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幕間3

今日は二話投稿。

こっちが一話目

 結城元気を捕縛、もしくは抹殺の命令を受けている男女七名がとある町の一室に集まっていた。


 時刻は夜。


 明かりが一つもなく、室内は漆黒に包まれていた。

 誰も口を開かないが、心に思っていることは一つだろう。


 レイが遅い。


 約束の日時になっても現れない。


 かつてこんな事はなかった。


「なぁ、レイの野郎。遅くないか?」


 禿頭の男がそう言った。

 すぐに老骨の叱咤が入る。叱咤というか注意だ。


「アブソリュートと呼ばないと怒るぞ。あいつは」

「あいつが勝手に名乗ってるだけでしょ。自分は貴族に生まれるべきなんだー、だのなんだの。腕は確かだが、あいつの言っていることは訳分からねえ。勝手にアブソリュートなんていう姓を付けるなんて、どうかしてると思いませんか? 隊長」

「そうはいってもだな……。本人がそう名乗っている以上、そう呼んでやらんと……。機嫌が悪くなると面倒ではある。黙って、そしてアブソリュートと呼んでやれ。アイツがいなくてもな」

「へいへい」


 禿頭の男はそれっきり黙り込んだが、他の連中がしゃべり始めた。


「それにしても、アブソリュートは遅すぎませんか? もう一時間は待ってますよね?」


 かつて、洞窟を水魔法で洗い流した女だ。

 物腰こそ優しく装っているが、声音は少し低い。

 アブソリュートの遅刻に憤慨しているのか。


 老骨はそれぞれ喋り始めた部下に頭を悩ませる。


 一時間も待っていればこうなっても仕方がない。

 むしろ持った方だろう。


 老骨は放っておくことにして、窓の外を見た。

 誰も居ない。


 アブソリュートはまだ来ないのか。

 貴族を自称するくらいの男だ。


 それくらいはやってのけてしまうのか。

 いや、そんな事はない。


 あいつは時間にうるさいくらいの男だったはずだ。

 毎回会議には遅れず来ていたし、何かあれば手紙でも寄越して連絡していた。


 おかしい。

 圧倒的に、おかしい。


 連中の態度も変わってきた。


「まさか、死んだのか?」


 その一言が、部屋の中に冷水でも打ったかのように静かになった。

 室温が下がったようにすら思える。


 禿頭の男がそれを遮った。


「まさか、剣術レベル6だぞ? このレベルはなかなかいない。若いが、レベルだけは確かな男だ、ぞ……」


 言葉尻になるほど、男の声は小さくなっていった。

 根拠がないのだ。

 アブソリュートがやられないという根拠が。


 周りがざわつき始めた。

 老骨は口を開いた。


「落ち着け。まだ、そうなったと決まったわけじゃない。もう少し待ってみよう」





 どれだけ時間が過ぎただろうか。

 数時間というレベルではない。

 数日が経過してもアブソリュートは姿を出さなかった。


 また部屋に集まって、会議を始める。


「アブソリュートは死んだ」


 老骨はそう結論付けた。

 便りがないのは元気の証拠なんていうが、これはおかしい。


 手紙の一通すら寄越さないとは、どう考えても異常である。


「事故ですかね?」

「それはないだろう。アイツは強かった。何かあった事だけは確実だが、殺されたと考えるのが自然だ。私たちは、蠱毒を追っているのだから」


 それを聞いて、部下の顔が歪む。


「せめて祈りをささげよう」


 全員で黙とうした。部屋の中が全くの無音になる。

 一分くらいそうしていただろうか。

 目をそれぞれ開けて、アブソリュートに別れを告げる。


 全員ベッドなどに座ったり、その場に立ったりと思い思いの格好になって、これからの事を議論した。


「アブソリュートはどこで死んだんだ?」


 議論の開始はここからだった。


「受け持ちはここから東だ。あいつは東で散った」


 老骨はそう答えた。

 東。ざっくりし過ぎだろう。


「東はマルサ。お前も行っていただろう。アブソリュートはどこらへんに言ったか分かるか?」


 禿頭の男が答えた。


「あぁー。そうだな。あいつはトトリに行ったはずだ。その辺りから色々と町を回ると言っていたが。別行動だったから、あまり分からないな」

「それだけでも十分だ」


 つまりトトリから近い順に、町を回った事になる。

 アブソリュートはそのどこかで死んだ。


「東か」


 老骨はつぶやいた。

 

「迷宮じゃないんですか? 蠱毒は冒険者になっているという事で、一致していますよね。アブソリュートは迷宮で蠱毒と遭遇、戦闘、その後死亡。これくらいが一番現実的じゃないですか?」


 水魔法を使う女の部下がそう言った。メルリアという。


「手厳しいな。メルリア」

「これくらいでしょう。あの子は調子に乗りまくっていましたから」

「……」


 ツンとした態度でそう言ってのけた。

 老骨は言葉を失いかけるが、何とか持ち直した。


「まぁ、確かに。その線が一番想像しやすいが。あとは、町の特定か」

「それこそ、順番に辿っていけば良いのです。トトリから順番に東に。あの子の単純な思考を読み取りつつ、東へ。東へ。そうすれば、蠱毒が待っています」

「待っているかは分からんが……」


 その通りかもしれない。

 蠱毒は移動している可能性も視野に入れつつ、東へ。


「東へ移動するという事で、異論はないか?」


 誰からも反対の声は出ない。


「まずは、トトリの町に行こう。蠱毒は目の前だ」

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