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36 刺客

 死亡者は何名か。

 10数人いたはずの冒険者は、俺たちを含めてたったの8名。


 カイセイがえっさほいさとコボルトの魔宝石を回収した。

 それを掲げて大声で下げぶ。


「ど・う・て・い、卒業だ~~~!!」


 よくこの雰囲気でそんなこと言えるな。

 俺たち以外の冒険者3人の顔は沈鬱だ。


 仲間が全員死んでしまったに等しい被害だ。

 それでもお前たちは運がいい方だ。

 実力もある。生きているだけましだという事を知れ。


「貴様ら、私を見ろ」


 バッと全員の顔が声の方向に向いた。

 誰だ。

 あんな奴は居なかった。


 それに格好からして違う。

 防具一つ身に付けていない。 


 適当な格好だ。

 そこらへんの住民が迷宮に迷い込んだような恰好をしている。


 だが、剣だけは立派だ。

 いや、それだけではない。


 服だけが彼を貶めている。

 高貴だ。


 金色の髪の毛も。

 ウェーブがかったその髪は、ヒエラルキー上位を思わせる。

 

 所作の節々から、生まれの違いをまざまざと見せつけられる。

 立ち姿、雰囲気、呼吸。


 すべてが違うと感じる。

 強い。


「あぁ!? だれだてめぇ! 分け前貰おうったってそうはいかねぇぞ! さっきまでいなかった奴には1銭たりとも渡す金は無ぇ!!」


 カイセイがデカコボルトの上から飛び降りた。

 ズタッと着地して、金髪碧眼の男を指さす。

 透き通るような白い肌だ。


 浅黒くない。

 汚れていないと言うべきか。


 やはり服と体のミスマッチが気になる。

 着るべくして着ていない。

 本来アイツが着るべき衣服は、他にあるように思えた。


 男は前髪を払い、侮蔑の表情でカイセイを見た。


「愚かな。私がそんなはしたない行動をする訳が無いだろう」


 男はシッシッと手を払い、カイセイなど相手にしていない。

 その行動はカイセイをキレさせるに十分だ。


「こんのクソ! アホ! 味噌っかす! 死ね! 死に腐れ! さっさと迷宮に食われろ! えっと、アホ! ボケ! なすび!!」


 語彙が貧困なカイセイの罵声は、やはりというか届いていない。

 そこで男は剣の柄に手をかけた。


 一気に緊張感が高まる。


「黙れ、下郎。誰が喋る事を許可した。我が名はアブソリュート。アブソリュート家の長子である」


 周りの反応を見る。

 だれもピンと来ていない様子だ。

 アブソリュート家がどうした。


 まだ罵声を浴びせ続けるカイセイを無視して、アブソリュートは話し続ける。


「見ての通り、私とおまえたちは違う。故に一回しか聞かない。心して聞け」


 ごくりと冒険者たちののどが鳴った。


 あいつの放つ殺気と言うか、雰囲気がやばい。

 今にも人を殺しそうな眼だ。


「この中に私の探し人は居るか?」

「……知る訳、ねーだろ!!」


 カイセイがロングソードを持って、ずんずんとアブソリュートに突き進む。

 あいつ。何やってるんだ。剣を収めろ。


 その時、ドカドカとザックが駆け寄って、カイセイを止めた。


「か、カイセイくん、マズいって……! 絶対貴族だよ。逆らったら殺される」

「はぁぁ!? アブソリュート家なんて聞いた事ねーよ!! 弱小貴族なんて俺たちと変わらねーっつーの!」


 その言葉が駄目だったのか。

 弱小と言う言葉が気にかかったのか。

 アブソリュートは声を低くして、カイセイに問いかける。


「貴様、今なんと……?」


 カイセイはザックの腕を振り払い、ガンを飛ばす。


「知らねーっつってんだよ! さっきから何なんだテメ―!! 俺たち戦って疲れてるから! そこさっさとどけ! この、カス!!」


 スラッとアブソリュートは剣を抜いた。

 美しい剣だ。やはり身の丈が違う。服装と装備の差がありすぎる。


「アブソリュート家を知らぬとは。やはり愚民。……ここもハズレだろう」


 そう言って、静かにアブソリュートは歩む。

 意識の隙間を塗ったような歩法だった。


 あっという間にカイセイとの距離を詰めた。


「死ね」


 フッと空気を切る音がした。

 アブソリュートの剣が振られた。


 ほとんど見えなかった。


 結果は明らかだった。


「カイセイくん……?」


 隣に居たザックが呆然として、カイセイだったものに問いかけた。

 空中に何か塊が飛んできて、俺の足元に落ちた。


 ゴロンゴロンと転がり、()が合った。


「カイセイ……?」


 俺は会話する。

 カイセイは口を動かした。地面から。一番低い所から。


「……! ……!」


 だが、カイセイには話すための空気が無い。肺が無い。

 その時、ドタン、と何かが倒れるような音がした。


 隣のザックが真っ赤になっている。

 まるで赤い液体を浴びたかのようだ。


 ザックはカイセイの体を揺する。


「カイセイくん……?」


 ザックは現状をどう思っているのか。

 俺はどう動けばいいのか。


 俺は視線をまたカイセイの頭に向けた。

 俺の足元に転がっている。

 俺はしゃがむ。


 頭を抱えた。


「は……?」


 俺はそういうしかなかった。

 は? なにこれ。

 死んでるの? 

 

 意味が分からな――。


「うわあああああああああああ!! カイセイくん!!」


 ザックはカイセイの亡骸を抱え上げ、どうすれば良いのかおたおたしている。

 すると俺と目が合った。


「な、治して! お、お願い! ユウキくん!!」


 俺は後ずさりながら、首を横に振る。


「む、無理だ……。治せる訳が無い……」


 もう、死んでる。

 腕の中のカイセイの目もすでに光が失われている。


「そんな事言わないで!! カイセイくんは死んで――!?」


 そこでザックの言葉が終わった。

 

「兜割り」


 アブソリュートの剣がザックの頭にめり込んだ。

 もう原形を留めていないほど潰れてしまっている。


「ぁえ……」


 それがザックの最後の言葉だった。

 兜から割られている。


 馬鹿な。金属製の兜だぞ。

 それをあの細腕で割ったというのか。


 ザックの体から力が抜け落ちた。

 ザックは倒れた。2度と起きる事は無い。

 それだけは分かった。


 後ろでドサッと言う音がした。

 ゆっくり振り返ると、メルが座り込んでいる。


 目からは涙が流れていた。


「カイセイ、ザック……」


 その言葉を聞いた瞬間、残りの冒険者が動き出した。

 3人一斉に切りかかっている。


「うおらぁぁぁ!!」


 一人が突出して剣を振り下ろす。

 アブソリュートに慌てた様子はない。


「斬り返し」


 振り下ろされる剣に、アブソリュートの剣が添えられた。

 そこまでだ。

 次の瞬間には凄まじいスピードでいなされ、斬り返された。


 冒険者は皮鎧を着ていたが、関係なく切り裂かれていた。

 腹を斬られたのか、そのまま起き上がる事はなかった。

 腹のあたりから血だまりが見える。

 それがどんどん同心円状に広がっていた。


 残りの二人がアブソリュートを挟んだ。


「一本突き!!」


 仲間の仇の思いを乗せた過去最高の一撃だった。

 それをアブソリュートは簡単に躱す。


 一歩だけ後ろに下がり、呟きざまに、剣が瞬いた。


「撫で斬り」


 左腰溜めから剣術レベル4の撫で斬りが、二人の冒険者の首を切断した。

 首が二つ宙を舞う。


 斬られた首の切断面からは、遅れて血が噴出していた。

 立ち上る血流を避け、アブソリュートが初めて能動的に動いた。


「縮地突き」


 後ろ手は崩れ去る二人の冒険者。

 その間を抜いて、アブソリュートが俺に迫る。


 咄嗟に抱えていたカイセイの首を放り投げた。

 剣を抜く暇はない。

 盾で、なんとか盾受(ブロック)


 凄まじい衝撃に襲われ、俺は二歩三歩と後退した。


「ほう、だが……!」


 アブソリュートがさらに俺との距離を詰める。

 アブソリュートは剣を引いた。


「二連突き」


 もうほぼ同時に攻撃されたとしか思えない。

 それほどの剣速だった。


 二連撃を辛うじて盾で受け止め、さらに地面に転がる。


「チッ、まぁいい」


 アブソリュートは、女の子座りして全く動いていないメルに近寄っている。

 メルはカイセイたちを見て呆然としていた。


 アブソリュートがメルの前に立つ。


「メル! 逃げろ!!」


 俺は剣を抜いて、走った。

 だが、アブソリュートは俺を歯牙にもかけない。


「一思いに逝け」

 

 アブソリュートはザックと同じく、メルの頭を割った。

 メルは抵抗すらしなかった。


「あああああぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」


 激情が俺を支配して、縮地突きでアブソリュートの後ろから串刺しにしようとした。


 だが、アブソリュートは何気なしに振り向いて、俺の縮地突きの剣に自分の剣を添える。

 これは、さっきの――!!


「斬り返し」

強固な守り(ライズガード)!!」


 がら空きになった胸にカウンターが激突した。

 鉄の塊を受けた俺の胸が、激震に軋む。


 皮鎧は裂かれ、肉もえぐられた。

 だが、骨は大丈夫だった。


 吹き飛ばされ、地面に這いつくばる。

 腕で懸命に体を支えて、何とか起き上がった。


「虫め。ゴキブリ並みの生命力だな」

「……治癒の盾(リジェネガード)


 盾術のレベル4の技を行使。

 魔法力を使わず回復できる盾術の貴重な回復技。


 切り裂かれた胸の傷が、徐々に治っていく。


「盾術、それにレベル4か。まぁまぁだな」


 チャンス。


「そういうあなたは、剣術ですね」


 アブソリュートは気分を良くしたような顔をして、高らかに宣言する。


「そう、私は剣術レベル6。愚民では到底到達できない領域にいる。貴様を切り裂いた斬り返し、少しでも見えたか?」


 本当に気分がよさそうだ。

 驕っている。

 勝者は自分だと既に思っているようだ。


 周りを見る。

 全員死んでいた。


 さっきまで死闘していた仲間たちは、骸となり、そのうち迷宮に飲み込まれる。


「貴様も盾術のレベル4。年の割には高い。先天的スキル持ちだな?」

「先天……?」


 どういう意味か分からないが、戦う態勢だけは整える。


「そういえばだが、先ほども言ったが私は人を探している。知らぬか?」

「……どういうやつか知らないので、どうとも言えませんね」

「おっと、それもそうだな」


 アブソリュートは反省の色なく「いけない、いけない」と、嘲笑の眼差しを送ってくる。


「しかしな、私も知らんのだよ。それがどこの誰で、男か女かという事もな」

「……探す気あるんですか?」

「なかなか言うな」


 アブソリュートは俺の傷が治っているにもかかわらず、攻撃する様子がない。

 それがどうしたと言わんばかりだ。


「秘密だから言えないのだが、どうもそいつは強いらしくてな。こうして殺して回っているのだが、どう思う?」

「……頭おかしいんじゃないんですか?」

「口が減らん男だ。傷は治ったか?」


 俺は感覚で傷の完治を悟った。

 盾を構えて、カットラスを引く。


「探している奴は、男か女かもわからない?」

「ん? あぁ、そうだな」

「何故そんな奴を探しているんですか?」

「それは言えんな。秘密だ。さっき言っただろう」


 アブソリュートはゆっくりと近づいてくる。

 その歩き方は、完全に狩るものの姿だ。


「俺、そいつ知ってるかもしれませんよ」

「……何?」


 アブソリュートの歩みが止まる。

 剣を俺に向けた。


「なぜ貴様が知っている。私たちですら知らない事だぞ?」

「洞窟」

「……」


 沈黙が場を支配する。

 アブソリュートの表情が少しだけ変化したのを俺は見逃さなかった。


「遂に、釣れたのか……!!」

「貴様が蠱毒だな……!」


 皆見ているか。

 居るぞ。

 目の前に、俺たちをこんな風にした奴らにうちの一人が。


 やる。やってやる。

 俺より強かろうが関係ない。


「お前には聞きたい事がたくさんある……! 捕獲させてもらうぞ……!!」

「私には聞きたいことなどない。捕獲の命令もあるが、私は貴様が気に食わん。死ね」


 同時に駆け出した。

 アブソリュートの剣を盾で受け止めた。

 次は力負けしない。


 技名を言う必要はない。

 何ていう事も無い。


「一本突き!」


 防具のないアブソリュートは避けるしかない。

 だが、余裕を持っての回避だった。


 俺は追いかけ、カットラスを振り回す。

 剣術レベル4の攻撃を持っても、アブソリュートにかする気配すらない。


「二連突き!!」

「はぁ……」


 やる気のない声とともに、アブソリュートも二連突きを放つ。

 俺の二連突きは、アブソリュートの二連突きに阻まれた。


「うおぉっぉぉぉおおおおおおお!!」


 剣を走らせ、アブソリュートの行動余地を削ごうとする。

 当たらない。

 だが、当たらないのだ。


 圧倒的な差がある。


 初めてザックやカイセイを見たときと同じ感覚だ。


 わけ隔たれたものがある。

 技術で勝ち目はない。


 やつは剣術レベル6。俺は4。

 技術的に勝ち目がないのかと言われれば、違うとしか言えない。


 これは戦闘経験の差だ。


 こいつと俺との間には圧倒的な経験の差があって、予知に近い戦闘をこいつはしている。

 俺の攻撃は見切られ、露として当たる事はない。


 不味い。


 それだけはいけない。

 俺は盾から手を外し、アブソリュートに放り投げた。


「おっと」


 アブソリュートはひょいと目の前に飛んできた盾を避けた。


「縮地突き!」


 裂帛の気合で作り出したすきに付け入る。

 左右どちらに出てくるか分からなかったが、右に賭けた俺の勝ちだ。


 アブソリュートは俺から見て右に避け、俺の縮地突きが空を走る。

 アブソリュートの腹を食い破ろうとした突きは、簡単に防がれ、返された。


「斬り返し」

 

 縮地突きは払われ、返す剣で俺は斬られた。

 

「ガハッ……」


 腹に横一文字が刻み込まれた。スッと赤い線から血がドバドバ出る。

 深い。傷が深すぎる。


 地面を転がりながら、残り二回しか使えない魔法を使った。


癒し手(キュア)……!」


 癒し手で斬られた腹を触って、治療を試みる。

 アブソリュートは余裕だ。


「盾が無ければ、光魔法か。無駄に多才だな、蠱毒」


 アブソリュートは俺に近寄ってくる。

 来い、来い、来い!!


 俺は負けた。

 そう見えるだろう!?

 

 違う!!


 条件は満たした!!


 限定奪取(リミテッド・スチール)が使える。

 あと、一つだけ。

 たった一つだけ満たせば、こいつの剣術を奪って逆襲してやる。


「ここで終わりだな、蠱毒よ」


 なにが、孤独だ。

 俺は孤独じゃない。

 31人いる。


 うずくまり、アブソリュートの位置は分からないが、感じる。

 居る。

 もうすぐ目の前だ。


 治った。

 いま、治った。腹はもう大丈夫だ。


 後はタイミング。


 これをしくじるな。

 全身全霊をかけた魔法だ。


 来い、来い、来い。油断しろ。勝者はお前だ。そして負けるのは俺だ。

 今だけ。

 この瞬間だけ。


 アブソリュートに動きがあった。

 空気を切り裂く音が、少しだけする。

 剣を振り上げている。衣擦れも聞こえた。


 ここだ。


閃光(フラッシュ)!」

「なっ……!?」


 閃光弾が俺とアブソリュートの間に飛び出した。

 そして、すぐに爆発した。


 カッと光り、空間内が閃光で満たされ、アブソリュートの目をつぶす。

 俺は這いつくばった状態から立ち上がり、アブソリュートにとびかかった。


「うぉぉおお!!」

 

 無様に蛙のように飛び上がり、アブソリュートに襲い掛かる。

 ジャンプして頂点に到達した瞬間、腹に違和感があった。


 熱い。


 それに地面に着地しない。


「愚かな。閃光くらい知っている。そんな子供だましが通用するのは、魔の者だけだ」


 アブソリュートは閃光を見切り、目を瞑っていた。

 そして閃光の最中に剣を突き出し、俺の腹を突き破った。


 俺はアブソリュートの突きだす剣で宙ぶらりんになっている。


「ああああぁぁぁああああぁぁぁぁ……!!」


 遅ればせながら、痛みが来た。

 内臓をぐちゃぐちゃにされて無事な訳が無い。

 今すぐに治療を。


「ひ、癒光ヒール……。なんでだ……」


 光魔法は発動しなかった。

 そうだ。

 閃光ですべての魔法力を使い果たしていて、これが賭けだったんだ。


 治癒の盾(リジェネガード)を……!

 盾を。……さっき捨てた。


「あああぁっぁあああああ……!!」

「五月蠅い奴め。少しは黙れ」


 まだだ。触れ。見ろ。

 俺は手を伸ばす。

 だが、すぐにアブソリュートの手に払われた。

 

 今の一瞬で奪えるわけが……。

 また伸ばす。触れ、目を見ろ。

 奪え。


「よこせ……!」

「何を言っている……?」


 俺はアブソリュートの剣を握る手を触った。

 いつかの再来だ。

 あの剣術持ちもこうやって奪った。


限定(リミテッド)――!?」


 目を疑った。


「がふっ……!?」


 その声は、アブソリュートの物だった。 

 アブソリュートの口から血が垂れる。


「ガハッ……!!」


 盛大に血を吐いた。苦しみに呻いている。 

 それもそのはずだ。


 アブソリュートの胸から短剣が突き出ていた。

 アブソリュートは剣を持っている気力もなくなった。

 剣から手を放した。


 俺は剣が突き刺さったまま、後ずさる。


「ぐっ……!」


 剣を引き抜いて、投げ捨てた。


「だ、誰が……!!」


 アブソリュートが後ろを振り向いて、激怒に激怒を重ねた。


「き、貴様ァァァァァァア!! 犬が! 私に触るなァァァァア!!」


 アイカは剣を引き抜く。


 その場で回って、獣人の激烈な威力で回し蹴りを叩きこんだ。


「ゴパァ……!」


 顔面をとらえられたアブソリュートは、鼻をつぶされ、盛大に血を吹き出す。


「……ッ!」


 アイカは体勢の崩れるアブソリュートの腕を取り、体全体を使って巻き付く。

 そのまま肘を極めて、折る。


「あぎゃあああああああああああ!!」


 アブソリュートが痛みに呻き、絶叫がこだました。


 アイカは飛び降りて、そのまま蹴りで膝を砕く。

 全体重を乗せて、乗るようにして叩き込んだ渾身の蹴りは、完全に膝の皿を割っていた。


「あああぁっぁぁっぁぁああ!!」


 立っていられないアブソリュートが拳を振り回す。


 アイカはサッと下に体を落として避けた。

 短剣を逆手に握り、アブソリュートの首に突き刺した。


 さらに流れるようにアブソリュートの背中に絡みつき、短剣で喉を掻っ切る。


「あごぉ……」


 切り口から血が出る。

 発声すらままなっていない。


 アイカは短剣を喉下に付きこんで、そのまま離れた。


 アブソリュートの喉には短剣が刺さりっぱなしだ。


 アイカは急いで俺の盾を持ってくる。


「早く」

「あ、ああ……」


 治癒の盾(リジェネガード)を発動して、腹の傷を回復する。

 盾を持たないと発動できない。


 ぐじゅぐじゅ言いながら腹の傷が収まっている。


 アイカに攻撃の連打を浴びせかけられたアブソリュートを見た。


「ぁ……! ヵヒュ……!」


 アブソリュートは必死に喉を押さえて、出血しないようにしている。

 そして俺を見た。


「ぁぉぅ……! ひぁぃぉおぉ!!」


 アブソリュートは俺の魔法を懇願しているに違いない。

 光魔法で直せと。

 

 あいつから情報は欲しかったが、もう駄目らしい。

 だが、復讐の一端は終わった。


「悪いな。魔法力がもうないんだ。自力で何とかしてくれ」


 俺は治癒の盾で自分だけ直して、アブソリュートに言い放った。


「安心しろ。お前の仲間もそのうち、ここに気付く。お前は死ぬために生きてたんだ。俺に殺されるために。いや、違うな。俺にすら殺されなかったか」


 ハッと吐き捨てて、アイカを抱き寄せた。


「わ、何するんですか」

「うっせ。黙ってろ」


 アブソリュートはアイカを指さし、何事かほざいている。


「ぉぁぇ!! なぇぃひひぇいふ!?」


 俺は鼻で笑った。


「なんて言ってるか分からないぞ。アブソリュート君」

 

 俺は立ち上がり、アイカの肩を借りる。

 その時、アブソリュートは地を這った。


 もはや立っている事すらできないようだ。


「なんて、アンラッキーな奴だ。こんな風に死ぬなんてな」


 迷宮がアブソリュートが死ぬと感知して、呑み込み始めた。

 触手みたいなのが何本もそこら中から生えている。


 周りを見れば、他の奴らの元にも触手が生えていた。

 どんどん呑み込まれていく。


「いぁぁ!! た、たぅぇぇぇ!!」

「助けてほしいってか?」


 俺はアブソリュートの元まで駆け寄って、カットラスで伸ばす手を叩き斬った。


「あぎゃああぁぁぁぁ!!」

「なんだ、声でるじゃないか。もっと気張れ」


 俺は迷宮がアブソリュートを飲み込むまで、剣を振り下ろしまくった。

 急所は避け、腕や足を中心にさす。


 31人とここにいた奴らの手向けとして。


「お前が、お前らが悪い!! これは当然の報いだ!!」

「ぁ、ぁめぇ……」


 辞めない。

 辞めないぞ。

 俺は剣を突き刺す。


 迷宮は少しずつ、アブソリュートの体を取り込んでいく。


 他の奴らも消えていく。

 残るのは俺とアイカだけ。


 触手が完全にアブソリュートの体を包み込んで、俺が攻撃する余地が無くなった。

 

 俺は数歩下がる。


「ユウキさん……」

「行くぞ、アイカ」


 俺は戦利品を回収して、迷宮を出た。

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