表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/87

29 野良パーティー

 3階層は新兵か否かを決める鬼門となるというのは前述している。


 訳はコボルトの仲間を呼び寄せるの力ともう一つある。


 圧倒的な体格を持つコボルトの存在だ。

 かつて俺が遭遇したデカコボルトの事らしい。


 アイカが他の冒険者に聞いた事だ。

 女という事もあり、それなりに色っぽく聞けば、鼻の下を伸ばして冒険者は情報を漏らした。

 ていうか、徹底的に周知しておけよ。

 それだから新兵の死亡率が変わらないんだよ。


 兎に角、そのデカコボルトは倒しても倒しても、また湧いてくるのだ。

 迷宮だから仕方ないのだが、ここの迷宮の3階層では破格の強さを持っている。


 コボルトはゴブリンより大きいし、このデカコボルトが倒せるかが今後進めるかのカギとなる。

 この迷宮に限った話だが。


 他の迷宮はモンスターの配置が違うので、一概には言えない。

 モンスターこそ同じものが出るが、迷宮によって階層ごとにモンスターの配置が違うらしい。


 一階層にコボルトが居るところもあるし、3階層にゴブリンが居たっておかしくない迷宮もある。

 俺たちが狩場としているこの町の迷宮は、一階層に偶々ゴブリンがいただけだ。


 閑話休題。


「そのデカコボルトを倒せるかが、この迷宮の鍵らしいですよ。そう言う意味では、まだユウキさんは童貞ですね。童貞。ダブル童貞」

「死ね。クソ犬」

「酷い! 折角、情報収集したのに! 童貞のくせに! 不運だからどうせ未使用でしょう! えぇ!?」

「何だお前!? いきなり、意味不明な事口走るな」

「面倒な仕事を押し付けられた反動ですね。フヒッ、すっきりした」


 アイカは宿に戻ってきて、俺に結果を報告している。

 今日も何も異常はなかった。


 何か変な予兆が無いか探っているのだが、俺単体でできる事は限られている。

 復讐対象が派手に動いてくれれば、俺も動けるのだが、俺も相手も鳴りを潜めているのが実情だろう。


 動けない。

 どちらかがアクションを起こさないと、俺も相手も動くに動けない。

 痺れを切らした方が、先手を打たれる。


 これは共通認識だろう。

 故に、俺はまだ動けない。


 俺はまだ弱い。

 強くなるまでは、派手に動く事は出来ない。


「それで、そのデカコボルトがどうしたって?」

「デカコボルトは共通して、でっかい剣を持ってるらしいですよ」


 俺は思い返した。確かに、ゴブリン並みの身長のデカさの剣を持っていた。

 

「それが?」

「戦士や重戦士の方に、それが高く売れるらしいんですって。デカくていい装備だって、話を聞いた人も欲しがってましたよ。金貨十数枚になる事もあるらしいですよ」

「金貨十数枚、だと……?」


 最近、金銭感覚がついてきたように思える。

 金貨十数枚何て超大金だ。ザイルの首レベルだ。

 武器ひとつでそこまでの値がつくなんて。


「掲示板には結構、野良パーティーでそいつを倒そうっていう人が多いらしいです。分け前は小さくなりますけど、いい経験になるし、金貨数枚も手に入るんでやる人が多いらしいですよ」

「誰かと組むってことか?」

「そう言う事です」


 俺としては二人で倒して、がっぽがっぽを狙っているのだが、そうは問屋が卸さないらしい。

 野良パーティーを募集するほどに強いのか。

 それはザイルと同程度と考えても良いのではないだろうか。


「普通は戦うのか?」

「戦ってたら武器が金貨十数枚になる訳ないじゃないですか」


 需要と供給の話か。

 圧倒的に供給が足りていないのだな。


「4階層のオークとかの武器も良い値段するらしいですよ。でも二人じゃきついんじゃないですかね。じっさい4階層からは最高2体までモンスターが出るんで」

「そうなのか?」

「知らないんですか? 4階層で2体。8階層で3体みたいに出てくるらしいですよ。オーク二体とか死ねますね。ムッキムキの豚らしいですよ。パーティー総出で狩りに行かないと」


 それは恐ろしい。

 筋肉は偉大だ。

 それだけで攻撃にも防御にも使える。


 しかし4階層からは常に2体が出てくるのか。

 常にかは知らないが、それ問題だ。

 もう一人仲間が欲しい。


 金も早急に必要だ。

 デカコボルト狩りは必要になるだろう。


 こっちにはアイカがいる。

 この不幸女がいれば、その内にでも出くわすことになる。

 

 一日じゃなくても数日中には、必ずスキル持ちであるところのデカコボルトと出会う事になる。


 分け前こそ金貨数枚になるだろうが、これだけデカい仕事はない。

 デカコボルトの魔宝石が金貨3枚。武器が十数枚の仕事だ。


 だいたい金貨20枚前後の仕事。

 6人で行けば、一人頭3枚。

 俺たちは二人だから6枚。


「……悪くないな。やるか」

「さっき掲示板見てきましたけど、野良パーティー募集してましたよ。ザック、カイセイ、メル。この3人が依頼の主です。5,6名になった所で募集を打ち切るらしいので、急いだ方が良いですね」

「どうやって依頼を受ければいい?」


 もう俺はやる気だ。

 アイカも俺の言葉を聞いて、鼻をフンフンと動かしている。


「明日、ギルドの掲示板前で待っているらしいですよ。先着順です。まぁ、やりたがる人はあまりいませんけど」

「なんで? いい仕事じゃん」


 アイカは溜息を吐いた。 

 俺が何もわかっていないようだ。


「無駄に強いんですよ。デカコボルトは。リスクリターン比が完全に崩壊しています。3階層にしては、リスクも高すぎるし。リターンはデカいですけど。もっと強い人たちは安全に、もっと効率よく稼ぎます。言わば、これは登竜門です。ここを切り抜けることが出来れば、一人前になれる、みたいな? あのデカコボルトを倒すことは、ここら辺に居る冒険者の悲願らしいです。一回倒せば十分なので、だれも何回もやらないんですって」

「話なげーよ。つまり、一人前か半人前かの線引きがそのデカコボルトなんだな?」

「そゆこと」


 話が終わり、俺たちはベッドに寝転んだ。

 あれをやるのか。遂に。

 レベルを確認した。

 15だ。


「アイカ、レベルは?」

「……12です」


 どうなのだろうか。これは適正レベルだろうか。

 いや、違うな。

 レベルなんて関係ない。


 要は一撃を加える事が出来るか否かだ。

 レベルは相対的な称号でしかない。


 だいたいデカコボルトのレベルだってわかりはしないし、それが人間基準かもわからない。

 

 殺し合いだ。


 頭を一撃すれば死ぬ。

 心臓を穿てば、喉を、臓物を貫けば。


 死ぬ。


 レベルなんざ関係ない。

 重要なのは一撃を放つ覚悟と勇気。


「なるようになる。明日行くぞ」

「分かりました」


 アイカは黙って起き上がり、部屋の外の共同トイレに向かった。


 台無しだ。


「オナってんじゃねーよ」




 翌日、ギルドに向かい掲示板の前に集まっている男女3名に声をかけた。

 掲示板の前には依頼やら、野良パーティー募集やらで人がごった返していた。

 その中でもその3人は特徴的だ。

 装備がぼろい。


 初心者というか、ルーキー丸出しで分かりやすい。


「あんたらが、デカコボルトを倒したいって人?」


 俺がチビで皮鎧。頭がツンツンになっている男に話しかけた。目が吊り上がっていて、きつい印象を受ける。

 男は元気溌剌というか、かなりウザったい。


「んぉ? んだ、てめぇ。俺たちに何か用かよ? アァん!?」


 募集しておいてその態度はないのではないかと思ったが、後ろに言ったのっぽの青年に止められた。

 金属鎧で盾を装備している。顔はのほほんとしていて、とても戦うようには見えない。少し細いし、金属鎧を着ているというより、着られている印象だ。

 

「カイセイくん、やめなよ。きっと募集を見てくれた人だよ」

「ん? おお! なんだ、そう言えよ! 誰も来ないかと思ったぜ! おら、メル! てめぇも挨拶しろ! 今日の仲間だぞ!」

「……あんただって名乗ってないでしょ」


 黒い三角帽をかぶったメルという女が喋る。髪の毛が無駄に長くて、陰気だ。家のアイカと同類というか。幸が薄い。不幸そうだ。


「あ、そうだな。よぉ、俺はカイセイ! 戦士だ。後ろの奴はザック。そこの女はメルだ。ザックは俺と同じ戦士で、メルは魔法使いだ。よろしく、イェェ!」

「……ユウキだ。後ろのはアイカ」

「何だぁ!? 元気ないぞ。ユウキ。もっとアゲアゲで行かないと、今日の得物はやばいぜ!?」

 

 メルが口をはさんだ。

 ぼそぼそと聞き取りづらい声だ。


「……今日会えるかなんてわからないでしょ」

「うっせ! うっせ! 俺が会えるっつーんだから、どう考えたって会えるに決まってんだろーが! なぁ!? ザック!」

「う、うん。そう、かも、ね」

「何でかもなんだよ!? そこは会えるでいいんだよ。分かってねぇな! ザックは空気が読めてねぇ。なぁ、そう思うだろ? えぇっと、ユウキ、とアイカだっけ?」

「……忘れてんじゃないわよ」

「てめぇは黙ってろ、メル!」


 うるさいな、こいつら。

 主にカイセイがうるさい。


 これはどうしようかと思ったが、カイセイは早速外に出て行った。

 付いてこない俺たちに振り返った。


「んだよ、さっさと行くぜ。善は急げっていう言葉知らねぇのかよ。時は金なり。時間は有限なんだよ。さっさと行かねぇと、誰かが狩っちまうかもしれねーだろ」


 まだ行くとは了承していないのだが、ザックが俺たちの方を見て、一つ頭を下げた。

 んん。断りにくい。

 メルの方はヒヒッみたいに笑って、アホ犬の耳を触っている。


「ユウキくんも良いかな? カイセイはやる気だし、ユウキくんもやる気でしょ? 一緒に行って損はないんじゃないかな?」


 すでに外に出ようとしているカイセイを見る。まぁ、悪気があってこうしている訳じゃないのだろう。

 あいつはあいつなりに、やる気を出しているのだ。


「まぁ、そうだな。俺たちもデカコボルト狙いだ。童貞卒業狙いだ」

「ど……!? そ、そうだね。そ、卒業しないと……」


 ザックは少し顔を赤くして動揺している。

 ダブルだな。俺もだ。


 もうトリプルでも何でもいいから、さっさと行こうじゃないか。


「アイカも遊んでないで行くぞ」


 メルはケモ耳を弄って、二人であれこれ遊んでいた。

 ようはモフモフだ。


「あ、遊んでるわけじゃないですよ。この人が勝手に……!」

「ヒヒッ、いいじゃない。減るものじゃなし……」


 メルがアイカの耳にフッと息を吹きかける。

 「ふひゃぁ」みたいな声を出して、アイカは体を上下させる。


「三角帽も犬で遊ぶな。飼い主の了承を得ろ」

「そう、遊んでいい?」

「歩きながらやれ」

「ヒヒッ、良いって」


 アイカは「酷いですぅ」と言い、メルの良いようにされている。

 その様子を見たカイセイは興奮気味だ。


「て、てめーら! 何してくれてんだ、チクショー! 俺もやらせろ、混ぜろ! 良いだろ!? 良いよな!? 良いと言え!」


 メルはアイカを抱きかかえ、頑として譲る様子はない。

 アイカの顔にメルの杖が食い込んで痛そうだ。地味に不運だ。


「わ、渡さない。アイカは私の物……! カイセイは早く行って」

「んだと!? このちっぱい!」

「だれがちっぱいだ。燃やすぞ、チビ」

「誰がチビだ!? それにてめー、火魔法使えないだろうが!」

「チビに人権はない。即座に死ね」

「ちっぱいこそ男の夢を壊す害悪だ。さっさとその無い胸何とかしやがれ。あとチビ言うな! このちっぱい!」


 ちっぱいを連呼するカイセイは、ギルド内で注目され始めた。

 ヒートアップする二人に比べ、ザックは恥ずかしそうに俯いている。

 アイカはちっぱいを気にして、胸に手を当てている。


 確かに無いけど。


 ザックはカイセイの手を引いて、ギルドを出て行った。

 カイセイは「おい、何しやがる!?」とか言っているが、ザックの気持ちは分かる。

 こんなことで注目されたくないだろう。


「アイカも行くぞ。歩きながらにしろ」

 

 俺もギルドから出る。

 後ろでアイカは嘆いているが、メルはそんな事を気にせずアイカに抱き付いている。

 溜息が出そうだが、こいつらの実力はどうなのだろうか。




 こいつは本当に腹が立つ。

 この女は俺の命を取りに来ている。

 本気で。

 マジで。


 平時はモンスターの大群がこれでもかと来るくせに、来てほしいときにはきっぱりと来ない。

 不運(アンラッキー)


 今現在不運が発動していることだろう。


「ぜんっぜん! いねぇ!!」


 カイセイが大声で叫んだ。

 3階層に折角来たのに一匹たりとも、コボルトの姿が見えない。


 その表現は少しおかしいか。


「えぇ、でもいますよ。ちゃんと。あっちから離れてるっていうか……」


 アイカはコボルトの匂いを把握して、その位置をその都度確認しているのだが、どうにも運が悪い。

 動くたびに、コボルトも位置を変えて、俺たちとの距離を保っている。


 一向に接敵する様子がない。


「な、なんか今日は運が悪いね」


 ザックが頭をかきながら不思議そうにしている。 

 俺は一発アイカの頭を殴った。


「いった……! なにす、るん、ですかぃ……?」

「なんだ。かぃって。ふざけてんだろ。お前」

「ふ、ふざけてないし! 私のせいじゃないし!」


 どう考えてもお前のせいだから。

 こうなるとアイカの存在はただの邪魔でしかない。


「故意とかどうでもよくて。お前が邪魔してるのは明白だから」


 少し小声でアイカに言った。

 他の3人に知られると厄介だ。


「だ、だけど。私何もしてない……」


 しゅんとしてアイカの耳と尻尾がうなだれる。

 何もしてないんだけどさ。こう、けじめ? みたいなのはしないとさ。

 いやね。最悪、俺が不運を奪ってもいいよ。 

 嫌だけど。最悪だけど。


 いや、やっぱり無理。

 メリットが皆無。


「今日はもう無理そうだな……」


 こういう日もある。

 意気込んでいくと、アイカの不運はこう働く事もあるという事を知れただけでもいい。


 結局、その日一日コボルトと出会う事は無く、迷宮を出る事になった。

 ザックとカイセイ、メルが落ち込んでいたことは言うまでもない。

感想待っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ