25 不運の中の幸運
今日は2話投稿
こっちは二話目
二階層に移動した。
ここは主にトレントが出現する。
偶にゴブリンも出現する。そこまでの出現率ではないので、警戒するほどでもない。
それに今はアイカもいる。
ゴブリンの匂いに敏感になったのか、近づいてくるだけで教えてくれるようになっている。
レーダーみたいなやつだ。
そしてトレントは俺と相性がいい。
火魔法で片づけるだけでいい。
動きも遅いし、魔宝石も高く売れるカモだ。
だが、刀剣類で倒そうとすると、これが難敵になる。
剣で木を斬るなんて、中々出来る事ではない。
結局のところ、レベルという観点で上げるなら普通はゴブリンからステップアップする必要がある。
「お前は結局どうするよ?」
4体目のトレントを燃やして、アイカに聞いてみた。
アイカは火が消えたのを確認して、魔宝石を回収しようとしている。
短剣でガッガッと幹をついて、魔宝石を取り出そうとしている。
心臓の場所は少しわかりにくい。
トレントには顔がある。
顔とってもシミがそう見えるだけで、それが顔である確証はない。
魔宝石はその中心にあるので、そのあたりを開胸する必要がある。
だが、トレントによっては若干、魔宝石の位置がずれているので、取り出しにくいというのはある。
火魔法で燃やしているので、少しは取りやすいだろうが。
アイカが魔宝石を取り出して、俺に渡した。
「何がですか?」
上手い事やっているような顔をしているが、俺の目的は強い相棒だ。
「レベル上げだ。レベル1のカスには用がない」
「ひどっ! ……でも、ですね。普通女の子がやる仕事じゃないと思うんですよ。この稼業」
「まぁな。でも俺の言う事は絶対だ。そうだろ?」
「はぁ、早く死んでくれないかなぁ」
「お前な……」
かなり腹が立つ。
もう運命を受け入れてほしいものだ。
「俺に買われた時点で不運だったんだよ。このままずっと怯えるくらいなら、少しは強くなった方がよくないか?」
「それは、そうかもしれないですけど……。怖いんですよ。根本的に。刃物を持った相手に向かっていくなんて、普通の精神でできる事じゃないんですよ。ユウキさん」
「誰も真正面から戦えなんて言っていないだろう。後ろから殺せ。殺さなくても殴るだけでもいい。後は俺がやる。お前は隙を作ればいいんだよ。そのうち殺せるようになる」
「どうやって後ろを取るんですか? 見つかるじゃないですか」
「挑発があるだろ。何のための盾術だと思ってるんだ」
アイカは納得したような顔をして、短剣を引き抜いた。
「ゴブリンです」
「殺す必要はない。今はな。レベルを上げるとなれば、その内お前が殺す必要がある。分かるな?」
「……分かりましたよ。邪魔でしょ。邪魔すばいいんですよね?」
「そうだ、ちょろちょろしてろ」
宣言通りゴブリンが来た。
二階層のゴブリンは一階層より強い。
油断はせず、全力で相手をする。
「少し離れてろ。挑発の範囲内に入る」
アイカはコクリと頷いて、俺の後ろ数mまで下がった。
挑発の領域はあまり広くない。
それでいいだろう。
「ウオオオオオオオオオオォォォォオオオォオォ……!!」
挑発でゴブリンの敵意を固定した。
ゴブリンは槍を持っている。
間合いが遠い。
「ギッシャ! ジャララ!!」
盾受で受けつつ、横目でアイカを見た。
頑張って近づこうとはしている。
が、手前でどう近づこうと考えているように見えた。
行こうか、どうしようか、ユウキさん倒してくれないかな? みたいな感じだ。
確かに、挑発をしていても攻撃が当たらないとは限らない。
槍を振り回せば、アイカにだって当たるかもしれない。
攻撃対象にしにくいだけで、絶対攻撃できない訳では無いのだ。
その辺曖昧なスキルだ。
盾術レベル1の技だし、仕方がない。
アイカはそれであまり動けないでいる。
短剣を持っているだけだ。
だが、それでもゴブリンへの牽制にはなっている。
ゴブリンにしてみたら、刃物を持った奴が後ろに居るのだ。
警戒しない訳にはいかない。
「う、う、どうしたら……」
ソワソワと視線を俺に送るだけのアイカだ。
今はそれでいいが、そのうち頼むぞ。
「火球……!」
間合いの外から連続攻撃を叩き込む。
ゴブリンは避けたり、槍で打ち払ったりしている。
「縮地突き……!」
動き回るゴブリンに突撃する。剣を突きだし、串刺しにしようとしたが、これも槍で打ち払われた。
跳ね上がる剣を握る拳の握力を全開にしつつ、次なる技を。
右方向から左へ振りぬく、
「撫で斬り……!」
「ギィァァ……!!」
左腕を切った。スパンと斬れるほどでもないが、かなり深く行った。
ゴブリンは槍を片手で持っているし、まだだ。
こっちが有利。
「一本突き……!」
更なる追撃をかけるが、ゴブリンも何とか回避した。
頑張る。
俺も負けない。
さらに近づいて、槍の間合いをつぶして、剣を振りまわす。
ゴブリンも何とか槍で防ぐ。俺は負けじと攻撃する。
剣を連続で振り下ろし、ゴブリンに膝をつかせた。
こうなったら終わりだ。
蹴倒して、馬乗りになって、喉に剣を突き刺す。
「……ェッ!」
カットラスをねじりこんで、切り裂く。喉を貫かれたゴブリンは、そのまま動かなくなった。
「ふぅ……」
槍はダメだろ。
攻撃範囲が広いし。やりづらい相手だ。もっと魔法で仕留めるようにしたい。
「……やっぱり強いですね。何個もスキル持ってるし」
トコトコとアイカが駆け寄ってきた。
もう短剣を収めている。
「お前も強くなるんだよ。ほれ、魔宝石とれ」
ナイフを渡して、アイカに剥ぎ取るように命令した。
ナイフこそ受け取るが、嫌そうな顔はひっこめない。
二人でしゃがみこんで、ゴブリンの死体を取り囲んだ。
「料理の感覚だ。包丁位持ったことあるだろ?」
「ありますけど。それとこれとは……」
うだうだ言うアイカの手を握った。
「ちょ、いきなり何――ぎゃあぁぁ、キモイ、キモイ!」
そのままアイカが握るナイフを強制的に、ゴブリンに突き刺した。
何とも言えない感覚が、アイカを襲っていることだろう。
「ほれ、引くぞ」
ジュブブ、と溢れ出す血が生臭い。
アイカは涙目になりながら、俺の手によってゴブリンを切り裂いている。
「あぁぁ、この感触は……!」
アイカはゴブリンを切り裂く感覚に、戦々恐々としている。
だが、慣れろ。
人間慣れるものだ。
慣れ慣れ。
慣れだって。
「ほぅら。簡単だろ? 魔宝石も見えてきたぞ。ほれ。取れ取れ」
「うぅ……。不運だ……」
その後も数体のトレントとゴブリンを倒して、魔宝石を回収した。
アイカは精神的に参っているみたいだった。
「どうだ? 慣れたか?」
「……慣れるんですか? これ」
宿で飯を食べながらアイカの状態を確認する。
「どんなことにも慣れは来るだろう。それにもう一段階上があるからな。覚悟しておけよ」
「……私戦えるんですか? というより、必要あります? 私?」
「どういう意味だ?」
水を飲み、オルガを呼んで皿を下げてもらった。
アイカはおかわりみたいだ。
稼げたからいいが。
「そのままですよ。ユウキさんなら一人でもやっていけると思うんですが。――ありがとうございます」
オルガがおかわりを持ってきて、アイカはお礼を言ってそれを受け取る。
今日はチキンのソテーだ。美味かった。
目の前の女はガリガリだから、あまり食べないように見えたがそうではなかったようだ。
食べれなかっただけだという事に気付いた。
アイカがソテーに齧り付きながら、話す。
「剣術、盾術、火魔法、光魔法。一人で4人分は働いてますよ? 私なんていら無くないですか? 不運なだけ余計邪魔だと思うんですが」
俺は笑い飛ばす。
大声が宿中に響いて注目を集めた。
軽く謝った後、宿の喧騒は元に戻った。
「フヒッ、いきなりなんですか。壊れましたか?」
「ちげーよ。勝手に壊すな」
アイカのソテーを一口貰って、目の前の犬の必要性をさとす。
「不運は必要だ。お前は手放せない。俺がどうなろうと、お前の不運は使えるし、金にもなってる」
「なってますか? モンスターに襲われまくりですけど」
「それだよ」
「はい?」
ソテーを飲み込んで、持っていたフォークでアイカを指す。
「俺一人の時はモンスター一体探すのに、何分かかかってたのに、今は違う。お前の不運のせいでいつでも、どこでもモンスターがいるしな」
「……それって良い事ですかね?」
「金は必要だ。生きるのにも、復讐するのにもな」
アイカは首をかしげる。
「復讐? 何の話ですか?」
「言ってなかったな。俺は復讐がしたい。どんな奴か知らんがな」
「何ですかそれ。誰かもわからない人に復讐したいんですか?」
「そうだ。それにお前の不運は使えそうだ。お前のおかげでその内、復讐対象が見つかるかもな」
「……すみません。それって私もやらないといけないんですか?」
「当然だ」
「別れませんか?」
「絶対逃がさない」
アイカは頭を抱えて、机に突っ伏した。
「最悪だ……」




