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19 砦

 出発の時間になって、目的の砦に向かって一斉に移動を開始した。

 夜遅いというのに、少しだけ見送りがあって、この作戦に期待する人が少なくないというのが分かる。


 流石に150人近い人数での移動は、行軍スピードが遅い。

 街の門の前では思い思いに喋って五月蠅かった冒険者も、静かに歩いて騎士団に付いて行っている。

 鎧が擦れてガシャンガシャンと音を立てているのだが、それでいいのだろうか。


「やっぱおもいな、坊主」


 スキンヘッドのおっさんことスキンは、自分で梯子を持つといった手前、本当に梯子を持つ羽目になった。

 梯子は一つで完成ではなく、二つのはしごをくぎで組み合わせる形になっているので、俺も一つ梯子を持っている。


「おっさんのせいだけどな」


 不満たらたらにそう言って、文句を言ってやる。


「そういうな。どうせ、新兵(ルーキー)の坊主が運搬係になってたぞ! ……っと」


 大きな声を出したせいで、スキンは周りからにらまれてしまった。

 今は隠密行動中だ。

 できるだけ、大きな音を避けたいだろう。


 もう一時間以上は歩いている。

 いい加減この梯子は降ろしたい。


 どれだけ移動を果たしたのか。

 4キロくらいか。

 歩くスピードはそこまで早くないし、朝早いからみんなの動きも少し鈍いように感じる。


 それに周りも真っ暗だ。

 足元すら見えにくい。

 騎士団の先導が無かったら、確実に迷っている。ランタンの一つでも用意するべきだったか。


 もう数十分歩いていると、前方から斥候らしき人が戻ってきた。


「あと数分で接敵の距離になります」


 それを聞いた騎士団のリーダーらしき人は、振り向いた。立派な鎧だな。剣も美しい。未だゴブリンの剣を使っている俺とは大違いだ。


「それでは、騎士団、冒険者諸君は分かれてくれ。くれぐれも隠密行動を心がけて作戦行動に臨んでほしい」


 騎士団はそのまままっすぐ。冒険者は二手に分かれて東西に砦を挟むべく移動を開始した。

 まっくらだが、明かりをつける訳にはいかない。

 盗賊団に、自分はここですよと言うものだ。


 ゆっくりと確実な足取りで、全員が移動をはじめ、盗賊団の見張りに見つからないように森の中を移動する。

 砦の周りこそ見晴らしがよくなっている。 

 迎撃しやすいように、木を刈り取ったのだろうか。


 つーか、やばくね。

 みんな盾持ってないんだけど。

 いいのかな。

 盾持ちなんて、1パーティーに一人いればいい方だ。


 俺はスキンに小声で話しかけた。


「……盗賊が、矢を撃ってきたらどうすんの?」

「気合いだ」


 アホか。

 気合で矢がよけれるなら、誰でもそうしてる。

 つまり、無策か。


 矢が撃たれる前に、制圧しようという考えなのだろうか。

 それって甘くないか……?

 盗賊団がどういう動きをしてくるか分からない以上、盾くらい配給したっていいんじゃないのか?


 そうこうするうちに、配置に付いた。

 もう数百m先には大きな砦が森の陰から見える。

 太陽も昇りかけていて、空も明るくなり始めていた。


 この作戦は、払暁奇襲だ。

 だれでも朝は弱い。

 朝五時に突然攻められたら、誰だって嫌だろう。


 盾もなくていいのかな。


 こっちには5パーティーに加え、俺とスキンを加えた計28名が居た。

 ちょっとおおいかな。

 でも、これくらいだろう。


 ていうか、多いのか。

 盗賊団の数が分からないと、どうしようもないんじゃ?


 仮に倍だとしよう。

 払暁奇襲のおかげで、最初にどれだけ減らせるかにかかっている。


 なんでこんな事しているのかとか、考えちゃいけない。

 金。奴隷。

 仲間。


 このためだ。

 俺のために死んでくれ。


 地平線を見ると、そろそろ太陽もコンニチワする時間だ。

 みんな黙ってその場にしゃがんでいる。


 スキンですらその口を閉じて、作戦開始の合図である、太陽が昇るのを今か今かと待っている。

 俺も黙る。

 緊張してる。

 心臓の動きがすごい。

 バックンバックン拍動して、俺の左胸を叩きまくる。


 うるさい。 

 黙れよ。

 盗賊団に聴き取られるんじゃないかと思うくらい、俺の心臓は五月蠅い。

 口腔内もカラッカラだ。口の中がパサつく。水分が欲しい。


 水筒から一口水を飲むと、肩をトントンと叩かれた。

 スキンだ。


「くれ」


 断る理由もないから、さっさと水筒を渡す。

 スキンが一口、二口水を飲んで、水筒を返してきた。


 スキンは手で感謝の意を表し、前方の砦を見ている。

 他の奴らもそうだ。


 盗賊団とおぼしき奴が、あくびして見張りをしている。

 その役目をしているとは思えない。


 完全に気を抜いている。

 誰も攻め込むことなんて考えていないのだ。


 太陽の光がだんだん眩しくなってきた。

 くる。

 作戦開始の合図だ。


 きた。

 来てる。


 うおおおおおおおおおおお、みたいな声が砦の向こうからしてる。

 騎士団本隊だ。


「作戦開始!」

 

 俺は説明係りを任命された時から、何故かリーダー的なポジションにいた。

 恥ずかしながら、作戦開始の合図は俺が出す。


 俺の一声で皆動き出した。


 俺はスキンの手を取り、光魔法を発動。


「ちょっとまて、……光の加護(プロテクション)!」


 パァァと俺とスキンの体が淡く輝き、その光が収束して消えた。

 左手の甲に六芒星が刻まれている。

 六芒の二点が輝いている。


 俺とスキンだ。あと4人枠があるが、他の奴は他奴で勝手にやる。


「オッケー! 行こうぜ」

「助かるぞ! 坊主!」


 俺とスキンは梯子を持って、砦の壁まで移動を開始する。

 遠い。なんて遠いんだ。


 あれ、まだ、緊張してる? 

 落ち着け。周りを見ろ。


 盗賊の一員は冒険者にあっという間に殺されている。

 眠気の抜けない時点で、終わっているのだ。

 だが、抵抗する盗賊もいる。


 そういう連中は囲んで滅多打ち、滅多裂き、滅多切りにしている。

 しょうがない。

 仕事だし。

 何とも思わないな。


 なんでだろう。

 もっとこう、ゲロ吐いたっていいだろうに。

 あの時から俺は変わってしまったのだろうか。


 そんなこと考えている場合じゃない。

 来てる。誰だよ。

 こっち来てるじゃん。


 なんでだよ。

 俺、梯子係なんですけど。

 無害ですけど。


 俺に一人の撃ち漏らしが来てる。

 

 やばいって。これは。やばい。

 俺梯子持ってるし。盾も持ってるし。両手ふさがってるって。

 どうしたらいいんだよ。あああああ。剣振り上げてる。どうすんだよ。

 俺が死んだらどう責任とるんだよ。やばいって。どうしよう。ちょ、助けて。


「坊主!」


 スキンが飛び込んできた。タックルだ。それで盗賊はポーンと飛んでいった。

 その後は違う冒険者がそいつをリンチしている。


「しっかりしろ! 場合によっては梯子なんて捨てて良いんだ!! 身の安全を考えろ!!」

「あ、ああ。悪い……」


 礼もなしかよ、俺。

 かっこ悪い。

 今、死にかけたんだよな。

 分かりにくかったけど、あっという間に死にそうになってしまった。


 もう、なんなんだよ。 

 くそ。スキンには説教されるし、砦の障壁の上には何人もの盗賊が矢をつがえている。

 もう、やっぱりだよ。

 

 来たよ。

 矢だ。


「坊主! 後ろに隠れさせろ!」

「おっさんは梯子持ってろよ! ……強固な守り(ライズガード)!」


 矢相手に強固な守り(ライズガード)が通ると思わないが、気休めだ。

 盾を掲げて、その身を守る。


 他の連中は。

 分かんない。

 とにかく、城壁の下まで行かないと。


「うおおおおおおおおおお、おっかねぇぇぇぇぇ!!」


 ぴゅんぴゅん矢が飛びすさる中を俺と、俺の後ろにいるスキンは走る。

 ていうか、俺たちばかりに矢が飛んできてる。

 ちょ、なんで。

 何もして無くね!? 

 

 いや、してるか。梯子か。

 梯子をかけさせないように、俺たちを殺す気なのか。


 やばいって。一番危ない役回りじゃん。 

 バッツバツ盾に矢が当たる。

 金属製だから弾く事は出来ているけど、これ以上持つのか。

 やばい。この盾が壊れちゃう。


 まだだ。勿体ない。

 こいつには活躍してもらわないと。


「おい、早くしろ!」


 壁の近くにはもう多くの冒険者が、待機していた。

 そいつらを無視してまで俺たちに、盗賊団の連中は矢を射かけている。


「え、援護して!」


 忘れていたように、壁の下の連中が矢を撃った。

 持っている奴は少ないが、それでも一人二人殺してくれた。

 これでだいぶ楽になる。


 でもだめだ。

 全然飛んでくる。耳の横を矢が通る。


 ビュォンみたいな音がする。怖い。テンションがおかしい。

 イェェイ! みたいな。でも怖い。 

 興奮してる。


 あと、何mか。早く。早く。走れ、誰よりも早く。

 着いた。壁だ。


 歓声が上がった。うおおおおおお!! みたいな。

 やってやった。やってやったぞ。梯子を運んでやった。俺がやったんだ。他でもない俺が! 無傷で! 情けない場面はあったけど、やってやった。成功だ。


「坊主、梯子貸せ!」

 

 スキンは梯子をふんだくり、釘で梯子をつなぎ合わせた。

 壁は高い。

 木製の梯子を二つ繋ぎあわせる必要がある。


 俺は盾を真上に掲げて、矢の邪魔が入らないように必死にこらえる。

 

 やべぇぇぇぇえぇ!! 

 矢の雨だ! 

 バツバツ盾に当たってる。

 他の奴何やってんだよ。

 

 あいつら倒せって!

 矢とかさ、魔法とかあるだろう。


 使えないの? 使えるだろ。さっさと撃てよ。

 俺もか。火魔法あったわ。


火弾(ファイヤ・バレット)!」


 複数展開した火弾を適当に打ち出す。

 対象が見えないから適当に打つしかない。でも効果はあった。

 一人くらいは当たったし、他の奴は突然の反撃に驚いている。


 いいぞ。今だ。


「おっさん、まだ!?」

「できた、立てかけるぞ。坊主手伝え!」


 俺とスキンは梯子を壁に立てかける。支える役目を買って、その場にとどまった。

 犠牲者が居る。


 しかしそんな奴は無視して、冒険者はどんどん登っていく。

 盗賊団の連中は反撃しようとした瞬間、ドォォォンという大きな音が違う方向からした。


 すごい音だ。

 断続的にそれが起こっている。

 

 なんだ。どうやったらこんな大きな音が出るんだよ。


「破城槌か……!」

 

 そうか。砦の門が閉められていたのか。

 梯子でもいいが、本体は一気に入ってほしい。

 門を破壊している音なのか。


 それを悟った盗賊団の動きは鈍る。

 その瞬間、城壁に上りきった勇者は盗賊に切りかかる。盗賊は飛ばされて、地面に落ちる。

 盗賊は矢を撃てない。近すぎる。どんどん斬る。そして、他の冒険者もその隙に城壁に上る。


 梯子二つ要るだろ。これ。

 狙い撃ちされるし。されたし。

 くそ。騎士団め。俺たちの事なんてどうでもいいのか。


 俺たちは盗賊のおびき寄せかよ。

 くそだ。

 これは仲が悪くなる。


 あいつらの事なんて知った事じゃない。


 俺とスキンで梯子を支えていると、登れるやつは全員上った。

 スキンも昇り、俺は留まる。


 さっきの矢の雨にやられている奴らが居る。


 義理もないが、死なれてもあれだ。

 命は大事にした方が良い。


 矢が刺さっている位なら、治せない事は無い。


 俺は太ももに矢が刺さっている男のところまで走り寄った。


「大丈夫か?」

「ぐぁ……ま、なん、とか。でも、めっちゃいてぇ……」

「待ってろ……癒し手(キュア)!」


 矢を一気に引き抜いて、治療を開始する。

 当の本人は引き抜かれた瞬間、苦痛に顔を歪めたが、治療すればどうにでもなる。


「光魔法か……?」


 聞かれたが、答えはしない。

 何をされるか分からないからな。何か発動条件を満たされたら困る。俺にも経験がある。


「もう行けるか?」


 傷がふさがり、これ以上はいいだろうというところで治療は打ち切った。


「あぁ、悪いな」


 そういうと、男は走って梯子のところまで行った。

 俺はまだ倒れている数人の男たちを治療していく。


 俺が出向く前に、あっちから来た。

 さっきのやり取りを見ていたのだ。


「光魔法だろ。治療、頼まれてくれないか……?」


 コクリと頷いて、矢を引き抜き癒し手(キュア)で治す。

 生き残っている連中の傷を治した。そいつらはすぐに戦場に向かっていった。


 俺は少しだけ立ち止まり、頭や胸に矢が刺さって動かなくなっている男たちを見た。

 無常だ。


 たった一本の矢で人は死んでしまうんだ。

 この依頼を受けなければ、まだまだ生き残れただろうに。

 

 俺はああはならないと誓い、軽く黙とうすると、戦場に戻っていった。

 梯子を上り、戦況を把握する。


 砦の中の構造は少し複雑みたいだ。

 防御面を考えると、中の構造がちょっとばかし遠回りになるように設計されていた。

 城壁から降りる階段は一か所しかなく、正面玄関の反対側にあった。正面口の方からは断続的に、破城槌の音がしているが、まだ騎士団は中に入れていない。


 唯一の階段方面を見てみると、冒険者と盗賊団でごった返していた。

 剣で打ち合い、押し合い、何とか優位をもぎ取ろうとしている。


 だが、最初から優勢なのは冒険者だ。

 階段から飛び降りて、体当たりする輩もいる。後ろの連中が前の男を押して、強引に盗賊団を蹴散らし、階段を降りた。

 

 すごい。ほとんど転がるようにして、地面に降り立っている。

 あんな根性はない。


 下手したら首の骨が折れてしまう可能性すらあったのに。

 地面に降りた冒険者は次々に、盗賊団に打ち掛かる。


 後続の冒険者も盗賊と剣を結ぶ。


 そこかしこで戦闘が巻き起こり、俺は城壁の上で取り残されてしまった。

 これはいけない。


 このまま何もしなくても、お金は手に入るかもしれないが、働かずにもらう金はうれしくない。

 俺も急いで階段まで下りる。


 だが、俺がようやく地面に降りるころには目ぼしい盗賊は一掃されていた。

 盗賊は数が多いだけで、そこまで強くないのだろうか。


 だが、数は力だ。


 減に砦の建物内部から新手が出てきた。

 20人に近い。こちらも約20人。同数だ。


 やばい。俺も戦う事になるだろう。


 冒険者は雄たけびをあげながら、盗賊に打ち掛かっている。

 俺も後ろの方から走り、一人の男に狙いを定めた。


 あの歯の抜けおちた男。落ち武者のような外観をしているし、弱そうだ。腕もがりがり。行ける。

 だが、予想とは、得てして外れるものだったようだ。


 男が叫ぶ。


「一本突き!」

「なっ……!?」


 ギリギリで盾受(ブロック)して、難を逃れた。

 剣術もってるのかよ。

 くそ。計算が狂った。

 

 思いのほか強いこの男の剣劇に、四苦八苦する。

 カットラス装備だが、鎧はない。

 一撃で殺せるはずなのに、動きが早すぎてついていけない。


「うしゃしゃしゃしゃしゃぁぁぁぁぁ……!!」


 狂った声を出しながら男は剣を繰り出す。

 やば。

 剣術レベル3の乱れ突きだ。


「くぉららあああぉぉぉ……!!」


 俺も乱れ突きで迎撃する。

 体力の続く限り、突きを連発する技だ。しかし、


「ぐ……!?」

「ひゃっほうぅ!!」


 だめだ。

 あいつの方が早い。

 俺は盾を持っているし、皮鎧だけど装備もある。

 大してあいつはほとんど、着の身着のままだ。


 レベル差もあるだろうが、斬られる――!

 絶妙な均衡を保っていた乱れ突きの応酬は、男の方に軍配が上がった。


 俺の突きは避けられ、奴の突きは俺の横腹を削る。

 皮鎧のおかげでそこまでひどくないが、痛い物は痛い。


「ぐぁ……!」


 一歩二歩男から遠ざかり、わき腹に手を当てる。


癒し手(キュア)……!」


 クソ。乱れ突きで攻防しようとしたのが失敗だった。

 素直に盾受(ブロック)していれば、ケガをしなくてもよかったかもしれない。

 

 だが、限定奪取(リミテッド・スチール)の要件を二つも満たした。

 敵対象のスキルをこの目で見る。

 そして、スキルをこの身で受ける。


 これがネックだったが、浅い傷で何とかなった。


 あとは二つだ。


 男は余裕そうにしながらも、周りには気をかけている。

 横合いから攻撃されては困るのだろう。

 

 油断なく構えている点は、見習うところか。


 だが、俺に目線を向けると血相を変えて飛んできた。

 回復しているから、な。

 

 俺は盾を構えて奴の攻撃を防ぎにかかる。


「じゃらららららららら……!!」


 光魔法を見て俺が回復可能という事になり、早くつぶすべきだと判断したんだろう。 

 それは間違っていないが、乱れ突きが俺の盾受(ブロック)を突破していない。


 奴はどんどん焦る。

 他の仲間がやられているのだ。

 冒険者は盗賊団より強かった。


 こいつも中々の実力者だったろうが、打ってかかったやつが新兵(ルーキー)では、あまり意味がない。

 強い奴を殺すべきだったな。

 

 あそこで大暴れしてるスキンとか。

 スキンやその他冒険者はその武器で、盗賊をブッ飛ばしている。


 盾受(ブロック)盾受(ブロック)盾受(ブロック)。通さないぞ。完璧にガードしていると、さっき回復させてやった冒険者が飛んできた。


「どぐらぁぁ!!」


 でっかい剣を振り下ろし、男を殺そうとするが、紙一重で交わされた。


「あ、ありがとう……」

 

 まだ行けるところではあったが、どうやって反撃しようか考えていたところだった。

 その点では休憩できるというのは有難い。


「さっき治してもらったからな……!」

 

 そういうと、でっかい剣の男は盗賊に打ち掛かる。

 俺も行かなくては。


 二人がかりで攻める。隣の人も剣術を持っている。

 かなり上手い。

 盗賊の男はたじたじだ。

 

 もう最後は見えている。限定奪取(リミテッド・スチール)を使いたかったが、条件を満たせなかった。


 終わりだ。

 隣の男が打ち掛かる瞬間、火魔法を行使。

 火球でいい。


火球(ファイヤ・ボール)……!」

 

 火球を見た男が驚きで硬直した。

 隣の男はその隙に剣を叩き込んだ。


「ぎゃぁぁ……!!」


 さらに火球も直撃した。

 男の着ている服に燃え移って、男が地面を転げまわる。


 そこに二人で剣を振り下ろし、止めを刺す。

 返り血を浴びるが、それを無視して、心を止めて、攻撃を繰り返す。


 何度か剣を振り下ろしていると、男は絶命していた。


「はぁ……やった……」


 事故じゃない。

 これで故意に人を殺した。


 来るところまで来てしまった。


「俺はもう行くぞ、さっきはありがとうな」


 治療したことに礼を言って、男は死体に気も触れずその場を去り、違う戦場に赴いていた。

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