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28 クラス

「スキル持ちだな……」


 金を稼ぐ方法だ。

 これが一番手っ取り早い。

 戦力を確実に整えるためには、金が要る。

 金を稼ぐには魔宝石の換金が一番だ。


 その魔宝石の中で一番高いのは、スキル持ちの魔宝石だ。


 恐らく、階層の数金貨がもらえる。

 一階層のスキル持ちなら金貨一枚、二階層なら2枚という具合だ。

 傷がつくと半分まで値が下がる。


 偶にスキル持ちと遭遇して、そういう結論になった。

 アイカの不運のおかげでここのところスキル持ちに出会う確率が相当に高い。


 数日に一体のペースでスキル持ちと戦っている。

 すでに一週間がたち、アイカのレベルも今日で10まであがった。

 おれは変わりない。

 13だ。


 アイカ優先でやっていたら、俺のレベルが微動すらしなかった。


 ギルドで換金して結構な量の金をもらって、こぢんまりした部屋に通される。

 受付嬢のマーシャさんは、クラスを決めるための水晶が無いと言って、取りに行っている。

 部屋には俺とアイカが取り残されている。


「私、何になれるんでしょうね?」

「さぁな。強いのだといいな」

「可愛いのでもいいですよ」

「なんだよ、可愛いのって」

「えっと、なんだろ、ほら、何か言ってみて」

「知らねぇよ。可愛くなくていいから。化物とかでもオッケーだし」

「そんなの私が嫌ですよ」


 そんなこんなしていると、マーシャさんが水晶を持って戻ってきた。


「遅れました。では、早速始めますか」


 マーシャさんは机に水晶を置いた。

 椅子にはマーシャさんとアイカが座り、俺は後ろから眺める。


「手を水晶に」

「フヒッ」


 はい、でいいから。

 アイカは水晶に手を置いた。水晶が少しだけ輝くと、文字が浮かんでくる。

 適性のクラスだ。


「こ、これが、私のクラス……!」

「盗賊じゃねーか……」


 戦士も何もなく、ただ単に盗賊の二文字が水晶に映し出されていた。


「このくそ犯罪者が。ここで断罪するか」

「ちょちょちょ、ちょい待ち! 違うし。良い意味合いの盗賊でしょ! ねっ!? 受付嬢さん!」


 良い意味合いってなんだよ、と思ったが、マーシャさんは盗賊が出たことに何の疑問も持っていないようだ。


「盗賊もちょくちょく出るクラスです。別段珍しい物でもないので、そんなに騒がなくても大丈夫ですよ」

「ほ、ほら。受付嬢さんもこう言ってるし」


 アイカがマーシャさんの援護射撃を受け取り、攻勢に出る。

 

「そうなんですか。盗賊。どんな感じに戦うのでしょうか?」

「まず接近戦です。あとは体術やダガーなどの刃物を使って敵を攻撃します。暗殺者の前身です。多分ですが、レベル30になる頃には、暗殺者のクラスが出てくると思います」


 がっつり真正面から戦わないような印象だ。

 それに暗殺者か。使えそうだ。


「短剣を使っているようですので、その内短剣術が出てくるのではないでしょうか? それとも今出たかもしれませんね。盗賊になったので。体術もあるかもしれません」


 マーシャさんは詳しいステータスを見ようと、水晶に手をかざした。

 アイカの情報が羅列される。


アイカ

レベル10

クラス 盗賊


武術系統

短剣術レベル1


特殊系統

不運(アンラッキー)


「わっ! 見てください! 短剣術ありますよ!」


 スキルだ。

 これはいい。

 レベルこそ1だが、この前戦った盗賊団の連中は碌にスキルを使うやつは居なかった。

 それに比べれば、アイカは使えるようになっている。


「短剣術の技って何だ?」

「一本突きですけど?」


 アイカが当然のように言ってきた。

 そうなの?


 マーシャさんが説明してくれた。


「剣術と短剣術は変わりません。使う武器が違うだけで、技は同じですよ。レベル1なら一本突きです」


 これも常識のようだ。

 あまりスキルに関しては突っ込まないようにしよう。


「私の仕事はこれで終わりですので、お二人も部屋を出てください」


 マーシャさんは水晶を取り上げ、先に部屋を出た。

 俺たちもそれに倣い静かに部屋を出て行った。

 ギルド内もにぎわっている。


 今日の成果やら武勇伝を語るやつもいる。


 その中に女は本当に少ない。

 居たとしてもゴリラみたいなやつや、完璧に魔法使いとわかるようなやつばかりだ。

 

 極端にもほどがある。

 隣のアイカはどちらかと言えば、非戦闘員に見える。

 だが、今日から盗賊だ。


「こき使ってやるから安心しろよ」

「フヒッ、全然安心できない」


 そんな事を言いながら、宿に戻って食事をとってさっさと寝た。

 発情期のクソ犬をかわしつつの就寝だ。



「セイッ!」


 ゴブリンの背後からアイカの一本突きが炸裂した。

 短剣の扱いも急激にうまくなっている。


 あれなら正面から戦っても、ゴブリンといい勝負が可能だ。

 むしろ獣人の膂力の分、絶対有利に戦うことが出来る。


 ゴブリンが痛みにうめく隙に、俺も一本突きの上位技の二連突きで止めを刺した。

 喉・顔面に叩き込めば、一丁上がりだ。


 こびり付いた血を、剣を振って払いのける。

 ビシャッと血糊が地面に張り付く。


 剣に付いた血をふき取り、アイカはナイフで魔宝石を回収する。

 嫌な顔をするものの、だいぶ手慣れた手つきで事を運ぶようになった。


 ナイフも短剣の範疇に入るのだろうか。

 なんでもいいか。使えるやつは大歓迎だ。


 もう何日も2階層のトレントや偶に出てくるゴブリンを倒している。

 トレントは俺が倒して、ゴブリンは頑張ってアイカが倒す。俺はサポートに回り、アイカのレベルを上げさせる。


 2階層も余裕だ。

 これ以上ここにとどまる理由もない。

 速い所金を稼がないといけない。


 早急に戦力を整え、いつか補足されるときに打って出るために。


 それともこの町を出るべきだろうか。

 しかし俺からは探せない。

 復讐対象が接触してくる事こそが、最速で奴らに合う方法である他ない。


 俺にとって奴らは霞のような存在であり、居るかどうかもわからない。

 ならば俺は一か所にとどまり、戦力を蓄える。


 これが最善だ。 

 強くなれ。

 そして殺すのだ。


「三階層に行くぞ」


 ゴブリンの魔宝石を回収してきたアイカに告げた。

 その顔は少しだけこわばっている。


「い、行くんですか……。早いと思いますが……」

「大丈夫だ。俺聖騎士だし。俺は死なない」

「フヒッ、私が入ってない」


 文句言うがアイカも付いてくる。

 階段を下りて、3階層に順調に降りた。


 ここだ。

 ここを突破できるかが、新兵を卒業できるかが来まる。


 童貞だ。

 ここが違う。

 ここをクリアできれば、ある程度認められる。


 認められたくてやっている訳じゃないが。


 仄暗い迷宮を歩きながら、周りを警戒する。


「くせぇ」


 アイカが呟く。


「イヌくせぇ」


 スンスンとアイカの鼻が動き、あるところで止まった。

 抜刀した。

 俺もそれに続く。


「来てるか」

「うん」


 隣同士に並んで、少しずつ走る。

 駆け足のようになる頃には、コボルトが見えた。

 この3階層の主だ。


 体長は150㎝程度。

 背がまがって犬を経たせたような容姿をしている。けもくじゃら。

 手にはスコップを持っている。剣や鈍器の奴もいるから普通だ。


 スコップも武器だ。塹壕戦のような狭い場所での戦闘で絶大な戦闘力を発揮するだろう。

 スコップの金属部分は脅威だ。

 あれだと、斬る・叩く・突くが可能だ。

 非常に優れていると言っていい。


 まずは俺が先行する。


 盾を構え、振り下ろされるスコップを受け止めた。

 ガツンと衝撃が腕にのしかかった。

 コボルトはスピードファイターだ。


 まがった背ではダイナミックな動きはできないが、出の速い攻撃でこちらを惑わす。

 ゴブリン慣れした俺たちにとっては、少しやりづらい。


 だが、俺がちゃんと受け持てば、アイカが後ろから刺す。


「セェアァ……!」


 一本突きによるスタブ。

 背後からの奇襲は盗賊の得意とすることろだ。

 アイカは短剣を引き抜いて、蹴りをぶち込んだ。


「ぎゃん……!」


 背中の傷に加え、体勢の崩れたコボルトに一撃を加えた。

 頭。

 頭を狙い、どんどんカットラスを振り下ろした。


 だが、コボルトも死に物狂いで反撃してくる。

 スコップを振り回し、俺が近づかないようにする。


 それもでもいいが。


 俺は数歩下がり、火魔法で悪足掻きをするコボルトの体に火弾をを叩き込む。

 燃え上がるコボルトは狂乱し、暴れ狂う。


 スコップを放り投げて、地面をのたうち回り、必死に火を消そうとしている。

 そこに俺とアイカが上から襲い掛かった。


 咆哮を上げながら地面を転がるコボルトの体に得物を突き刺した。

 燃えているコボルトの近くには居たくないから、すぐに離れる。


 刺し傷に火傷を全身に受けるコボルト。

 毛が燃える嫌なにおいが、迷宮内に充満する。


 コボルトは次第に転がらなくなり、力尽きたようだった。


「アイカは周りを警戒」

「はい」


 ここで前回は他のコボルトに見られて、追いかけられる羽目になった。

 失敗は繰り返さないようにしないと。


「来ました」

「魔宝石を回収しておく。抑えておけ」

「……できるかなぁ」


 分かるのは正面戦闘を避けたい、というのがアイカの本音だ。

 盗賊は側面や後ろからの攻撃。

 これが基本だ。


 つまり一対一は得意じゃない。

 それでも短剣術のあるアイカはまだましだ。


 さっさとコボルトから魔宝石を回収して、アイカのところに向かった。

 頑張ってコボルトの攻撃を防いでいるが、あっぷあっぷだ。


 どんどん後退しているし、追い込まれているように見える。


「た、助け。早く。して、こ、こっち来て……!」


 すぐさま回り込んで、コボルトの側面を取った。

 だが気づかれている。

 ちらちらこっちを見ているし。

 

 関係ない。突っ込め。


「縮地突き……!」


 発射されたように加速された速さで、コボルトとの距離を詰めた。

 コボルトはそれを避け、後ろに下がった。


 アイカは一息ついて、俺は挑発。

 大声が迷宮内に轟き、俺はコボルトに突撃。


 途中で火球を打ち込んで、コボルトの気をそらし、二連突き。


 一発目を剣で防がれたが、二発目は横腹を穿つ。


「ぎゃぁぁぁん……!!」


 悶え苦しむコボルトをよそに、アイカがいつの間にか背後を取っていた。

 後ろから組み付いて、喉を掻っ切った。


 コボルトの首からドバッと血が溢れだす。

 さらにアイカは短剣を喉下に付き込んで、追い打ちをかけた。

 えぐいな。

 それでいいのだが。


 倒れそうになるコボルトからヒョイッとアイカが飛び離れた。

 コボルトは絶命していた。


「まぁまぁだな」

「そうですか? 割といいと思いますが?」

「一匹くらい圧倒してもらわないと」

「そうですか。難しいですね」


 アイカはしゃがみこんで、魔宝石を回収した。

 鼻も動いているし、周りの警戒も怠っていない。


 アイカはにおいに敏感だ。

 近づいてくるような奴には異様に反応する。

 そういう意味では使えるやつだ。


 コボルト対策になる。

 仲間を呼ばれるような事が無い。


 先に見つけて、先制攻撃をすることで遠吠えをすることを防ぐ。

 そう言う風に事前警戒が完成するころには、完璧に3階層は攻略できていた。

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