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21 奴隷商店

 ザイルを殺した後は、さほど難しい仕事じゃなかった。

 求心力の塊であったザイルの死は、盗賊団に格別の動揺を与え、ただの烏合の衆と化したのである。


 そこを50名近くの冒険者が、支援に向かったことによって、盗賊団は全滅した。


 被害が大きかったのは騎士団だ。

 ザイルが大暴れしたことで、数少ない魔法使いが多く殺されたみたいだ。

 優先的に殺しにかかっていたようで、魔法を撃った奴を真っ先に殺して回っていたらしい。


 騎士団の性質故に、戦士や騎士といったクラスが多かったが、少しは魔法使いもいるようだった。

 黙とうと冥福を祈り、自分自身を光魔法で癒した。


「便利だな」


 ケガをした俺を警護していたスキンの言葉だ。

 仁王立ちしながら周囲にガンを飛ばしている。

 もういいから。


 俺は立ち上がり、盗賊たちの死体を拝見する。


「これって装備もらっていいの?」


 俺の剣と盾。特に盾は壊れてしまった。

 新調しようとすると、金がかかってしょうがなくなる。


「良いんじゃないか? 騎士団には黙っておけよ」


 俺はこっそりその場から抜け出し、砦の西面に移動した。

 そこには俺と殺り合った、ぼろぼろになっている男の死体があった。


 カットラス。


 貰うぜ。


 


 盾もその辺から金属製のものを貰い、装備面も整った。

 後処理は騎士団に任せて、冒険者たちは一足先に街に戻った。


 古き良き街並みを抜けつつ、早足でギルドに向かった。

 割符を差し出して、金貨一枚と交換してもらうためだ。


 早朝からギルドには50人の冒険者が突入してきて、てんてこ舞いに見える。

 俺とスキンは最後に手続きを済ませた。

 成功報酬とザイルの報酬である金貨20枚だ。


 倒したことは騎士団が証明してくれる。

 金貨を受け取って、ギルド内にあるテーブルに対面で座った。


「分け前だが、俺が全部もらうってことでどうだ?」

「アホか!」


 俺のボケに対して、スキンはちゃんと突っ込んだ。


「んだよ、おっさん。ほとんど俺のおかげだろ。あの挑発のおかげで、おっさんは死ななかったわけじゃん」

「止め刺したのは俺だ!」


 スキンは持ち前の大声をギルドに響かせながら、声高らかに主張した。


「真面目な話、こういう場合はどうなるんだ?」


 俺は初めての出来事に素直に質問してみる。これくらいなら疑われる心配はない。


「……だいたい、折半だな。だが、貢献度というものもある」

「貢献ね。この場合はどうなる?」


 スキンはニヤッと笑って、俺の肩をテーブルの向こうから軽くたたいた。


「坊主はよくやった。止めこそ俺がやったが、その前の挑発(ウォークライ)は最高にクールだったぞ! 坊主、それを考えてどれくらいの配分が良い? 取りあえず、言ってみろ!」


 俺の欲しい額は、奴隷が買える値段だ。

 今回成功報酬で、金貨一枚が手に入っている。

 奴隷の最低価格は、15ゴールドから。あと14枚金貨が最低でも必要になる。


「金貨14枚だ」

「……少し大胆に来たな。理由を聞いていいか?」

「奴隷が欲しい。最低価格の15ゴールドに届かせるためには、あと14ゴールド欲しい」

「……パーティーメンバーの事か?」

「そんなところだ」


 スキンは目をつぶって、唸り始めた。

 腕を組み、何か悩んでいるようだ。


「……なら、俺たちのパーティーに入らないか? 坊主は強いみたいだし、俺としては歓迎だが」

「悪い話じゃないが、こればかりはな」

「そうか。まぁ、最初から期待はしてなかった」


 少し身を乗り出していたスキンは、深く背もたれに背中を預けた。

 少し落胆したみたいだ。


「報酬はその14枚で良いぞ。それ位の働きはしていたからな」

「いいのか?」

「未来ある若者には金が必要なんだよ」


 スキンは金貨6枚を持って、そのままギルドを出て行った。

 結構あっさりした別れだったな。


 俺は皮袋に金を入れて、宿に戻った。



 遅めの朝食を食べて、部屋に戻った。簡素な部屋のベッドに腰掛ける。

 まだ昼だが、今日は疲れた。

 死に目に会ったし、散々な日だった。


「はぁ……」


 第一目標は完遂した。

 まさか賞金首を殺せることが出来るとは思わなかった。

 手を下したのはスキンだったが、俺も良い働きをしたと思う。


 自信も付いた。

 だが、やはり惜しい。

 ザイルは俺が殺したかった。

 経験値が入らない。

 ステータスカードを確認しても、俺のレベルは12で固定だった。


 ザイルほどの強者を倒したなら、レベルが上がってもいいのでは? と思ったが、経験値的なものは殺したものが総取りらしい。

 どおりで大人数で迷宮に行かないはずだ。


 あまりにも多すぎる人数で迷宮に行っても、金の配分は少ないし、経験値が手に入る可能性も低い。

 旨みが無いな。


 それとどうするか。

 奴隷。


 買いに行こうか。

 最低価格分はもう保持している。

 今の手持ちは金貨16枚と銀貨がたくさん。


 ちょっとした奴隷なら買える。


「でもなぁ……」


 個人的にはスキンやザイルのような超強い奴隷が欲しい。

 でもそんな奴はいないだろうし、居たとしても買えないだろう。


 金をまだ稼ぐか、それとも弱くても買うか。


「弱くても良いのか……?」


 この世界はレベルというものがある。

 俺が強くしてやってもいい。 

 その俺も弱いのだが。


 取りあえず、行くだけ行ってみようか。

 買うか買わないかは、その時決めよう。


 俺は座った状態から、ベッドにうつ伏せになり、目を瞑ると疲れからすぐに眠ってしまった。



 今日の夢は散々だった。

 31人のクラスメイトが楽しく過ごしている夢を見ていた。

 俺だけがそこに居ない。


 でもそんな光景を悲しげに見ている俺がいる。

 もうこんな事は無いんだと思いながら、目を覚ました。


 最悪の目覚めだ。


 目じりには涙がたまっていた。

 初めての体験だ。


 目元をぬぐい、外を見た。

 もう暗い。

 ていうか、真っ暗。


 もう深夜だ。

 晩飯食べ損ねてしまったようだ。


 目も変な風に覚めてしまったし、どうしようか。


「……寝るしかないだろ」


 時間が分からない以上、生活習慣は崩したくない。

 光魔法があるから体調はいつでも万全にできるが、健康が一番だ。


 ベッドに再度横たわり、強制的に目を閉じる。

 腹がギューギューなっているが、それも無視して寝ようとする。


 それでもあまり眠れない。

 まどろむ位だ。


 ぼんやりとした感覚にとらわれていると、外の光が差し込んできた。


 目に光が当たって、刺激にまどろみから解放された。


「ん……。起きるか」


 装備を整える。

 カットラスと金属のカイトシールド。

 一端の装備だ。


 特にカットラスが良い。

 良い品だ。肩て武器というのも良い。盾装備の俺と相性が抜群だ。


 部屋を出て一階の食堂へ降りるころには、続々と冒険者たちが集まり始めていた。

 今日も同じく迷宮に行くのだろう。


 今日は簡単なサンドイッチのようだ。

 時間が無かったのかな。それでも二食出してくれるこの宿は本当に有難い。


 食事を終えて、食堂の端による。

 オルガに聞きたいことがあるが、今は忙しそうだ。

 冒険者たちが少なくなって、暇になり始めたときに話しかけよう。


 カットラスの柄を弄りながら待つこと、数十分。

 訝しそうな眼をしながら、オルガがこっちに来た。


「さっきから何してるんですか?」

「聞きたいことがあって」

「さっさと聞いたらよかったです?」

「まぁ、そうなんだけど。忙しそうだったし……」

「話位ならいいですよ。すぐ終わるならですけど」


 茶髪を揺らしながらオルガは元気溌剌にそう言った。


「奴隷売ってる場所ってどこ?」




 オルガに嫌悪の目で見られながら、場所を教えてもらった。

 やはりあまり奴隷というのはいい目で見られていないようだ。


 それでも奴隷という制度がある以上、需要と供給があるのだ。

 俺がいい例だ。

 俺は需要だが。


 オルガに教えてもらった場所に従い、町を進んでいく。

 街の皆は忙しそうに働いている。お店もあったりするのだが、少しぼろい。


「あれね…・・・」


 その中でもひときわ異彩を放つ店があった。

 石造りの建物で、大理石みたいだ。

 かなり儲かっているようだ。


 最低価格が15ゴールドからなら、儲かるか。

 俺だって一日の稼ぎ、10シルバー位だし。

 奴隷一人売れたら150倍はもうけが出るのでは?

 原価知らないし、利益率も知らないが、建物を見た限りそうとうぼったくっている。


 奴隷市場だというしもっと人目に付かない場所にあるかと思ったが、堂々としているものだ。

 奴隷というものが受け入れられている証拠か。


 俺は木製の美しい装飾を施された扉を開けて、店舗内に入った。


「いらっしゃいませ」


 慇懃な態度で若い男が挨拶してきた。

 黒いスーツみたいなのを着ている。

 髪の毛も整えられていて、好印象だ。


 何か印象と違う。想像したよりまともな商売をしている……?


 若い男はいったん下がり、「店長を呼んで参ります」というと下がっていった。

 一番偉い奴が出てくるとは。これ如何に。

 それとも事務バイトだったのだろうか。


 お次は年配というか、良い感じに年齢と取ったおじさまが出てきた。こちらもスーツを着ている。

 もっとヤクザみたいな奴が来るかと思っていたので、案外拍子抜けした。


 それと、やはりちゃんとした商売のようだ。

 態度からもそれがうかがえる。


「今日はどのような奴隷を?」


 嫌な響きだ。

 だが俺も同じ穴の狢だ。

 堂々と行こう。


「戦える奴が欲しい」

「というと、戦闘奴隷ですね。性別は?」


 男だろ。


「男」

「ではこちらで」


 オジサンは奥の部屋に俺を案内する。

 その間に自己紹介された。


「ノーブル、でございます。以後、お見知りおきを」

 

 丁寧に挨拶されては、こちらも名乗るしかない。

 歩きながらだが、ちゃんと自己紹介してるとオジサンが部屋のドアを開けた。


 俺は部屋の中に入って、「おぉ」と声を漏らした。

 ガタイの良いおっさんやひょろい奴までたくさんいた。

 全員牢屋に入れられているのはご愛嬌だ。

 その辺は割り切れ。


「如何でしょうか? お眼鏡にかなう者は居たでしょうか?」


 俺は一人のムキムキおっさんを指さす。


「あの人とか強そうですね」

「はい、彼は戦士で尚且つスキル持ちの良品でございます」


 それはいい。

 未来のスキンとなれる逸材だ。


「彼はいくらだ?」

「50ゴールド位になりましょう」

「はい……?」


 ノーブルは話を続ける。


「戦士でスキル持ち。それに男。レベルも高い。こうなれば50ゴールドが相場になるでしょう」

「そ、それは残念。予算に合わなかったようです……」


 まずい。

 想像以上に高いぞ。


「も、もう少し手ごろな値段の人は……?」


 恐る恐る尋ねてみた。ノーブルは流れるように値段を言うが、まったくお金は足りていない。


「お、男の人は高いみたいですね……」

「ええ。女より男の方が強いので。迷宮へ行かれるのでしょう? 女の冒険者など数限りがあります。失礼かと存じますが、ご予算は?」

「じゅ、15ゴールド……」


 ノーブルはピクリと眉根を動かした。

 しかしすぐにその表情を元に戻した。

 冷やかしだと思われただろうか。


「最低価格の値段ですね。左様ですか。一人だけご紹介できる人物がいます。ご覧になりますか?」


 是非もない。

 それで買えるなら買おうじゃないか。


 ノーブルは部屋を出て、建物の奥へ奥へと進んでいく。

 厳重だ。

 かなり厳重な扉を開けた。

 鍵が何個もあるような扉を開けて、ノーブルは俺に向き直った。


「武器はここに置いていかれてください。何が起こるか分からないので」

「……? はい、分かりました」


 カットラスや盾、カバンの中に入っているナイフも全部おいていった。


「では、参ります……!」


 ずいぶん気合が入っているなと思った。

 何をそんなに気張っているのか。


 俺も部屋の中に入ると、一人の女の子が居た。

 年は俺と同じくらい。

 身長はあまり大きくない。体格もよくない。

 あまり食べていないようだ。


 ほっそりとしている。


 特徴的なのは。


「耳?」


 変だ。

 頭の頭頂部に犬みたいな耳がある。

 ぺたんと垂れ下がった耳だ。少し愛らしい。


 ノーブルが紹介する。今すぐここから離れたいような感じだ。


「アイカです。どうです? 金貨15枚で譲りましょう。条件付きですが」

「条件とは?」

「返品禁止。これだけで」


 するとアイカとやらが、口を開いた。透き通るような声だ。


「私を買うの?」


 ノーブルが血相を変えて叫んだ。


「お前は黙っていろ!!」


 びりびりと部屋の空気が振動する。

 ノーブルはハッとして、俺に一礼して謝った。


 話は続く。


「どうでしょう? 獣人の力は絶大です。この状態でも大の大人と変わらない力を発揮するでしょう。迷宮にも連れて行っても大丈夫なはずです」

「クラスやスキルは?」

「それも聞かない事を条件とさせていただきます」


 後だしだが、仕方がない。


「本当にそれだけの条件で、こいつが買えるんだな」

「勿論でございます。なんでしたら、装備一式もお付けしましょう。装備を買うのにもお金が要りましょう」


 破格のサービスだ。

 厄介者か。

 ここまで来ると露骨ですがすがしい。


 行き当たりばったりの人生だな。アイカとやらを見る。

 茶髪の髪。細々とした体。弱いな。


 だが、鍛えれば問題ない。

 獣人とやらが何なのか知らないが、使える雰囲気ではある。


 武器も付いてくるのだ。

 

「武器の話が本当なら買っても良い」

「分かりました。契約成立という事でよろしいですね?」


 ノーブルは内心ほくそ笑んでいるだろう。

 まぁいい。厄介者同士、仲良くやろうじゃないか。


 アイカ。

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