも等しい物は、俺は受け止めきれない。


 シノノメが頬を真っ赤にしながらこちらににじり寄る。


「ユウキ様……」


 妙に艶っぽい声だ。

 くそ。

 卑怯だ。

 抵抗できない。


「訳ないだろ」


 シノノメの顔面を押しやる。

 力強い反発が俺の腕に乗っかる。

 強引にでも俺にくっつこうという魂胆が丸見えだった。

 

「お戯れです。ユウキ様。ご覚悟を……!」

「てっめ。何の覚悟だ……!?」


 もはや寝るというより、寝るだな。

 うん。

 寝るだった。

 シノノメが俺に覆いかぶさる。


 ほっそ。軽。

 これがルイちゃんだったら、思いっきり殴ってそれで終わりなのに。

 こいつ殴ったら、死にそうだ。


 最早抵抗する手はないのか……!?


 いや、そもそも俺は何故抵抗しようとしているのか。

 別にいいではないか。

 何か悪い事か。


 普通だ。

 ただ男女が営みをしようとしているだけ。

 ただそれだけ。


 それだけのはずなのに。

 できるできないではなく。


「やめろ」


 力強く、言う。


「やめるんだ」

「あ……」


 俺の怒りと悲壮を感じ取ったのか、シノノメが俺の上からどいた。


 今、俺はどんな目をしている。

 表情は。

 口は。

 呼吸はしているか。


「も、申し訳ありま――」

「お前が悪いわけじゃない」


 外にいる連中にも聞こえるように、大きめの声でしゃべった。


「ただ、俺はそういうことはできないし、するつもりもない。お前がどう思っているのかは、分かっているつもりだし、応えてもやりたい。でも、今じゃない。今じゃないんだ。何もしていない俺が、何かしていいはずがない。生きるはずだったあいつらが行う予定だったものを、今俺はやらない。できないし、やらない。何言ってるか分からないだろ?」

「それは……」

「別にいいんだ。分からなくて。ただ、そうだな」


 覗いてる連中も、シノノメにもこれだけは言えた。


「死なないでくれ」

「ユウキ様……」

「ただ、死なないでくれ。それだけでいい。その内、期待に応えられるようになる。それと――」


 颯爽と立ち上がり、扉を開いた。


「やべっ」

「これは……」

「まずった……」


 三人とも苦笑いを浮かべて、頭を掻いている。

 目線を合わせようとしない。


「一発ずつ殴られとけ!!」


 三連打が三人の頭部に襲い掛かり、阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る事になった。

感想とかくれるとやる気になります。

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