48 愚か者
その後、速攻で門を開けた。
スキンとカルベラが巻き上げ式の門を開けた。
そうすると怒号が響き渡り、騎士団と冒険者の群れが町の中に入っていった。
あらかじめ決められていたかのように、討伐隊は3方向に分かれた。
北、東、西。
その方向のオークたちを殲滅するつもりだ。
傷を治しながら、その光景をボーッと見ていた。
雷魔法を喰らい過ぎて、もう動きたくない。
本来なら俺も行くべきなのだろうが、後ろでこっそり休んでいる形だ。
十分に仕事はこなしたのではないだろうか。
俺たちの事は無視されて、どんどん門をくぐって騎士や冒険者が町の中に入っていった。
「今更、どれだけ助かるのか……」
町の男連中の多くは、町にとどまり、オークと戦う事を選んでいる。
オークは強い。
クラスも何もない、一般人では倒すことは難しいに違いない。
残った騎士団の数も少ないので、無傷で済んでいる事だけはないだろう。
スキンたちはほぼ無傷なので、全員が門をくぐり終えるのを確認したら、どこかに走っていった。
カルベラが「お前らはここに居ろ」と言った。
ツーベルクも「休んでいてください」と言って、先頭を走るスキンに付いて行った。
誰も居なくなった南門に背を預けた。
「あーあ……」
弱いなぁ。
俺。
結局、スキン達がいなかったら死んでたし。
何やってんだろう。
死ぬなんて思わずに、この仕事を受けたのに。
油断というか、見通しが悪いというか。
実力が判断しにくいというか。
俺って強いの? みたいな。
弱かったら、どうしたらいいんだよ。
前のアブソリュートだって絶対俺より強い。
なんだって、あんなに人間離れした奴らがこんなにたくさんいるんだ。
アイカとルイちゃんも俺の両隣に座った。
「ほれ」
傷を治す。
二人ともぼろぼろだ。
二人も顔を下に向けて、何も言わない。
「……死ぬところでしたね」
「かもな」
アイカが静かに言った。
ルイちゃんも頷く。
「オークの方が強いんだから、実際こんなもんじゃねーの? あいつらの腕の太さ見たかよ。スキンよりは確実に太いぞ。そんなやつらに、どうやって勝つんだよ」
「そうですね」
挙句、魔法を使う奴だっていた。
こんなはずじゃなかったのに。
もっと圧倒的に倒して、レベルを上げようとしていた。
でも俺は甘かった。
ちょっと上手くいったからって、調子に乗っていたのか……?
違うとは言い切れない。
寧ろ、調子に乗っていたさ。
余裕で一体オークをぶち殺せて、こんなもんかと。
この程度ならやれない事はない。
そうやって思った。
でも、違った。
それは一対一の話で、多対一の話ではなかった。
やはり数というのは、力だ。
こうやって苦戦を強いられたのも、俺たちがたったの3人しかいなかったからだ。
最初はすごくやばくて、死にそうで。
そうしたら、スキン達、凄腕が5人も来た。
それで生き残った。
要は、援護があったからだ。
それも質の高い援護だった。
瞬く間に、自分たちより数の多いオークたちを蹴散らしていた姿には、感動すら覚えたほどだ。
スキンも、カルベラも、ルインも、ツーベルクも、ナツも。
俺たちとはレベルが違う。
これからの事を考えなくちゃ。
でも頭が重い。
嫌だな。
俺がリーダーなのは確実だけど。
今更だけど。
こいつらの命も俺次第って言うか。
重いよ。これは。
俺の背中には、俺以外の命が乗っかっている。
それってとんでもない事だ。
奴隷だからって、簡単に買ってしまったが、そういう事だ。
結局、俺の考えは浅い。
これからの展望も見えないし、どうしたらいいのか全く分からない。
最初からそんなものだが、今回の戦いでさらにそう思った。
「ん……」
遠くで戦闘音が聞こえる。
すごい音だ。
激しい戦いになっているだろう。
あちこちから聞こえる。
この戦いって、どっちかが全員死ぬまで続くのだろうか。
大将の首でも取れば終わるのか。
でも大将ってどいつだろう。
そいつ、スンゲー強そうだな。
俺たちにはもう関係ないが。
「ごめんなさい……。役に立たなかったわね」
ルイちゃんが悔しそうに言った。
否定はしない。だが、俺も役に立たなかった。
「兜、買おうか……」
「そうね……。それが良いわ」
ルイちゃんの価値観も変わったようだ。
兜は美しくないと言って、絶対被らないような決意を見せていたのに。
俺も、金属鎧にしたい。
皮だと貫かれる。
もっと安心して戦うには、金属じゃないとダメだ。
今回の戦いで、金貨100枚手に入る。
それで極上の金属鎧でも買おう。
「私は、ナツさんみたいになりたいなぁ……」
「そうだな。そうなってくれ」
アイカもあのレベルになれば、相当の自信がつくだろう。
勝鬨が上がった。
人間側の勝利だ。
「マジあり得ん……」
この戦いでは、多くの男性が犠牲になった。
圧倒的蹂躙によって、多くの男が犠牲になり、女子供が助かった結果になった。
騎士団と冒険者がへまを打って、町の内部にオークを侵入させたのが原因ではある。
というか、そのせいだ。
損害額と言ったら、金貨数枚何てレベルじゃない。
どの家族も誰かしら犠牲になり、騎士団は金を払わざるを得ない。
それがどうした。
という事で、関係のない俺とスキン達は当然のように、騎士団団長に金貨100枚を要求しに行った。
「愚か者どもが。誰がそんな約束をした。よしんば約束をしたとしても、貴様ら、町を破壊していたな? 合計金貨200枚寄越せだと? バカも休み休みに言え。貴様らの報酬とやらは、貴様らが行った愚行の補填に充てる。町を破壊しながら金を毟り取ることができると思っているのか? カス。死ね。私は忙しい。さっさと部屋から出ていけ」
騎士団団長から退出を強制され、他の団員が俺たちを睨む。
確かに、町を破壊した事は事実だ。
言い返すことができず、すごすご出て行こうとすると、「待て」と言われた。
「まさか、何もせずこの町から出て行こうなどという気ではないだろうな? 復興作業を手伝って行け。破壊者ども」
ぐぅの音も出せず、騎士団本部から出て行った。
「しばらくは、この町に滞在するか……」
冒険者ギルドに成功報酬の金貨一枚。3人分で計三枚受け取って、その辺の宿に泊まった。
どれくらいかかるんだろうか。
見当もつかないな……。
感想待っています。




