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54 イズモとシノノメその②

 なんだ、あの変態どもは。


 公的空間で思う存分プレイしてやがる。


 まだ青姦だったら、「キャー、なんて破廉恥なことしてるの!」なんて茶目っ気のあることが言えたかもしれない。


 それがどうだ。


 男は鞭で打たれ、快感で失神している。

 女は鞭を思う存分振り廻し、男を嫐ることを生きがいにしているようにすら感じた。


「やっべーよ、あれ。ここは、撤退――」

「だれ!?」


 女が振り向いた。

 いまのひそひそ声が聞こえたのか。マジかよ。耳良いな。

 あのデカい耳は伊達ではないという事か?


 ここで不審な行動をとっても、あまり利益はなさそうだ。


 3人で顔を突き合わせて、頷く。


 茂みの陰から立ち上がって、姿を見せた。


 女は俺たちを見て、滅茶苦茶嫌そうな顔と不審そうな顔をした。


「何? 何でこんなところにあなた達のような劣等民族がいるのかしら? 何で生きてるの? 死なないの? ていうか死ねよ。迅速に死ね。今すぐ死ね」


 散々な言われようだ。

 もはや前半何言われたか忘れたまである。死ねという事しか覚えていない。


「なに、あれだよ。ちょっと迷ったから、助けてほしい的な?」

「誰が喋って良いって言った。黙ってろよ。な? 弁えろ? ンー?」


 女は髪を掻き上げて、俺たちを見下ろす。

 なんだこいつ、腹立つ。

 

 アイカが挙手した。


「……」


 無視。完全に無視。


「フヒッ。ちょっといいっすか……?」

「…………」


 完全に亡き者にされている。

 女は爪を見ている。歯牙にすらかけられていない。


 アイカは挙げた右手を、ゆっくり下した。


「ちょっと、アンタ――」

「黙れ糞ドワーフ」


 取りつく島もない。

 ルイちゃんのこめかみが、ビシッと音を立てた。

 キレる寸前だ。


 結局誰も喋らなくなり、無音の気まずい展開となる。

 女は爪をいじり、俺たちは立ち尽くす。


 あのー、これ。どうしたら……? 

 なんかやったっけ?


 寧ろこの状況はカオスすぎる。

 あの射精してパンツ汚れてる男どうにかしろよ。


 最悪だよ。

 なんでこんな所に居るんだ。


 せめてあいつ居なくならないかな。


「……ぉふ」


 男が目覚めた。

 美しい金髪を整えていると、俺たちに気付いたようだ。


「あれ? どなた? 珍しい組み合わせじゃないですか? 姉様」


 女が鞭で一閃。

 男の顔をぶっ叩いた。


「ありがとうございます!!」


 狂喜乱舞して男は喜んだ。

 男は頬に手を当てて、改めて姉である女に声をかけるが、またしても鞭でぶたれている。


 会話できてねぇ。

 数度繰り返すと、女も飽きたのか、男と口をきくようになった。


「……迷ったらしいわよ」

「珍しいですねぇ。こんなところ誰も来ないのに。なんですか? 何か里に用でもあったんですか? でも、用があるなら案内役がいないと、とても着かないと思うんですけど。どういうこと? うーん。分からないなぁ。見たところ荷物も何も持ってないし、服も血で汚れてるし。堅気じゃないですよね。やばいなぁ。怖いな。どうしよう。ねぇ。どうしよう。姉様?」

「……勝手にしたら」


 マジで興味なさそうだな、あの女。


「でもなぁ。ボク達も暇じゃないんですよね。どうしようか。成人儀式とかめんどくさくて。あ、これ愚痴です。やってらんないっすよ。これね、やりにいけよ。みたいな? これのせいで、エルフの人口が増えないってわからないのかな。こんな古い因習さっさと辞めるべきだと思うんですけど、どう思います?」

「知るかよ。俺たちそんな事知らないし」

「で、ですよねー。知りませんよねー。あはは……。どうしよかな。この空気。僕一人しかしゃべってませんけど。どうにかしてほしいな、みたいなのはあるかな。ねえ。どう思います?」

「そうなんじゃねーの」

「うんうん、ですよねー。やばいっすよね。これ。さっきから僕一人だけが喋ってますよ。て、これさっき言いましたね。すみません。て、なんでやねん。て、全然面白くないかぁ。て、って何回言ったのかな。ねぇ。何回でした?」

「2,3回」

「あれ、そんなに少なかったかな。割ともっと多く言ったかと思った。……あの、もうやめません? もうきついっすわ。姉様も爪なんてもういいでしょ。儀式やりましょうよ」

「やるのあんたでしょ」

「でしたー。ボクですよね。やるのはボク。そうなんですよ。えっと、名前……」

「お前から言え」

「ですよねー。自分から名乗れって話ですよね。えっと、ボクがイズモで、姉様がシノノメです。どうぞよろしく――! ありがとうございます!!」


 会話の合間に鞭が飛んできた。


「勝手に名前教えてんじゃねーよ」


 キレた理由そこかよ。

 ま、いいや。適当に自己紹介した。

 

「俺がユウキ、犬がアイカ。ドワーフがルイちゃんだ」

「は? ちゃん? そこのドワーフどう見ても男でしょ? ふざけてんの? 死ね」

「はいはい、メンゴメンゴ。ルイーズね。ドワーフのルイーズ」


 この女は適当に流すに限る。短いやり取りでそう思った。


「あははー、自己紹介するだけでなんでこんなに憔悴してるんだろ。ボク」

「てめーはその汚いパンツをどうにかしろ。着替えろよ。そこの女とは違う意味で死んでほしいわ」

「ですよねー。射精してますからね。これ。目の毒ですね。はい。ちょっと着替えてきます」


 イズモはでかい木の陰に隠れて、ごそごそし始めた。

 10秒もせずに戻ってきた。

 もちろんその間に、会話など存在しない。


「あれ、仲よくお話しなかったんですか?」

「仲良いように見えんのかよ?」

「見えないっすね」


 イズモは「たはは……」と笑った。

 疲れてるな、こいつ。

 さっきまでイキイキしていたのに。


「ま、いいや。イズモだっけ?」

「はい」

「何か持ってない? 腹減ってしょうがないんだけど」

「僕はあげても良いんですけど。姉様が」

「駄目」


 シノノメは拒否の言葉を浴びせかけた。


「私たちの貴重な食料はあげられないわ。その矮小な脳みそでそれくらい考える事も出来なかったの?」

「そこを頼み込んでるんだろうが。その小さな脳みそはそれくらい言葉の裏を取る事すらできなかったのか?」

「なんで喧嘩腰……」


 隣のアイカが呆れた声を出した。

 シノノメはアイカを完全無視したまま、クルッと身を翻した。


「まぁ、いいわ。言い訳ができたし。今日も成人儀式は中止にしましょうか」

「姉様がそう言うなら」


 イズモとシノノメはそのままどこかに歩き出した。


 アイカとルイちゃんの顔を見た。

 付いて来いという事か。


 俺たちは二人の後ろを少しだけ距離を開けて歩いた。


 二人の格好はそれなりに整っていた。

 まぁ、武装している。


 イズモは弓を持っているし、シノノメは言わずもがな鞭を持っている。


「狩りにでも来てたのか?」


 イズモが答える。


「ちょっと違うけど、大方そんなもんですね」

「ふーん」


 特に会話も無く森の中を歩いた。

 すると周りに木が無くなり、一本の巨大な、それはもう途轍もなく巨大な木が見た。


「でっか……」


 もう木とか、そういうスケールじゃない。

 一つの居住区だ。


 実際、そうなっている。


 シノノメが木の上に手を振る。

 すると、何か落ちてきた。

 滑車と籠みたいなのを合体させたような、乗り物があった。

 良くわからないが、それに乗った。

 

 ゆっくりとではあったが、上へ上へと登っている。


「すげぇな。どうなってんだか」


 二人は疑問には答えず、黙っていた。


 手持無沙汰になるが、あいつらが何か喋らないと始まらないのは確かだ。


 そうこうしている内に、一番上まで来たようだ。


 木の上には町があった。


 何を言っているのかわかりにくいと思うが、町があった。


 この木自体がデカすぎるので、床板さえ敷き詰める事が出来れば、それなりに強靭な住居ができそうではある。


 イズモとシノノメが帰還したことを知ると、数人のエルフが押しかけてきた。


 曰く、「どうだった?」「儀式はできたのか?」とか。近況を探るようなものばかりだ。


 二人はそれを「駄目だった」と受け流した。

 シノノメが後ろに控える俺たちを顎で示した。

 クイッと顎を動かしただけの動作なのに、どうにもむかつく。


 ざわざわ。「なぜ、ここに人間を……!?」「獣人!?」「ドワーフまで……!」とか。

 かなり驚かれている。


「次の成人儀式はこの3人も連れていくわ」


 

感想待ってるよん

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