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41 移動

 ルイちゃんと行動を介してから数日。

 というか5日目。


「……ッ」


 ルイちゃんが悩ましい顔をして、ギルドのソファーに座っている。

 いつも通り、クラスに就くための部屋でルイちゃんは唸っていた。


 今日、ルイちゃんのレベルが10になったところで、ギルドに赴き職業に就くべく、マーシャさんに推奨を持ってきてもらった。


 ルイちゃんは鍛冶師になりたい。

 だが、ルイちゃんはその乙女の精神以外は、とても心優しいものだ。


 この数日でそれは分かっている。

 明日にはアイカの故郷へと行って、オーク共を皆殺しにする依頼も受けている。


 それを秤にかけているのだ。


「る、ルイちゃん? どうかしたんですか? 鍛冶師にならないんですか?」

「……ユウちゃんはどう思うの?」


 アイカの声掛けを無視して、ルイちゃんは俺にそういった。


「鍛冶師もアリだ。だが、それでは戦力になり辛い。それ以前に――」

「そうよね」


 鍛冶師については聞いてきた。

 鍛冶をするにもタダじゃない。

 専用の工具もいるし、その敷地、素材。

 

 手に入れる経路も無ければ、金もない。


 現実的に言って、ルイちゃんが鍛冶師になるメリットはない。


「鍛冶師は非現実的だ。意味がないと言っていい。今まで言わなかったが、やっぱり俺は戦士になってほしい」


 ルイちゃんはそれを聞いて、渋い顔をする。

 鍛冶師という役職にそれなりの思い入れがある。


「……そうなのよねぇ。鍛冶師になっても何もできないのが実情なのよね。困ったわ」


 ルイちゃんは本当に困った様子だ。

 夢がかなうというのに、それが現実的な問題に阻まれているのだから仕方がない。


「でも、30レベルになる頃にはまた違う風になってるんじゃ?」


 アイカがそうやってフォローを入れる。

 どうかはしらんが、そんなに金持ちになっていると良いが。


「セカンドジョブで鍛冶師ねぇ。贅沢の限りだわ」


 ルイちゃんはため息一つに、マーシャさんに選択を告げた。


「戦士で良いわ。確かに戦場に鍛冶師は不要よ。明日、あさって。その先の事もあるわ。今は無難に戦士になって、次の機会を狙いましょう」


 マーシャさんは粛々と手続きを行い、ルイちゃんを戦士にした。

 水晶にルイちゃんの情報が羅列された。


「おぉ……! 槌術だ」


 レベル1の槌術がそこにはあった。

 ルイちゃんはこの瞬間から、槌を使う事に長ける。


「やりましたね。ルイちゃん。念願のスキルですよ!」

「えぇ。戦士になって悪い事ばかりじゃなかったわね」


 ひとしきり喜んで、ギルドを出て行った。

 目の前の宿に戻って、ルイちゃんに礼を言う。


「悪いね。ルイちゃん。戦士になってもらって」


 定位置のベッドに腰掛けて、そのまま寝転がる。

 部屋はロウソク一本だけで、薄暗い。


「いいのよ。戦士だって悪くないわ。鍛冶師には次にでもなるわよ」

「そう言ってくれると助かる」


 ルイちゃんは観念したような声だ。

 もう終わった事だと割り切ったのだろうか。それはすごい事だ。


「私はルイちゃんは絶対鍛冶師になると思ってました。夢みたいなこと言ってましたし」


 掘り返さなくてもいい事をアイカは言う。


「いいのよ。ドワーフの寿命は長いの。次の機会はすぐにでも来るわ。ユウちゃんやアイちゃんと行動していれば、すぐよ」


 ルイちゃんが苦笑いした。

 無理しているのだろうか。


「ルイちゃんいくつなんですか?」

「17よ」


 同い年なのかよ。

 全然見えなかった。


「そ、そうだったんですか……。全然そうな風には見えませんでした」


 純真無垢であるところのアイカが無粋にもそう申し上げる。

 ルイちゃんは起こるかと思ったが、一笑いするだけで許してくれた。


「150歳くらいまでは生きるから、十分の一程度しか生きていないのよ。まだまだこれから。子供ね」


 見た目からまったくそんな風には見えない。

 40歳超えた歴戦のおっさんだ。


 それだけは言わないようにしながら、ベッドに身を沈めた。

 迫りくる脅威ルイちゃんを退けつつ、就寝した。



 

 オーク討伐を明日に控えて、俺はこの町を離れざるを得なくなった。


「戻ってきますか?」


 宿の看板娘であるところのオルガがそう問うてきた。

 

 しかし、これだけは分からないとしか言えない。


「死んでるかもな」

「縁起でもない。まぁ、頑張ってきてください」


 オルガはそう言って、仕事に戻っていった。

 意外にドライだ。

 今生の別れになるとは思っていないようだ。


 乗合馬車がある場所まで移動しながら、アイカやルイちゃんが聞いてきた。


「もう戻ってこないんですか?」

「帰ってこない気?」


 こういうことである。

 俺としてはあまりこの町にとどまるというメリットが少ない。

 ような気もする。


 微妙すぎる。


「アブソリュートの強さを考えると、俺たちでは技量不足だ。この町にとどまって、追っ手の手がかかった場合、勝てない可能性が高くなる。今は雌伏の時だというのが、先の件での俺の見解だ」

「それで?」


 ルイちゃんがあくびしながら聞いてくる。

 

「逃亡を繰り返しつつ、限定奪取を使って強くなる。これも視野に入れるという事だ」

「難しくないですか?」

「そうだな。難しい。だが、やらないといけない」


 3人で右に曲がって、乗合所が見えてきた。

 すでに数組の冒険者が軒を連ねている。

 彼らもオーク討伐を耳にして、今日移動しようとしているのだろう。


「ワタシはどっちでもいいわよ。リーダーはユウちゃんなんだから。従うだけね」

「私もそうなります」


 殊勝な心がけを聞いたところで、乗合所の馬車に乗る手続きを済ませた。



 ここから半日の場所に、同じく冒険者ギルドのある割と大きめの町がある。

 迷宮も近くにあるため、人が集まる。

 迷宮から魔物が出ないようにしないといけないのだが、それに失敗したため、アイカの村は滅んだ。


 アイカのせいと言えなくもないが、長い目で見れば冒険者が粗末な仕事をしていたからともいえる。

 定期的に一階層のオークを討伐しそこなったせいで、近くの村々は無くなってしまったのだ。


 迷宮があるのは、それなりに理由があるらしいが、俺は知らない。

 知る必要もないが。


「で、おっさん。久しぶりだな」

「坊主もな。随分な大所帯になってるじゃねぇか」


 馬車の荷台には現在二つのパーティーが乗り合わせている。

 一つは丸坊主のおっさんこと、スキンである。

 今回は他の仲間も同行して、オーク討伐に精を出すという事だ。

 見るからにやばそうな戦士や、狩人。盗賊。魔法使い。多種多様である。


 こういうパーティーを作りたいと思うのは俺だけではないはずだ。


「俺ん所は聖職者がいなくてな、坊主を誘ったんだが。もうそれもダメみたいだな」


 スキンは残念そうな顔で、仲間を紹介した。

 適当に返しつつ、久しぶりの再会に話に花が開く。


「光の加護なら他を当たってくれ。回復だってタダじゃねーんだぞ。前の分の金取ってやろうか?」


 聖職者の数は少ない。

 光魔法の使い手が純粋に少ないのだ。


 それと聖職者協会が、新人教育にあまり精を出していないという事もある。


 聖職者という価値をさらに高めたいがために、入会条件を極端に引き上げる。

 要は金だ。


 金がなければ魔法を覚える事は出来ない。

 金貨一枚あればいい話ではない。

 百枚単位だ。


 ビックリ仰天の価値である。

 しかし、それだけ光魔法には需要があり、付加価値が存在する。


 それをなくさないために、聖職者協会はあまり聖職者を輩出したがらない。


 歩けば戦士に出くわすようなそんな世界ではないのだ。

 聖職者には価値がある。それだけだ。

 言わずもがな、聖騎士にもだ。


「そりゃねーぞ。あの時はコンビだったんだから、そういうのは無しだぜ。第一、今更なんでそんなこと言うんだよ」


 俺がその時、光魔法の価値に気付いていないからだとは言えない。


 後ろからはごついおっさんたちが俺の事を見ている。

 聖騎士だと聞いて、珍しそうにしているのだ。ひそひそ声で「仲間に引き込め!」というのが聞こえる。

 スキンは困ったような顔をして、パーティーメンバーを抑え込んでいる。


 俺の後ろではアイカとルイちゃんが珍しそうに顔を合わしていた。


「ユウキさんが誰かと話してるなんて、かなりレアですね」

「やっぱり? ユウちゃん、私たち以外に話してるところあまり見ないから、ぼっちなのかと思ってたんだけど。似たようなものだったのね」


 ルイちゃんの失礼な言葉は無視しつつ、スキンの事を紹介してその場を流す。


「何かあったら、また助けてくれや。おっさん」

「今回はそうはいかんだろう。何か所かに分かれて討伐隊が組まれるはずだ。小僧たちは木端として扱われるが、実績のある俺たちは少しだけ前線に出される。この以来だって元々受ける気なかったんだぜ?」

「そうなのか?」

「こういうのは新人がやるもんだぜ。ギルド長からオーダーが来たから、渋々受けてんのさ」


 小人のギルド長を思い出し、さらに暗殺者教会とやらにアブソリュートの件を頼んでいたことを思い出した。

 これはあの町に戻らなければならないだろうか。

 情報は欲しい。

 あのギルド長にはもう一度会いたいな。


「ルイちゃんはおっさんには反応しないの? めっちゃガタイ良いよ?」


 毎晩俺のベッドに入ってきては、吹き飛ばされることを繰り返す張本人にスキンをけしかけた。

 何のことを言われているか分からないスキンは、首をかしげるだけだ。


「駄目。ワタシはユウちゃん一本よ」


 こんな事を言われる始末である。

 うんざりしながら抱き着こうとするルイちゃんを片手一本であしらった。

 アイカは後ろで生暖かい目で見つめているだけだった。


 そうして、半日で隣町まで運よく何事もなく到着した。

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