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32 奴隷制度

今日は2話投稿

こっちが2話目

 アイカとの会話からさらに数日。

 未だデカコボルトに会う事は出来ていない。


 カイセイ達もさすがに運が悪いと、意気消沈気味だ。


 稼ぎは微妙。

 アイカと一緒に居るだけで、金を落としたりするし、5人になった分はそれなりに不運ではあった。

 だが、確かに安全ではある。


 何度か囲まれたこともあったが、全員一丸となってコボルトを撃退した。

 囲まれたと言っても5体とかそんなものだ。


 俺とザックで4体くらい受け持てば、あとはアイカやカイセイ、メルの魔法がコボルトを片づける。


 ザックは盾術こそないが、剣術を何とか使ってコボルトに打ち掛かるという戦法をとっている。

 一本突きがあれば、盾の陰から攻撃できるし、盾術が無くても大丈夫だ。

 

 それにザックは金属鎧を着ている。

 細長い体だが、それなりに力持ちだ。


 金属鎧に少々の攻撃を食らっても、ザック自身にダメージは少ない。

 わざと攻撃を食らって、一本突きを入れる隙を作りだしている。


 生傷は少なくないが、装備を使った良い戦い方をする。

 素人であるところの俺から見ても、ザックは悪くない。


 カイセイもちょこまか動いて、敵を翻弄している。

 ザックとは戦闘思考が違う。


 素早さで敵を惑乱しつつ、隙が出来れば倒すというやり方だ。

 普通は、ザックが隙を作りだして、カイセイが止めを刺すというやり方をしている。


 メルもザックありきで魔法を放つ。

 雷魔法はかなり使える。


 何度か奪おうかと考えたほどだ。

 それは無いと思い、限定奪取(リミテッド・スチール)を使う事はしていない。

 それに発動するには、一度だけでも雷球(サンダーボール)を食らわないといけない。


 それだけは嫌だ。


 そら。今もまた雷魔法が炸裂した。

 どぉぉおん、みたいな音がしてコボルトがブルブル震えている。

 筋肉の収縮運動が止まらないのだ。


 その隙にアイカが後ろからコボルトに付きかかった。


「フヒッ」


 キモッ。

 アイカは気味悪い声を出しながら、一本突きでコボルトの首を穿つ。

 それだけに飽き足らず、背中を数度刺した。


 するとカイセイも来た。


「レベルを上げんのは俺だぁぁぁ!!」


 経験値欲しさにカイセイはコボルトを殺そうそしている。

 分からなくもない。

 基本は早い者勝ちにしているから、均一にレベルなんてあげていない。


 カイセイは走りながら、一本突きでコボルトの腹を突き刺した。


「おらおらおらぁぁぁ!! どうだ!? 俺か!? 俺だよな!?」


 カイセイはコボルトに剣を突き刺しながら、後ろを振り返った。

 止めを刺したのが誰か分からなくなっている。

 攻撃を受けたコボルトはぐったりとしていて、既に死亡していた。


「アイカだな」

「アイカさんかな」

「……アイカ」


 ザックとメルと意見が一致した。止めを刺したのは、アイカだ。

 

「くっそ! アイカかよ。んだよ。俺の華麗な攻撃が意味無くなっちまったじゃねーか」

「フヒッ、すみません」


 アイカはカチンと良い音を出して、短剣を鞘に納めた。

 全員それに従って、武器をしまった。


 近くにコボルトは居ないらしい。


 もう何時間も迷宮に潜っている。


 カイセイガ周りを見て、冷静に告げた。 

 こういう時だけリーダー面だ。


「帰るか」


 今日もデカコボルトは無しだ。




「囲まれなくなっただけ、マシじゃないかな……」


 また全員で酒場に来ている。

 カイセイが今日も討伐対象を見つけることが出来なくて、落ち込んでいる所にザックがフォローをした。


「そうだけどよぉ。俺たち、デカコボルトを倒しに行ってるんだよな? コボルトばっかだぜぇ。もう。2週間はやってるよ。いい加減飽きてきた」

「そ、それは。そうかも、ね……」


 ザックがエールをちびりと飲んだ。

 カイセイは酒場の姉ぇちゃんに酒の追加を頼んでいる。


「まぁ、いいじゃない。デカコボルトを倒したら、こうやって一緒に狩りをする機会も無くなるのだし……」


 メルはアイカの耳を撫でている。

 普通に流される言葉だと思ったが、カイセイは大きく反応した。


「はぁ!? 何言ってやがるちっぱい! ユウキとアイカはもう立派な仲間だろうが! 俺たちはもう立派なパーティーなんだよ! ちげーかよ!?」


 カイセイは俺とアイカを睨みつける。

 酔っているのか?


「まぁ、間違ってはいないが……。終わってからも一緒に行動するかは……」

「マジで言ってやがるのかよ。俺たち仲間だろ!? もうお別れってか!?」

「誰も今日別れるなんて言ってないだろ。元々は野良パーティーなんだから」

「だぁかぁらぁ。デカコボルトを倒した後も一緒にやろうぜって言ってんの! わっかんねーかな。この偉大さがよ。俺と一緒に迷宮に行けるなんて、今後一生できねぇぞ! なんせ俺はビッグになるからな!」


 最後の一言に周りの冒険者から失笑を買うカイセイ。

 ガルルと威嚇しているが、格はあちらの方が上だ。


 遠くに居たスキンと目が合った。

 手を上げるだけにとどめて、カイセイとの話を進めた。


「この話は酔いが覚めてからしろ。もうちょっとまともな判断が出来てからな――アイカ、行くぞ」


 アイカは最後に一口おおきくご飯を頬張り、席を立った。

 カイセイが何か言い、ザックが暴れるカイセイを抑え込んで、メルがアイカに手を振る。

 いつもの光景だ。


 これもいつまで続くか。


 酒場から出て、お金がちゃんとある事を確認して宿に戻る。

 口座が無くなってからというもの、一応現金を持つようになった。


 現金と口座を持っておけば、どちらかが無くなっても金は確保できる。

 どちらも無くなる可能性もあるが。


 部屋に戻るなり、アイカが顔を覗き込んできた。

 少し驚いて、半歩下がる。


「で、どうするんですか?」

「何が」


 気を取り直して、武装をその辺に置いておく。

 カットラスにカイトシールド。皮鎧やその他防具。

 これだけの荷物だ。割と、場所を取る。


 アイカも皮鎧を脱ぎながら、口を動かした。


「カイセイさん達と一緒に動くってことです。悪い話じゃないんじゃないですか? 戦力的に釣り合ってるし。現実的に私たちと一緒に行動している訳で。悪い人たちじゃない事だけは確かじゃないですか」


 アイカは「プハッ」と新鮮な空気を吸い込むかの如く、勢いよく武装解除をした。

 犬耳や尻尾が揺れるのが目に入る。

 ふさふさだ。触ってみたい衝動を抑えつつ、真面目な話を続ける。


「分からなくもないが、目的が違うからな。あいつらの目的は最終的に稼ぐことだが、俺は少し違う」

「復讐?」

「そんなところだ」


 コンコンと部屋のドアがノックされ、オルガが入ってきた。

 お湯だ。

 体を拭くお湯を持ってくる時間だったらしい。


 デカい風呂に入りたいが、そんなものはどこにもない。

 冷たい水じゃないだけましだという事だ。


「仲良いですね」


 オルガが俺とアイカを交互に見てそう言った。


「なんで?」


 俺はその言葉に違和感を覚えた。

 ふとそんな気がして、オルガに返答を求める。


「なんでって、なんか、こう。もっと、主従関係みたいな? そういうのが普通だと思ってたんで。友達みたいに接してるから、印象と違うなって」


 俺とアイカは目を合わせて、お互いをまじまじと見た。

 頭のてっぺんから、つま先まで余すことなく見る。


「まぁ、うん。なんとなくだな。固定観念にとらわれるなという事だよ。オルガ君」

「誰が君ですか。……ま、ちょっと見方が変わっただけです。私は根本的に奴隷制度には反対ですから」

「へぇ。そうなの。なんで?」

「なんでって。人権侵害も甚だしいじゃないですか。命令に従うほかないって、それじゃただの物と変わらないですよ」


 痛い所を付いてくる。

 俺もそういう側面があるからこそ、奴隷を買ったので、オルガの意見に真っ向から反対が出来ない。


 しかし、オルガはそれだけ言うと黒髪を揺らして、部屋を出て行った。「桶は明日取りに来るんで」と言い残し、さっさと仕事に戻るようだ。


「フヒッ、私の存在、全否定でしたね」

「奴隷制度に反対なら、お前も対象だろうな」


 オルガのように奴隷制度に疑問を持つ人もいるようだ。

 だが、俺はこれを利用させてもらう。


 仲間を増やすには、これが一番手っ取り早いのだ。


「オルガが反対派でも、大局に変わりはない。奴隷制度はそう簡単にはなくならないし、お前は解放しない」

「分かってますよ」


 俺もアイカもラフな格好になって、ベッドに寝転んだ。


「どうしよう……」


 寝転んでから数分経ったところで、ポツリとアイカが呟いた。

 何かまずい事でも起きたのかと思った。


「ユウキさん、どうしよう」

「……何がだよ」


 アイカが俺の体を揺する。

 眠いから寝かせてほしい。

 鬱陶しげに手を払う。


「生理来た」

「……俺男だから、言われても困るんだけど」

「そういえば、そろそろだったの忘れてた。ユウキさん、明かり付けて」

「……ほら」


 指先に小さく火球を作り出す。

 室内がポワッと明るくなった。


 アイカはベッドから降りて、荷物を漁っている。

 ナプキン的なやつ買ってた気がする。


「もういいですよ。明かり消してください。付けるんで」


 目的の物を見つけたアイカは、振り返ってそう言った。

 手には布みたいなのを持っている。


 想像通りだ。


 火球を霧散させると、部屋の中が暗くなり、アイカががさごそする。

 ナプキンを付けているのだろう。

 どうするのか知らんけど。


 すぐにその作業も終わり、ベッドに戻ってきた。


「その辺リアルだよな」

「何がです?」


 隣で横になるアイカがそう聞いてきた。


「別に」


 眠りについて次の朝を迎える。

 様相が少し変わっていた。

感想待ってるぜ

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