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51 侵入者

「じゃあ、またどこかで会おうぜ」


 作業も今日で終わりを告げて、スキン達と別れを告げた。

 スキン達は明日の朝一番に、この町を出る。


 俺たちはこの町でやっていくことにした。

 適当に宿を見繕い、この町で冒険者としてやっていく所存だ。


「じゃあな。元気でやれよ」


 スキン達は今夜もどこか宿に泊まって、一日の疲れを取るのだろう。

 五人と別れを告げて、俺たちも宿に戻った。


 町を歩けば、もう夜中も近い。

 かなり話し込んでいた。


 飯屋ではそれなりに町の住人に話しかけられたし、これからもよろしくという事でお願いしている。

 俺たちはもう町の住人として、それなりに認められているという事だ。


 だが、それなりだ。

 俺たちを毛嫌いする人だっているし、俺たちは騎士団長が嫌いだ。


 それでも俺にとっては数少ないつながりだし、この町にいる決意もできた。

 今まではアイカとルイちゃん、それにスキンくらいしか知り合いがいなかったのだ。

 だが、この数週間で俺にもそれなりに知り合いが増えた。


 これをつながりと言わず、何と言おうか。


 それが俺をこの町に留まらせるきっかけの一つになった。


 縁という物は大切にしたい。

 きっかけは悪い物であったが、この町の雰囲気も悪くない。

 かといって、前の町が悪いというわけじゃない。


 町を破壊した手前、少しは役に立っておくのが、心理的に良い。


 宿の4人部屋を取っているので、そこに戻る。

 二段ベッドが二つあるだけの簡素な部屋だ。


 それでも鍵がついているので、それなりの値段がする宿である。


 二段ベッドの下段から二人に話しかけた。

 アイカはもう一つのベッドの下、ルイちゃんは上だ。


「明日からは迷宮に行かないと、お金が持たないな」


 銀行に預けた金貨の枚数が、すでに3枚を切っている。

 一人当たり金貨一枚である。

 まだ暮らすことは可能だが、宿代がある以上、これ以上ぼんやり暮らしてはいけない。


「戦うのも久しぶりね。一階層から行く?」


 ルイちゃんが上の段から顔を覗かせた。

 相変わらずいかつい。もう慣れたけど。


「オークか。妥当かな。そこから行こうか」

「あれと戦うのか……」


 アイカが嫌そうな顔をした。

 あの強さを見た後、また戦うのはそりゃ嫌だろう。


「でもこの前のオークたちは、外に出て強くなった種類だからな。そういう話だったろ?」

「そうですけど、分かるでしょ?」


 そう言われれば、分かるとしか言えない。


「オークは踏み台だ。俺たちは前の迷宮だったら、3階層まで行けたんだ。こっちの迷宮だって問題ない」

「フヒッ、ま、そうなんですけどね」


 アイカはベッドに寝転がった。

 明かりを消す。

 部屋が真っ暗になって、ベッドが軋む音がした。


「メンドくせぇな……」

「戦うの嫌だなぁ……」

「明日休みにしましょうよ……」


 一斉に愚痴り始めた。


「イヤ、これ本当に面倒な仕事だな。仕事? なの、これ? 確かに儲かるんだけど、なんで常に命かけてるの? はぁ、嫌だわ。ちょっと、軟弱になったかな。俺。でも仕方ないだろ」

「ずっと、復興作業だったし、もうね。嫌ですよ。戦うの。怖いし。この前だって殺されかけたし」

「ワタシも嫌ねぇ。緊張感のない生活をし過ぎたかしら。どうにも自信が無くなっちゃったかも」

「かぁぁ。どうしよう。でも金も少ないし。ギリギリなんだよな。何かあったらすぐに無くなっちゃうんだよな」

「どうするんですか? やるんですか?」

「あぁぁ。待て待て待て。やるやらないじゃなくて、やらないと生きていけないっつー話だろ。これ」

「そうね。お金ないし。金貨3枚じゃ。一か月が良い所ね。ワタシ食べるし」

「我慢しろや」

「いやよ。ワタシ筋肉の塊だから、エネルギー使うの。細いユウちゃんには分からないでしょ? もうお腹減ってるわよ、ワタシ」

「おい、ふざけんなよ。金無いって言ってるだろ」

「ルイちゃんはたくさん食べるから、お金が無くなって仕方がないですね」

「がぁぁ。もう。嫌だ。絶対行かないといけないじゃん。俺だって割と食うし、アイカだって食うし。お前はもうちょっと慎みを覚えたらいいんじゃないの?」

「女の子だからって舐めないでくださいよ。女の子幻想なんてなくしてくださいよ。みみっちい人ですね」

「てめぇ。誰もそんなこと言ってないだろ」

「いや、言ってますよ。女は食うの少なくしろって」

「……言ったか」

「言ったわね」


 言ったな。慎みを覚えろとかなんとか。


「でもさぁ。ドカ食いする女の子だって、男としてはちょっと萎えるんじゃない? これ、俺個人の感想ね。食べ物を残せって言ってるわけじゃなくて、もうちょっと量を減らしてくれないかな? っていう」

「フヒッ、無理。17歳の食欲舐めないでくださいよ。私たち全員、17歳。食欲の塊」

「ワタシ、何か食べたいんだけど。ユウちゃん持ってるものない?」

「ある訳ないだろ。武器と防具しかここにはないから」

「そうよね。期待はしてなかったわ」


 ルイちゃんが欠伸をした。伝染した。

 アイカも俺も欠伸をする。


「結局どうするんですか?」

「行くしかないだろ。金。金。金。世の中金なんだよ。金のために働き、金のために死ぬようにできているの。金があったら働かなくていいし、無職でオッケーなわけ。分かる?」

「無職が良いわ。ワタシ」

「俺だって働きたくないわ。それも命がけとか、超嫌だ」


 なんなら今日までやっていた作業の方が、良いくらいである。

 割にはあっていないと思うが、最低限生きていくには問題はなかった。


 最低限で良いのかという事もあるが、命の危険はない。

 命の危険がないだけで、食べる程度しかできないのが痛い。


 少し前までは食べたいものを食べて、飲みたいものを飲んでいた。

 最近ではそれも少ない。


 切りつめられる所は切りつめる。

 そうして、最小限の消費にして、金欠を乗り切る。


 今日まではそうしてきたが、食欲を満たせないというのはストレスがたまる。


 ルイちゃんは今日こそ腹いっぱい食べる事が出来たが、昨日までは結構イライラしていた。

 アイカもお腹を鳴らしていたし、俺も常時空腹状態だった。


「やっぱり、迷宮にはいかないとダメか……」


 隣のベッドからため息が漏れた。

 嫌な気持ちになりながら、金がない事を呪いつつ、目を瞑った。





 俺は、睡眠が浅い。

 夢にうなされるし、いつも夜中に目が覚める。


「はぁ……」


 クラスの連中が死んだ後、眠りが深いことなどほぼ皆無だ。

 起きてしまったことに今日も、絶望に近いものを感じた。


「寝よ……」


 起きると言っても、その後はすぐに眠れる。

 浅い睡眠を何度も繰り返して、俺は朝を迎えるのがパターンだ。


 それでも十分体は動いてくれている。

 だが、イライラする。


 三大欲求の一つである睡眠欲が、完璧に満たせない事に頭が飽和しそうになる。


 寝返りを打って、枕に耳を付けた瞬間だった。


 目が一発で冴えた。


 足音……。

 それも複数。

 かなり静かに歩いている。


 枕に耳を付けなければ、確実に聞き落していた。

 床を伝って、足音が伝わっている。


 こいつら、意識的に静かに歩いている。

 ここに泊まる連中なんて、ほとんど冒険者だ。

 他の連中に対して、心遣いをする奴なんていない。


 しかもここにまっすぐ向かっている。


 タタタッとも聞こえない。

 スーッと何かを撫でるような音。


 訓練されている。

 盗賊か……? 

 全員が?


 この宿に盗むものなんてない。

 それにここはカギ付き。


 押し入れば、周りの客に気付かれ――!?


 目を見張った。

 ドアノブの鍵穴をいじっている。


 静かに。

 気づかれないように。


 カチャカチャ。カチャカチャ。

 暗闇の中、その音だけが聞こえた。


 ピッキング……!

 ゆっくり体を起こした。

 

 同時に、カチッと鍵が回った。

 開いた。

 開けられた。


 ドアノブが回される。

 ゆっくり。ゆっくり。音が立たないように。


 スーッとゆっくりだが、確実にドアノブが回されている。


 ……回りきった。

 視線を鋭くする。

 立てかけた騎士剣に手をかけた。


 扉が開けられる。 

 まだ抜かない。

 隙間が空いた。


 見えない。

 真っ暗だ。

 

 あっちはどう見えているか。

 分からない。


 大胆にもまだ開ける。

 その時、月明かりが部屋に差し込んだ。


 瞬間、少しだけ部屋が照らされた。


「ッ!」

 

 相手の目が開かれた。

 視線がぶつかり合った。


 ベッドから飛び降りて、そのまま鞘から騎士剣を抜く。


 縮地突き――!


 無言の技に、相手の目が限界まで開かれた。

 そのまま剣を差し込んだ。


「べっ!」

 

 眼孔を貫かれたそいつは、あっさりと死んだ。

 扉の奥で息をのむ音が何個か聞こえた。

 

 まだこいつの仲間がいる。

 剣を引き抜いたとき、内開きの扉がこちらに迫ってきた。


 ガンッと音がした。向こう側の誰かが扉を蹴った。

 俺に向かって扉が突撃して、全身を強かに打ち付けた。


「ガッ……!」


 数歩下がったところで、なだれ込むように人間が入ってきた。

 大騒ぎだ。


 ベッドで寝ていたアイカとルイちゃんが飛び起きる。


「ななな、何……!?」

「どうしたの!?」


 侵入者たちはアイカとルイちゃんを無視して、俺に突撃してきた。

 一人が突撃してくる。

 暗くてよく見えない。


 兎に角、剣だ。

 剣を振っている。


「シッ……!」


 本気の一撃だ。

 下段から振り上げられる攻撃に、騎士剣をぎりぎりで合わせた。


 目の前のそいつが後ろに飛び退った。

 後ろでローブを着た女らしき体系の奴が、何か言った。


 聞こえはしなかった。


 圧倒的な水量で部屋が埋め尽くされ、部屋が粉砕された。

 押し流される。

 ていうか、流されている。


 部屋ごと押し流され、外に出た。

 出された。吹き飛ばされ、押し流され、他の建物に叩きつけられた。


 ドォォオオンという音が町に響いた。


「ぐぁ……!!」


 背中を打ちつけた。いってぇ。

 呼吸もできない。

 まだ水が流れている。


 い、息が……!!

 

 続いて、二つの塊が俺に突撃してきた。

 凄い重量だ。

 肺が押しつぶされ、残りの酸素が吐き出された。


 アイカとルイちゃん。

 必死にもがいているが、打つ手なしだ。


 そうしている間に、後ろの建物がぶっ壊れた。

 水量に耐えきれなかった。折角直した町を……!!


 しかも水中で薄目を開けると、住人も巻き込まれていた。


 建物を数件破壊した水流は、いつの間にか終わっていた。


「ガハッ! オエッ……! ぐ、あ、お……!!」

「な、なに、これ……!?」

「なん、なのよ……!!」


 月明かりが町を照らす。

 ダダダッと駆ける音がした。素早い。


 滅茶苦茶早い。

 なんだこいつ……!!


 立ち上がった。むせる。

 だが、立ったからには戦わないと死ぬ。


 相手はかなり軽そうな剣を持っていた。

 薄刃の剣だ。

 通常の剣の半分程度にしかないと思う。


 逆に言えば、それだけ脆い。

 そのはずだ。

 

「蠱毒……!」

「うぉ……!!」


 気合一閃、剣が瞬く。

 するどい風切り音に身がすくむ。


 またしてもギリギリで剣を合わせて、防御をした。

 体勢が崩れる。


 目の前の男は俺の後ろに回った。

 剣を振られた。


「あぁぁあ!!」


 思いっきり背中を斬られた。

 早すぎる。

 深い。


癒光(ヒール)……!」

「あっ……!」


 後ろに剣を振り回し、男が離れた。

 光魔法で治されていることに動揺を隠せていない。


 すぐに男が駆け寄ってきた。

 痛みが逆に冷静にしてくれた。

 軽装だ。金属は着ていない。


 静かに移動するために、金属鎧は避けたに違いない。

 これなら一撃で殺せる。


 しかし、この男早すぎる。


「セイッ! ハッ! ヤァァ!!」


 たじたじだ。反撃の隙など微塵もなかった。

 浅い切り傷が増える。


 大振りして男を下がらせる頃には、増援が来ていた。

 男四人。女一人。

 

 かなり歳食ったジジイと若そうな男が二人。

 三人とも体格がいい。

 相当な腕だろう。


 後ろの女もやばい。

 確実に魔法使いだ。水魔法だろう。


 なんて考えている余裕はない。

 ジジイと若い男二人が迫ってくる。


「メルリアめ。面倒なことをしおってからに……!!」


 ジジイが唸る。

 戦士然とした若者二人が剣を振り上げた。


 横に素早く移動して避ける。

 耳元を通過していった剣に戦々恐々とした。


 さっきの素早い男も来る。

 カウンター気味に剣を振ったが、余裕で躱された。


 よく見れば、男はかなり小さい。

 それも相まって、すばしっこい印象がかなり強くなっている。


 ジジイたちが攻撃を繰り出す。

 剣が俺の体を侵食し、痛覚が悲鳴を上げる。


 光魔法で癒す。

 斬られる。

 治す。

 斬られる。治す。


 何度も繰り返す。


「くそぉ……!」


 良いようにしてやられている。

 ジジイとガタイのいい奴二人。そしてすばしっこいちび。


 4人に囲まれて、次々攻撃される。

 一人が攻撃してきて、それに対応すると、他の奴が攻撃してくる。


 他の三人が同時に攻撃してくるのだ。対応のしようがない。


 背中、わき腹を削られ出血する。


 いったん攻撃の嵐がやんだ。

 ここしかない。


 ここで全員仕留める。


「死ねオラァ!!」


 火槍を敵と同じ数展開した。

 奥にいる女にもだ。


 占めて五本。


 一気に発射した。

 この間は一瞬だ。

 驚く間もない。

 殺す気満々の一撃だった。


 ジジイは普通に避けた。チビも余裕で。

 ガタイのいいデカイ二人は剣で防ぐ。死んだかと疑ったが、健在だった。


 女はぼんやり突っ立っていると思ったら、後ろから禿頭の男が火槍を迎撃した。

 伏兵が……。あのハゲがいなかったら、あの女くらいは殺せていたのに。


「火と光。凄まじい……。それに剣もある。アブソリュートが死んでもおかしくない」


 ジジイが呟く。

 アブソリュートという単語が出た時点で、奴の仲間であることに疑いは無くなった。

 だが、どうしろというのだ。


 6対3。

 こっちは寝こみを襲われ、アイカとルイちゃんに至っては武器すら持っていない。


 いや、そういう事じゃない。


 アイカとルイちゃんは狙われていない。

 完全に狙いを俺に絞って、殺しにかかっている。


「俺狙いか……」


 分かりきっていることを言うが、相手は答えない。

 水が髪から滴る。

 水滴が地面に落ちると同時に、俺を囲んでいたチビが絶叫した。


「いっっったぁ……!!」


 俺の後ろにいたチビが痛みに呻いている。

 頭から流血している。


 チビのさらに奥には、投球を終えた体勢のアイカがいた。

 

 左腕にはいくつもの小さな瓦礫を抱えている。

 あれを投げつけたのか。

 そうしてチビの後頭部に当たった。


 チビは気絶せずに、アイカの方を向いた。


「見逃してやろうかと思ったけど、やめた……!!」

「マザイル!!」


 ジジイが諌めるが、マザイルというチビは止まらなかった。

 剣を持って疾風の如き速さで、アイカとの距離を詰める。


「わっ……! はやっ!」


 アイカが抱えていた瓦礫の一つを投げる。

 普通に外れた。


「フヒッ、やばっ……!」


 すでに笑いが出るほどやばい。

 マザイルはアイカの目の前にいる。

 

 手に握る短剣がアイカを食い破ろうとした瞬間、さっきより大きな瓦礫がアイカの目の前を通った。


 マザイルが咄嗟に身をかがめた。

 

「下がりなさいマザイル!!」


 飛んできた瓦礫を間一髪で避けたマザイルは、そのままアイカに攻撃を繰り出そうとしていた。

 そこに魔法使いの女が叫ぶ。


 命令というか、拘束力がるというか、絶対そうしないとやばい。

 そんな空気が瞬間的に漂い、マザイルはそうした。


 マザイルは攻撃を中止して、下がった。下がりに下がった。

 ビヨーンと後ろに飛んだ。


 そこに刹那までいた場所に、またデカイ瓦礫が着弾した。

 ドォォンと派手な音が鳴った。

 石畳の道路が粉砕される。


 ルイちゃんだ。


 今も崩れた瓦礫を抱えて、マザイルに投げた。

 あんなに大きい。


 自分の体より数倍は大きな瓦礫を頭の上に掲げ、それを投げ飛ばす。

 速度はないが、絶対的な重量は、圧倒的な破壊を生み出す。


 マザイルはさらに下がる。

 避ける。避ける。


 アイカも瓦礫を投げる。

 二人には武器がない。


 そうするしかない。

 だが、敵も黙ってはいない。


 後ろにいた女が、氷を出した。

 

「水だけじゃないのかよ……!」


 火槍にも似たランスが宙に浮かんでいる。

 あんなのが当たったらタダではすむまい。


 すむまいというか、済まなかった。


 無茶苦茶な速度で、氷槍はアイカとルイちゃんを狙い撃ちにした。

 二人は気づかない。


 暗すぎるし、マザイルに集中し過ぎていた。


 アイカは肩、ルイちゃんは腿を貫かれた。

 二人の絶叫がほとばしる。


「い……だぁぁっぁああああああ!!」

「ぐおおおおおおおおおおああぁぁ!?」


 アイカがすべての瓦礫を放り投げて地面に転がった。

 ルイちゃんは自分で持っていた瓦礫を支えきれなくなり、押しつぶされる。


 何もできなかった。

 ただ、見ているしかなかった。


 手負いが三人。

 相手はほぼ無傷。


 確実に俺たちより強い。


 どうする……!!

 どうしたら……!?


 しかし状況は変わる。


 住人が顔を出し始めた。

 

「ユウキだ……」「なにやってんだ、アイツ」「いや、襲われてるだろ。アレ」「取り巻き、やられてるじゃないか」「ていうか、死にかけ……?」「やばいんじゃ?」「つーか、また町壊れて……」「誰がやったんだよ」「ユウキじゃねーの?」「あいつ、火だろ」「これ水……」「誰か止めろよ……」「お前が行け」「お前こそ行け」「誰かいけよ、これ以上はやばいだろ」


「まずい……」


 ジジイが顔をしかめた。

 左腕で顔を隠している。

 チャンスか……!?


 ここしかないか? 行けるか。いや、行けるかじゃない。行くしかない。


 剣を放り投げた。身軽になる。

 囲みが甘くなった後ろを駆け抜けた。

 襲ってきた連中は唖然としている。

 まさか逃げるなどと思っていない様子だった。


 その一瞬だけが貴重だった。


 倒れるルイちゃんを引き出した。

 アイカがこっちに来た。

 ルイちゃんを抱きかかえ、アイカを背負う。


 俺たちは逃げるしかない。

 

 俺の体が二人の血にまみれる。

 治してやりたいのはやまやまだが、今はそうはいかない。


「な、治、して……」

「いったぁい……」


 二人が呻く。

 なまじ治るのが分かっているだけにつらいが分かる。


「少し黙ってろ!! 来てやが――!?」


 直観だった。

 頭を下げた。


 剣が擦過する。数本、髪が切られた。

 マザイルとかいうチビだ。


 剣を振りぬいていた。 

 頭を下げなければ、首が飛んでいた。


 足が止まる。

 崩れそうになる体勢の中、マザイルの剣は冴えていた。


「セイッ!!」


 横なぎの攻撃にルイちゃんを抱きかかえていた左腕を、防御に回した。


 腕が切り裂かれる。

 剣はない。

 二人を助ける段階で捨ててしまった。


 ()でマザイルの剣を受け止める。

 血がドバッと出た。

 深い。

 深すぎる。


 すぐには治らないし、左腕はもう使い物にならない。


 ルイちゃんが両腕で俺の体にしがみつく。

 足が使えないルイちゃんの機動力は、俺に依存している。


「くっ――そぉぉぉ!!」


 痛みが大爆発する中、マザイルの剣を避ける。

 避けきれないけど。

 頬が切れたけど。

 

 ゾッとする痛みだ。

 ジンジンするとかそんなレベルじゃない。

 でも、腕の方が痛いか。

 そうだよな。


 左腕を振った。

 血がマザイルの目に入った。


「あっ、いてっ……!」


 目に血が入って、マザイルの動きが数瞬止まった。

 その隙に走り出す。


 だが、マザイルが俺を止めていた時間も無駄ではなかったようだ。


 他の奴らが後ろから追いついていた。


「アルカス、イート! 決めろ!」


 ジジイが命令を下した。

 無情にも剣が振り下ろされた。


 頭だ。

 もう、止まって見える。


 ゆっくりなものだ。

 さっきまで滅茶苦茶早い剣だったのに。


 でも、俺も動けないけどさ。

 あぁ。

 二本の剣が俺の頭を捉えようとしている。

 

 あれは防げない。

 左腕は上がらないし、右腕にはルイちゃんが収まっている。


 後ろのアイカは痛みに呻いて、どうにも使えない。

 ルイちゃんだって、太もも貫かれて満身創痍だ。


 死んだ。


 何もできず死ぬ。

 クラスの皆の仇を討つまでもなく、俺は死ぬのか。


 ごめん。

 そんな風に、減速する時間の中で謝った。


 俺、もう駄目みたいだ。

 こんな風に死ぬなんて。


 ごめん。役に立たなかった。

 なんで皆が死ぬ羽目になったのか、暴くことすら出来なかった。


 済まない。

 

 俺は死ぬ。

 このまま二本の剣に頭を砕かれ、脳漿をぶちまける。


 その後、アイカとルイちゃんも死ぬ。


 と、思った。


 再び時間感覚が正常に戻った時、後ろから俺を追い越す奴が二人いた。


 一人はハゲ。一人は顔中に傷を負ったおっかない男。


 斧と剣持ちだ。

 二人で同時に俺の目の前の男を止めた。


 スキンとカルベラだった。

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