29 野良パーティー
3階層は新兵か否かを決める鬼門となるというのは前述している。
訳はコボルトの仲間を呼び寄せるの力ともう一つある。
圧倒的な体格を持つコボルトの存在だ。
かつて俺が遭遇したデカコボルトの事らしい。
アイカが他の冒険者に聞いた事だ。
女という事もあり、それなりに色っぽく聞けば、鼻の下を伸ばして冒険者は情報を漏らした。
ていうか、徹底的に周知しておけよ。
それだから新兵の死亡率が変わらないんだよ。
兎に角、そのデカコボルトは倒しても倒しても、また湧いてくるのだ。
迷宮だから仕方ないのだが、ここの迷宮の3階層では破格の強さを持っている。
コボルトはゴブリンより大きいし、このデカコボルトが倒せるかが今後進めるかのカギとなる。
この迷宮に限った話だが。
他の迷宮はモンスターの配置が違うので、一概には言えない。
モンスターこそ同じものが出るが、迷宮によって階層ごとにモンスターの配置が違うらしい。
一階層にコボルトが居るところもあるし、3階層にゴブリンが居たっておかしくない迷宮もある。
俺たちが狩場としているこの町の迷宮は、一階層に偶々ゴブリンがいただけだ。
閑話休題。
「そのデカコボルトを倒せるかが、この迷宮の鍵らしいですよ。そう言う意味では、まだユウキさんは童貞ですね。童貞。ダブル童貞」
「死ね。クソ犬」
「酷い! 折角、情報収集したのに! 童貞のくせに! 不運だからどうせ未使用でしょう! えぇ!?」
「何だお前!? いきなり、意味不明な事口走るな」
「面倒な仕事を押し付けられた反動ですね。フヒッ、すっきりした」
アイカは宿に戻ってきて、俺に結果を報告している。
今日も何も異常はなかった。
何か変な予兆が無いか探っているのだが、俺単体でできる事は限られている。
復讐対象が派手に動いてくれれば、俺も動けるのだが、俺も相手も鳴りを潜めているのが実情だろう。
動けない。
どちらかがアクションを起こさないと、俺も相手も動くに動けない。
痺れを切らした方が、先手を打たれる。
これは共通認識だろう。
故に、俺はまだ動けない。
俺はまだ弱い。
強くなるまでは、派手に動く事は出来ない。
「それで、そのデカコボルトがどうしたって?」
「デカコボルトは共通して、でっかい剣を持ってるらしいですよ」
俺は思い返した。確かに、ゴブリン並みの身長のデカさの剣を持っていた。
「それが?」
「戦士や重戦士の方に、それが高く売れるらしいんですって。デカくていい装備だって、話を聞いた人も欲しがってましたよ。金貨十数枚になる事もあるらしいですよ」
「金貨十数枚、だと……?」
最近、金銭感覚がついてきたように思える。
金貨十数枚何て超大金だ。ザイルの首レベルだ。
武器ひとつでそこまでの値がつくなんて。
「掲示板には結構、野良パーティーでそいつを倒そうっていう人が多いらしいです。分け前は小さくなりますけど、いい経験になるし、金貨数枚も手に入るんでやる人が多いらしいですよ」
「誰かと組むってことか?」
「そう言う事です」
俺としては二人で倒して、がっぽがっぽを狙っているのだが、そうは問屋が卸さないらしい。
野良パーティーを募集するほどに強いのか。
それはザイルと同程度と考えても良いのではないだろうか。
「普通は戦うのか?」
「戦ってたら武器が金貨十数枚になる訳ないじゃないですか」
需要と供給の話か。
圧倒的に供給が足りていないのだな。
「4階層のオークとかの武器も良い値段するらしいですよ。でも二人じゃきついんじゃないですかね。じっさい4階層からは最高2体までモンスターが出るんで」
「そうなのか?」
「知らないんですか? 4階層で2体。8階層で3体みたいに出てくるらしいですよ。オーク二体とか死ねますね。ムッキムキの豚らしいですよ。パーティー総出で狩りに行かないと」
それは恐ろしい。
筋肉は偉大だ。
それだけで攻撃にも防御にも使える。
しかし4階層からは常に2体が出てくるのか。
常にかは知らないが、それ問題だ。
もう一人仲間が欲しい。
金も早急に必要だ。
デカコボルト狩りは必要になるだろう。
こっちにはアイカがいる。
この不幸女がいれば、その内にでも出くわすことになる。
一日じゃなくても数日中には、必ずスキル持ちであるところのデカコボルトと出会う事になる。
分け前こそ金貨数枚になるだろうが、これだけデカい仕事はない。
デカコボルトの魔宝石が金貨3枚。武器が十数枚の仕事だ。
だいたい金貨20枚前後の仕事。
6人で行けば、一人頭3枚。
俺たちは二人だから6枚。
「……悪くないな。やるか」
「さっき掲示板見てきましたけど、野良パーティー募集してましたよ。ザック、カイセイ、メル。この3人が依頼の主です。5,6名になった所で募集を打ち切るらしいので、急いだ方が良いですね」
「どうやって依頼を受ければいい?」
もう俺はやる気だ。
アイカも俺の言葉を聞いて、鼻をフンフンと動かしている。
「明日、ギルドの掲示板前で待っているらしいですよ。先着順です。まぁ、やりたがる人はあまりいませんけど」
「なんで? いい仕事じゃん」
アイカは溜息を吐いた。
俺が何もわかっていないようだ。
「無駄に強いんですよ。デカコボルトは。リスクリターン比が完全に崩壊しています。3階層にしては、リスクも高すぎるし。リターンはデカいですけど。もっと強い人たちは安全に、もっと効率よく稼ぎます。言わば、これは登竜門です。ここを切り抜けることが出来れば、一人前になれる、みたいな? あのデカコボルトを倒すことは、ここら辺に居る冒険者の悲願らしいです。一回倒せば十分なので、だれも何回もやらないんですって」
「話なげーよ。つまり、一人前か半人前かの線引きがそのデカコボルトなんだな?」
「そゆこと」
話が終わり、俺たちはベッドに寝転んだ。
あれをやるのか。遂に。
レベルを確認した。
15だ。
「アイカ、レベルは?」
「……12です」
どうなのだろうか。これは適正レベルだろうか。
いや、違うな。
レベルなんて関係ない。
要は一撃を加える事が出来るか否かだ。
レベルは相対的な称号でしかない。
だいたいデカコボルトのレベルだってわかりはしないし、それが人間基準かもわからない。
殺し合いだ。
頭を一撃すれば死ぬ。
心臓を穿てば、喉を、臓物を貫けば。
死ぬ。
レベルなんざ関係ない。
重要なのは一撃を放つ覚悟と勇気。
「なるようになる。明日行くぞ」
「分かりました」
アイカは黙って起き上がり、部屋の外の共同トイレに向かった。
台無しだ。
「オナってんじゃねーよ」
翌日、ギルドに向かい掲示板の前に集まっている男女3名に声をかけた。
掲示板の前には依頼やら、野良パーティー募集やらで人がごった返していた。
その中でもその3人は特徴的だ。
装備がぼろい。
初心者というか、ルーキー丸出しで分かりやすい。
「あんたらが、デカコボルトを倒したいって人?」
俺がチビで皮鎧。頭がツンツンになっている男に話しかけた。目が吊り上がっていて、きつい印象を受ける。
男は元気溌剌というか、かなりウザったい。
「んぉ? んだ、てめぇ。俺たちに何か用かよ? アァん!?」
募集しておいてその態度はないのではないかと思ったが、後ろに言ったのっぽの青年に止められた。
金属鎧で盾を装備している。顔はのほほんとしていて、とても戦うようには見えない。少し細いし、金属鎧を着ているというより、着られている印象だ。
「カイセイくん、やめなよ。きっと募集を見てくれた人だよ」
「ん? おお! なんだ、そう言えよ! 誰も来ないかと思ったぜ! おら、メル! てめぇも挨拶しろ! 今日の仲間だぞ!」
「……あんただって名乗ってないでしょ」
黒い三角帽をかぶったメルという女が喋る。髪の毛が無駄に長くて、陰気だ。家のアイカと同類というか。幸が薄い。不幸そうだ。
「あ、そうだな。よぉ、俺はカイセイ! 戦士だ。後ろの奴はザック。そこの女はメルだ。ザックは俺と同じ戦士で、メルは魔法使いだ。よろしく、イェェ!」
「……ユウキだ。後ろのはアイカ」
「何だぁ!? 元気ないぞ。ユウキ。もっとアゲアゲで行かないと、今日の得物はやばいぜ!?」
メルが口をはさんだ。
ぼそぼそと聞き取りづらい声だ。
「……今日会えるかなんてわからないでしょ」
「うっせ! うっせ! 俺が会えるっつーんだから、どう考えたって会えるに決まってんだろーが! なぁ!? ザック!」
「う、うん。そう、かも、ね」
「何でかもなんだよ!? そこは会えるでいいんだよ。分かってねぇな! ザックは空気が読めてねぇ。なぁ、そう思うだろ? えぇっと、ユウキ、とアイカだっけ?」
「……忘れてんじゃないわよ」
「てめぇは黙ってろ、メル!」
うるさいな、こいつら。
主にカイセイがうるさい。
これはどうしようかと思ったが、カイセイは早速外に出て行った。
付いてこない俺たちに振り返った。
「んだよ、さっさと行くぜ。善は急げっていう言葉知らねぇのかよ。時は金なり。時間は有限なんだよ。さっさと行かねぇと、誰かが狩っちまうかもしれねーだろ」
まだ行くとは了承していないのだが、ザックが俺たちの方を見て、一つ頭を下げた。
んん。断りにくい。
メルの方はヒヒッみたいに笑って、アホ犬の耳を触っている。
「ユウキくんも良いかな? カイセイはやる気だし、ユウキくんもやる気でしょ? 一緒に行って損はないんじゃないかな?」
すでに外に出ようとしているカイセイを見る。まぁ、悪気があってこうしている訳じゃないのだろう。
あいつはあいつなりに、やる気を出しているのだ。
「まぁ、そうだな。俺たちもデカコボルト狙いだ。童貞卒業狙いだ」
「ど……!? そ、そうだね。そ、卒業しないと……」
ザックは少し顔を赤くして動揺している。
ダブルだな。俺もだ。
もうトリプルでも何でもいいから、さっさと行こうじゃないか。
「アイカも遊んでないで行くぞ」
メルはケモ耳を弄って、二人であれこれ遊んでいた。
ようはモフモフだ。
「あ、遊んでるわけじゃないですよ。この人が勝手に……!」
「ヒヒッ、いいじゃない。減るものじゃなし……」
メルがアイカの耳にフッと息を吹きかける。
「ふひゃぁ」みたいな声を出して、アイカは体を上下させる。
「三角帽も犬で遊ぶな。飼い主の了承を得ろ」
「そう、遊んでいい?」
「歩きながらやれ」
「ヒヒッ、良いって」
アイカは「酷いですぅ」と言い、メルの良いようにされている。
その様子を見たカイセイは興奮気味だ。
「て、てめーら! 何してくれてんだ、チクショー! 俺もやらせろ、混ぜろ! 良いだろ!? 良いよな!? 良いと言え!」
メルはアイカを抱きかかえ、頑として譲る様子はない。
アイカの顔にメルの杖が食い込んで痛そうだ。地味に不運だ。
「わ、渡さない。アイカは私の物……! カイセイは早く行って」
「んだと!? このちっぱい!」
「だれがちっぱいだ。燃やすぞ、チビ」
「誰がチビだ!? それにてめー、火魔法使えないだろうが!」
「チビに人権はない。即座に死ね」
「ちっぱいこそ男の夢を壊す害悪だ。さっさとその無い胸何とかしやがれ。あとチビ言うな! このちっぱい!」
ちっぱいを連呼するカイセイは、ギルド内で注目され始めた。
ヒートアップする二人に比べ、ザックは恥ずかしそうに俯いている。
アイカはちっぱいを気にして、胸に手を当てている。
確かに無いけど。
ザックはカイセイの手を引いて、ギルドを出て行った。
カイセイは「おい、何しやがる!?」とか言っているが、ザックの気持ちは分かる。
こんなことで注目されたくないだろう。
「アイカも行くぞ。歩きながらにしろ」
俺もギルドから出る。
後ろでアイカは嘆いているが、メルはそんな事を気にせずアイカに抱き付いている。
溜息が出そうだが、こいつらの実力はどうなのだろうか。
こいつは本当に腹が立つ。
この女は俺の命を取りに来ている。
本気で。
マジで。
平時はモンスターの大群がこれでもかと来るくせに、来てほしいときにはきっぱりと来ない。
不運。
今現在不運が発動していることだろう。
「ぜんっぜん! いねぇ!!」
カイセイが大声で叫んだ。
3階層に折角来たのに一匹たりとも、コボルトの姿が見えない。
その表現は少しおかしいか。
「えぇ、でもいますよ。ちゃんと。あっちから離れてるっていうか……」
アイカはコボルトの匂いを把握して、その位置をその都度確認しているのだが、どうにも運が悪い。
動くたびに、コボルトも位置を変えて、俺たちとの距離を保っている。
一向に接敵する様子がない。
「な、なんか今日は運が悪いね」
ザックが頭をかきながら不思議そうにしている。
俺は一発アイカの頭を殴った。
「いった……! なにす、るん、ですかぃ……?」
「なんだ。かぃって。ふざけてんだろ。お前」
「ふ、ふざけてないし! 私のせいじゃないし!」
どう考えてもお前のせいだから。
こうなるとアイカの存在はただの邪魔でしかない。
「故意とかどうでもよくて。お前が邪魔してるのは明白だから」
少し小声でアイカに言った。
他の3人に知られると厄介だ。
「だ、だけど。私何もしてない……」
しゅんとしてアイカの耳と尻尾がうなだれる。
何もしてないんだけどさ。こう、けじめ? みたいなのはしないとさ。
いやね。最悪、俺が不運を奪ってもいいよ。
嫌だけど。最悪だけど。
いや、やっぱり無理。
メリットが皆無。
「今日はもう無理そうだな……」
こういう日もある。
意気込んでいくと、アイカの不運はこう働く事もあるという事を知れただけでもいい。
結局、その日一日コボルトと出会う事は無く、迷宮を出る事になった。
ザックとカイセイ、メルが落ち込んでいたことは言うまでもない。
感想待っています。




