62 覚悟
今日は二話投稿
こっちが二話目
「防衛上、複数入口を作るとそれだけ人を割かざるを得ないので、里に入れる入口はあのゴンドラだけです」
イズモが走りながら説明してくれた。
途中見かける影人を葬る。
一本突きで胸を貫くと、影人は力が抜けて、地面に倒れた。
入口は南だ。
日当たりを考えたらしい。
マジでどうでもいい情報だ。
悪い情報もある。
「キマイラを倒せるほどのエルフは、里の外に出ています。衛士もあまり期待できませんねぇ。僕の方が強いかな」
「調子乗んなボケ」
周りのエルフは影人相手に善戦している。
ゴンドラ関係なしにこの里に乗り込んできている影人の数は、かなり多い。
黒い体に夜という条件下。
それでも戦えているのは、エルフたちが弓を主体に戦っていることがあげられる。
接近戦をしたら影人が勝つ。だが、遠距離戦ならエルフが勝つという図式になっている。
それでもあるエルフは、影人の数の暴力に負けて、命を落とす。
それらを無視してでも、キマイラを止めなくてはならない。
キマイラの危険性は身をもって知った。
あいつが大暴れすれば、今以上の甚大な被害が出てしまう。
俺たちの肩にはエルフ三千の命が乗っていると言っても過言ではない。
「あそこですね」
暗くてよく見えないが、アイカには見えているようだ。
うらやましい限りである。
こいつに関しては、昼夜問わずパフォーマンスが落ちない。
視力が良いというか、すでに構造が違うな。
目の作りが違うなら、視力をうらやましがる必要もない。
あぁ、いいな。
なんて思っている暇もなかった。
ビカッと何か光った。
それを見た瞬間、全員が横っ飛びした。
「うおおぉおお!! 危ねぇえ!!」
雷魔法が俺の真横を通過していった。
状況は最悪に近かった。
ゴンドラを守っていた複数の衛士は、影人に撲殺されていた。
その影人達は、ゴンドラを操作して、今もキマイラを搬入している。
そして、来た。
三体目。
「三匹……!?」
影人がギャーギャー騒ぎ始めた。
俺を指さしている。
「俺!?」
三匹のキマイラが俺に突進してきた。
「俺から離れろ!!」
言葉に従い、全員散った。
それでいい。というより、それしかできない。
俺はどうすれば良い。
「火炎壁!!」
防御魔法のファイヤウォールで、進行経路を塞いだ。
これもでかい。
魔法の威力が上がっている。
だが、一体もファイヤウォールに突っ込みはしない。
三体とも迂回して、火炎壁を回避した。
それでいい。
迂回する場合、二匹と一匹に分かれる可能性が高い。
左右に分かれたキマイラの一体を狙う。
エストックを構える。
杖代わりのこのエストックの先端から、火槍を装填した。
切っ先に槍が一本空中に浮かぶ。
これも破壊力が、何も持っていない時より強い。
「グラァアアアア!!」
3匹が姿を現した。
右が一体!
死ね!!
右側一体のキマイラに火槍が襲い掛かった。
火の壁から視界を塞がれたキマイラにとって、突然の奇襲。
避けきれるはずはなかった。
かつて見たルインの爆発する魔法に負けず劣らずの威力を発揮した。
獅子の顔面に火槍は直撃し、爆発炎上。
獅子の顎が吹き飛び、巨体は横転した。
「よし……!」
期待以上の威力にガッツポーズする。
前だったら何事もなく起き上がっていた火槍だ。
今は顎を半壊させ、横転させるまでの威力に上昇している。
だが、余裕はない。
見られた。
「オッゲガラッバストラ!!」
影人の真っ黒な顔面の口元が真横に開かれた。
大声で指示を出している。
火炎壁の左側から現れたキマイラの動きが変わる。
大回りして二手に分かれた。
しかもかなり複雑に移動を繰り返す。
ジグザグはもちろんとして、屋根の上に飛び移ったり、体を低くしたり。
これでは魔法の照準が難しい。
「火弾!」
速度で勝る火弾で撃破を狙うが、それでも当たらない。
さっきのは無警戒からきたラッキーパンチという事か。
山羊の口が動いた。
雷魔法。
キマイラが屋根の上で止まった。
「火槍!!」
火槍と山羊の雷魔法が激突した。
爆炎と雷光がひしめき合う。
結果は相打ち。
相殺された――!
いや、落ち着け。
いい結果だ。
雷魔法は打ち消せる。
これが分かっただけでも、リスクを取って攻撃した甲斐があった。
そしてもう一体のキマイラがこっちに来た。
もう火魔法を撃つと、爆炎で俺も炎熱ダメージを喰らう距離だ。
獅子が大口を開け、俺に噛みつこうとした。
地面を蹴ってぎりぎりで右側に避ける。
キマイラはすぐに反転、しない。
蛇だ。
独立した蛇が、単独俺に食いかかる。
「くそっ!」
避けきれない。
もっと離れなければならないのか。
左腕を差し出す。
こっちなら噛まれても問題はない。
すぐに解毒してやる。
だが、俺の仲間たちはそう思っていなかった。
ルイちゃん。
棍棒で思いっきり蛇の頭を叩いた。
「キシャアアァアア!!」
頭を叩かれ蛇は、暴れ狂う。
「ごへっ」
蛇の胴体に胸を打たれ、ルイちゃんが地面を転げまわった。
よそ見はできない。
目線を切り替えてよかった。
山羊がルイちゃんを凝視している。
ルイちゃんの元まで駆け寄り、欠けた左腕でルイちゃんを抱えた。
「ぬぅおらああああ!!」
刹那、雷光が辺りを包み込む。
一瞬だけ真昼のように明るくなり、戦場が照らされた。
それもすぐに終わり、ルイちゃんを解放する。
「悪いわね」
「こっちこそ」
短いやり取りで意思疎通して、指示を出す。
「四人であっちのキマイラを受け持て!! 倒さなくていい! 時間稼ぎに集中しろ!」
顎を打ち砕いたキマイラが起き上がろうとしていた。
「火槍!!」
あらん限りの魔法力で一体のキマイラを粉砕した。
複数本の火槍が殺到する。
キマイラの周囲が無くなり、キマイラはそのまま穴から落下していった。
「ギャアラァァァッァァァァァァァァァァァァァ………………」
穴から落ちて行ったキマイラの悲痛な叫び声がこだまする。
影人達が慄く。
里から逃げる奴もいた。
いいぞ。行ける。
それでも残る影人は居たし、どこかに消える奴もいる。
だがかなり戦意を削いだ。
俺に突っかかるキマイラも一瞬止まっている。
「火槍!!」
特大サイズの火槍が戦場を駆け抜ける。
獅子の顔面に直撃する前に、何かに当たった。
いや、分かる。
一瞬凄い光が見えた。
雷魔法だ。
山羊が雷魔法で火槍を迎撃した。
あっちも相殺できる事は分かっている。
これを機に距離を詰める。
真正面からの突撃。
魔法同士の衝突で、爆煙が上がっている。
好機。
煙の中に入った。
何も見えない。
けどいる。
圧倒的存在感が、俺に自身の位置を知らせていた。
煙を抜けた。視界が広がる。
目の前にはアホ面晒したキマイラ。
獅子が瞠目する。
「一本突き!!」
鎖帷子をも貫くエストックの突き技と剣術のコンボ。
右手に握るエストックが迸る。
獅子は困惑と決死を含んだ声を出し、刺し違える一撃を。
右から前足が迫っている。
やばっ。
遠くから俺を呼ぶ声が聞こえる。
だが、遅い。
これは避けれない。
覚悟を決め、一本突きはキャンセルしない。
動作を継続して、獅子の顎下に深々とエストックを突きいれた。
同時に前足が俺の体を捉える。
爪が三本、体に食い込んだ。
それが分かるくらいには、感覚が鋭敏だった。
キマイラの圧倒的膂力で、その場から吹き飛ばされる。
分かっていれば問題はない。
絶対意識は手放さないという気合のもと、歯を食いしばり地面を転がる。
転がりながらも立ち上がり、魔法を使う。
「癒光」
ヒールの癒しで、全身の裂傷を直す。
獅子は驚愕に驚愕を重ね、その場から動けないでいた。
刺しぬいた首からは大量の血が溢れ出していた。
「なんだ、弱くなってないか? この前の奴はもっとはりがあったぞ」
エストックを振り払い、血振りする。
ビシャッと血が地面にたたきつけられ、彩られる。
キマイラの前足部分が、妙にふらつき始めた。
獅子の部分だ。
これではっきりした。
獅子の部分は獅子が動かし、ヤギの部分は山羊が動かす。
上半身下半身に関与しない蛇は、独立的に動いている。
三つの脳が一つの体を動かしているわけではない。
それぞれ役割分担してキマイラは動いているのだ。
そして上半身を動かす獅子が、大ダメージを受けたことで連携が取れなくなっている。
チャンスだ。
行くぞ、そう思った時。
山羊の口が動いた。
雷魔法かと身構えていた時、見慣れた光が見えた。
「光魔法……!?」
させない、と意気込み駆け抜ける。
蛇が邪魔してきた。
口から紫色の霧を吐いた。
毒だ。
下がる。息を止めて必死に後退した。
その間に後ろに居る4人を見た。
距離を取ってギリギリを保っているが、いつやられてもおかしくない。
さっさとけりをつけないと、全滅もあり得る。
あっちの奴らは全員どこかから血を流し、劣勢だ。
アイカですらキマイラに近づけていない。
これ以上はいい。
あとはあいつらがどうにかする。
一対一の俺の方がやばい。
「火槍!」
煙幕を張るなら好都合だ。
エストックから射出される火槍が煙幕の向こう側に消える。
それも察知されたかキマイラが毒霧から回り込んできた。
一直線にこっちにくる。
完全に切れている。
獅子がポイントかと思ったが、違うな。
「狙うは山羊……!!」
山羊の安全性は獅子と蛇に挟まれていることにある。
あいつが安全圏から魔法を行使する限り、俺に勝ち目はない。
真正面からの攻撃に、避ける。
回避を重ねる。
獅子の遠慮のない両前足と、ビッシリと歯が並んでいる咢に注意しながら、機会をうかがう。
エストックで受け流し、身を翻し避ける。
一歩下がり、大きく飛んだ。
「行くぞおらぁ!!」
屋根から飛び降りて、まっすぐ山羊に一本突きを狙う。
しかし簡単にはいかない。問屋さんは厳しい。
蛇め。
完全に独立して動きまくり、俺の動きを阻害する。
蛇の胴体に打ち負かされ、空中で弾き飛ばされた。
「いってぇ……!」
受け身を取ろうと思い、下を見る。
「速ッ!!」
さっきまでいた場所から回り込まれた。
落下地点にキマイラが大口あげて待機している。
もうもうもうもう!!
こんなのばっかだ。
ふーふー。覚悟決めろ。
くそあああああああ。
右足を獅子の口の中に突っ込んだ。
太ももから噛み千切られる。
千切れてはいない。
が、
「ああああああああああぁっぁああああ!!」
地獄のような危険信号が、全身を駆け巡る。
骨がおられた感触と、筋肉を食われる痛み。
筋繊維を一本一本すりつぶされ、痛覚がもうやめてくれと泣き叫ぶ。
もう無理。
こいつは殺す。
山羊を殺すとか言ってる場合じゃない。
獅子の頭にしがみ付く。
キマイラは俺の右足をかみ砕きながら、暴れまわった。
必死に食らいつく。
ここで離れたら絶対死ぬ。
キマイラが地面に頭をぶつける。俺も体を強打する。
建物に突撃し、半壊させ、俺は押しつぶされる。
それでも離れない。
離れたくても離れられない。
奴の牙が俺に食い込んでいて、離れるなんて到底無理だ。
目があった。
山羊。
まさか。
雷魔――。
雷鳴が轟いた。
目の前が明滅した。
黒と白。
繰り返す。
「……ぁ」
右手。エストック。握ってる。
死んでない。
逆手で握った。
「あぁ!!」
「グェア!!」
エストックで頭を刺す。
頭蓋が邪魔だ。
刺しきれない。
山羊が雷魔法を撃つ。
避ける事はしないし、できない。
雷に打たれる最中でも、剣を振り下す。
首に刺さった。
上下左右にぐりぐり動かす。
「死ねよぉおおお!!」
獅子が悲痛な声で叫ぶ。
蛇が俺に噛みついた。
何か送り込まれてくる。
無視だ。
山羊が光魔法を唱える。
無視だ。
「あぁっ!! 死ね!! 死ね!! 糞! 早く死ね!!」
光魔法の治療とエストックの攻撃が拮抗する。
「おえええぇええ!!」
喀血した。
毒か。つらい。
気管が詰まる。呼吸できない。
全身が脈動している。何かが蠢いているかのようだ。
それでも刺す。
獅子が回復と破壊を繰り返され、ぐったりと動かなくなってきた。
口をだらしなく開け、前足を折る。
地面に倒れた。俺もそれに逆らわず、倒れ込んだ。
山羊が回復をやめた。
死んだ。
獅子は死んだ。
首に刺さったエストックを引き抜いた。
逃げない。逃げれない。
牙は太ももに刺さったままだ。
山羊が口を動かす。
その前に、目を突いた。
「一本突き……」
力なく、柔らかい目に一本突きが入った。
眼孔から脳まで完全に食い込んだ。
山羊が死んだ。
蛇が再度俺に食らいつく。
噛まれる代わりに、エストックを刺した。
先端から火槍を炸裂させた。
蛇の胴体が焼き切れ、俺は爆発の余韻で吹き飛ばされた。
立ち上がれ。
無理だ。
血が。
「おえええっぇえぇ!! ……浄、化」
体内の毒素を無毒化する。
これだけでもやらないと。
キマイラを殺し、残るは後一体。
アイカが吹き飛ばされた。ルイちゃんは雷魔法の餌食になる。イズモは倒れて、血を吐いていた。
シノノメは懸命に戦っている。
視界が定まらない。
なんとしても。
使えない右足を無視して、左足で踏ん張った。
エストックで体を支える。
エストックを右足の代わりにして、走る。
戦うシノノメの隣を駆け抜けた。
「えっ……?」
間の抜けた声が聞こえた。
無事な左足で踏み込んだ。
「縮地突き!!」
加速して打ち出される体を、キマイラにぶつける。
エストックが刺さった。根元までぐっさりだ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そしてそのまま走り抜けた。
エルフの里は木の上にある。
止まる事が無ければ、空中に放り出されるだけだ。
これが意味するのは。
「おらぁ!!」
エルフの里から飛び降りる。
ふわっとした浮遊感が、俺の股間を襲った。
俺とキマイラが空中に躍り出た。
「うおおおおぉおおお……!!」
「ギュアアアァアアァァァ……!!」
死ぬ死ぬ。
エストックを引き抜いた。
刺傷から血が出る。
そんなの関係ないだろ。
キマイラを足場にして、左足で木の幹まで飛びついた。
反動でキマイラの落下速度が上がった。
「うらあああ!!」
エストックで木の幹を刺し貫いた。
柄を握り、そのままぶら下がる。
勝った。
ざまぁみろ。
そう思った。
下を見る。
ものすごい速度で蛇がこっちに来ていた。
「なっ!?」
俺の左脚に食らいついた。
「うがぁああ、いってぇええ!!」
毒が送り込まれる。
こいつ、道連れにする気か……!
右腕一本に俺の体重とキマイラの体重がかかる。
右足で蛇を蹴る。
「フシュウウウウウウウウ!!」
絶対に離さないという気合がうかがえた。
まずい。このままじゃ死ぬ。
どうすれば良いか考えていた時に、上からバサバサと音が聞こえた。
服がはためく独特の音だ。
上を見た。
シノノメ。
飛び降りてきた?
なんで。
「ハアアアアァッァ!!」
シノノメの手にはアイカが持っていた剣が握れらていた。
落下のスピードと自身の体重をすべてかけ、蛇の胴体を真っ二つにした。
キマイラが落下する。
シノノメが俺の脚に鞭を巻きつけた。
「重ッ!」
「お、重くありません!!」
反論するシノノメを無視して、鞭伝いにこっちに来いと言った。
その間に解毒しておく。
キマイラが地面に叩きつけられる音がした。
下から「オオオォォ……」みたいな、影人の声が聞こえた。
まだ居たのか。
シノノメが俺に食らいつく蛇の頭を取り除いた。
気味が悪かったからありがたい。
シノノメが俺にしがみ付く。
あぁ、重いな。
左腕でシノノメを挟み込む。
「わわ、わ……!」
シノノメの顔が赤くなる。
こんなのどうってことないだろう。
お前が飛んできた方の事の方が驚きだ。
「助かったよ」
シノノメが目をパチクリさせた。
驚いているようだ。
照れくさいな。
「いえ、なんてことありません」
「そうか」
「はい」
そろそろ右腕がつらい。
アイカがまだ意識があったはずだ。
「おぉ~い……」
これで来てくれるはずだ。
感想待ってるぜ!




