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39 復讐その2

「さて、じゃあ、アイカの復讐でもしに行くか」

「はへ?」


 翌朝、俺は起き抜けにそう言った。

 昨日のから考えていたが、それが一番いいと思ったのだ。

 このまま人殺ししたことを悩んでいるくらいなら、その一端である親殺しにも等しい不運に終止符を打つべきだと思った。


「えっと、何言ってるんですか?」

「ああ? あれだよ、おまえん家行って、周辺にいるモンスターを皆殺しにするんだよ」

「いやいやいや、あれですよ? 来たのオークですから。そりゃもう大軍勢ですよ? 周辺の町村も何個か無くなるほどの規模が来たはずです。どうしようもないですよ」

「知るか、ボケ。やる事ないんじゃ、こちとら」

「復讐はどうしたんですか」

「アブソリュートの死はまだ伝わっていない。はずだ。そうなれば敵の動きはまだ遅い。やれる事は矢っておいて損はない」

「いやいや、そうじゃなくて、何でそんな事するのって言ってるんですよ」

「え? 何? 仇取らないの? 親殺されたんだよね?」

「そうですけど……」


 アイカはあまり乗り気ではないようだ。


「そ、そうだ。それに私オーク倒したことないし、行って無駄死にだけはしたくないんで……」

「むっ、それもそうだな。ていうか、お前の親が死んだのいつ?」

「二か月くらい前?」


 そんなものか。

 それだと困るな。


「遠いの?」

「隣町。ていうか、やる気ですか? 討伐終わってるかもしれませんよ?」


 俺は唇を釣り上げる。


「いーや、終わってないね。お前の不運を舐めちゃいかん」




「ありますね」


 ギルドに行ってマーシャさんにオーク討伐の依頼がないか確認してもらった。

 すると隣町のギルドでたくさんの人を集めているという情報を掴んだ。


「オーク討伐の依頼です。先々月くらいに迷宮から多数のオークがあふれ出して、近くの村を蹂躙したらしいです。というより、しました。その報復という点で、今回の討伐隊が組まれています」


 俺はアイカを見て、「ほれ見ろ」と言ってのけた。


「一階層のオークですので、そこまで強くありませんが、繁殖力が高いため、かなりの多数となっていると予測されています。ですので、近隣のギルドにも応援要請が出ているので、どうです? やりますか?」

「いつやるんですか?」

「一週間後にはやる予定です。ここから半日もあれば行けるので、余裕を持っていけますね」

「ここの4階層オークが倒せれば、討伐は楽?」


 疑問がわいたので、マーシャさんに聞いてみた。


「そういう事も無いです。外に出たオークたちの群れは、付近のモンスターを制圧したみたいで、レベルが上がっていると予測されています。スキル持ちや基本戦力の増強が見込まれているので、あまり舐めてかかると死んでしまうかと」


 簡単にはいかない様子だ。

 確かに、迷宮内で共食い的なことをしている様子は一切ない。

 迷宮内のモンスターの強さはほぼ均一だ。


「この討伐隊も騎士団が主導ですので、冒険者は指示に従う形ですが、それでも良ければこれにサインしてください。前金は銀貨三十枚。成功報酬は金貨一枚で」


 前に盗賊団を滅ぼしたときと同じ値段だ。

 これが相場らしい。

 だが、金貨がもらえるとなれば話は別だ。


「俺とアイカが受けるので、二人分よろしくお願いします」

「分かりました」


 ギルドを出て銀行に向かった。

 お金を引き出し、財産を確認した。


「ん、金貨十五枚だ。また買いに行こうか」

「最低価格ですけど……」

「大丈夫だって、お前レベルはそうはいないから」


 それにお前がいる時点で、もう終わっているんだよ。

 金持っていこうが、持っていなかろうが、ろくな奴隷は掴まされない。


 豪華絢爛な大理石でできた、ノーブル氏の奴隷商館へ向かう。

 古びた街並みの中に一軒だけ立派なあの建物がそうだ。


 扉をくぐり、中に入るとスーツらしきものを着た青年が出迎えた。


「いら――ヒッ……!」


 青年はアイカを見るなり、奥へ引っ込んでしまった。「店長~~!!」と叫んで、ノーブルを呼んでいるようだ。

 少し待っていると居住まいを正しながら、品のいいオジサマが出てきた。

 ここの店長のノーブルだ。


「こ、これは、お久しぶりです」

「えぇ、この前は良い買い物をさせて頂きました」


 視線がバチバチぶつかる。

 ノーブルは若干の焦りを見せているから、優位は俺か。

 

 と思ったが、すぐにノーブルは表情を変えた。

 商魂モードというべきか。

 客に対して愛想のいい表情だ。


 やや気おくれしてしまった俺の負けだ。


「今日も戦闘奴隷を?」

「はい」

「予算は」

「金貨十五枚」

「またですか……」


 ノーブルはため息を吐く。


「金稼ぐのだって大変なんだ。ノーブルさんだって分かってるでしょ?」

「まぁ……。身を守って貰っている立場としては、中々で過ぎた真似はできませんね」

「それで、アイカを掴まされた訳だが」

「その辺りは、商売ですよ。獣人を金貨十五枚で譲るなんて、相当な破格だと思いますが」


 後ろに控えるアイカを見た。

 確かに力が強く、俊敏な動きを見せ始めている。

 アブソリュートの背後を取り、殺して見せた。


 金貨十五枚以上の働きをすでにしてもらっている。


「結果論だがな」

「そういわれると何とも」


 ノーブルは「こちらへ」と言って、奥の部屋に案内された。


「前回同様、男の奴隷で良いですか?」

「金貨十五枚でいるのか?」

「条件付きで」

「またか……」


 前回もアイカを掴まされた時、こういう条件を出された。


「今回の奴隷は何度もこちらに戻される問題児でして。最近またで戻りしてきたドワーフです」

「ドワーフ?」


 アイカが説明してくれた。


「鉄鋼高山に住んでいる一族のことですよ」


 知らんがな。


「そのドワーフがどうか?」

「秘密で。ドワーフも高価です。唯一鍛冶師のクラスになれる一族です。まぁ、まだ鍛冶師ではないようですが」

「という事はレベルは10を超えていない?」

「恐らくそうでしょう。30を超えているという事はありません」


 またクラスなしか。


「買われると一週間程度で戻ってくるので、困っていたんです。返品禁止という条件でドワーフを渡しましょう。武器もお付けします」

「買った」

「ありがとうございます」


 歩きながらアイカがしゃべりかけてきた。


「い、良いんですか? 結構なドワーフの方だと思いますが……」

「お前ほどじゃない。ドワーフとやらがどんなのか知らんがな」


 ノーブルは一つの部屋に行きついた。

 部屋に入ると鉄格子の奥には、何人もの男たちがいた。


 そこに一人だけ孤立している男がいる。

 というより、避けられているな。


「ルイーズ」

「あらん、なにかしら?」


 あ、やばいわ。


「買い主が来た。出ろ」

「ホント? 今回はどんな子かしら?」


 一人の男が出てくる。

 いや、男と言っていいのだろうか。

 やけに動作がくねくねしている。


 鉄格子から出てきた。


 身長は高くない。コボルとと同じくらいの150センチくらいだ。

 だが、尋常じゃない筋肉をしている。

 それと雰囲気というか、性別?

 ジェンダーフリーの時代だし? そういうのもアリかな? うん。人の趣味に口出すことなんてできない。


 男? 女? どちらともつかない奴が出てきた。

 ノーブルが紹介する。


「お前の買い主のユウキ様だ。挨拶しろ」

「あら、この坊や? よろしくねん。ルイーズよ。ルイちゃんて呼んでね」


 ルイちゃんは男だ。

 そのはずだ。


「あの、失礼とは存じますが、性別の方は……?」

「もちろん、女の子よ」


 



 ルイーズは男だ。

 だが、心は女だ。

 そんなルイちゃんのギャップに耐えきれず、パーティーに置くことができなくなって、ルイちゃんの値段は暴落した。


 他のパーティーは、ルイちゃんに耐えきれず返品したのだ。

 返品に次ぐ、返品。


 ルイちゃんは安くなり、俺に買われた。


「あぁん、もう。ユウちゃんたらカ・ワ・イ・イ~~~!!」


 見た目はむさいおっさん。

 ルイちゃんは俺に抱き着いて、頬ずりしてくる。

 身長差があり、俺の胸にゴリゴリとその硬い頬が当たる。


「ル、ルイちゃん……? 離れてもらえると嬉しいな……!」

「そんなこと言わないの! もうユウちゃんは照れ屋さんね」


 ルイちゃんのでかい顔を全力で押すが、あっちもあっちで抵抗してくる。

 離れる気が全くない。


 アイカは後ろで呆然としている。


「あの、迷宮、行かないんですか?」

「んま! こんな危ないところ行かなくてもいいのよ! ワタシたち女の子は安全な場所に居ればいいの! ちがくって?」

「え、そ、ん。そ、そう、です?」


 アイカはルイちゃんのギャップにまだ慣れていないようだ。


「いやいや、ルイちゃん。行くから。何のために転移石の前まで来てると思ってるの?」

「え~ん、怖いわぁ。辞めましょうよぉ。ワタシ、弱いの」


 とてもそうは見えない。

 筋骨隆々なその肉体に、その身にあった立派な金属鎧。


 兜は美しくないと言って、被っていない。

 立派なひげがお目見えだ。

 もはや髭なのか髪の毛なのか境界線がない状態だ。


 乙女を自称するなら、その髭を剃ってくれ。


「いや、困るから。もう金ないし。稼がないと宿にもとまれないよ? マジで」

「マジかよ。やべぇな、それ」


 ルイちゃんは甲高い声を出すのをやめて、見た目相応の野太い声を出した。

 こっちの方が似合ってるよ、ルイちゃん。


「ルイちゃん、ハンマーでいいの? 剣とかじゃなくていい?」


 ちょっとした手に出てしまう。気おくれしている。

 怖いよ。怖いよ、ルイちゃん。


「なぁにいってるの? ドワーフはハンマー使うなんて常識でしょ? ユウちゃんは面白いこと言うのね」

「そ、そうなんだ……。ごめんね。常識に疎くて……」

「いいのよん。そんなユウちゃんも可愛いわ」


 ルイちゃんはそう言って、迷宮に入った。

 今日は一階層のゴブリンだ。


「る、ルイーズさんは」

「ルイちゃん」


 アイカがルイちゃんに話しかけようとして、食い気味に遮られた。


「アイちゃん、ワタシの名前はルイーズだけど、愛称で呼ばなくちゃだめよ。 せーの、ルイちゃん」

「る、ルイちゃん?」

「そ、良くできました」


 アイカは気を取り直して、ルイちゃんに話しかけた。


「ル、ルイちゃんは鍛冶師なんですか?」

「やぁねぇ! そんなんだったら、金貨十五枚じゃ買えないわよ、流石に。まだ、クラスなんてないわ。まだ、ノージョブよ」

「そ、そうなんですか。私も、ちょっと前までノージョブでした」


 無職を連呼しなくてもいいと思う。

 迷宮を歩きながら、ゴブリンを探す。

 

「ルイちゃん、スキル無いの?」

「あるわけないでしょ! 困った子ね。先天的スキル持ちなんて、超珍しいのよ。ワタシがそんなレアな訳ないじゃない」

「その先天的スキル持ちって?」

「何? 知らないの? 生まれた時からスキルを持ってる人の事よ。とっても数が少ないのよ。ユウちゃんはどうなの? 何かスキルある?」


 するとアイカが気張って説明した。


「フヒッ、ユウキさん、割とすごいですよ。剣術でしょ、盾術でしょ、火魔法でしょ、光魔法も使えるんですよ」

「んまぁ! すごいわね! これは当たりのご主人様よ!」

「フヒッ、ルイちゃんは運が良いですね」


 アイカが運が良いというと、変な気分になる。

 だが、アイカの不運の事を知らないルイちゃんは、気分が良さそうだ。


「そうねぇ、その通りだわ。今までの人たちは口だけで、どうという事ない人ばかりだったから。ユウちゃんには期待しちゃうわ」

「そ、そう? まぁ、俺としてもルイちゃんには活躍して欲しいというか……」


 手をまごつかせて、ルイちゃんに目線を送った。


「冒険者経験はある程度あるわよ。任せなさい」

「おお……!」


 ルイちゃんの性格面は排除すれば、とてもお買い得ではなかったのではないだろうか。

 

「むっ! 来ましたよ」


 アイカがゴブリンに目ざとく反応した。


「あら、どうしたの? アイちゃん?」

「ゴブリンが来てるんですよ。臭いで分かるんです」

「あら、凄いわね。今までそんな事できる同業者にあった事ないわ」

「そ、そうですか? 嬉しいこと言ってくれますね」


 アイカは頭を掻いて、照れているようだ。


「言ってる場合じゃないぞ。来てる。二人とも準備しろ」


 アイカは短剣を抜いて、ルイちゃんは棍棒を構えた。 

 ルイちゃんの装備は本当はハンマーが良かったが、流石にそれは無理だった。

 一番打撃武器で安い棍棒を譲ってもらい、それで落としどころにした。

 その分、板金鎧でルイちゃんは武装している。


 俺はアブソリュートから奪った騎士剣を構えた。

 硬度のスキルがついた耐久性の異常に高い剣だ。


 良い物使ってやがったぜ。


 ゴブリンはルイちゃんの方に向かっている。

 ルイちゃんは歴戦の勇士の如く、その場に構えている。

 

「ふん!」


 ルイちゃんはゴブリンの剣を棍棒ではじく。

 

「ギャッシャ!?」


 すごい力だ。

 剣を弾き飛ばし、ゴブリンもそれにつられて体勢を崩している。


 ゴブリンは後退し、ルイちゃんと距離を取った。


「あん……」


 意味不明な声を出して、ルイちゃんが倒れた。

 俺はどうしたのかとルイちゃんに駆けつける。


「治して……」

「……ふん!」


 兜を付けていないルイちゃんの頭をぶん殴る。

 ルイちゃんは頭を押さえている。


「いったーい! なにするのよ、ユウちゃん!」

「うっせ! 何が、治して、だ! 怪我どころか圧倒してるだろうが!」

「何言ってんの!? 乙女が戦闘したのよ、治すのが筋じゃない!?」

「だから、どこも怪我してねぇだろ! このオカマ野郎!」

「誰がオカマだ、テメェ!!」


 ルイちゃんの激高に触れたみたいで、胸ぐらを掴まれて宙に浮いてしまった。

 

 すごい力だ。

 糞が。なんで俺が立場逆転してるんだ。


 俺はルイちゃんの手首を本気で掴む。


「ルイちゃん……!」

「あぐっ……! ユウちゃん……! 力が……!!」


 ルイちゃんの俺を掴む力がだんだん弱まる。

 俺の握力に悲鳴を上げているようだ。


「ぐぅ、うおおおおおおおお!!」


 ルイちゃんはさらに俺を掴む力を上げてきた。

 まだそんな力があったのか。

 俺もマジで、骨を折るつもりで、立場を分からせるために本気で手首を破壊しようと、ルイちゃんの手首を握った。


「どっちが上か教えてやらあぁぁぁっぁあ!!」

「オカマ舐めんなぁぁぁぁ!!」


 もう俺たちは全力を出して、お互いを絞め殺し始めた。

 アイカはゴブリンを殺すべく、一人奮闘していた。

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