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33 始まり

 コボルトが支配する3階層は、新兵には突破が難しい。

 故に人数をそろえて挑むことが常である。

 

 俺たちもそうして3階層に潜っている。

 

 それは何も俺たちの専売特許じゃない。

 誰でも思いつくことで、誰もが通る道だ。


 このあたりの冒険者だったら、一度は通る道であり、前に組んだスキン(本名は知らない)だってやったに違いない。


 そして俺たちはもたもたし過ぎた。

 占めて何週間か3階層に潜り続け、一回もデカコボルトに出くわさなかった。


「マジかよ……!」


 カイセイが集合場所のギルド前で苛立ち気味に地団太を踏んでいる。

 新たな野良パーティーの募集がかかっていた。


 それが結構な人数が集まっている。

 十数人はいる。

 それが全員デカコボルト、3階層に入ろうとしているのだ。


 リソースが分散され、俺たちの儲けも減る。


 あいつらは恐らく昨日まで1階層や2階層で経験値をためていた連中だ。


 そして今日、満を持して3階層に挑もうとしている。


「ふざけんなっ! 俺たちが最初にやってたのに、他の奴らに取られてたまるかよ!」


 十数人の新人冒険者たちが一斉に動き出した。

 3階層に向かうみたいだ。


 ザックがカイセイの肩を叩いて、提案した。


「ぼ、ぼく達も入れてもらう?」


 カイセイは光の速さでザックの頭をぶん殴った。

 身長差があるためカイセイは、ジャンプしての殴打だった。


「ボッケ!! 俺が誰かの言う事聞くわけねーだろ! 少しは考えろ、短い付き合いじゃねーんだからよ!」

「そ、そうだよね。ごめん……」


 そうやっている間にも、連中は先に街から出て行った。

 程なく迷宮に入る事になるだろう。


「チッ! クソが。てめーら、行くぞ。あいつらに取られてたまるかっての……!!」


 カイセイは早歩きで町の外に向かう。

 反対しようものならカイセイの五月蠅い話が始まるのはもうわかっている。

 全員黙ってカイセイの後を付いて行った。


 カイセイは肩を怒らせて、ずんずんと迷宮への道程を進む。


 前方に見える十数人の団体が止まった。

 順次その姿が消えている。


 もう3階層に言っているのだろう。転移石を用いて全員が転移していた。


「……行っちゃったわね」


 メルが杖を抱えながら転移石に近づく。メルは俺の方に振り返り、魔法を要求する。

 

光の加護(プロテクション)


 全員の体が光り輝き、収束する。

 左手の甲に六芒星が輝き、5点が灯る。


「おっしゃ行くぞ!」


 光の加護がかかったことを確認して、カイセイは勢いよく転移石に触った。

 光の加護を使ったのは、一応だ。

 転移した瞬間、コボルトが居ても困る。


 保険のようなものだ。


 カイセイが転移石に触れると、5人は一瞬で迷宮の3階層に転移していた。


 周りとみても誰も居ない。

 静かだ。いつも通りの迷宮である。


「アイカ」


 俺は呼び掛けると、アイカはスンスンと臭いをかぐ。

 コボルトや他の冒険者達の動向が知りたい。


「フヒッ、他の人たちは右ですよ。どうしますか? カイセイさん?」

「左!」


 一応のリーダーであるカイセイの案は、冒険者たちと逆方向に行くことだ。

 予想していた事だが、清々しいやつめ。


 アイカを先頭に、俺が殿になって迷宮を進む。

 メルを取り囲むようにして移動するのが、俺たちの基本だ。


 先頭のアイカが索敵。

 合図を受け取ったザックとカイセイが、コボルトに打ち掛かり、メルが魔法で止めを刺す。

 俺は回復役だ。それとメルの護衛。


「うぉしゃぁぁぁ……!!」


 正面からカイセイがコボルトに切りかかった。

 ザックも一息入れ、アイカは常に後ろを取ろうとちょこまかしている。


「むっ! ユウキさん! 後ろから来てますよ!」

「なにぃぃ!? ちょっと待ってろ! 俺が殺す!」


 アイカの嗅覚にコボルトが反応した。

 カイセイは二体とも止めを刺したいのか、目の前のコボルトに全力で打ちかかっているが、何とか防がれている。


「ふんなぁぁ!!」


 カイセイの後ろからザックも猛然と切りかかっていった。

 早くしないとメルの危機でもある。


「ヒヒッ、何をあんなに慌てているのかしら……」

「まぁ、お前は近接戦闘できないからな。心配なんだろ」


 わっほわっほ言いながらコボルトが駆け寄ってくるのが目に入った。

 もう距離もない。アイカが居て助かった。


「何のための魔法だと思ってるのかしら。あの人たち……」

「一理ある」


 後ろではザックとカイセイが大声あげて、コボルトを殺しにかかっている。

 しかし間に合いそうにない。


 アイカもこっちには来ないみたいだ。薄情なやつめ。


「俺がやる。あとは雷魔法で」

「分かったわ……」


 コボルトは珍しく盾を持った奴だ。

 奇しくも俺と同じような装備をしている。鎖帷子も来ているし、強敵だ。ぼろいけど。

 

 コボルトが盾を構えながら俺に突撃してくる。俺も同じく盾を構えて、そのまま突撃。


 ガツンとすごい衝撃でぶつかり合った。

 衝突面で火花が舞い散った。コボルトはすぐに立て直す。


 四足歩行になって、俺の横に回った。


「わっほぅ!」


 ふざけているような声だが、これでもこいつらは本気だ。

 コボルトは地面を這いながら、俺の胸元に突きを見舞う。


 これを盾受(ブロック)

 すぐさま蹴りで一撃入れようとしたが、サッとコボルトは身を翻した。

 下がるコボルトを追いかける。「わっほ」とコボルトは剣を突き出し、俺を遠ざける。

 サッと避けるなんてできない。大げさに回避しながら、コボルトから少しだけ離れた。


 コボルトはそれを見逃さず、狙いを後ろで魔法を使おうとしているメルに向けた。

 コボルトは走る。

 全力疾走だ。

 

 鎖帷子がガシャンガシャン音を立てている。

 涎もだらだら出ているし、狂気に満ちている。


 当のメルは。


「ヒッ……」


 やっぱだめだった。

 ビビってる。

 及び腰だし、両手で杖を掴んでいるだけで、雷球を使う気配すらない。

 これはザックやカイセイが心配するのもわかる。


「ウオオオオオオオオオォォォォォ……!!」


 挑発(ウォークライ)でコボルトの動きを止めた。


 カイセイが「ナイス!」と叫び、メルは自分の状態を確かめた。

 コボルトは振り返り、攻撃対象を俺に向けた。


 俺とメルでコボルトを挟み込む形になっている。

 だが、雷球は打てない。

 

 俺に当たるかもしれない。

 事実上の一対一。


 物怖じする必要はない。

 一対一でもやれる。


 コボルトが剣を振り下ろす。盾受(ブロック)して、反撃。

 これも受け止められた。返す太刀で切り上げ。これもだめ。

 コボルトも反撃してきた。バックステップで回避するが、追いかけてくる。


 コボルトは後ろを向いた。

 なんだ? 

 と、思った瞬間蹴りが飛んできた。


 これは――!


 胸のど真ん中にコボルトのけりが直撃した。

 ドカーンと吹き飛ばされる。 

 皮鎧の上からだ。動揺するな。痛くない、訳じゃ無いが。


 俺は尻餅をついた。コボルトが来る。

 飛び上がった。まずい。


雷球(サンダーボール)……!」


 ズガァァン、という雷にも似た音が炸裂した。

 速さ、威力ともに申し分ない雷球がコボルトの胸に入った。


 コボルトは空中で体勢が崩れ、そのまま地面に落下する。


 俺は急いで立ち上がって、コボルトの背中に乗って剣を突き刺した。

 何度も何度も突き刺す。

 魔宝石を傷つけないように気を付けて、何度か刺していると、コボルトは死んでいた。


「危なかったわね……」


 メルが近寄ってきて、コボルトを解体し始めた。

 俺はコボルトの上からどいて、それを見守る。

 カイセイ達の戦いも佳境だ。


「お前だってビビってたろ」

「……ほんの少しだけね。私、乙女なの」

「アイカみたいな言い訳しやがって」

「そ、まぁ、良いわ。お互い頼りなかっただけね」


 そう言われるとどうとも言えない。

 アイカ達も終わったようだ。止めはカイセイだ。

 頭にロングソードを叩き込んで、頭を割ったようだった。


 ザックが魔宝石を回収し、アイカとカイセイがこっちに飛んできた。

 カイセイとメルはあんまり仲がいいように見えないのに、それなりに仲間思いだ。


 お互いの無事を確認して、罵り合っている。

 やれ早く倒せばよかっただ、ビビってんじゃねーよ糞アマとか。


 アイカもこっちに来た。

 少し笑っている。


「フヒッ、負けてましたね」

「てっめぇ……」


 意地の悪い笑みをアイカは浮かべる。

 最近強くなっているから、調子に乗っているのだ。


「まぁまぁ、落ち着いてください。私は獣人で、普通は人間より強いんですから、これが普通なんですよ」

「勝手にお前の中で完結させるな」


 アイカの鳩尾を殴る。殴る。殴る。

 力だけはアイカより上の俺だ。

 アイカはゲホゲホ言いながら、皮鎧の上から腹を押さえている。


「な、何するんですか……!」

「調子に乗った罰だな。これは正当な権利である」

「……奴隷制度なんて撤廃されるがいいです」


 アイカは腹をさすりながら、匂いで索敵を開始した。


「あっちの方に居ますね」


 そっちは冒険者たちがいる方向だが、カイセイの反応は一貫していた。


「あっちには行かねぇ!」


 アイカの指し示す方向とは逆を行くカイセイ。仕方なく全員、そっちに行くことにした。


「居なくはないですけど、少し遠いですよ?」

「休憩も兼ねて、それ位で良いんだよ」


 カイセイも考えなしという訳では無かったようだ。

 連戦は疲れる。特にカイセイとザックは毎度突撃するから、疲労もひとしおだろう。


 その後もコボルトを発見すれば、全員力を合わせて戦っていった。

 俺も今度は油断せず、メルの護衛を果たす。

 メルも雷魔法でコボルトに致命傷を与えている。


 迷宮内を迷わないように、慎重に進みつつ、コボルトの魔宝石を回収する。


 一応地図もあるので、そう迷う事は無い。

 3週間近く通っているので、慣れているという事もある。


 俺たちは順調に狩りを続けた。

 デカコボルトの気配は一片としてないが、死の危険が差し迫るような展開だけは避けることが出来ている。


 温いな。


 アイカの不運もこの程度か、と思ってしまった。

 やってしまった。


 こういうのを油断と言うのかもしれない

 俺は何度同じことをすれば、失敗しなくなるのだろうか。


 油断するなと言うのに。

 俺は学習能力がないのか。


「あっ……」


 アイカも気づいた。短剣に手をかけている。


「やべぇ!」


 カイセイも騒ぐ。ぴょんぴょんその場で跳んで、やる気は満々だ。


「ど、ど……」


 ザックは狼狽え、戦うかどうするか迷っている。兜のバイザーを上げ下ろしして、忙しない。


「……ヒヒッ」


 メルは良く分からない。怯えているようにも見える。


「どうすんだよ!!」


 俺はカイセイに意思の統一を図らせる。

 カイセイは前を向いたまま、ロングソードの切っ先をまっすぐ前に向けた。


「当然、やるに決まってるだろが! このチャンスをフイにする訳にはいかねぇ!」

「チャンスか、これ……?」


 メルは小さく「アホだ」と言って、強く杖を握った。


 前方からは敵。コボルト。その数不明。

 もう波にしか見えない。


 それに、


「助けて――ぶべぁ!」


 十数人の冒険者とデカコボルトもいた。

 デカコボルトに背を向けていいわけがない。

 そのバカデカい剣で、冒険者たちは殴り飛ばされている。


「やるぞ、やるぞぉ!!」


 カイセイはやる気満々だ。

 どの道逃げれるわけがない。


 あの時は隙をついて、俺はデカコボルトから逃げ出した。

 それに迷宮内に設置された転移石との距離が近かったのも幸いしている。


 今回はそれが無い。


 この手を使わず、いつ使う。

 今しかない。今が圧倒的に効果的。


「お前ら目を瞑れ!! 走ってるお前らもだ!!」


 右足を引いて、何かを投げるような恰好を取る。

 右手に光る弾が発生。


 右手を突き出して、発射。


閃光(フラッシュ)!!」


 周りにまばゆいばかりの光が閃いた。

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