66 涙
またしても犠牲が出た。
雷魔法により493名の尊い命が葬りさられ、エルフの人口は三分の二になった。
これほどいきなり減って、大丈夫なのだろうか。
最高責任者もかなり死んだ。
全員が出張ってきたわけではないので、全滅したわけではない。
エルフの里の運営が回らないほどではない。
だが、今までの暮らしは期待できないだろう。
人口がそれだけ減れば、労働人口もそれだけいなくなる。
エルフの里を支える人が居なくなって、里の利潤が守ることは難しい。
また多くのエルフが地上に降りて、亡骸を弔う。
一か所に集め、火葬を執り行うまでに、何人のエルフが崩れ落ちたことか。
俺たちに対する風当たりも大きい。
何故、助ける事が出来なかったのか。
何故、もっと早く倒さなかったのか。
何故、何故、何故……。
そうして泣き崩れ、困惑に頭を悩ます。
助かった人間は、なぜ自分だけが助かったのかと罪悪感に苛まれる。
何故だ、何故自分だけが助かり、他の奴らは死ななければならなかったのか、と。
「……すまない」
泣いているエルフに小さく謝り、その場を離れた。
鳴き声がこだまする。
遺体を燃やす音が、耳から離れない。
灰が俺の体に付いた。
死んだらこうなる。
誰でもそうだ。
死ねば灰になり、跡形もなくなる。
自分が生きていた軌跡などなく、残るものなど何一つない。
死とは。
……考えても無駄だ。
正解はない。
それぞれがどう思うかが大切だ。
俺たちを悪く思うのか、影人達を憎むのか。
それだけの違いだ。
俺は楽になりたいだけだし、できるなら恨まれたくない。
人には好かれたい。
でも今の状況は、俺を英雄視するものではない。
誰もかれもが、何故あいつが生き残っているんだ、という目で見てくる。
とても居づらい。
「行こう」
アイカたちに告げた。
「挨拶は……」
アイカが戸惑う。
イズモとシノノメも同様だ。
「親に挨拶したいんだけど……」
「だったら早くしてくれ。俺はもう耐えられない」
「……分かったわ」
イズモとシノノメが親の元に向かった。
抱き合い、涙を流す。
そして俺を睨んでくる。
俺はそっと目を逸らした。
「ユウちゃん……」
ルイちゃんが肩に手を置いてきた。
暖かい。
「あぁ……。大丈夫……」
「ほんとに?」
「本当だ」
「そう……」
ルイちゃんの手が離れた。
肩が寒い。
少し待っているとイズモとシノノメが来た。
荷物ももうここに来るときには整えてある。
というか、荷物なんかない。
俺たちは手ぶらでここに来た。
出ていくときも、ほとんど手ぶらだ。
貰った武器だけ持って、葬式に背を向けた。
「すまない……」
二度目の謝罪を誰にも聞かれないように行った。
本当に。
ごめんなさい。
助けられなかった。
弱かった。
償いの言葉はない。
出すこともできない。
言い訳はしない。
すまない。本当に。俺がもっと強ければ、あなたたちを助けられた。
もっと勇気があれば。
難敵に立ち向かう勇気があれば、こんなに犠牲者が出る事も無かったかもしれない。
俺の勇気の無さが招いた結果かもしれない。
怖かった。
でも言い訳にはできない。
皆怖かった。
俺も怖かった。
恐ろしくて、おっかなくて。
何で戦ってるのか分からなくて。
どうして、こんな気持ちにならなくちゃいけないんだ、なんて思って。
クラスの皆を犠牲に生き残ったのに、俺は何も成長していなかった。
俺が弱いから。
涙が出る。
「ユウキさん……?」
「うっせぇ……」
先頭を歩く。
どこに向かうのか。
分からない。
違う。
分かってる。
鉄鋼高山だ。
でもそれを確認する間もなく、俺はここから逃げ出したい。
俺は咎から逃げ出したい。
ごめんなさい。
少しずつ泣き声が聞こえなくなってきた。
喧騒のようだ。どんどん小さくなる。
俺の中から何かが溢れ出す。
小さくなる声が、俺を責める。
遠ざかる。
逃げる。
エルフたちの泣き声が、俺の胸を刺していく。
遺体を焼く音が、臭いが。
全てが俺を責めているようだ。
助けてくれ。
誰か。
「うっう……」
涙が流れた。
悲しい。
知らない人が死んでもこれだ。
後ろに居る4人が死んだら、俺はどうなるのだろうか。
想像もしたくない。
気を使って、誰も話さない。
それが余計、辛かった。
エルフたちは俺を無視して、葬式を執り行った。
俺は、逃げ出した。
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