表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/87

24 働かざるもの

 死ね、以外の命令でなければアイカは言う事を聞くしかない。

 前日は結局同じベッドで寝た。

 手は出さない。


 そんな気分じゃない。

 それに、目的は復讐だ。

 オナホールにしたいわけじゃない。


 飯を食らい、最初に昨日聞いた預かり所とやらに赴いた。

 銀行だ。


 アイカと一緒に行動していたら、お金がどんどん無くなっていく。

 不運(アンラッキー)のせいで、俺の金もどこか遠くへ行ってしまう。

 手持ちが銀貨一枚というやばい状況は、とにかく何とかしなければならない。


 アイカを連れて、町を進んでいくと、入り口を騎士団に警備されている建物が見えた。

 前面ガラス張りのおしゃれな建物だった。

 ガラスなんてこの世界では見た事が無い。


 高級品なのだろう。

 それだけに、騎士団が守るし、皆の注目を集めやすい。

 今まで気づかなかった俺が恥ずかしい位だ。


「ここか?」

「フヒッ、多分」


 アイカのお墨付きを得て、中に入ってみると、ギルドみたいにカウンターがたくさんあった。

 大理石の床に、もちろんガラスの外壁。

 透明度が高いというか、空気が澄んでいるように感じる。

 全面白で統一していて、清潔感にあふれている。


 中にはたくさん人が居た。

 利用者や職員、武装した騎士団の連中もいる。


 強盗などを防ぐための措置だろう。

 俺とアイカを注視している。

 武器を持っているしな。


 その内、騎士団が近づいてきた。


「武器を預かります」


 一応丁寧な対応だが、マジ切れ寸前の顔をしている。


 隣のアイカが「あっ」と言った。

 いやな「あっ」だ。


「武器持ち込み禁止でした」

「早く言えボケ」


 騎士団に武器を預けて、空いているカウンターの人に話しかけてみる。


 黒い髪の毛のサイドテール。印象としては猫みたいだ。

 ていうか、猫。

 獣人さんだ。

 横にいるアイカは犬だ。


「本日はどのようなご用件で?」

「口座を」

「かしこまりました。身分証を」


 あはぁーん。

 身分証かよ。

 ねえよ。ギルドので良いかな。

 その前にまた個人情報の提出だよ。

 もう。でも、金がなくなるのは御免だ。

 横に居るアホ犬をにらむ。


「ピュ~……」


 無駄にうまい口笛が腹立つ。

 

「ギルドのステータスカードでいいですか?」

「構いません」


 金属みたいな真四角のステータスカードを差し出した。

 猫の獣人さんはそれを受け取って、何かにかざした。

 読み取り機みたいな? 良く分からない。


 それだけすると、ステータスカードは返却された。


「これで口座はできました。お金の預かりは預けた分の1%を徴収する決まりです」


 それがこの銀行の利益なのね。これに文句を言っても仕方がない。

 全財産の1シルバーを預けた。

 これで銅貨一枚分が徴収されたはずだ。


「ありがとうございました」


 猫の獣人さんが頭を下げて、俺たちも武器を受け取り外に出た。

 外に居た騎士団の連中に汚い目で見られた。

 

 冒険者だからだろう。

 この格差社会、どうにかならないの?





「さーて、舐められないようにお前も強くなれ」

「ちょちょちょ、待ってみ。よく考えて。私弱い。あなた強い。私戦わない」

「ふざけろ。何のために買ったと思ってんだ。死ぬまで戦え」


 むかつく片言はスルーして、装備の整った犬を引っ張る。

 抵抗する力が強い。 

 伊達に獣をやっていない。

 これでがりがりだと言うのだから末恐ろしい。


「む!? ユウキさん、ちょい待ち!」

「え!? 何!?」


 突然大声を出した家の犬。

 鼻をくんくんさせている。

 何やってんだ、こいつ。


「やばやばやば。来てるって。来てますよ、ユウキさん!」

「は? 何が?」

「ゴブですよ!」

「業界人みたいに言うな」


 ゴブリンをゴブと略すのは、置いといて。

 有効なのは、


「マジで来てるの?」

「来てる、来てますよぉ。忘れませんよ、もう。あの匂いは。ゴブの匂いは覚えました」

「来てるのはアイカの不運のせいだけどな」

「……そうですけど。そこは……オホン。アイカ、君のせいじゃないよ、美しい君のせいのはずがない。不運なんて俺が蹴散らしてやるよ。みたいな?」

「キモッ」

「フヒッ。やっぱり?」


 アホな会話している間にも、ゴブリンは着てしまった。


「はい、お前のせい」

「……喋りすぎた」


 ゴブリンは早速やる気だ。

 棍棒を持って、撲殺する気満々である。

 横を見れば、震える犬が一匹。


「……俺がひきつける。どうだ? 出来るか?」


 声音は優しく。

 強制してもよくない。

 上司だ。

 怒るだけの上司ではだめだと思う。

 諭せ。


「で、でも。あい、アイツ。殺す気で、私、運が悪くて……」


 さっきまでとは別人のようになっている。

 本気でおびえているようだ。


「大丈夫だ。本当に運が悪いなら、昨日死んでる。むしろお前の不運(アンラッキー)は、お前を苦しませるために、生かさず殺さず、生殺し状態にするのが目的だな」

「フヒッ、それはそれで、酷い」


 喋っている間に、ゴブリンも走ってきていた。

 こちらも対応しなければ。


光の加護(プロテクション)


 光魔法の必須魔法をアイカにもかけて、六芒星の二点が輝いたものが左手の甲に宿った。

 これで30分は身体能力が向上する。

 獣人の身体能力など考えるだに恐ろしい。


「どうだ?」

「む、無理……!」


 だめだ。震えている。

 このまま戦わせても死ぬのが落ちだ。

 それでは困る。


「隙を見ろ。出来たらでいい。分かったな?」

「わ、分かりました」


 盾で身を守りつつ突撃した。

 ゴブリンは棍棒を振って来るが関係ない。 

 そのまま盾で体当たりした。


「ブギャ……!」


 棍棒の攻撃を防ぎ、ゴブリンの鼻っ面に盾を叩き込む。

 のけ反るゴブリンにカットラスを叩きこんで、叩き込みまくる。

 止めを刺さずアイカを待っているのだが、一向に来ない。


 戦いを無駄に長引かせると、救援が来る可能性がある。

 一本突きで止めを刺すと、アイカが後ろから話しかけてきた。


「来てますよ、ユウキさん」


 見れば右の通路から一匹のゴブリンが姿を現していた。

 ゴブリンもこっちを見つけて、怒鳴り声を出しながら走ってくる。


 俺はナイフをだして、アイカに渡した。



「ゴブリンの魔宝石でもとってろ! それ位できるだろ!」


 アイカは命令に従い、ゴブリンの死体に近寄る。

 呻き声を出しながらしゃがむ所まで見て、向かってくるゴブリンに対応する。


 さっさと殺すべきだ。

 アイカの不運が発動している。

 次から次へとゴブリンが来る。


 ゴブリンと戦っていると、後ろから悲鳴に似た声がした。


「あぁ……。ど、どうしよ……」

「なんだ!? 何した!?」


 ゴブリンを殴り飛ばし、距離を取った。

 後ろに下がる。アイカは地面にしゃがんだ状態だ。

 ゴブリンの死体は消えている。


「アイカ……」

「ご、ごめんなさい……」


 どうやらアイカは魔宝石の回収に失敗したらしい。

 推測になるが、魔宝石を取ろうとしたのだろう。だが、気持ち悪くてやろうかどうしようかと悩んでいる間に、迷宮がゴブリンを消化してしまったのだ。

 それで名前を読んだだけで謝ったのだ。


「ギャッジャアァ」


 ゴブリンが痛みから復活して、俺たちに近寄る。

 俺が出迎えて、ほどなく倒した。


 俺は横たわるゴブリンの死体に近寄った。

 アイカの方を見て手本を見せてやる。


「こっちこい」

「フヒッ、い、嫌です……」

「命令だ」

「それずるい!」


 否応なしにアイカは俺の方に来るしかない。

 

「ナイフ貸せ」

「はい……」

「見てろよ」


 躊躇なくドスッとゴブリンの胸にナイフを突き立てた。


「おぇぇ……!」


 アイカがえずく。気持ち悪いようだ。

 突き刺したナイフをゴブリンの臍の方にひいて、開胸する。


「うぇ、気持ち悪……」


 さっきからうるさいな、こいつ。

 胸を切り開いていると、少し青白い魔宝石がお目見えした。


「アイカが取れ」

「えぇ!? 私!?」


 アイカは自分を指さし、本当に驚いている。


「経験しろ。案外何でもないぞ。俺も最初は……どうだったけ?」

「適当。……なんか布みたいなの無いんですか?」

「ゴブリンの服で代用しろ」

「はぁ、触りたくないなぁ」


 アイカは言われた通りに、ゴブリンの服を布代わりに、魔宝石を掴みにかかった。

 ぐちょり、なんて音がしてアイカの顔がゆがむ。

 耳も尻尾もげんなりとしていて、本当に嫌な事をしているという風だ。

 それでも何とか魔宝石を取ると、俺はアイカに提案した。


「2階層に行くか?」

「え、危ないんじゃ?」

「2階層はだいたいトレントだ。木だ。木から魔宝石ならお前だってとれるだろう。慣れろ。そして戦え。今のところ優しくしてやっているが、俺は本気だ。戦うんだ。どうだ? 木だったら血も出ない。怖くないぞ」

「いや、危ないでしょ」

「口が減らないな。兎に角、最低でも魔宝石回収の役割くらいはやってもらうぞ。働かざるもの?」

「……食うべからず」


 俺はにやりと笑い、


「その通り」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ