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7 追いかけられる

「だめだ、ここからは適当に進むしかない……」


 死体の道はあるところで途切れていて、それ以上たどる事は出来なかった。

 ずっと襲われていたわけもないし、仕方のない事ではあるが、残念である。


「そういえば……」


 奪っておいたカバンの中にコンパスが入っていたことを思い出した。

 あいつらがあの洞窟に来るのに使ったのだろう。ここでこれが役に立つ。


「んん~? どっちに行けばいいか。やっぱりさっきまで進んでた方向かな」


 どこに行けばいいのかすら分からないので、目指す方向を設定することはできない。


 勘で「こっちだ」と独り言を言いつつ、足を進める。

 森の険しい道とも言えない道を進む。

 

 それほど進みにくいという事もないが、植物がローブにくっついてきて不快ではある。

 手で葉っぱを払いのけながら、慎重に歩みを進めた。


 時折、喉が渇いたりするのでカバンから水筒を取り出して、水を飲む。

 この時が相当俺を幸福にする。


 水のありがたさを俺はこの監禁期間で痛感した。

 一口一口、丁寧に口に含んでは、全てを楽しむかの如く水を堪能する。


 餓死することはなさそうだが、朝出発してもう夕方に近い。

 何時間も歩いているのに、まったくどこかに抜けるような気がしない。


 コンパスを確認しつつ移動はしているので、一定方向に進んでいることだけは確かだが、正しい方向に進んでいるかは分からない。


「どうしよう……」


 予定ではすでにどこかにたどり着いて、宿にでも泊ろうかと思っていたのだ。

 お金はあいつらから奪っていたので、大丈夫だった。


 だが、現実は厳しい。

 森の奥深くで独りぼっちだ。


 サバイバルの知識もない。

 これ以上暗くなってから移動するのは危ないか。


「枝でも集めて燃やそうかな」


 そうと決まれば、足元を見て枝葉を探す。

 腕いっぱいに枝を抱えて、適当な場所に腰を下ろした。


「よっこいしょ」


 剣や盾を置いて、邪魔なものはその身から外す。

 ばさっと枝葉を地面に置いて、適当に組み立てる。


「山みたいにすればいいのかな……?」


 空気が通るように工夫しながら、枝を組み立てていく。

 あとは、火魔法だ。

 便利。


「ほら」


 適当に火が出ないかな? なんて思っていたら指先からライターみたいに火が出た。

 それを火種につけて、枝の山に移していく。


「燃えろ、燃えろ、燃えてくれ……!」


 明らかに適当な方法だったので、火が点る事を祈った。

 点かなかったら、さらに強い魔法で火を使う必要がある。

 森が燃える事を心配しながら、枝を見ると見事燃え移っていた。


「やった……!」


 暖かい火に手を当てる。

 別に寒いわけではない。

 心は寒いが。


「はぁ……」


 一日で何人殺してしまったのか。

 それを思うと、心が潰れそうなほど重い。


 頭の中はそれでぐちゃぐちゃになる。

 殺した、殺してしまった。

 どうするべきだったのか、これからどうすれば良いのか。


 俺たちはどこから拉致られたのか。

 学校というキーワードしか、自分の立場を思い出せない。


 外に出ても、記憶が無ければ、俺は最初から一人だったんだ。

 それにおかしい。

 俺の常識が警鐘を鳴らしている。


 どこかこの世界はおかしい。

 魔法なんてものもそうだが、決定的なものがあった。


 俺は空を見上げる。

 まんまるのお月様だ。


「二つだけどな……」


 月が二つあった。

 俺の常識だと、月は一つだ。

 

 なのに、月が二つある。

 現象か? なんて思ったがそんなはずはない。

 

 月が二つになる現象なんてあったら、相当に話題になるに違いない。

 その記憶もないとなればあれなのだが、月は一つ。

 これは変わらない。


 なのに、二つあるんだよ。

 月が二つ。


「ここは、どこだ……!」



 あれから火を維持しつつ、眠りについた。

 だが、眠れるものでもない。


 一応は疲れていたのだが、立花さんを殺してしまったことを悔やんでいる。

 偽善者だとは思うが、何んとなかった可能性もなかったのだろうか? と無限ループで悩んでしまうのだ。


 あの爺たちは恐らく首謀者であるところだから、死んだとしてもしょうがない。

 豚男君と同じようなものだ。


 自業自得。


 でもそれ以外の奴らは違う。

 何も悪い事はしていなかった。

 それなのに理不尽な死が彼らを襲った。


 特に、俺が殺してしまった。

 

 立花さん。


 すまない。俺が死んだ方がよかっただろうか。

 女性であるあなたを生かす方が、倫理的に良かった。


 女子供を助けるのが、当たり前というか。

 その両方を満たすあなたを殺してしまった。


 どうすればよかったのか。

 どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、どうしたら、……………………。


「……はっ」


 目を覚ました。

 頭の中はぐちゃぐちゃだ。

 後悔ばかりが先立つ。


 あとは、理不尽な怒り。


 この状況に送り込まれたことによる怒りと、この状況に送り込んだ人物。


 くそ、むかつく。いや、そんな生易しい物じゃない。


 憎悪だ。


 俺たちをこんな目にあわせやがって。

 いつか後悔させてやる日をくれてやる。


 すでに消えていた火を後にして、剣や盾を拾った。


「なんというか、変だよな……」


 高校生がこんな武装をしている時点でおかしい。

 は、まぁ、記憶もないからこれが普通なのかな。でも、俺の常識ではこんな恰好はおかしい。

 剣と盾を武装して、手から火を出せる高校生。


「異端だな」


 排斥されても仕方がない、なんて思いながらコンパスを確認して足を進めた。


 また何時間も歩きながら思った。


「なんか、力付いたな?」


 昨日から体の調子がすこぶるいい。

 あの黒い靄が俺の体に入ってからずっとこうだ。


 あまり眠れていないと思うのだが、体の動きは快調だ。

 鉄でできている剣と盾を持っていても、なにも重いと感じない。


 ムッキムキになったわけじゃないが、力が底上げされていると感じる。


「今ならスポーツ選手にだってなれそうだな」


 軽口叩きながら、さらに歩き続ける。

 邪魔になる枝葉をナイフで叩き斬り、道を確保しながら歩く。


 まだまだ歩く。

 ずっと歩く。

 遠いな。道間違えたかな。

 困った。

 いや、どうすれば良いのか。


 今からでも引き返すべきだろうか。

 引き返す必要もないだろうが、進む方向は変えた方が良いのでは?

 

 と、思っていると後ろからガサガサと音がした。


 なんだ? と思って振り返るといくつも見てきた、死体と同じ容姿をした緑色の人間らしきやつがいた。


「げ……」

「ガッジャラァ……!!」


 そいつは何の前触れもなく俺に襲い掛かった。

 飛び上がり、手に持っていた棍棒を俺に振り下ろす。


「うわ……」


 咄嗟に持っていた盾でガードする。

 ガツンと木でできた棍棒と、盾が激突した。


 本気の一撃だ。

 分かる。


 こいつも俺を殺そうとしている。

 ふざけるなよ。


 俺の命はすでに、俺のものじゃない。

 俺は、31人の命を背負って生きているんだ。


 お前に暮れてやる命じゃ、


「ねーんだよ!!」


 抜刀して、奴と相対した。


 手持ち確認。

 限定奪取(リミテッド・スチール)は使えない。こいつでは条件を満たせない。その前に、こいつは強いのか。

 使えるのは、剣術と盾術位だ。


 いいだろう。こっちには光魔法もある。ケガしたって後から治せる。


「ガッシャバグダ!」

盾受(ブロック)!」


 盾術の盾受(ブロック)で、がっちりと棍棒を受け止める。

 反撃しようとすると、奴の後ろから仲間らしきわんさか出てきた。


「こりゃまずい」


 剣術の一本突きで奴を切りつけると、俺は逃走を開始した。


 まずい、まずい、まずい。


 殺すなんて言っておきながら、数が居るとなれば逃げるしかない。

 もう方向何て確認する間もなく走る。

 走り続ける。


 やべぇ、やべぇ、やべぇ、やべぇ、やべぇ。どうする。倒すべきか。

 だが、あれだけ数が居るとさすがにやばいのでは?


 さっと後ろを振り返る。


「かなりいる!」


 小学生くらいの体格をした緑色の奴らが、俺に向かって一心不乱に走ってきている。

 これは、どうしようもない。


 森の中を奴らから離れようと必死に走るが、やつらもホームグラウンドからか相当な速さでこっちに来ていた。

 火魔法で撃退するか!?


 だが、森が燃え広がって焼死しないとも限らない。

 相当嫌な死に方だ。


 無理だ。今は火魔法は使えない。

 前を向いて、必死に走る。


 すると、左右に囲まれ始めた。

 これは、マズい。


 運動靴をはいているから走るのには問題ないが、木の根っこに注意しないとコケそうになる。だから、走るのも遅くなる。


「ガッシャラァァア!」


 右から一人飛びかかってきた。


「オラァ!」


 剣を横なぎに、敵の棍棒を狙って相打ちに持ち込む。

 すると後ろからもきた。


「クソが……!」


 盾受(ブロック)

 真正面から受け止めて、剣術の一本突き。

 

「グゲ……!」


 土手腹に権をぶち込むと、俺はさらに逃走する。

 これで、後ろとの差が大分縮んでしまった。


 それに右の奴もまだ生きている。

 これは。


 と思っていると、視界が開け始めた。


「抜けた……!?」


 ザァァと風が吹き抜ける。

 本当に森を抜けることが出来たみたいだ。

 視界が開放的になり、その全貌が見えた。


 遠くにではあるが、町が見える。

 あそこに行ければ……!


 だが、まずは後ろの連中だ。


 よくよく見ると、そんなに多くはない。

 すでに諦めた奴もいたんだろう。


 数は、4体。

 半分以下に減っている。


 剣を構え、盾を前面に出す。

 奴らもやる気だ。


 ギャァギャァ騒ぎ立てて、士気を高めている。


 出鼻を挫く。


火球(ファイヤ・ボール)……!」


 3つ牽制球として奴らにぶち込んだ。

 だが、全員これを迎撃した。

 まぁ想定の範囲だ。


 4体のうち残った一体に突撃する。


 剣術のうちの一つをさらに出す。


「二連突き……!」


 腹と喉を狙った突きの2連撃。

 一撃目の腹は防がれたが、喉は貫いた。


 しかし他の奴らの援護もある。


 盾を装備している左方向から、一体のゴブリンが来た。


「ギッシャアァ!」


 横なぎの攻撃をなんとか盾で受け止める。

 さらに後ろから二体。


火球(ファイヤ・ボール)……!」

 

 後ろの一体に牽制として打ち出す。

 近すぎたせいか、牽制ではなく一撃必殺の一撃として機能した。

 全身が火に包まれようとして、もだえ苦しんでいる。

 

 あいつは退場だ。

 残りは目の前の二体。


 二体から矢継ぎ早に攻撃が繰り出される。

 盾受け(ブロック)盾受け(ブロック)盾受け(ブロック)。ぎりぎりの攻防だ。防具はない。攻撃を受けたら、相当痛いだろう。

 しかし、こいつらは俺が攻撃できないと踏んで、単調な攻撃を仕掛けている。

 右、左、右、左、右。ずっとそのリズムだ。

 こうなれば崩す方法はある。


 右の段階で、盾受け(ブロック)で完璧に受け止めるではなく、受け流す(・・・・)


「ゲハァ……!?」


 受け流されたやつは驚きの声を上げた。

 流れた体を後ろから切りつける。


 だが、その隙にもう一体のやつが俺に攻撃してきた。

 それを避ける事も出来ず、横っ腹に棍棒を食らった。


「ぐぁぁ……!」


 衝撃が体の中を伝播する。

 内臓が捻転するかのごとき衝撃を味わいつつ、これくらいならと奮起した。


 光魔法。


癒光(ヒール)……!!」


 全身を癒すことが出来る光魔法によって、横っ腹癒す。

 大丈夫だ。大丈夫。

 痛くない。

 いいぞ。


「……フフッ。来いよ」


 一人四役できる俺だ。

 まだいける。

 4体に囲まれても、俺は生き残ることが出来る。


 盾を構え、不動を示す。

 バサッとローブが靡く。


 俺かっけー。


「ギィィ……」


 奴はじりじりと後退する。

 敵わないと見たか。

 いいぞ、逃げてくれ。

 もう3回も魔法を使った。


 もう何回も使えない。

 逃げてくれるのは有難い。


 そうして、突進しないことを見て残り一体は逃げ出した。

 俺は安心せず、その場で一分は構え続けた。


 だが、それ以降奴は戻ってこず、俺は一人残された。


 そして、一つの名前を思い出す。


「ゴブリン、てやつなのか……?」

 

 頭が混乱の極みに達しながら、剣を収めた。

 振り返れば、大きな町があそこにはある。

 

 俺はそこに向かうべく、目指す先を決定した。

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