20 賞金首
切り替えろ。
殺すなんてもうやった事だ。
洞窟では立花さんを殺し、さらに俺を回収しにきた思しき連中5名を殺している。
それが一人増えただけだ。
もう、俺は殺人鬼だったんだ。
この事実は変わらないし、変えようがない。
こうやって戦場で突っ立っている方が危ない。
ほら、また増援だ。
しかも挟まれている。
建物からと正面入り口方面からかなりの数が来ている。
それぞれのパーティーが一致団結して、動こうとしている。
「坊主!」
スキンが俺のところまできた。
コンビでやるというのは本当だったのか。
「抑えられるか!?」
「その間に倒してくれよ」
「分かってる」
簡単な打ち合わせを済ませると、4人がこっちに来た。
4人も。こんなに大人数と戦うのは、ゴブリンやコボルトに追いかけられて以降ない。
……割とあるな。
なんて思いつつ、強固な守り。これで体が頑丈になる。ないよりはいい程度だが。
それに光の加護もだ。
あまりやりたくないが、これは俺の仕事だろう。
「ウオオオオオオオオオォォォォォ……!!」
挑発。
俺とスキンに分かれようとしていた盗賊たちが、俺だけに集中せざるを得なくなる。
4対1。
怖い。
怖い。怖いい。
全員怨敵を見る目で見てる。
やばいことした。絶対怒ってる。
「く、来んな……!!」
乱れ突き。連続で剣を突き出し、弾幕を張って俺に近づけさせない。ていうより来ないで。来んな。こっちくんなって。やばいだろ。普通に考えて、4対1とか負けるから。死ぬから。スキン。早く来い。まだかよ。見た目だけだったのかよ。なんで信用したんだ俺。あほ。間抜け。死ぬ。殺される。乱れ突きが終わったら死んでしまう。やばいって。もう。助けて皆。何でこんな目に。ああああ。スキン。はげ。はげ早く来い。殺せって。何のために挑発したと思ってるんだよ。来るって。こっちに来てるって。殺そうとしてる。俺をさ、守ってくれるんだろ。早くしてくれよ。こいよ。まだ。まだなの。きた。来てた。信じてたぞ。本当だ。マジで。
「ぬぅおおおおおぉぉい……!!」
スキンが俺に夢中になる盗賊連中の後ろから、斧で切りかかった。
マジで強い。
一刀両断だ。
人が真っ二つになった。
ズババって。人が腰のあたりからスパンて斬れた。
マジかよ。
まぁ。俺のおかげだけど。
ズシャっと上半身と下半身が分かれて、全員明らかに死んでいた。
スキン。まじつよ。
「大丈夫か?」
盗賊たちの下半身が崩れると同時に、スキンは心配そうにそう言った。
「……挑発しなくても良かったんじゃ?」
「坊主の光の加護があるからできる芸当だ。いつもだったら骨に引っかかる」
知らんがな。
でもこれだけ強ければ、俺は安全かもしれない。
まだ盗賊は居る。しかし挟まれているというのは、どうにもならず、どんどん壁際に追い込まれ始めた。
やばい。このままじゃ。火魔法を使おうとした瞬間、次はこっちの増援が来た。
冒険者だ。
西の冒険者が階段からどんどん降りてくる。
盗賊はそれを見てあわてた。
追い詰めたと思ったら、逆に挟まれてしまったのだ。
後ろにいた盗賊たちがどんどん殺されていく。
それを見れ、追い詰められた俺たちも奮起する。
「オラアアッァァ!!」
一本突きで腹をぶち抜き、蹴倒す。
止めに首を一突き。また殺してしまった。
だが、割り切れ。
金のためだ。
スキンなんて一振りで一人殺す。
どんどん殺す。
いいぞ、挟撃して調子に乗っている。
良い雰囲気だ。
他の奴らもどんどん盗賊を倒す。
個人技では勝っているのだ。数さえそろえば絶対に勝てる。
スキンがいい例だ。
5分もしないうちに囲んでいた盗賊を掃討することが出来た。
挟めばどうという事は無かった。
真面目に訓練していたら勝てなかっただろう。
スキルを持っている奴も少なかった。
大きな組織に属して、強くなったと勘違いするタイプばかりだ。
本来の実力を考えたら、これくらいだろう。
騎士団はまだ破城槌で門を壊そうとしているのか。
砦内部にはまだ俺たちだけ。
スキンが皆をまとめるためか、大声を出し始めた。
「皆の衆! ここは我々で砦を制圧しようじゃないか! 賞金首もいるぞ! ザイルという男だ! 金貨20枚! どうだ!? やろうじゃないか! えぇ!?」
金貨20枚、という声がどんどん広がる。
基本その日暮らしの冒険者にとって、こんな大金が入る機会はめったにない。
俺だって金貨1枚に飛びついた口だ。
金貨20枚。
買える。
これだけで、奴隷が帰るぞ。
「20ゴールド!!」
全員目の色を変えて、砦の建物内に侵入した。
50人近い冒険者が一斉に扉に殺到した。
中にはまだたくさんの盗賊が居たが、次々殺していく。
金の亡者たちだ。50人全員で1階の盗賊を狩っていく。
逃げるやつもいたが、追いかける事はしなかった。
面倒だし、目的は賞金首だ。
一回は割と広い。
砦内は4つ分かれていた。
東西南北に部屋が分かれ、そこから階段が伸びている。
どの部屋の階段が賞金首に繋がっているのか。
すると有力パーティーなのか一組の団体が北に行くと、全員違う方向に散っていった。
北に行っても賞金首の首は取れないという事か。
すぐ近くにいたスキンと相談する。
「どうする?」
「ザイルか。賞金首は本当に強い。俺よりもな」
スキンより強いとかあるのか。
その斧があれば、誰でも倒せそうなものだが。
「それよりも、城門だな。あそこを解放してこよう。死にたくないだろう。ザイルとは関わらない事だ」
「けしかけたくせに」
「誰かが倒せば儲け物だからな」
方針が決まり、正面入り口に移動することになった。
まだまだ魔法は使える。温存気味で戦闘していたから、このあと奮発しても良いくらいだ。
建物を出て正面入り口に回り込む。
正面玄関にはたくさんの盗賊が集まっていた。
壁の陰から見ていると、その瞬間、ようやく破城槌で扉を破壊したみたいだ。
100の騎士団が攻め込んできた。
「来た意味なかったな」
なだれ込む騎士団と戦闘する盗賊団。
数こそ多いが、訓練された騎士も中々強い。というより強いだろう。
獅子奮迅の働きを見せる騎士団であったが、一瞬で戦況が変わった。
一人の男が出てきたと思ったら、一撃で騎士を吹き飛ばした。
でかい。
なんだあのデカさは。
デカコボルトなんて目じゃない。
となりのスキンよりでかい奴がこの世にそんなにいるのか。
どこから現れた。
あいつは突然盗賊団の中から現れた。
無理だろ。3mはありそうな巨体だぞ。
隠すことはおろか、目立つだけの体だ。
あれが最初からいたら、誰でも気づく。
しかしあいつ裸だ。
あのデカい体に合う服が無いのか。
文字通り裸で戦場を乱舞している。
武器は鉄でできた棒みたいな武器だ。鉄パイプにしか見えない。
だが、長さが異常だ。
4mはある。
あんなデカい棒を操るなんて。
体のデカさから考えたらそうでもないのだろうか。
体格と武器のデカさで、それを振り回し戦場を掌握し始めている。
一振りで騎士の骨をバキバキに折って戦闘不能に追い込む。
むしろ死んでいるのではないのだろうか。
それを見て盗賊たちは活気づき、騎士は恐怖して後ずさる。
「巨人、ザイル……」
「どういう意味だ……?」
スキンが何か言って、俺はそれに問い返した。
スキンの目はあのデカい人間にくぎ付けだ。
「ザイルの通称だ。巨人っていうな。……まさかあれほどデカいとは」
スキンは自分より大きな人間を見て、おののいている。
もう人間としての枠組みであいつは考えてはいけない。
あれはもう、人間じゃない。それ以外の何かだ。
話している内も騎士団とザイル一行は戦闘を繰り広げている。
こうなると冒険者が早く戻ってくることを祈るしかない。
あのザイルというのは、格が違う。
フルチンで戦っているのに、傷一つ負っていない。
ここは逃げるべきだ。
俺は、後ろに進むために足を引きかけて、止めた。
ここで逃げたら先がない。
どこかで受難があった時にいつも逃げてしまう人間になってしまう。
それにあのザイルというやつは裸。
剣の一撃、魔法の一撃を加えたら死ぬ。
あっさり死ぬときは人は簡単に死ぬ。問題はどこを攻撃したかという事だ。
俺は光の加護が切れていない事を確認すると、スキンに向き直った。
「やろう」
「……本気か?」
スキンは俺の正気を疑うような眼をしている。
あのデカさに勝てるわけがないと思っているのだ。
事実、難しいだろう。
それでも周りには騎士団もいる。
サポートはある。
「俺は金が要るし、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。あいつは20ゴールドだ。要らないなら俺が全部もらうぜ、おっさん」
「……本当にやる気なんだな」
「俺が矢面に立とうじゃないか。その隙に殺してくれ」
すでに騎士団と盗賊団は乱戦状態だ。
ザイルのせいで完全に騎士団の陣形が崩れている。
雑魚盗賊を背後から切りつけ、スキンも斧で叩き潰す。
騎士は助かったという顔をして、戦場にへたり込んだ。
そんな奴は無視して、俺はザイルに向かう。
ブラブラさせやがって。
アソコ狙ってやろうか。
戦場を駆け抜け、切り裂き、叩き潰しながら、ザイルのもとに向かう。
戦場は混乱状態だが、冷静になればどうという事は無かった。
粗末な格好の人間を切れば、それは確実に雑魚盗賊だ。
ちょっとちょっかいかければ、怯み、目の前の騎士に切り殺される。
雑魚盗賊は問題はない。
あれだ。
あの巨人が問題なんだ。
どういう原理で大きくなったんだ。
あいつは戦場に突然現れた。
という事は、瞬間移動? それともその場で大きくなるスキル?
後者の可能性が高い。
それなら裸の説明がつく。
大きくなったら服がはちきれたんだな。
間抜けだ。
では、限定奪取で奪えるか?
答えは否。
奪えない。
4つの条件のうちの一つを満たせない。
敵対象のスキルをその身で受ける。
巨人化したザイルの一撃を食らったところで、この条件が満たされるとは思えない。
それにあいつの一撃なんて絶対に食らいたくない。
盾術が重要になる。
復讐の一撃か。
これなら。
倒せる。
そうじゃなくても一回深い攻撃をすればいい。
あいつは生まれたままの状態で暴れている。
武器は無茶苦茶でかい鉄パイプ。
侮れないが、油断しない事だ。
きっちりと防ぐ。
俺はスキンと一緒にザイルの後ろを取った。
だが、その周りには誰も居ない。
ザイルの周りはポッカリと穴が開いたかのように、人が居なくなっている。
あるのは死体だけだ。
誰もザイルに近づけないでいる。
あの鉄パイプの攻撃範囲が広すぎるんだ。
近づいて攻撃しようと思っても、その前に攻撃されて、ジ・エンド。
近づくのは愚策。
ここまで近づいただけでも危ない。
ここからは魔法だ。
火魔法レベル3。
「火槍!」
レベル3の火槍を行使。
一直線にザイルの背後にむかって飛んでいく。
だが、その瞬間一人の騎士が特攻した。
捨て身だ。
ザイルに一矢報いようとしたのだろう。
だが、邪魔にしかならなかった。
ザイルは鉄パイプを一振りした。騎士はつぶれる。振り回した鉄パイプに、火槍が直撃した。
「ッ!?」
ザイルは自らの武器が半壊したことに驚き、俺は火槍が直撃したと確信しただけあって、落胆は大きかった。
落ち着け。
武器の長さが半分になっただけでもかなり違う。
4mから2mだ。
攻撃範囲が半分になった。
ただ3mの巨体の前に、2mの武器はデカい。
折角武器を破壊したというのに、誰も近づこうとしなかった。
それもそうだろう。
ザイルの武器は棒であって、殴るだけでいい。
折れようが何しようが、叩くだけでいい。
ザイルが後ろを見て、俺とスキンを見た。
ザイルはその口を開いた。野太い声だ。重低音。
「どっちが、火魔法を使った?」
俺たちのどちらかが、火魔法を使ったと確信しているようだ。
俺は無言で構えて突撃した。
先手必勝。
真正面から火魔法を撃っても、どうせ躱される。
魔力の消費はなるべく抑え、出来るだけ一撃必殺を狙う。
「ふん……!!」
「盾――!?」
横なぎに振るわれた鉄パイプを受け止めたが、予想以上の威力に体が浮く。
一瞬の浮遊感の後、空中で愚直に進み過ぎたことを後悔した。
ザイルは鉄パイプをすでに振り上げ、両手で握っている。
強固な守りを発動。
心身の強化に努め、盾を空中で真上に挙げる。
「ぬぅん……!!」
「盾受!!」
バカァンと鉄同士がぶつかったとは思えない音がした。
衝撃が体を突き抜ける。マジかよ。ここまでか。
「盾術もか」
ザイルがそういうと、次手を出そうとする。
俺はその場で膝をついている。これはまずい。
速く立て。
「坊主……!!」
スキンだ。
来てくれた。
後ろから斧を下段に構え、ザイルの振り下ろしと同時に、斧を打ち上げた。
「ぬぅおらぁぁぁぁ!!」
2mあるスキンが全力を出しても、力負けしている。
俺は地面を転がってその場から逃げ、スキンは攻撃の余波で体勢が崩れた。
スキンに打ち掛かろうとするザイルに、火球を放つ。ザイルはこれを体を傾けて回避。くそ。あんなデカいくせに、何て俊敏。
スキンはその隙に、ザイルの攻撃範囲から脱出。
ここで他の騎士も攻撃に加わり始めた。
冒険者におかどを奪われたらたまらないか?
だが、ちょうどいい。
いったん下がる。
「おっさん、いけるか?」
スキンに確認するが、腕が変な方向に曲がっている。
ザイルの打ち下ろしに体が堪えられなかったか。
むしろ俺が堪えられた方が不思議だ。
強固な守りもあるだろうが。
俺は癒し手でおっさんの腕を治す。
少しずつ治る腕を見ながら、どうやって倒すか考える。
だが、思いつく事は無い。
とにかく突撃だ。
これしかない。
俺の盾術は奴に通じる。
それだけが分かれば、やりようはある。
「もういいな」
「ああ。悪い」
腕の治療を終えて戦況を見渡す。
雑魚盗賊の数と騎士団の数はどんどん減っていた。
特にザイルの猛攻のせいで、騎士が死んでいく。
そして、少なくなった騎士を数人の盗賊が囲んで、袋叩きにして殺している。
これがパターンのようだ。
勝つにはザイルを殺すしかない。
いや、まだ50名の冒険者が居る。
あいつらが戻ってこれば、戦況も変わるに違いない。
だが何物ねだりしてもしょうがないし、俺は強くなりたい。
ザイルは倒したい。
この手で。自信を付けたい。
「もう一回だ……!」
俺はザイルの後ろに回り込み、一気に踏み込んだ。
「縮地突き……!」
足を狙った攻撃。腱を削ぎ、機動力を奪う。
が、いつから気づいていたのか、ひょいっと跳ばれて躱された。
右足で地面を踏みしめ、そのまま振り返る。
ここからは剣の領域。
「らぁ! どらぁ! 死ね! さっさと死ね!」
ザイルの足元で必死に剣を振るが、こいつかなり身のこなしがうまい。
普通に躱される。
「撫で斬り!」
剣術レベル4の技を打ち出すも、鉄パイプではじき返された。
「ドゥラァァァ!!」
スキンも来た。何かの技だ。早い。しかしザイルには通じない。一撃が遠い。
ブラブラしているあのシモが腹立つ。
距離を取られたと思った瞬間、今度はザイルから仕掛けてきた。
俺は邪魔になるスキンを押した。
「おい……!?」
スキンは何事か言うが、俺は無視する。
「その意気や良し!!」
ザイルが鉄パイプを振りかぶる。
「復讐の一撃!!」
「ぬぅああぁぁ!!」
光り輝く盾にザイルの一撃必殺が襲い掛かる。
空気の層すら打ち砕きそうな速度で打ち出された鉄パイプが、盾に衝突した。
復讐の一撃の効果で、より高い一撃をひねり出せる。
だが、ここで予想外の事が起きた。
「あああぁぁぁっ……!! 腕がああああぁ……!!」
折れた。盾も粉砕だ。左腕が複雑骨折して、骨が飛び出している。
おぞましい痛みに襲われる。痛い。痛すぎる。だが、このチャンスはない。もう来ない。
奴は油断している。復讐の一撃を出せないと思ってやがる。
右腕は無事だ。
やってやる。
痛み、バキバキに折れた左腕を振り、右腕を前に出す。横なぎの攻撃だ。
その瞬間、光魔法を行使。
「閃光……!」
「ぬっ!?」
閃光があたりを包み込んだ。
一瞬の光に包まれ、俺は動き出す。
復讐の一撃――、
「解放……!!」
盾術レベル3の技を解放して、乾坤一擲の攻撃を繰り出す。
だが、ザイルは動いた。
なっ……!? あの瞬間目を閉じていたのか。
目つぶし失敗。
だが、攻撃は続く。
こうなれば狙いを変えるしかない。
ザイルは引いていくが、俺は一歩踏み込んで狙いを鉄パイプに切り替えた。
「おおおおおぉぉぉ……!!」
ガキィィン、と鉄同士がぶつかり合う音がして、ザイルの手から鉄パイプが飛んでいった。
「あっ……」
案外間抜けな声を出すな、と思っていたのも束の間。
まだザイルは無傷だ。
飛んでいった鉄パイプを追いかける。
させるか。
しかし、左腕の痛みでその場でうずくまった。
いてぇぇぇ。痛いなんてもんじゃない。
左腕は見たくもないほど、ぐちゃぐちゃだ。
その間にぐんぐんザイルは離れて行ってしまう。
このままでは。骨が折れただけで、俺には何の得も無くなってしまう。
「オラアアアァッァアア!!」
スキンだ。
あいつ。
行く気か。
だが、斧のリーチの事を考えても、ザイルの方が早く攻撃を出せる。
死んでしまう。
スキン。死ぬぞ。止めろ。今すぐ、にげろ。
その時、直感的に思い出した。
「ウオオオオオオオオオオォォォォオオオォオォ……!!」
挑発だ。
ザイルの動きが止まる。
スキンに攻撃しようとしていた手が止まった。
ザイルは俺の挑発に足を止め、俺の事を無視できなくなる。
そして挑発の範囲外にいたスキンは、自由だ。
何でもできる。
一種の賭けだった。
やっちまえ。
スキン。
「ナァァァァァイス!!」
動きが止まったザイルに、スキンの斧が炸裂した。
左肩口から斧が侵入して、完璧に左腕を切り落とした。
ザイルの身長は3m近くあるから普通の奴は、胸から上には攻撃しにくい。
スキンだからこそできる行動だった。
「あがががぁぁ……!! 腕がががガガガ!!」
左腕が完全になくなったザイルは、大声で絶望の声を出した。
さらにスキンは斧をふるう。
「ぬぇぇい……!」
引っ掻くようにして、スキンはザイルの腹を切り裂く。
ザイルは抵抗できない。
攻撃対象が俺に向いているからだ。
そのザイルは振り返りながら、素手で俺を殺そうと走ってきた。
まずい。
「……あぐ、火槍」
火魔法を使い、足止めを行うが魔法を食らいながらも、ザイルは足を止めなかった。
火槍によって、内臓が見え隠れしている。着弾箇所は真っ黒に焦げ、燻った煙を上げていた。
その眼は復讐に燃えている。
俺と同じだ。
絶対に許さない、という目をしている。
もう死を悟っているのだ。
「……おぉぉ! 縮地突き……!!」
加速する世界の中で、ザイルは俺だけを見ていた。
一瞬目があったが、すぐに時間感覚が巻き戻った。
土煙が舞う速度で駆け抜けた突きは、ザイルの土手腹に突き刺さった。
「があああぁっぁぁあ、クゾガギィィィ……!!」
左腕がなくなったザイルと、左腕がバキバキになっている俺がぶつかる。
ザイルは残る右腕で俺を鷲掴みにした。
両腕を拘束された。加えて折れた左腕にさらに圧力がかかる。
「ジネェェェェェエ!!」
「いでああぁぁぁぁ……!! クソガァ……!!」
ザイルは最後の命を絞る出すような力を出して、俺を握りつぶそうとする。
「強固な守りォォォォォ!!」
抵抗に抵抗を重ねる。
動く右腕だけでも、ザイルの圧力を弱めようと必死に突っ張る。
下半身はザイルの傷にねじ込んで、グリグリ動かす。
しかしザイルは痛みを感じていないように見える。
それどころかさらに力が――!
死ぬ。
「坊主!!」
スキン。
来たか。
待ってたぜ。
「金はもらったぁ!!」
そっちかよ、なんて思ったがどうでもいいか。
スキンは斧をザイルの頭に叩き込んだ。
斧が完全に頭にめり込んでいる。
めり込んでいる所からブシュブシュと血が溢れている。
目の前にあったザイルの目が裏返り、頭に大きな衝撃を受けたためか、大きく目が飛び出していた。
鼻から血が出て、呻き声にも似た音を出す。
脳の筋収縮の命令がなくなり、俺を拘束する手が緩んだ。
俺は地面に落下した。
同時に、多くの冒険者がこの戦場にやってきた。
勝敗はついた。
感想を待っています。




