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52 逃走劇

「二人とも……。なんで」


 激しい打ち合いをしながらスキンが叫んだ。


「騒ぎすぎなんだよ!!」


 スキンが斧を振り回し、敵の一人。アルカスと呼ばれたゴツイ男が下がった。

 カルベラは移動しながら、イートと呼ばれる男とサシで死合いしている。


 どうすればいい。

 状況が激しく動いて、テンパってる。


 戦えばいいのか。それとも逃げるべきなのか。

 考えても動くことができない。

 考える事が出来ていないのか……?


 痛い。


 思い出した。

 腕を斬られていたんだった。


 治そうとした時、ジジイの命令が響き渡った。

 

「時間がない! 終わらせろ!!」


 それを聞いた敵側の動きが激しくなった。

 あのカルベラが押し込まれそうになっている。


 スキンもアルカスとやらとの戦闘に戻った。


 スキンですら防具を着ていない相手に、一歩引いている。


 まずい。


 へたり込んでいた状態から、立ち上がった。


「すまない……」


 言葉少なにその場を全力で立ち去ろうとした。

 しかしチビのマザイルが、それを阻む。


 後ろに逃げようとした俺の前に立ちふさがった。


 急停止しかけて、一人の女の人を見た。

 任せるしかない。


 ナツさんだ。建物から降ってきた。

 ダガー片手にマザイルの脳天を貫こうとした。


 だが、マザイルはギリギリで気づいた。

 俺のせいだ。


 一瞬、視線をナツに向けてしまった。

 邪魔しかしていない。


 それでもナツさんは文句を言わず、マザイルと剣を交わらせ始めた。

 ナツさんもスピードファイターだ。チビのあいつとほぼ対等に戦っている。


 逃げる。

 俺が行っても邪魔にしかならない。


 それに武器も何もない。

 手荷物は負傷したアイカとルイちゃんだけ。


 逃走を選ぶほかない。


 それに後ろからも来ている。

 ジジイが一人。禿頭の男一人。メルリアと呼ばれていた水魔法の女が一人。計三人。


 スキン達は全員を止める事が出来ていない。

 それも仕方ない。


 まだあいつらの仲間は揃っていない。


 建物の上に二人影が見えた。

 明かりがともる。

 明かりというか、豪炎だ。馬鹿でかい赤黒い火の玉が虚空に浮かんでいる。


 爆発だ。町を徹底的に破壊したあの魔法を使う気だ。


 ルイン。あの野郎。また町を直す気か。

 それでも文句はない。

 助けてくれるなら、願ったり叶ったりだ。


 不気味な笑い声とともに、爆発する魔法が発射された。

 ジジイたち三人は足を止める。


 メルリアとか言う女が水魔法を使った。

 恐らく水壁。

 それ以上の何かだろうが、俺には分からない。


 兎に角、ルインの爆発は止められた。


「これは、やる奴だな」


 ルインのつぶやきが俺まで届いた。

 ルインの隣にはツーベルクも居た。

 矢をつがえて何時でも撃てるようにしている。


「死ね」


 ツーベルクの冷ややかな声が、耳に突き刺さった。

 絶対零度のその眼が狙うのは、魔法使いのメルリア。


 確信した。

 あの女は死んだと。

 やっちまえ、そのまま矢が直進する事を願った。


 だが、駄目だった。


 隣にいた禿頭の男の剣で矢が撃ち落された。

 あの男。

 さっきから女のボディーガードばかり。


 ツーベルクとルインは矢継ぎ早に攻撃を繰り出し始めた。

 しかしどれも効果をなしていない。


 あの二人をもってしても誰一人殺す事ができていない。

 それにツーベルクの矢の本数も気がかりだ。


 逃げるなら早く逃げるべき。

 どこに。


 知るかよ。

 どっか行くしかないだろ。

 もうこの町には居られない。


 俺は見誤っていた。

 走り出した。全力で。二人を背負って。ルイちゃんは抱えてるけど。


 禿頭の男が叫んだ。


「隊長は行け! 逃がすな!」


 その言葉に連動して、ジジイが俺たちを追いかけはじめる。

 ツーベルクとルインはジジイに攻撃を集中させた。


 禿頭の男と女の魔法の援護が入った。


 爆炎と矢の雨から爺が単独抜け出してきた。

 その間にも俺は走る。

 せめて、アイカには走ってもらいたい。


「アイカ、走ってくれ! 頼む、これ以上は追いつかれる!」


 アイカは肩に突き刺さったままだった氷槍を抜いた。

 傷口から血があふれ出した。


「痛ッ!」


 アイカが悲痛な声を出す。

 走る衝撃が傷口に響くのだ。

 俺の腕の科で小ぢんまりまとまっているルイちゃんの顔色も悪い。


 右腕だけで小さなルイちゃんを抱え、もう全力で走る。

 全力も全力。

 超本気。

 これ以上ない。


 いつ息が切れるか分からない。

 それでも走る。


 後ろのいるジジイはやばい。

 今までで一番やばい。


 レベルという概念がある以上、年寄ほど強い傾向がある。

 あいつは今まであった中で、戦士としては最高齢だ。


 絶対にやばい。


 レベルはどれだけある。

 サードジョブまであるんじゃ……?


 そう考えると、足がすくみ始める。

 後ろにいるのは悪鬼のように強い。

 

 過去最強の人間だ。

 デカコボルトもオークも相手にならない。


 あいつは、そんじょそこらにいる奴より絶対に強い。


 照らすものが月明かりしかない街中を疾走する。

 あのジジイは、ジジイらしくそこまで早くない。


 逃げれるかもしれない。

 あのチビが追いかけてくる前に。


 ナツさんがあいつの相手をしている間に、俺たちは遥か彼方まで逃げる必要がある。

 見えた。

 暗いけど。

 あのデカい門。


 あそこから一歩外に出たら、弱肉強食の世界が待っている。


 武器なしのこの状況で外に出るのは、そら恐ろしい。

 でも、後ろから眼光が発せられそうなジジイに追いかけられるよりましだ。


 門を通り抜けた。

 外だ。

 ここからは魔物が跳梁跋扈する。


 どこに行けば。

 いや、あそこしかない。


 森だ。

 森の奥深くに入って、あのジジイを撒くしかない。


 平坦な道を進むなんて、ただの自殺行為だ。

 木々で死角ができる森の中を突き進むべきだ。


 そうと決まれば、森の中に突入するために足をどんどん回転させた。

 後ろからは追っ手。ジジイ。

 隣には負傷兵。腕の中にも走れない負傷している奴がいる。


 逃げれるか……?


 分からない。

 でも入った。

 森の中だ。


 真っ暗だ。


 月明かりすら届いていない。

 この漆黒の中を進むなんて、気がおかしくなる。


 一瞬だけ足を止めてしまった。

 

 だが、隣のアイカだけは進む。


「付いて来て……!」


 傷口に手を当てながら俺を叱咤する。

 見えるのか。

 このくらい中を。


 獣人と人間の差を思い知らされる。


 走り出そうとした時、怒号が響いた。


「待ぁてぇぇぇえぇぇ!!」


 この一言で完全に俺がかられる側にあると自覚する事が出来た。

 それが逆によかったのかもしれない。


 僅かでも勝てる要素を見つけようとしなかった。

 戦うなんて選択肢は初めからなくて、逃走だけが俺の頭の中を支配した。


 何も見えない。

 それでも前を行くアイカの音に耳を傾けて、森の中を疾走する。

 

 木の根に足を取られそうになっても、死ぬ気で体勢を立て直す。

 追いつかれたら死ぬ。


 そのことだけが事実で、真実で、確定事項だからだ。


 止まったら死んでしまう。


 それだけは嫌だった。


 死ぬなんて、絶対に嫌だ。


 視界ゼロの中を4人の人間が、逃走劇を継続する。

 体中傷だらけだ。

 木の枝とかが引っかかって、俺やルイちゃんの皮膚を切り裂く。


 俺がルイちゃんの状態を確認しようとすると、先にルイちゃんが制した。


「私はいいから……! 走って……」


 大丈夫かは分からないが、それでも意地を張る程度は意識がある。

 それだけ聞けばなんとか。

 俺は走る。


 走って、走って、走りまくる。

 アイカも走る。

 もうどこをどう走って、何分走ったのか。


 ちょっとだけかもしれないし、相当は知ったかもしれない。


 でも分かるのは太陽が昇り始めている事だ。

 深い森の中にも木漏れ日が出てきた。


 少しだけ明るくなる森の中で、俺は振り返った。


 ジジイが居ない事を願って。


「蠱毒ぅぅぅぅぅぅ!!」

「ひっ……!」


 何言ってるのかわからないが、まだ居やがった。

 目があって、すぐに前を向いた。


 どうする、どうすればいいんだ……!?

 あいつから逃げる方法。


 ああ、もう。駄目。これしか思いつかない。


 光の弾を爺から見えない場所から出した。

 閃光だ。

 タイミングよく。


 一瞬で爆発させる。

 目くらましとなれ。


 もう一回だけジジイを見た。

 悪鬼の形相だ。

 俺を逃がすまいとここまで追いかけているんだ。

 それくらいの意気込みという事は分かった。


 だけど。捕まってたまるか。

 実力差は今日をもって本当に理解した。


 まだ捕まっていいときじゃない。

 まだ戦うときじゃない。

 限定奪取は保険にすぎない。


 ふっー。やれるか。

 いいか。

 一瞬だ。

 この一瞬で駆け出せ。

 

 アイカも気づく。

 俺のやりたい事くらい分かるはずだ。

 前を行くアイカは、閃光の範囲外だ。


 狙うは、ジジイだけ。


 行け。閃光弾。

 後ろに向かって発射した。


「アイカ走れ!」


 言われなくても走った。今までの速度が何だったのかというくらいの速度だ。

 直後、後ろから昼間以上の光が降り注いだ。


 ジジイがどうなったかなんて分かるはずもない。

 兎に角、走りまくった。


 あの死神にも等しいジジイから逃げるために。

 アドレナリン全開だ。

 傷ついた左腕も直していなかった。


 ブランブランしている。

 ルイちゃんの太ももも、アイカの肩も治していない。

 

 満身創痍だ。


 それでも走った。

 フラフラだ。

 でも走るしか生き残る道がない。


 俺の身体能力と、生きるための意地。

 それらが結集した。


 今までにない速度が出た。

 前を行くアイカにも勝るとも劣らない。


 今なら世界最速ではないか。逃げれる。

 視界も良好。

 左腕がぶらぶらして走りにくいが、足だけ動かせば問題ない。


 チラッと後ろを見た。


 唖然としたジジイが居た。

 すぐに表情を引き締めて、追跡を開始ししていた。

 だが、追いつけない。


 やった。

 この速度なら引きはがせる。


 まっすぐ行け。これでいい。まっすぐでも、いずれ俺たちの事は木々が隠してくれる。

 ジジイから早く、一瞬でも早く視界から消える事が重要だ。


 俺たちは、走った。

 生き残るため、走る。


 ジジイはそれでも追いかける。


 剣を捨てたみたいだった。

 身軽になっている。


「そんなことすんな……!」


 もう余裕がない。

 駄目だ。

 ジジイの移動速度がバカみたいに早くなっている。


 アイカも焦っている。

 何てことだ。

 治しておくべきだった。


 3人とも万全だったら。

 時間を惜しまず、治すことができていたら、ジジイの追跡も躱せていたかもしれない。


 じりじりと距離を詰められている……?


 少なくとも引きはがせてないない。


 やばい。やばいって。 

 これ以上はやばい。本気で。マジで。マジで。


 アイカの傷だけでも治す? それとも俺? どっちも? ていうか、ルイちゃんは大丈夫なのか? 

 さっきから何もしゃべっていない。


 いや、誰も喋る余裕なんてないけどさ。


 ルイちゃんを見る。顔が蒼い。まずい。出血状態が。

 俺も。アイカもだ。


 今はいい。

 でも後々、やばい。

 追いつかれたら抵抗できない。

 いまこうして走っていることが奇跡だ。


 まて。

 ジジイは剣を捨てた。

 勝てるかも……? 


 俺には魔法がある。


 いや、待て。

 あいつが何のスキルを持っているかなんてわからない。


 つーかよ。

 俺、マジで何やってんだ。

 

 アホだ。

 今更気づいた。


 使ってない。

 パニックだったのか? 

 そうだ。俺は慌てていたし、逃げる事しか頭になかった。


 魔法だって逃げる事優先で使っていた。


「光の加護!」


 爆発的に身体能力と自然抵抗力が上昇した。

 したはずだ。

 俺とアイカとルイちゃんの体が光り輝き、左手の甲に収束した。

 六芒星が美しい。


「なっ!?」


 ジジイの焦る声が聞こえた。

 30分はもつ。


 あはは。これでいける。


 後ろを振り返る。

 ジジイはもう必死の形相で、全力で、全身全霊で走っていた。


 年寄りの動きじゃない。


 地面を走るのをやめ、木々を飛び移る事すらしている。

 あれやばい。めっちゃ早い。

 

 でも弱点はある。


 つーか、燃えろ。


「火槍!」


 一本の火槍が爺の着地地点の枝を、砕いた。

 ジジイはそのまま地面に落下した。

 受け身も取らず、すぐに地面から追跡を再開した。


 後ろ手は燃え広がる森が見えた。

 自然鎮火する事を祈る。


 走る。走る。


 と、何か薄暗くなってきた。

 霧っていうか、雰囲気というか。


 さっきまでと違う。

 途轍もなくやばい。

 入りたくない。


 この奥の森には入るべきではない。

 だが、後ろからはジジイが来ている。


 前門のやばい森、後門のやばいジジイ。


 選ぶべきは決まっていた。

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