65 しぶとい
朝早く、ゴンドラの前に約500名程度のエルフたちが集まっていた。
これだけのエルフが参加するのか。
犠牲者を含めるとこの五百人で、約三分の一が犠牲になる可能性すらある。
約1100人。
エルフの人口が約3000人だから、かなり危ない橋を渡るようだ。
もはや絶滅危惧種だ。
そして、簡単なひな壇の上に最高責任者たちが登場した。
「皆よく集まった」
周りのエルフは神妙な顔をして、耳を傾けている。
「これよりゴンドラで降下してもらう。栄えある一番手を冒険者、ユウキ達一行にやってもらおうと思う」
寝耳に水である。
そんな話は聞いていない。
それに一番最初に降りるというのは、夜影森の脅威に一番長く曝されるという事だ。
できるだけやりたくない役割だ。
「皆、拍手を」
エルフたちは嫌そうな顔をしながらも、安堵しているように見えた。
人間に一番槍を譲ることになるが、それだけ自分たちは安全に下りれる確率が高くなる。
という、算段?
分かんないわ。
とりあえず、分かる事は。
この拍手喝采の空気で、断る事なんてできないという事だけだ。
「ハハ……」
苦笑いしながら、エルフたちをかき分けてゴンドラまで移動した。
「最悪……」
アイカがボソッと聞こえない位小さな声で言った。
てっめぇぇぇえ。
基本お前のせいだというのを忘れるなよぉぉおおお!!
と、心の中で叫びながら愛想笑いを浮かべて歩く。
「ども、どもっす……」
頭に手を当てながら軽く会釈し、ゴンドラの前まで来た。
割と大きいから人数が乗れる。
一時間もあれば500人全員を運ぶことができるだろう。
「一時間……」
そうでもないか。
他のエルフが下りてくれば、夜影森の脅威は遠ざける事ができる。
怖いのは初めだけ。
慣れればどうってことも無い。
俺やアイカ、他数名が最初にゴンドラに乗った。
「では、よろしく頼んだ」
ガゴンと音を立てて、ゴンドラが降下し始めた。
狭い籠の中でミーティングらしきものをした。
「どうする?」
誰も喋らない。
下に降りてどうすれば良いのか。
「……待ってるしかないんじゃ?」
アイカが恐る恐るそう言った。
そうなんだけど。
「案外どうとでもなるわ。今から心配してもしょうがないでしょ。肝っ玉の小さい男ね」
シノノメがきつく当たる。
それもそうだな。
「あれな。影人来たら一番近い奴が殺すってことで」
皆頷いて、それぞれ武器を抜いた。
それからすぐにゴンドラが地上に付いた。
俺たちが下りると、ゴンドラはすぐにエルフの里に戻っていった。
順次エルフが送られてくるだろう。
それまでここを守ることが、最初の任務のようだ。
時間にして一分くらいだろう。
ていうね。
分かってたのかな。
居るわ。
結構いる。
結構っていうか。
一人一体はやらないとだめらしい。
五体だ。
「光の加護!!」
全員の体が光り輝き、収束する。
「イズモとシノノメは下がれ! 後ろで援護してろ!」
影人の残党もこっちに気付いた。
走ってくる。
「行きます!」
イズモが立射の体勢にかかった。
鏃合わせだ。
弓術レベル1の技。
命中精度が格段に上がる技。
ツーベルクも頻繁に使っていたのを覚えている。
基本中の基本技だ。
一本突きのようなものだろう。
鏃合わせをした矢が、影人の一体に飛んで行った。
上手い。
タイミングがいい。昨日までならあの動きはなかった。
強くなっている。
影人が一体死んだ。
それを見ても影人は逃げない。
逃げないというか、止まりきれないようだ。
逃げたいが、走った手前、止まらないといけない。
走ったら勢いがつく。そりゃ当たり前。止まるにも時間がかかる。
その間に距離を詰める。
アイカとルイちゃんも俺の両隣を取って走る。
それぞれ技が炸裂する。
特にルイちゃんは圧巻だ。
影人の顔が破裂したように潰れた。
ミスリルの強度は、ルイちゃんの攻撃に耐えきり、敵に最大のダメージを与えた。
アイカは一本突き。俺も一本突きで仕留める。
残り一体。
影人が身を翻した。
「どきなさい!!」
シノノメが俺を押しのける。
「おい!」
「邪魔しないで、チャンスよ……!」
シノノメが鞭を振るう。
影人のふくらはぎを打った。
「ォッ……!?」
影人が体勢を崩した。
そこにまた鞭が襲い掛かる。
黒い血が舞う。
影人は地面にうずくまった。
頭を守っている。
身を縮こまらせ、どうにか見逃してほしいという体勢だ。
「立ちなさい」
シノノメが命令した。
命令に従い、影人が立った。
影人はうなだれ、微動だにしない。
なんだこれ。気持ち悪。
「何したんですか?」
「調教したの」
アイカの問いにシノノメが解を唱える。
立ったまま動かない影人に近づく。
よくよく見ると目も口も鼻もちゃんとあった。
本当に動かない。立っている。
「それと等価強化もしておいたわ。普通の影人より強いわよ」
なるほど。
調教師に加え、等価強化のコンボらしい。
むしろそれが調教師なのかもしれない。
大人しくなった影人を加え、6名で他のエルフが下りてくるのを待った。
他に影人はない。
皆影人を間近で見る。
「黒っ!」
分かっていた事だが、どうしても感想がそうなってしまった。
本当に黒い。
俺の髪の色より黒い。
黒髪を自負していたが、違うのではないか? と思わせるほどだ。
そうこうしていると、ゴンドラが下りてきて、一旦の任務は終わった。
それからもちょくちょくと影人の襲撃を受けた。
だが、われらが調教師の前に敵はいなかった。
シノノメ様々である。
シノノメが調教した影人を使い潰すことで、すべての襲撃をいなす事ができた。
等価強化をした影人は、同じ影人に圧倒的な力の差を見せつけ倒していく。
仲間に攻撃される影人達は混乱の極致となり、何もできず撲殺された。
それでも調教した影人もいつしか動かなくなってしまった。
反撃を悪い場所に食らってしまったのかもしれない。
それでも誰も傷つく事なく、場を繋ぐ事が出来たのはシノノメのおかげと言って過言ではない。
一時間を稼ぎ、エルフたちが集結した。
最高責任者も陣頭指揮に立つべく降りてきたらしい。
そいつらがいる場所辺りは、物々しい警護となっている。
余程死にたくないと見える。
それでも里から出てきた事だけは評価してやる。
薄暗い夜影森の中を松明を持って、行進する。
本来なら松明は持ちたくないが、ここまで薄暗いと全体の移動が滞ってしまう。
それに火は使う。
今のうちに準備する意図もあるのだろう。
敵に発見されるリスクを天秤にかけた結果、それでも松明を使う事を選択した。
それをとやかく言ういわれはエルフにもないし、俺も無い。
やはり明かりがあると見えやすいし、安心して歩ける。
夜影森はなにも影人だけが脅威なのではない。
他にも猛獣はいるし、魔物だっている。
火があれば寄ってこないし、寄ってきても発見も早くなる。
影人だけに目が行っていないだけ、まだエルフたちは冷静と言えるだろう。
全員一言も発さずに移動を開始した。
無言の圧力が全員に伝わる。
これから戦いがある。
静けさが逆に嵐の前触れに感じた。
ザッザッと草を踏みしめ、影人の集落まで目指す。
前は集落までは見る事が出来なかった。
どんな感じなのか聞きたいが、聞ける雰囲気でもない。
ピリピリした空気が流れている。
何かすれば破裂しそうな空気感ですらある。
時々影人が姿を現すが、それをいち早くエルフたちが矢を射って殺す。
姿を見られて報告されては、作戦が早くも瓦解してしまう。
周りを警戒しながら歩を進めた。
何十体殺したか。
もう、近い。
接敵の回数が多すぎる。
エルフたちの矢の数も心配だ。
「止まれ」
最高責任者が後ろからそう告げた。
全隊止まる。
小さな声だったが、スッと通る良い声だ。
「火攻めの準備だ」
? まだ集落は見えないが……?
ここから準備か。
「届きますよ」
イズモが自信ありげにそう言った。
「は? まだ先だろ。ここからじゃ見えないし、木も邪魔だろ?」
「大丈夫ですよ」
イズモは矢の先端に油をしみこませた布を巻きつけた。
松明の火をそれに移した。
矢の先端が燃え盛った。
それが所々で起きる。
エルフの多くは弓を使う。
それも特大の弓を持ってきていた。
全員の矢に火が点った事を確認して、最高責任者たちが号令をかけた。
小さな声を合図に、一斉に矢が放たれた。
光り輝く流星の様に矢が飛翔する。
間もなく木々に紛れて、矢が見えなくなった。
当たるのか……?
そう思っていると、「次だ」と最高責任者が号令を出した。
弓を持つ全員が矢に火をともす。
それぞれのタイミングで射撃を開始し始めた。
ヒュンヒュン音が鳴る。
弧を描いて矢は飛んでいく。
ところどころ木に邪魔されて、矢が阻害されている。
それでも数多くの矢が遠くへ飛んで行っているように感じた。
目を凝らすと、遠くで煙が上がり始めていた。
「マジか……!」
当たってるのか?
すげぇ。
もう森が燃えているようにしか見えない。
その内、夜影森全体が燃えるのではないかと思うほどだ。
そうして、いぶり出されて影人達がこっちに走ってきていた。
ここまでは想定通り。
「撃て!!」
最高責任者が命令するまでも無く、有志が射撃を続ける。
こっちに来る前に次々影人が射殺される。勢いそのままに影人が倒れる。
その間も火攻めは止まない。
もはや森の奥は火災だ。
あそこには影人の集落があったのだろう。
だが、この距離からでも黒煙が見える。
あれほどの勢いで燃えていては、集落は無事ではすむまい。
しかしあっちも必死だ。
必死というか、激怒というか。
違うな。
上手い言葉が見つからない。
まさか火攻めされるなんて思っていないだろう。
火だぞ。火。
森で火を使うとか、自殺行為だ。
それも無差別に、だ。
それを思えば、影人がこっちにきて俺たちを殺そうとしているのだって、あながち間違いじゃない。
それで、あいつは何?
なに、あれ?
え、なに、なんなの?
キマイラ?
あれが?
うそ。
あり得ない。
キマイラだ。どう見てもキマイラだ。
めっちゃはやい。こっちに来てる。
それはいい。
問題なのは、影人すら食ってる状況とあのデカさ。
一回り、いや、二回りはデカい。
まさか。
今まで戦ったのは、子供だった?
マジか。いや、そんな馬鹿な。
俺の左腕を犠牲にして倒したのが、子供?
キマイラの子供と俺の左腕が等価?
俺の胸に何かが去来する。
苛立ちと怒り。それと一抹の虚無感。
滅茶苦茶にデカいキマイラに対して、エルフたちが動揺を見せる。
キマイラは周囲に居る影人を喰らい、完全に制御を失っているように見えた。
あれは制御しようとしてできる物じゃない。
見た瞬間そう思った。
集落の火災と相まって、アイツの制御は失われたのだ。
今まで飼いならされた怒りか、キマイラは影人を食らいつくす。
もはや戦闘どころではない。
一方的な蹂躙劇が目の前で巻き起こっていた。
影人達はもうエルフ所ではない。
味方であったはずのキマイラに逆襲され、蜘蛛の子を散らすように逃げる。
エルフもそれを追撃しようとしない。
いや、できない。
あのキマイラの邪魔などできるはずもない。
圧倒的強者を前に、弱者は頭を垂れるしかない。
数十秒、キマイラが暴れ狂う。
森が燃える。焦げ臭いにおいがツンと鼻についた。
影人が残らず駆逐されていく。
食われ、千切られていった。
あんなにも容易く殺されるなんて。
そうして、キマイラの蹂躙が終われば、狙いは変わる。
キマイラがゆっくりこっちを向いた。
誰も動かない。
いや、動けない。
何かしてしまったら、この均衡が崩れてしまうかもしれない。
ありもしない妄想に取りつかれ、指一つすら動かす事が出来ない。
あわよくば、見逃してくれ。
そう思ってしまう。
山羊。
今まで黙っていた山羊の口が動いている。
終わった。
違う。始まった。
圧倒的だった。
格が違った。
俺はキマイラという種を過小評価していた。
今まで何とか倒せていたから調子に乗っていた。
いざとなれば、俺一人でもやってやるという気概があった。
それが根元から折られた。
駄目だ。
歯がガチガチとかみ合う。
ビビってる。
あり得ない。
なんだあの雷魔法は。
一瞬で何人死んだ?
右翼が完全に壊滅していた。
消し炭すらない。
もう圧倒的な攻撃力に吹き飛ばされ、跡形もなくなっている。
遺体はある。
遥か彼方に。
轟雷の余波である音に耳を押さえていると、山羊がさらに口を動かしていた。
死ぬ。死んでしまう。
照準はここだった。
中央。
最高責任者も居る。
それがどうした。
「跳べ!!」
思いっきり地面を蹴った。
左右にエルフが居て上しか回避方法がなかった。
アイカは跳ぶ。ルイちゃんは這って逃げ出す。イズモもシノノメの手を引いて、右に逃げ出した。
次の瞬間、雷魔法が瞬いた。
森が吹き飛ぶ。エルフも吹き飛ぶ。
最高責任者も駄目だ。
黒焦げになって死んだ。見なくても分かる。
それを守っていた奴らもダメだ。
もう駄目だ。
何もかも駄目だ。
右翼と中央を壊滅させた山羊は、次いで左翼を撃滅させた。
またしても雷魔法。
エルフ500人が数秒で死んだ。
空中に逃げ出した俺は、重力に引かれるまま着地した。
アイカも大丈夫だ。ルイちゃんも。イズモとシノノメも無事。
他はたった数名、エルフが生き残っているだけだ。
キマイラがこっちを見た。
見逃す気はないようだ。
キマイラが筋肉を膨張させている。
体表に筋肉が浮き出ている。血管が浮き彫りになり、最高の速さで駆けてくることが一目瞭然の状態だった。
――来る!
「光の加護!!」
魔法をかけた瞬間には、既に目の前だった。
キマイラが左前脚を振った。もはや避けれる速度じゃない。
エストックで迎撃。
片手での防御。
「ぐぉらあああああ!!」
押し潰されそうになりながらも、跳ね返した。
それがどうしたと言わんばかりに、キマイラは右前脚で俺を押し潰そうとする。
地面を転がる。地面をへこませる音が耳に痛い。
起き上がる寸前に蛇が来る。
くそ。こいつらの連携は……!
噛みつかれる瞬間に、蛇が引いた。
なんだ!? と思ったが援護だ。
「ここここ、こっちだ……!」
泣きそうな顔になりながら、イズモが鏃合わせして、攻撃態勢を整えている。
矢を放つ。キマイラは余裕綽々で避ける。
キマイラは俺を無視して、イズモに突貫する。
「グラアッァァァア!!」
「ひぇ……!」
腰を抜かしてイズモが地面に倒れた。
あのバカ……!!
シノノメが前に出る。
お前もダメだろ!!
殺される。
いや、行ける。
頼りにしてるぜ。
「ルイちゃん!!」
「応!!」
男らしい声を出して、イズモとシノノメの前にルイちゃんが立った。
片手槌を両手で持って、大きく振りかぶる。
キマイラは構わず突撃して、口を開けた。
「ぬぇえぇぇええい!!」
早い。
スイングが霞むほどの速度で、片手槌を振り廻した。
キマイラは片手槌が当たる前に急停止した。
ルイちゃんの振り廻しが空振りに終わり、体が泳ぐ。
「しまっ……!」
ルイちゃんが失敗に終わった攻撃に後悔する間もなく、キマイラが口を開いた。
食う気だ。
ルイちゃんは流れに逆らわず、そのまま地面に倒れ込んだ。
ガチンとキマイラが口を閉じた。何も食っていない事に若干の疑問を孕んでいる様子だ。
キマイラが目の前に居るシノノメに狙いを定めた。
まだ俺はいけない。
頼んだ。
「一本突き!!」
どこからかアイカが現れた。
「ギャアアアァァア!!」
アイカの一本突きが胴体に刺さった。
今回は根元まで刺さっている。
蛇が飛んでくる。
「鏃合わせ!!」
座り込んだ状態からイズモが矢を放つ。
アイカに反撃を喰らわせたいキマイラだが、鏃合わせを無視できない。
獅子の脳天を狙った鏃合わせは、虚空を切り裂くに終わった。
だが、アイカはその隙に下がり、俺はキマイラに近づく。
跳びあがり山羊を狙う。
「兜割り!!」
剣術レベル5の兜割りが、山羊の頭部に襲い掛かった。
山羊はこっちを見つめたまま何もしない。
何もしなくても大丈夫ってか……!?
そのままエストックを振り下ろした。
頭蓋を砕く勢いを保持たまま、山羊の頭を狙う。
しかしエストックは止まる。
「シュララララ」
舌をチロチロと動かしながら、蛇がエストックに噛みついていた。
兜割りが途中で終わった。
しかも離さない。
「やばっ」
山羊が何かを唱える。
死ぬ死ぬ死ぬ。
武器を手放すか!?
だが、そのあとどうする!?
迷う間に山羊の詠唱が終わりに近づいて行った。
魔法だ。
魔法で離脱する。
火槍を叩きこもうとした時、横っ腹に衝撃が走った。
いってぇ!
なんだ!?
シノノメが鞭を俺に当てていた。
なにやってんだ、あいつ……!?
間違えたのか……!?
いや、違う。
狙いが違う。
体の内側から、力が溢れ出す。
等価強化された。
今の一撃だと強化は一瞬だろう。
右腕に握るエストックを全力で振った。
蛇が口からエストックを放した。
力負けして、蛇の口が傷ついた。軽い傷だ。
それでもいい。
支えを失った俺は落下する。
その頭上を雷魔法が通過した。
着地ざまに構える。
「一本突き!!」
飛び上がるように突きを入れる。
キマイラが下がる。避けられた。
追いつけない。
「火槍!」
俺が直接行く代わりに、火槍を先行させる。
エストックの補助を受け、威力が増大されて巨大化した火槍がキマイラに襲い掛かった。
それでもキマイラには山羊がいる。
山羊の口が動き、雷魔法が炸裂した。
火槍にぶつかり、完全に威力を上回り、俺に雷魔法が襲い掛かる。
負けた。
威力負けした。
それも予想していた事だ。気落ちするな。
雷魔法を避け、さらに近づく。
微かに残る爆炎の中を駆け抜ける。
温度が上がった空気が肌に張り付く。
キマイラに肉薄し、エストックを息つく間もなく振り回す。
「……ッ! ラァ! ラアアアア!!」
突いて突いて突きまくる。
エストックの十八番。
鎧通しに近い形をしたこの武器だからこそできる連続攻撃。
剣術レベル3、乱れ突きを連発して攻撃を繰り返す。
それでも当たらない。
むしろ反撃される。
「ぐっ……!」
乱れ突きをすべて回避され、挙句反撃を喰らう。
ギリギリで防御をして、なんとか傷を負う事だけは回避した。
アイカとルイちゃんがキマイラを挟撃した。
裂帛の気合で二人は息を合わせて攻撃した。
しかしそれも空を切る。
跳び上がった。
キマイラが地面を蹴り、空中に躍り出た。
全員見上げる。
山羊が魔法を唱える。
狙いはアイカとルイちゃん。
「二人とも避けろ!!」
跳び上がった状態からキマイラが雷魔法を使う。
文字通り落雷が降り注ぐ。
地面がめくれ上がり、劇的な破壊を生み出した。
破壊は空気を押し出し、烈風となって辺りに吹きすさぶ。
「ぐぁぁ……!!」
あれだけ離れた状態でも、これだけの余波を受ける。
爆心地に居たアイカとルイちゃんは――!?
「あっぶな……!」
「死ぬとこだったわ……!」
無事だ。何とか生きている。
キマイラが悠々と着地を決めた。
ここだ!!
イズモを見る。
イズモも狙っていた。
「鏃合わせ!!」
大弓の一撃がキマイラの左前脚に直撃した。
深々と突き刺さっている。
「ギャッ!」
獅子が痛みに呻いた。
やった。いいぞ。少しずつだ。
「やってやる……!」
獅子が前足を振って矢を抜こうとしている。
その間に近づく。
俺、アイカ、ルイちゃんが速攻を仕掛ける。
三人でキマイラを囲んだ。
俺が獅子の正面を受け持つ。
二人は側面を取っている。
キマイラがうろうろと俺たちを見渡した。
どうするか迷っているように見える。
そうして膠着して、数秒。
俺から仕掛けた。
「火槍!!」
アイカとルイちゃんが走り出す。
いいぞ。
行け。
しかし俺たちの狙いは外れる。
キマイラは俺に突っ込んできた。
火槍を最小限の動きで回避を決めて見せると、体一つで突撃した。
エストックを盾に片手で、キマイラの攻撃を受け止める。
キマイラの鼻っ面にエストックの刃が食い込む。
それでもキマイラは止まらない。
片手しかない俺は、全身の筋肉を躍動させてキマイラの突撃を一身に受けた。
力負け、しない!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
エストックでさながら鍔迫り合いをしている。
力が均衡する。
キマイラが吠える。
唾液が顔にかかる。
それでも力を緩めない。ビビらない。
やれてる。自信を持て。
エストックを打ち上げた。
獅子の鼻っ面が切り裂かれた。
「ギャン!」
キマイラは悲鳴を上げる。
それでも傷は浅い。
無い左腕を引き絞る。
右足を踏みしめ、左ストレート。
狙いは目。
まっすぐ腕が伸びる。
肘からちょっとしかない腕が、キマイラの右目に突き刺さった。
ぐちょっとした生暖かい液体が、俺の左腕にまとわりついた。
「ギャアアアアアアァァァァァン……!!」
キマイラが暴れまわる。
腕が引き抜けない。
「うおっ!?」
キマイラに引っ張られて、俺も上下左右に体が動きまわされる。
だが、チャンス。
引き抜けないならないなりに、やる事はある。
エストックを獅子の体に突き刺す。
かなり深い所まで入った。
獅子が絶叫を上げ、今まで以上の力で俺を振りほどいた。
地面に投げ出され、キマイラが俺に突撃する。
速ッ!
グシャという音が俺の頭の中で響いた。
キマイラは俺を撥ね飛ばし、転回してまたしても轢こうとしている。
パァンという音が鳴り響いた。
横目で見る。
シノノメの等価強化が、イズモを傷つけていた。
「鏃合わせ!!」
大弓から矢が放たれる。
また獅子に左前脚に突き刺さった。
キマイラは痛みに呻き、進行方向が定まらず、俺から逸れた。
そのまま倒れ込み、頭から木にぶつかる。
すぐに立とうとするが、足の怪我がひどいらしい。
数秒経ってようやく立っている頃には、アイカとルイちゃんがキマイラに飛びついて、一撃加えていた。
アイカが短剣で突き刺し、ルイちゃんが片手槌で胴体を殴る。
二人の形相を見れば、茶化す奴なんていない。
どれだけ卑怯でも、やっていることは変わらない。
二人は一撃加えるとすぐに離れた。
蛇を警戒しての行動だ。
そして来ていた。
蛇が毒霧を吐いて、アイカたちを遠ざけた。
逃がすかよ。
「火槍!!」
何本も展開して、火槍を霧の中に打ち込んだ。
これで死ぬかと思ったが、そうはならない。
すぐに霧の中からキマイラは這いだし、左前脚を庇いながら走り出した。
立体機動を行い、狙いを絞らせていない。
そしてあるところで止まり、雷魔法を撃つ。
全員その場から離れ、何とか避ける。
またキマイラが走り出し、雷魔法。
俺たちはギリギリで避ける。
またキマイラが走り出す。
止まり、雷魔法。
絶対回避。
雷魔法一辺倒だ。
近づけないし、油断もできない。
雷魔法一発で死んでしまう可能性の方が高い。
全力で山羊の口の動きを見て、見切る必要がある。
イズモが移動中のキマイラに鏃合わせをした。
しかし当たらない。
足をけがしても、キマイラの動きは止まらない。
だが、おかしい所がある。
あのキマイラは絶対、立ち止まってから魔法を使っている。
おかしくもない。
そっちの方が当てやすい事が分かっているのだ。
なるほど。
そこだな。
キマイラが高速移動している最中に、アイカを呼び寄せた。
「隙を作る。どうにかして一撃加えろ」
アイカは何故? とも何とも聞かず、ただ頷いた。
「イズモは援護しろ」
「了解」
「今のうち等価強化しておけ」
「いくわよ、イズモ」
シノノメが鞭を振るう。
等価強化を行う。
それを見たキマイラが止まった。
「来るぞ、いいな!?」
ルイちゃんがその場から離れる。
俺も離れた。
全員自分のいた場所を放棄し、雷魔法が直撃する事を避ける。
雷光が辺りを照らした。
この瞬間、キマイラは完全に立ち止まり、気を抜く瞬間でもある。
攻撃は最大の防御。
油断しているに違いない。
こっちは散々避ける事しかできなかった。
いまなら反撃すれば、当たる可能性はある。
「鏃合わせ!」
イズモが矢を射る。
キマイラが硬直した。
矢が手前で落ちて地面に刺さった。
キマイラが嘲笑する。
キマイラが前を向いた。
「閃光!!」
光魔法の閃光が辺りを照らす。
俺たちは目を瞑り、キマイラは目を焼かれる。
前足を上げて目を抑えるキマイラ。
その状態でどうやって移動する?
できないよな?
アイカ。
来た。
やればできる子だと思ってたぜ。
狙いは蛇だ。
後ろから蛇に絡みついて、口を二度と開かせないように短剣で貫いた。
上顎と下顎を貫かれ、蛇は悶絶した。
すぐにアイカが離れた。
尻尾の役割をしていた蛇が、地面にぶつかりながら悶絶する。
キマイラがアイカの方を向いた。
いまあいつに武器はない。
それでも。
「どらぁぁぁ!!」
ルイちゃんが跳びあがって、蛇の頭を叩いた。
大蛇のように大きい蛇だったが、完全に沈黙した。
蛇が死んだ。
グダッとしている。
少しも動かない。
脳がどうにかなったか!?
「やった!」
シノノメが叫んだ。
イズモが矢を放つ。
また左前脚。
キマイラが膝を折る。
アイカが蛇に刺さった短剣を回収した。
すぐに離れる。
山羊が雷魔法をアイカに向けて撃った。
アイカは余波で吹き飛ばされる。
ルイちゃんがキマイラの胴体をぶん殴る。
キマイラが数メートル後ずさった。
俺も行く。
蛇が死んだ今、ここ以外にチャンスはない。
キマイラが立ち上がろうとする。
だが左前脚に突き刺さる矢が、それを阻害した。
立とうにも痛くて立てないようだ。
真正面を避け、側面から攻撃する。
だが、あっちには固定砲台がある。
山羊がこっちを向いた。
雷魔法が降り注ぎ、近づく事が出来ない。
むしろ避けるだけで精一杯だ。
俺だけに雷魔法が集中する。
その隙をついて、ルイちゃんが近づく。
だが山羊は目ざとくルイちゃんにも反応した。
ルイちゃんは横っ飛びして、その場から離れた。
一瞬前までいた場所に、雷魔法が降った。
下がって魔法を撃つ。
だが、これも迎撃され無駄撃ちに終わった。
等価強化の最中のイズモとシノノメが目に入った。
「イズモ、タイミング良く撃て!」
俺はイズモから離れる。
できるだけキマイラから見て、俺とイズモに角度があるように調節した。
火槍を展開して、撃ちだした。
山羊はそれを雷魔法で撃ち落とし、尚且つ俺を攻撃してくる。
それにももう慣れた。
避ける事はできる。
だが近づけない。
「火槍!!」
俺に注目を集める。
またキマイラは俺に雷魔法を撃つ。
それに合わせて、イズモが矢を放った。
「ゴッ……!?」
立ち上がる事に四苦八苦する獅子は矢に気付けず、山羊は俺に注目している。
イズモの矢は完全無警戒で、山羊の喉に突き刺さった。
そして、アイカが山羊の頭に飛びついた。
山羊はアイカを振りほどこうと必死だ。
その最中でも、イズモは矢を撃つ。
山羊の体に命中した。
アイカがさらにキマイラの喉を掻っ切った。
ブシャーと血が溢れ出した。
「……ッ!!」
山羊が声を上げたいのに、あげられない。
アイカが山羊から飛び離れた。
「矢がありません」
イズモが報告してきた。
当のイズモはナイフを抜いている。
「今がチャンスよ!」
「待て!!」
先走ろうとするルイちゃんを止めた。
山羊はもうそろそろ死ぬ。
後は獅子だけ。
その獅子も立ち上がった。
涎を垂らし、血走った目でこっちを見る。
手負いの獣ほど恐ろしい物はない。
山羊が死ねば、あいつの行動は限りなく選択肢が狭まる。
半身が死んで、動ける奴なんていない。
山羊は喉を貫かれているにもかかわらず、しぶとく生きている。
あっさり死ぬときは死ぬのに、しぶとい時は本当にしぶとい。
まだ山羊は死なない。
その前提で戦った方が良い。
それに後半身が動き始めた。
力強い動きだ。
なんていう耐久性だ。
三回殺さないと死なない、というのも伊達ではない。
キマイラがまっすぐイズモに向かって走りだした。
イズモはもう矢がない。
それでもイズモを狙うのは、それだけ脅威に感じ取っているという事か?
だが、やらせるはずもない。
俺は横合いから妨害した。
「縮地突き!」
駆けるキマイラの胴体にエストックが突き刺さる。
勢いを殺さず、そのままイズモに突撃しようとするキマイラを押しまくる。
エストックはそれだけ深く刺さり、キマイラは呻く。
さっさと引き抜いて、キマイラから離れる。
山羊が喉が潰れながらも、魔法を使ってきた。
口が動いていない。見誤った。誘い込まれた。
この距離では。
避けられ――!
雷魔法が放たれ、俺の全身を打った。
「がぁは……」
慎重論を唱えたにもかかわらず、この様だ。
だが、生きてる。
「ヒ、癒光……」
このままでは死んでしまうと思い、回復魔法を即座に使った。
全身が治療されていく。
その間に獅子の右前脚が、横っ腹に炸裂した。
エストックを盾にする事も出来ず、地面を転がる。
それでも治す。
是が非でも治す。
大丈夫だ。
骨も折れていない。
重戦士になってさらに体が強くなったように感じる。
聖職者や魔法使いも魅力的だったが、今この瞬間の事を考えると、重戦士を選んで正解だった。
何とか立ち上がり、エストックを構える。
それに俺が無事だったのは、キマイラが全快ではないからだ。
全身に刺傷はあるし、矢も刺さっている。
その状態で本気が出せるわけがない。
キマイラも生物だ。
痛ければ力は出しにくいし、死に向かっていく。
着実に倒しつつある。いや、殺しつつある。
キマイラがハァハァと息が荒くなる。
ガクッと膝を折り、体に土を付けた。
山羊がもう間もなく死ぬ。
それでも手は休めない。
「ユウちゃん!」
「まだだ!!」
ルイちゃんが止めを刺すべきだと主張するが、それを否定で返す。
今は確かにチャンスだ。
だが、山羊が生きている以上、どんな反撃があるか分からない。
光魔法を使わない事を疑問視していたが、ことここに至って、あいつは光魔法が使えないのだと確信した。
今のチャンスを逃してでも、安全性を優先する。
俺が以外の誰かが雷魔法を喰らえば、命は無い。
そう思うと、身がすくむ。
次のチャンスをものにするため、今のチャンスを捨てる。
キマイラの連携がずれ始め、立ち上がる事もままならなくなりつつある。
これなら当たる。
「火槍!!」
魔法力をすべてつぎ込み、最後の魔法を使った。
獅子が目を開き、山羊の顔が絶望に彩られた。
山羊の顔面に火槍が直撃した。
キマイラの後半身が完全に脱力した。
山羊が死んだ。
「今だ!!」
全員得物を持って、獅子に殺到する。
エストックを突き込む。
アイカが短剣を埋め込んだ。
ルイちゃんが片手槌で頭を殴った。
イズモがナイフで獅子の体を何度も刺した。
シノノメも狂ったようにナイフを振り下ろす。
何度も何度も。
ちょっと怖い。
全員憑りつかれた様に武器を振るう。
死に目に会った。
怖かった。
こいつが最強だった。
でも俺たちは勝つ。
何度も何度もキマイラと戦った。
経験が蓄積されていた。
ノウハウがあった。
今までのすべての戦いに感謝し、今を生きる。
「兜割り!!」
獅子の頭に最後の一撃を。
アイカも一本突きを見舞う。
誰もかれもが、攻撃の手をやめない。
獅子が動かなくなっても、それはしばらく続いた。
感想くれ




