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30 お見合い

「今日こそ行くぜ!」


 カイセイが迷宮の入り口の手前でそう叫んだ。

 皆の気持ちも一様にそうだろう。


 一昨日はコボルトと出会う事無く、無一文に終わり。

 昨日は全員風邪をひいて、ダウン。

 二日連続の稼ぎゼロとあっては、ルーキーとしてはかなりの痛手だ。


 風邪はアイカのせいだと思っている。

 こいつ。関わる人間を全員不運にしやがる。


 一日ぶりの顔合わせだったが、昨日の風の事を全員が知っている。

 一応、風邪をおしてギルドに入った。

 そこには顔を真っ青にした3人がいた。


 そこで全員風邪を引いた事を悟り、コボルト狩りを延期するという事になった。

 昨日は一日中、狭いベッドでアイカと隣り合いっこで寝ていた。


 肘でガツガツアイカを殴りながらの就寝だった。

 アイカは「ごめんなさい」を連呼し、自身も風邪の苦しみに悶えていた。


 浄化(ピューリファイ)で治療を試みたが、風邪には効果が無かった。

 変なところで意地っ張りな魔法だ。


 いつでも体調は万全にできると思っていたが、大間違いであることを昨日再確認して、今日にいたっている。


 転移石で3階層まで運んでもらい、一斉に武器を抜いた。


「コボルトだ!」


 真っ先にカイセイが出て行った。

 ロングソードを抜いて、コボルトに向かっている。

 出合い頭に突然来た俺たちに、コボルトは茫然としている。


「一本突きぃぃぃぃぃ……!!」


 走る勢いを使い、走り込みの一本突きをコボルトに見舞う。

 だがコボルトも命の危機とあっては、反射が作用したか。


 素晴らしい反応速度で、一本突きを回避した。

 カイセイはぶんぶんロングソードを振り回し、コボルトに打ち掛かる。


 しかしコボルトはひょひょいと避ける。

 なにやってんだよ。あいつ。

 もっと腰入れて攻撃しろよ。


 少し腰引けてんじゃねーかよ。


「カイセイくん……!」

 

 それを見てかのっぽのザックが飛び出した。

 金属鎧をガシャガシャ言わせながら、コボルトに突撃する姿は重戦車を思わせる。


「おっせーんだよ、ザック!」


 カイセイはザックと相手を交代して、少し下がり気味になった。


「ユウキたちは手を出すなよ。俺たちがやる!」


 杖を持ったメルが一歩前に出た。

 いつでも魔法を打てるようにしている。


「……光の加護(プロテクション)


 考えた末、光の加護を使う事を選択した。

 命を無駄にすることはない。


 光魔法だ。ただのな。知られてはいけないのは、限定奪取(リミテッド・スチール)のみ。

 一応はパーティーだ。

 補助くらいはしてやる。


 全員の体が光り輝き、左手の甲に収束する。

 六芒星が光り輝き、5点が灯る。

 俺、アイカ、ザック、カイセイ、メルの5名だ。


「ぉお!? 何だこりゃ!? 体がめっさ軽いぞ!」


 カイセイは大声をあげて、自身の変化に驚いている。

 コボルトと打ち合っているザックもちょっと慌てていた。


 するとメルが叫んだ。

 ちょっとびっくりだ。大きな声を出さないと思った。


「光魔法の光の加護(プロテクション)よ! びっくりしないで!」


 ザックとカイセイの二人は良く分かっていないようだったが、それでも目の前に集中していた。


 だけど、遅いな。

 こんなもんだろうか。

 身内びいきがあるかな。


 アイカもこんなもんか。


 ザックは金属鎧の特性を生かして、盾役として活躍しているようだ。

 動きの早いカイセイは、攻撃役として。

 魔法使いのメルも同様だ。


 それなりに整ってはいるか。

 が、弱い。


 弱くないか……?


 これが普通?

 レベル差はない。

 

「どう思う?」

「何がですか?」


 この反応からもわかる。

 アイカは何も疑問に思っていない。


 あれだ。

 剣術レベルが違うから、少し弱く見える。

 もう少し踏み込んだ方が良いんじゃないか? とか。今のは一本突き行けただろ、みたいな。


 俺は聖騎士だし、戦士の二人には自分たちの考えがあるのかもしれない。

 あれこれ言うのは失礼だ。

 

 俺だって自分の戦い方に口出されたら、アイカをぶん殴る。

 アイカに言われたわけじゃなくても、アイカを殴る。


 理不尽だ。


 そんな事を考えていると、前のメルの口からおぞましい声で魔法の名前が告げられた。


雷球(サンダーボール)……!」

 

 雷魔法のレベル1であろう攻撃が繰り出された。


 すさまじい音が迷宮内に鳴り響いた。

 実際に落雷が起きたような音だ。


「う、うっせぇ……!」


 しかもかなり速度が速い。

 攻撃が起きた、と思った瞬間にはすでに攻撃は終わっていた。


 速度重視の魔法だ。


 速すぎて、


「はずれた……」


 こうなる。

 メルは雷魔法を外し、轟音だけを迷宮に残した。

 これはどうだ。

 他のコボルトは来るのではないだろうか?


 隣で耳を押さえているアイカの肩を叩いた。


「コボルト来てるか?」


 轟音と言えど、耳がバカになるほどじゃない。

 アイカの耳も正常に働き、俺の声を拾っていた。


 鼻を動かし、コボルトの動向を確認している。


 アイカは首を横に振って、どうなっているかを告げた。


「離れてる。ビックリしたんじゃないの?」


 雷にも似た音だ。

 聞き慣れない迷宮の連中には、良い薬になったのだろう。


 そういう間にも、俺とアイカ以外の戦闘は続いている。

 メルの魔法の威嚇のおかげで、他のコボルトが来る心配はないとはいえ、もっと早く仕留めないと危ない。


 ザックとカイセイは二人で協力して攻撃している。

 時にザックが、あるいはカイセイが攻撃してコボルトを少しずつだが、確実に追い詰めていた。


 これが型なのかもしれない。


 メルの雷魔法で周りを威嚇して、余裕が出来たときにザックとカイセイが止めを刺す。

 一本突きだけだが、確実に削っているし、ここで来た。


雷球(サンダーボール)……!」


 またしても轟音が迷宮内に轟いたと思えば、コボルトがびくんびくんしていた。

 命中だ。

 当たった。これが雷魔法の力。火魔法同様に強力なようだ。


 コボルトが硬直している間に、ザックとカイセイが切りかかった。

 滅多打ちにしている。

 斬るというより、金属で殴っている。そう見える。

 武器の性能からそうせざるを得ないのだろう。


 俺もそんなものだ。


 町で研ぎ師に依頼して、カットラスを手入れしてもらわないとすぐに駄目になる。

 これも維持費がかかってしょうがない。


 もっと節約したいものだ。

 アイカもいるから金がいくらあっても足りない。

 いつの間にか不運のせいで、お金が飛んで行っているのだ。


 やめてほしい。


「どらぁぁぁぁ……!! ワハハハハ!! どうだ!? 見たか!? 俺の強さを!」


 カイセイがコボルトに止めを刺したようだ。

 ザックも盾を下ろして、一息ついている。


「まぁ、ザックが抑えてくれてたからだろ」

「あぁん? 俺のおかげがでけぇだろ! なぁ、ザック!?」


 ザックは困ったような顔をするが、ちょっと迷って頷いた。

 

「そ、そうだね。カイセイくんが頑張ってくれたから倒せたのは事実だし……」


 ザックはそれだけ言って、魔宝石を回収し始めた。

 同じく盾役としては物申したいが。

 本人がそう言うなら、俺が言うのはお門違いだ。


「ほぅらみろ。ザックだって俺の偉大さに気づいてんだよ。なぁ?」

「そ、そうかもね……」

「カモじゃねーよ! 絶対俺の偉大さを世界に知らしめてやるよ。俺の強さっつーの? 冒険者からでも世界にかけ上る男になってやるよ。お前らは俺の下僕として、おまけで、お情けで、しょうがなくお供として付きあわせてやるよ」


 カイセイの上昇志向、もといアホな志向を聞かされて、メルは面倒くさそうにしている。

 また始まったか、みたいな顔だ。


 ザックが魔宝石を回収し終えて、俺たちが集まる方に来た。

 

「それに、プ、光の加護(プロテクション)? もすごかったよね。いつの間に覚えたの、メル?」


 何言ってんだ。それは俺だ。


「……私じゃない。ユウキかアイカがやった」


 ザックは驚いたように俺たちを見た。

 アイカはすごい勢いで首を横に振っている。


「す、すごいね……! 光魔法レベル4はあるんでしょ?」

「そういうことになるな」

「んだとぉ!? 俺と同い年位なのに、スキルレベルが4だぁ? み、認めねぇ!! 俺は認めねぇぞ!」


 お前に認められなくても別にいいんだよ。


「……せ、聖職者?」


 メルが聞いてくる。

 珍しそうな顔だ。


「いや、聖騎士だ」


 おぉ、と感心した声が上がった。

 流石のカイセイも俺の事をマジマジとみている。


「聖騎士なんて初めて見たぜ……! てことは」

「け、剣術と盾術も……?」


 どうやら、聖騎士になる要件は厳しいようだ。

 剣術、盾術、光魔法の3つもいるらしい。


 それはそれは。

 レアな職業だ。


「そう言う事だ」

 

 カイセイが大声を出し始めた。


「ぐぁぁぁぁぁぁ!! 絶対ぇ、俺の方が強いからな!! 聖騎士なんてただ守ってるだけだろう!? はっ、戦士の方が強いっつーの! なぁ、ザック?」

「ど、どうかな。ぼくも盾持ってるけど、ユウキくんより上手く使えないと思うし……」

「バッカヤロウ! 気が弱い!! 聖騎士なんてやろうはな、盾持ってチョコチョコ斬るしか能が無ぇんだよ! なぁ、そうだろ!? そうだと言え!」

 

 ぐりんとカイセイの首が俺の方に向いて、確認を取ってくる。

 気持ち悪い動きだ。今すぐ辞めてほしい。

 だが、そうだな。


「言ってることは間違ってない」


 カイセイがズビシッという擬音が出そうなほど、キレのある動きで俺を指さした。


「だろう!? よし、次はユウキたちの番な! 俺たちの戦い方は見てもらったから、次は俺たちが見る番だ。良いだろ!? デカコボルトを倒すためには必要な作業だ! 何か間違ってるか?」

「……うざい」


 メルがぼそりと言う。


「んだとぅ!?」

「……いちいちうるさい。しかももっともな事言うから、尚更ウザい」

「このボケナス! もっともな事なら良いだろ! 一応、頭張ってんだからよ! いろいろ考えてるわけ!」

「……誰も認めてない」

「はぁぁぁ!? なんてぇぇぇぇ!? 聞っこえませぇぇぇえぇん!!」

「……うるさい」

「てめぇの方がうっせぇんだよ。ちっぱい!」

「チビが。その口閉じやがれ」

「このちっぱい、はっきり言いやがったな!」


 俺は辟易としながら会話に入り込んだ。

 

「もういいだろう。次は俺たちがやる。アイカ」


 アイカは頷いて、コボルトを探している。

 カイセイはメルに突っかかっている。


「こっちの奥の方に居る。少し遠いかな」


 アイカが示す方向に進みだした。

 ザックたちはアイカの案内が本当に正しいか疑っている。


 一昨日は一匹も会うことが出来なかったからしょうがない。

 カイセイに関しては、もろに口に出している。


「本当にいんのかよ。この先によぉ。この前だってニアミスもしなかったじゃねーか」

「フヒッ、今日は運が良いから大丈夫ですよ……」


 お前のどこが運がいいんだ。

 と、声を大にして言いたい。


 ザックやメルは何も言わないが、内心どう思っているか。

 俺もこれ以上失敗を重ねて、こいつらの信用を無くすのはやめてほしい。


 3人を完全に信用したわけではないが、デカコボルトを倒すためには必要な戦力ではある。

 アイカの嗅覚を疑う訳では無いのだが、如何せん前科がある。


 不運(アンラッキー)のせいで、一匹も会えないというのはやめてほしい。

 もうすでに一匹出会っているから、そこまで心配はしていないが。


「気づかれました。ユウキさん」

「分かった」


 同時に抜刀する。

 カイセイはまだ疑っているようだが、程なくしてコボルトが一匹来た。

 手には鞭。鉄鞭だ。食らったら痛い所じゃないな。


 盾での防御を中心に起きつつ、アイカを活かす。


「俺が先行する。後ろから何とかしろ」


 返答も聞かず俺は走り出した。

 カイトシールドが俺の全身を隠しているかのようだ。


 コボルトは走ってくる俺を対処するため、鞭を振るう。

 蛇のようにうねりながら鞭は地面を這ってきた。


「よっ!」


 これはジャンプして避けた。足元だけはどうしようもない。

 着地を華麗に決めて、挑発しようかと思ったがやめた。


 挑発は連発できないし、喉に負担がかかる。

 それに大声は他のコボルトを呼び寄せる結果になりかねない。

 雷魔法のように爆音が鳴り響くならいいが、まだ接敵すらしていないのに、奥の手を使う必要もない。


「何とか後ろを取れ……!」

「了解」


 そこでグンッとアイカの速度が上がった。

 俺の横を通り過ぎる。

 速い。俺もアイカのサポートに走る。

 コボルトは出てきたアイカに攻撃しようと、鞭を引き戻す。


 そこだ。


「縮地突き……!」


 逆にアイカを追い越して、突撃。

 コボルトはスイッチの連続に対応できていない。


 コボルトは辛うじて鞭を引き絞り、剣を受け止める。


「ふぅおん……?」

 

 コボルトはか細い鞭で剣を止める事ができた事に安堵しきっている。

 俺もびっくりだ。

 止められるとは思わなかった。


「一本突き……!」


 俺の後ろからアイカが攻撃した。

 正面から行った。すでに隙だらけという判断か。


 アイカは体中の筋肉を使うように、舞いながら剣を振るう。

 短剣の間合いが、鞭を翻弄している。

 俺も加わる。


「オラァ! ドゥラァァァ……!!」


 一本突き、二連突き、乱れ突きと、突いて突いて突きまくる。


「きゃん、ぎゃあん、ぎゅぁぁん……!」


 コボルトは連続攻撃に対応しきれていない。

 体のいたるところに傷を作り、血を流す。


「アイカ……!」

「やってみます……!」


 盗賊の戦い方は奇襲と体術。

 まだアイカの戦い方、つまり、スキルに体術はない。


 実践して体術を身につける他ない。

 とういことで、アイカには何度かチャンスがあれば殴りまくってコボルトを倒させている。


「おらおらおらおらおらおらああぁぁぁぁ……!!」


 もうタコ殴りだ。

 コボルトは頭を抱え、体を縮こまらせている。

 殴る蹴るは当たり前。

 ついには腕を取った。関節を極めてやがる。


「ぬぇぇいぃぃ……!」


 腕十字ひしぎ。腕十字固めともいう。

 アイカは地面に寝転がり、完璧に腕関節を極め始めた。


「ヌゥワハハハハ! ちょっと勉強したのだ!」


 コボルトはワンワン吠えて、止めてくれと全力で言っている。

 

「ぎひひひひひ、行くぞ、やっちゃうぞ。絶対気持ち悪いから覚悟しろ私……!」


 アイカは「どっせい!」と言って、背筋をエビぞりさせた。

 抱えていたコボルトのひじ関節は、まがってはいけない方向に転換。


 折れた。

 コボルトは何が起こったのか一瞬わかっていない。

 だが、来た。激痛だ。

 う゛ぉぉぉおおおん、て生々しい声を出す。

 

「ぶらぁぁ。バキっつった!」


 一方折ったアイカは手応えがお気に召さなかったようだ。

 まだコボルトの折れた腕を持ったまま硬直している。


「もういい、どけ!」

「うぇぇ……」


 アイカはその場を転がって、コボルトから離れた。

 コボルトは折れた腕を押さえて、その場から動かない。


 俺は狙いを澄まして、コボルトの首に剣を突き刺した。

 コボルトは「ゴヒュッ……」みたいな声を出して、血がダラダラと流れ始めた。


 ひじ関節、喉、多数の裂傷。

 終わりだ。


 10秒もせずコボルトは動かなくなった。


 アイカがいつも通り魔宝石を回収したのを確認して、後ろを振り返った。

 両手をちょっとだけ上げて、軽い挑発のようなポーズをとった。


「どうだ?」

「まままま、まぁまぁ? 悪くもないし? 良くもない的な? な、お前ら?」


 カイセイは動揺しているらしい。


「え、そうかな。すごいって思ったよ。ぼくは」


 ザックはそうらしい。


「……少なくともカイセイよりまし」


 メルはカイセイをこけ落とす。そんなに嫌いなのか……?

 

「チッパイは放っておいて。ザックは何言ってんだよ。あいつらなんてまだまだだ。俺たちの方がすげぇ! 聖騎士だっつーのも当てになんねーな!」

「そ、そんな言い方しなくても……」


 ザックはカイセイの言葉に驚いて、口を塞いでいる。


 聖騎士に誇りに何にもないから、どういわれても良いが。

 

「で、どうすんだよ、カイセイ。俺たちは不合格なのか?」

「アぁ? んな事言ってねーだろ。行くぞ、次だ。5人でやればもっと早くなる。合格。これで良いだろ。行こうぜ」


 カイセイはさっさとどこか迷宮の奥深くに行こうとしている。

 アイカがカイセイに話しかけた。


「そっちにコボルトいませんよ」


 カイセイは何事もなかったかのように踵を返して、迷宮奥地へと進んだ。

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