幕間
「なぜ見つからないのだ……」
一か月以上、蠱毒の法の被験者を探しているにもかかわらず、その情報は依然として出てこなかった。
老骨はその責任者に当たっている。
見つけ出せないのは彼のせいという事だ。
上層部からも急げとの伝達があるが、現状どうしようもないというのが答えだ。
蠱毒の法の残忍さを考えれば、公にして探し出せるわけがなかった。
逃亡者を負う人間は8名であるが、あの時洞窟に来た8名であった。
この人数で国のどこに居るともしれない人間を探せと言うほうが無理だ。
捜査能力の低いこの世界で、証拠を探し、身元も不明の人間を探すことなど、最初から不可能だったという事を上層部は分かっていない。
老骨は悩む。
手を考えるが、どうにも出てこない。
「むしろ生きているのだろうか……?」
異世界に放り出され、無の状態から生き残れるほどこの世界は甘くない。
いくら蠱毒といえど……。
「いや、そうでもないのか」
蠱毒の法によって、その者は特別な力があるに違いない。
それに残忍な性格。
いやそれは分からない。
物怖じしない性格にはなったはずだ。
戦う事に躊躇いがない。
蠱毒の法によるギミックの一つだ。
その代わり、言う事を聞かせることが出来なかったみたいだが。
故に、アイツらは殺され、蠱毒の法の生還者は逃げおおせている。
いや、逃げるという表現すら失礼に当たる。
我々のわがままに付き合わせているだけだ。
「隊長どうしますか?」
若い者がそう言ってくる。
彼も手詰まりを感じている。
「彼または彼女はどうやって生きていると思う?」
老骨は若い男に聞いてみた。
撫でつけた髪の毛が特徴的な男だ。正義感にあふれている。そうでもないとこの仕事はできない。逆に潰れる可能性もあるが。
「……金を稼ぐしかありませんな」
「だろうな。君だったらどうする?」
「……分かりません。盗賊にでもなるのでしょうか?」
「かもしれんなぁ……」
そうなればその盗賊団の脅威とは。
計り知れないものなるだろう。
「案外普通に働いているのでは?」
「その線もあるだろう」
きりがない。
情報が無いのだ。
暗い室内で8人が密会しても、何も成果はない。
情報などそう簡単に得られるわけもない。
「やはり、冒険者というのが一番の線ではありませんか? 力があるのです。どこかで冒険者の事を知れば、日銭を稼ぐためにモンスターを倒している可能性も」
紅一点の女がそう言った。
一か月間、何もやっていない訳では無い。
周辺の冒険者に関しては調べているが、どうにも情報は出てこない。
それ以前に、ギルドの自由度は高い。
超法規的存在だ。
内部に侵入でもしない限り、情報が手に入るとは思えない。
冒険者の情報を手に入れるには、結局聞込みしかない。
誰も自分の手の内を晒さないし、ギルド側もそうはさせない。
我々が個人情報を手に居れれば、追われるのが落ちだ。
最悪、暗殺者協会が動き出す。
それは死を意味する。
無意味に情報を手に入れようとすれば、死に至るのはこちらだ。
手が出せない。
これが実情だ。
「その前に、この町に居るとは限りません。もうここは見限るべきでは?」
女の進言に全員が頷く。
蠱毒の間からは一番近い街のはずだったが、一か月探しても見つからないとなれば、ここにはいないと考えて良い。
上からの命令で仕方なくこの町を探していたが、もう限界は見えていた。
「……上に掛け合おう」
「あいつらビビってるんすよ。ここに居たらどうしようって。もう居ないことくらいわかるでしょう。俺たちも外に出るべきです!」
若い奴らはこぞって外に出る事を今まで主張してきた。
だが生き残りがいるというだけで、上の連中はおびえ、慄いていた。
制御不能のジョーカーは予想以上に恐れられていたのだ。
これのせいで余計に、ジョーカーを追いかけるのが困難になった。
「冒険者か……」
その線だろう。
その確率が高いのは重々承知だ。
だが、恐ろしい。
どれだけの強さになっているのか。
いや、待て。
「噂になっている冒険者の話はあるか?」
「いや、分からないですけど」
他の奴らの顔を見てもどうかは分かっていない様子だ。
こういう時に冒険者というのは、情報を出したがらない。
騎士団に引き抜かれたくないからだ。
有能な人材を引き抜かれれば、冒険者ギルド側は損になる。
騎士団はタダで訓練された兵士が手に入るから、冒険者ギルド側にしかリスクが存在していない。
この体制こそが、今のところ一番厄介であろう。
「とにかく、法の強さは異常だ。噂位は出るだろう。各地に赴いて情報を集めてくれ。くれぐれも手を出すなよ。単独では死ぬぞ」
老骨がそう言うと、全員動き始めた。
ユウキを狭める包囲網は、着々と完成しつつあった。
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