61 関係性
今日は二話投稿
こっちが一話目
エルフと影人の中は最悪に近い。
人類とゴキブリの関係だ。
見たら殺す。
発生源があるなら、元を絶やす。
外敵駆除。
理由なき殺戮。
命をつなぐためでも何でもない。
ただ単に殺す。
見たら殺す。居なくても殺す。
そんな関係だ。
俺は考察する。
影人側からすれば、俺は脅威に映っただろう。
影人の最終兵器であるキマイラを単独撃破した人間。
影人から見ればエルフに見えたかもしれない。
俺が影人の個体差が分からないように、あっちも人間とエルフの差が分からなかったかもしれない。
そうでなくても、俺という存在は二種族間のパワーバランス崩壊のきっかけになる可能性はあった。
キマイラの強さが圧倒的だという事は分かっている。
そのキマイラを飼い慣らす影人の知能も相当あるだろう。
その頭で考える。
あの人間は危険であると。
それでなくてもキマイラが殺されてしまった。
危険因子は早めに排除しておくに限る。
幸い、奴らには多大なダメージを与えておいた。
今が好機。
これを逃せば、次のチャンスは二度と訪れない可能性も否定しきれない。
つまり、俺という存在は影人にとって種の存続にかかわる重大な危険因子となりえるのである。
なりえるか?
知るかよ。
影人に聞かねーとよ。
真実はいつも一つ。
影人が攻めてきた。
これだけ。
アイカ情報だと周囲三百六十度全てに影人がいるらしい。
エルフが住むこの木まで素手で登っているのか……?
恐ろしい執念だ。
そうしていると、耳のいいエルフたちが騒ぎ始めた。
外がざわつき始める。
外は真っ暗。影人は真っ黒。
相性が良すぎる。
「篝火を焚け!!」
その一声で、エルフの里の全員が燃える物を燃やし始めた。
民家すら燃やしている奴もいる。あれは大丈夫なのだろうか?
家の窓から顔を引っ込めた。
シノノメと目があった。
「武器だ」
「分かりました」
伝わったようだ。
シノノメが急いで部屋から出て行った。
ちゃんとした奴を持ってくるに違いない。
俺たちもリビングに集まる。
シノノメの両親がかなり慌てていた。
戦うか、逃げるか迷っている。
逃げる?
「無理ですよ。包囲されてる」
アイカが現実を突きつけた。
耳が良い二人も分かっていたはずだ。
それでも逃げるという甘美な響きには勝てない。
落胆したような顔をして、シノノメが来るのを待つ。
イズモも戦闘用の鎧を着て、こっちに来た。
両親に弓と矢を渡している。
お二人はそれで戦うようだ。
するとガッチャガッチャ言わせながら、シノノメが走ってきた。
「ま、待たせたわね!」
威厳たっぷりとはいかないが、それなりに高圧的に喋った。
手には一本の武器。
「エストックか」
両手持ちの刺突剣だ。
俺は片腕しかないが使えるか。
シノノメからエストックを受け取ってみる。
「! 軽いな」
「ミスリルよ。軽くて当然。強度も十分。鋼にも劣らない強度よ! 有難く使いなさい」
斬れはしないだろうが、突き専用に使える。
剣術の撫で斬りは封印に近いな。できなくもないが、折角のエストックを消耗したくない。
でも、使わざるを得ないなら撫で斬りも使う。
できる事は全てする方向で行こう。
「アイカとルイちゃんはこの前の武器で行ってくれ。主に俺が狩る」
二人とも頷か、ない。
「左腕が無い人が調子のらないでくださいよ」
「休んでてもいいのよ?」
調子のいい奴らだ。
まぁいい。やる気がある事はいいことだ。
そのまま外に出た。
かなり近くまで来ている。
乱雑な足音がすぐそこまで聞こえていた。
それが周囲三百六十度から聞こえてくる。
全員俺を見てくる。
俺がリーダーかよ。面倒だな。
「アイカは自由にやれ。ルイちゃんはイズモとシノノメの護衛だ。イズモとシノノメはこの前と同じように、等価強化しろ」
ルイちゃんから反対の声が出たが、そこは無視だ。
が、ここで不満をため込まれて勝手な行動をされても困る。
「ならルイちゃんは俺と反対方向で狩りまくれ。アイカはルイちゃんと組め。イズモとシノノメの護衛を忘れるな」
「分かりました」
「分かったわ」
エストックを抜く。
剣帯はあるので、鞘は腰に差しっぱだ。
銀白色の美しい刃だ。
柄の装飾も凝っている。花と水を彷彿させるような装飾だ。
暗闇からさらに黒い人間大の影人が姿を現した。
闇より黒い。
それが続々と現れていた。
その辺の家からもたくさんエルフが出てきた。
戦争だ。
負けた方は駆逐される。
影人はそれだけの意気込みできているはずだ。
そうでなければ、今日までエルフの里があった事に説明がつかない。
何か切っ掛けがあって、今日攻める事にしたはずだ。
「光の加護! ――散れ!!」
アイカとルイちゃんが俺と反対方向に駆ける。
来た来た来た。
影人。特徴は武器を持たない。徒手空拳で戦う。
その徒手空拳もなかなかにレベルが高い。
要注意。
以上。
攻略方法は、遠距離攻撃。
「火槍!」
いつもとは違う。
何かが違う。
手元からの補助が。
何ていうのか、いつもだったらその辺に出す火槍がエストックの先端から出た。
どういう事か分からないが、兎に角撃った。
闇夜を駆け抜ける一本の火槍。
輝かしい光を出しながら、地面に着弾した。
着弾箇所は破裂し、粉じんを巻き上げ、穴が開いた。
いつもとは違う威力だ。
アホみたいに違う。
これは――!?
「……チッ」
威力が高すぎて火槍は使えない。
もしも穴から落ちたら命はない。
地面に穴が開いては、木の上にあるこの里では致命的なものになってしまう。
火魔法は封印か。
剣術でやりきる。
後ろでは等価強化に勤しむイズモとシノノメがいる。
そのさらに後ろで影人を倒すアイカとルイちゃん。
それでもじりじり追い込まれている。
俺も前から来る数体の影人の相手をする。
――駄目だ。
撫で斬りを始点にしないと、突きまで移行がしにくい。
エストックでも横なぎの攻撃で、影人を攻撃しなくては……!
連携して飛びかかる影人に撫で斬りを叩きこんだ。
斬れている。闇夜に溶け込んで、黒い血があふれ出した。
良い剣だ。
アブソリュートの剣に劣らない。
いや、さっきの魔法の威力の高さもこの剣によるものだろう。
杖の代わりになっているんだ。
魔法攻撃力は杖の性能に依存するらしい。
今まで杖なしで魔法を使っていた俺は、最低限の攻撃力しか出していなかったのだ。
あれが本来の火槍の威力。
ならば、火槍ではなく火球や火弾なら建物や床板を破壊せず、効率的に影人を排除できる。
「火球!」
一番の低威力の火球でも、一撃で影人を葬っている。
これはいい。
このエストックの潜在能力をもっと引き出せば、影人に囲まれようが何されようが行ける。
問題は――。
「おっと……!」
剣を振った後よろめいて、影人の正拳突きをモロに貰う所だった。
こいつら。
連携がうますぎる。
常に複数の影人が俺を囲み続け、殴る、蹴る。
それに加え。
「くそ、重心が……!」
左腕が無くなって、バランスがとり辛い。
剣を横に振ると、体が流れる。
いつもだったら、左腕で調節するところだったが、その左腕が無い。
左半身の一部が無くなったせいで、全力が出しにくい。
隙を突かれる。
ボディーに一発。しかも鳩尾。
「ごぇ……!」
もう一体が足を振り上げている。
左。
左腕でガード。
しようとした。
「しまっ――!」
無いんだった。
こんな凡ミスを。
踵落しがこめかみに炸裂した。
視界がぶれる。つーか、めっちゃいてぇ。
脳みそがシェイクされた気分だ。
血が流れ出す。
まだ来るか。
影人三体による完璧なコンビネーション。
エストックの防御を恐れず、拳に脚に、全力の攻撃を放ってくる。
エストックで軽く傷つけても、影人はひるまない。
この前の奴らより強い?
いや、見づらいんだ。
今は夜。
月明かりと篝火しかない状態だ。
影人の体が風景に溶け込んで、攻撃の出だしが読めない。
それで一歩遅れる。
結果攻撃を防ぎきれなくなる。
影人の評価を変えなくてはならない。
強い。
数と戦闘する時間によって、ここまで変わるものか。
一旦大きく下がって、体を沈めた。
右足にすべての力を集め、解放した。
「縮地突きぃ!!」
三体の内、真ん中に佇んでいた影人に狙いを定めた。
心臓部分にエストックが深々と埋まった。
突き刺した瞬間には、エストックを引き抜いた。
刺された影人の胸から血が噴き出す。
血を浴びながらその場で一回転した。
「撫で斬り!!」
鈍い手ごたえが二連続で伝わってきた。
影人の腹を真横に切り裂く。
影人が倒れる。
次の影人が続々と来る。
手間取るな。
作業のように処理するんだ。
構えたときに、後ろから矢が飛んできた。
「ぐひひひひ、今は無敵だぜえええ!!」
トリップしたイズモの矢がどんどん影人を打ち倒す。
分が悪いと見たが、後続の影人が俺たちから離れていく。
どうしたらいい。追いかけるべきか。違うのか。
待て。
後ろがある。
アイカとルイちゃんは――!?
「あ、どっか行っちゃった」
アイカが気の抜けた声を出して、後ろの戦闘も終わった。
イズモとシノノメがいる場所に再集結した。
「どこに行けばいい?」
俺の一言で、全員考え始めた。
「助けに行けばいいんじゃないんですか?」
「だから、誰を助けに行くんだよ」
「えっと、ご近所さん?」
「シノノメ」
「くだらない事言ってんじゃねぇ!!」
シノノメがイズモの下あごを殴った。
イズモがぐらりと傾いた。
そこまでやらなくても良いだろ。
「あふぅ……ご褒美です」
「そいつは無視だ」
気を取り直して話し合う。
「こういうのは、影人の気持ちになるんだよ」
「流石ユウ――オホン。貧民でも使い物になる時があるのね」
もうその演技要らないと思うんだけど。
アイカもルイちゃんもニヤニヤしているだけだ。
「な、なによ」
「何でもないです」
アイカが口元を隠しながら答えた。
「アイカも茶化すな。ルイちゃんも真剣にな」
「ご、ごめんなさいね。もう収まるわ」
ルイちゃんが咳払いして、笑いを収めた。
「影人の目的は?」
「エルフを殺す?」
アイカが即答した。疑問形だが。
「どうやって?」
「え、普通に、こう。殴って?」
「殴るだけじゃ、時間がかかりすぎるな」
武器を持たないのが、影人の特徴だ。
エルフの武器を奪う可能性も無くはないが、少数派に近いだろう。
「キ、キマイラですね」
「そうなるな」
地面に倒れるイズモが何とか立ち上がりながら答えた。
「ゴンドラはいくつある?」
「あなたが使ったあれひとつよ」
これで決まりだ。
「そこまで行くぞ」
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