47 上には、上がいる
俺たち3人は武器を抜いて、その場に立ち止まざるを得なかった。
オークたちの数が多すぎる。
やはりというか、オークたちは門を守っていた。
この分だと他の門も守られているだろう。
数は目算で10以上はいる。
俺たちはたったの三人。
勝利は、できない。
奥にいる軽装のオークが大声を出した。
命令を出しているのだろうか。
その声に従って、数体が一斉に俺たちの方に来た。
5、6体はいる。
ていうか、6体。
オークの波にしか見えない。
それぞれ片手直剣を持っている。
さっきまで見てきた他のオークとは武装の精度が違う。
綺麗だし、実用的なものばかりだ。
ちゃんとした鎧を着ているし、生半可な攻撃は通らない。
「うぉぉおお!!」
先んじてきたオークと鍔迫り合いに持ち込んだ。
すぐに力で圧倒して、押し込んだ。
蹴倒す。
「オッシュラ……!?」
体勢が崩れる。剣を振り上げると、他のオークがサポートに入る。
両端から剣を振ってきた。
剣と盾で受ける。
ギリギリと嫌な音がする。
オークは太い腕を使って、全力で押し切ろうとしている。
だが、ひ弱そうな俺一人をなぜか押し切る事が気ない。
二体が困惑する中、さらに後ろから二体が来る。
もう6対1だ。
後ろのボケども。
さっさと動け。来た。来てた。
「せぁぁぁあああ!!」
「させないわよぉぉ!!」
二人とも一体オークを受け持つ。
何とか大丈夫なようだが、アイカはやばい。
すぐに逃げ始めた。
目の前のオークに対応しながら、大声を張り上げた。
「逃げんな、ボケ!!」
「だ、だって……! わっ!!」
サッとアイカが剣を避ける。
オークが追いかけ、剣を振る。
その繰り返しだ。
ルイちゃんは対等に戦っている。
だが、兜がない。
くそ。つけさせるべきだった。
防御している割合の方が多い。
棍棒で防ぎ、なんとか反撃の隙を伺っているが。
オークは頭ばかり攻撃しようとしている。
ルイちゃんは兜を付けていない。
弱点を突いて、突いて、突くまくる。
ルイちゃんはたじろぐ。
「や、やば……! た、たすけ、たす、け!」
まずい。
どっちも役に立ってない。
つーか、死にそうになっている。
それに、あの後ろにいるローブを着たオーク。
杖を持ち出した。
雷球が浮かんでいる。
ゾクッと背筋を上るものがあった。
雷魔法だ。
オークは杖を差し出す。
照準は俺。
まっすぐ飛んできた。
すさまじい爆音とともに、雷球が飛来する。
避け――!
バカァァン! みたいな音が体から聞こえた。
直撃した?
どうなった?
俺どうなってる?
立ってない、倒れてる。
全身が引きつってる。
筋肉が勝手に収縮と弛緩を繰り返す。
まずい。直撃している。
マヒした。動かない。
ブスブスと俺の体から煙が上がっている。
盾。
盾は持っているか。
持ってる。
治癒の盾を発動。
体が治る。はた目からは分かりにくいが、治っている。
しかしオークは待たない。
さっきまで俺の目の前にいたオークが、剣を振りかぶる。
なんとか盾を動かして、防御する。
「オオッシュ!!」
振り下ろされる剣に合わせて、盾を突き出した。
ガツンと当たる。
鉄と鉄がぶつかる衝撃。
オークが舌打ちする。
俺が立ち上がる。
オークは俺を蹴った。
俺は倒れた。なにすんだ。バカ。立たせろ。
また立とうとしたが、オークは俺を蹴倒す。
地味に痛い。
だんだんイラついてきた。
「火槍」
火槍で牽制しつつ、立ち上がった。
牽制というか、一撃必殺になった。
「ガラシュ……」
薄気味悪い声がしたと思ったら、また雷球が飛んできた。
「がっ……はっ……!?」
今度は倒れなかった。
また魔法かよ。
あいつ。あのリーダー格。
数体に囲まれながら、魔法を使っている。
何て臆病な奴だ。
超糞野郎だ。
誰かに守ってもらいつつ、魔法を使わせるなんて、超ずるい。
火槍の直撃を受けて、一体オークが昇天している。
体が燃え盛り、のた打ち回っている。
あいつは死んだ。
前衛はあと5体。
後衛はあと7体。
3体12?
なんだこれ。
最初から終わってるだろ。
後衛からさらに三体俺に向かってきた。
雷魔法を使うオークの指示だった。
俺を優先的に殺せと言っている。
多分だけど。
身振り手振りで、俺を指さしている。
これで俺の受け持ちは5体。
アイカは一体。ルイちゃんも一体。
俺、死ぬかも。
オークAが剣を突く。
ブロック。
オークBも来た。ブロック。
下がる。ブロック。
もっと下がる。ブロックブロック。
ブロック。ブロック。
終わらない。
反撃できな、ブロック。
ブロック。
「オッシュラバラグダ!!」
肩をかすった。痛い。
治癒の盾を発動。自動で治る。
けど、出血した分は戻らない。
また剣がかすった。治す。
もう余裕がない。
雷魔法も飛んできた。
直撃した。
体がびくんびくん震えた。
「かはっ……」
どこからか血が噴き出した。
剣が突き刺さっている。
何歩か下がった。
剣をめちゃくちゃに振り廻した。
オークが下がった。
「いってぇぇぇ……」
叫ぶ元気もない。
腹に刺さっていた。
さっき。マジかよ。治癒の盾が無かったら、どうなっていたんだ。
それでも、深いし、超痛い。
もう意識がもうろうとしているし。
血も失った。
なんだよ。くそ。
また、雷魔法だ。
ズガァァン、みたいに鳴って、俺に直撃した。
体中から焦げ臭い香りがする。
膝をついた。
倒れてたまるか。
オークが走ってきた。
けど、そのオークがどこかに飛んで行った。
ルイちゃんだ。
体当たりで吹き飛ばした。
そのままそのオークと戦っている。
だが、まだ4体いる。
「こ、こっちだ……!!」
アイカが怯えながら叫んだ。
一体のオークが振り返った。
そこには血まみれになっているアイカがいた。
オークが地面に転がっている。
死んでいるのか。
一体倒したみたいだ。
オークが激高した。
アイカに行った。
「や、やっぱくんな……」
アイカが逃げる。
でも、遅い。
斬られているし、痛いんだろう。
でも俺の受け持ちが3体に減った。
俺は立ち上がる。
「うおおおおおおお!!」
気力を振り絞り、立ち上がった瞬間に雷魔法が飛んできた。
体から黒煙が上がった。
もう、だめ。
痛い。を通り越している。
訳わかんない。
盾を手放した。
剣も無くした。
立ち尽くす。
オークが剣を振る。
倒れながら、避ける。
やばい。剣だけでも。騎士剣を手に取って、転がる。
「癒光……」
全身が輝いた。
全身治療型のヒールで、俺の体を治す。
雷魔法はさっきから何回喰らっているか分からない。
早すぎて避ける間もない。
でも、避けれなくもないんじゃ?
あいつは何か言ってから絶対、雷魔法を使っている。
ルーチンみたいなものだ。
雷魔法を使うためのトリガーみたいな。
俺もある。
技名はイメージを起こしやすい。
あいつは、雷球をオーク語であらわしているに違いない。
魔法使いのオークが口元を動かした瞬間、地面を転がる。
次の瞬間には、隣に雷球が飛んできていた。
「オッ!?」
避けられたことにオークは驚いた。
ざまぁみろ。
雷球は昔、たくさん見た。
それでも他のオークが剣で切りかかってきた。
こいつらのせいで、あいつを殺せない。
3体になったオークが連携して、俺に攻撃を加える。
「あぁ……!!」
ルイちゃんだ。
剣でぶっ叩かれている。
横っ腹だ。
「ぬっぅぅん!」
何とか持ちこたえた。
棍棒を振り廻す。
アイカも何とか生きている。
避けるだけで精いっぱい見たいだ。
それでいいが、つーか、おせぇんだよ。
「坊主!!」
スキン達がやっと来た。
血まみれになっている俺たちを見て、スキンが叫んだ。
「カルベラ!!」
カルベラが大きな剣を抜いた。
獰猛そうなその顔に、数体のオークがしり込みした。
「バララダガグジャ!!」
俺の前から二体のオークが、スキンのもとに向かった。
護衛のオークも全員、スキン達のもとに向かっている。
バカが。
間抜けが。
俺は死んでないぞ。
残り一体になった目の前のオークが俺に止めを刺そうと、剣を振りかぶる。
そして、一気に振り下ろした。
倒れている俺はさらに転がる。
ごろごろ転がる。
無様だといわば言え。
無様だろう。
でもこうしないと避けられない。
騎士剣を握り込んだ。
立ち上がりざまに一本突き。
オークは避けた。
俺は立ち上がった。
そして、一気に踏み込んだ。
「縮地突き!!」
距離を詰めた。一直線にオークの喉元に剣を突き込もうとした。
これもオークが一生懸命、首を傾けて避けられた。
そのまま剣を振る。
剣はオークの首の横にある。
「撫で斬り!!」
真横に振られる。
オークがしゃがんだ。
俺は蹴り上げる。
顎だ。入った。オークの牙が折れた。
「フゲッ……!」
さらの回し蹴り。
オークの顎を捉えた。
身体能力が高い俺の素人キックは、オークにも通じた。
オークは泡を吹いて倒れた。
横からナツさんが来た。
俺の後ろを通り過ぎ、ルイちゃんの加勢に入った。
一瞬だった。
すれ違いざまに、首筋にダガーを突き込んだ。
鮮やか。
それしか言えない。
オークは目を白黒させながら、死んだ。
「あ、ありがと」
ルイちゃんがお礼を言い切る前に、ナツさんはアイカの方に行った。
アイカは倒れていた。
やばい。
「ツーベルク!」
ナツさんが叫んだ。
すぐに矢が飛んできた。
オークの肩に刺さった。
オークは剣を落とした。
アイカは必死に下がって、難を逃れる。
短剣を拾って、真っ先に俺の所に来た。
「な、治して……」
その瞬間、モゴモゴオークの口元が動いた。
雷球だ。
狙いは、アイカ。
「ボケが……!」
アイカの肩を押す。
アイカが「キャッ」と可愛い声を出した。
俺は、また雷球を喰らった。
視界が明滅する。
よく意識があるもんだ。
さっさと倒れたい。なんでこんな苦しい思いをしているのか。
「ユウキさん!」
アイカが悲痛な叫び声を出す。
俺は倒れる前に、剣で体を支えた。
膝ががくがくする。
生まれたての小鹿のようだ。
またオークの口が動いた。
俺が言う前に、アイカが動いた。
俺を押し倒す。
ズガァァンと後ろの建物に、雷球が当たった。
真上を通り過ぎた。
怖い。
二度と喰らいたくない。
スキンが来た。
俺とアイカを引っ張る。
オークの口がもごもご動いた。
「来る……」
俺の小さな警告の瞬間に、戦士カルベラが来た。
俺たちの壁になって、雷球を受けた。
バリバリと帯電しているそのさまは、鬼神そのものだ。
「かぁぁぁ、中々痛ぇじゃねーかよ」
オークは驚いたように、再度雷球を撃った。
カルベラは避けない。
俺たちの壁になる。
カルベラが少しだけ硬直した。
びくんと一瞬だけ震えた。
「ユウキ。あれやれ」
ドスのきいた声で、カルベラがそう言った。
あれ、と聞いただけでピンときた。
すぐに魔法を使った。
「閃光」
凄まじい光が、周りを襲う。
視界では、カルベラが走っていた。
オークは目を瞑っている。
どうなったのか。
オークは目を開いた。
雷球を撃つ。カルベラは避けない。避けれない。
びくんと硬直して、カルベラは杖で殴られた。
殴打に次ぐ、殴打だ。
カルベラは避けない。わざと喰らっているようにすら見える。
薄気味悪い声が聞こえた。
「爆発……」
バッとカルベラが下がった。
咄嗟の事でオークの動きが固まる。
魔法使いオークに赤黒い塊が飛んで行った。
さっきみた爆発する奴。
ルインの魔法が、魔法使いオークに飛んで行った。
着弾後、大爆発した。
地面が巻き上がって、カルベラを巻き込む勢いだった。
だが、爆炎の煙の中からオークが這い出てきた。
ローブが半分燃えているが、今脱ぎ捨てている。
かなり焼けただれているが、それでも大丈夫そうだった。
「うぃうぃうぃ、やるな……」
その声を聴いた、オークがルインに杖を向けた。
しかしツーベルクがそれを許さない。
矢をすぐに放った。
オークの腹だ。突き刺さった。
オークはよろめく。
またツーベルクが矢を放った。
今度は掌を貫いた。
オークは杖を落とした。
後ろにいたスキンが走り出した。
斧を持ち上げ、すごい重量感でオークの方に向かう。
オークが雷球をスキンに向けた。
発射されたが、カルベラがまたしても盾になった。
カルベラが倒れるが、それを踏み越えてスキンは走る。
斧を真横の振った。
オークが腕でガードしようとした。
でもスキンの力は尋常ではない。
ファーストジョブ、戦士。セカンドジョブ、重戦士だ。
生粋の近接戦闘。
そのパワーあふれる一撃に、オークはそれだけで腕を斬り飛ばされた。
オークが絶叫する。
ツーベルクが矢を放つ。
ナツがいつの間にか、後ろからオークを刺し貫いた。
「オゴッ……」
スキンが肩口に斧をたたき込んだ。
倒れたいたカルベラも、スキンの後ろから剣を突き出していた。
タフネスが凄い。
俺は動けないのに。
そこまでだった。
スキン達一向に南門を守っていたオークたちは全滅の憂き目にあった。
感想待っています。




