18 作戦
瞬く間に三日など過ぎてしまう。
俺の三日前のレベルは11。
スキルに変わりはない。
剣術、盾術、火魔法、光魔法の四つ。
これは仕方ないとはいえ、もう少し強化したい。
俺の戦闘技術は今、剣術と盾術に支えられている。
もっと近接戦闘に関わるスキルが手に入れば、もっと楽に戦うことが出来るのにといつも思う。
奪いたい。
これが最近思う事だ。
3日間どうにかモンスターからスキルを奪えないかと試行錯誤したが、限定奪取の条件を考えるとこれはかなり厳しい。
というより、不可能である。
「しゃーねーわな」
今は、夜の12時くらいだろうか。
真っ暗な中門の前にたくさんの人間が待ち構えていた。
出口に近い方から、騎士団。
その後ろのギルドで仕事を受けた冒険者たちだ。
騎士団はびっちりとした金属鎧を着て、格が高そうだ。
もう一か月近く過ごしているから分かるが、騎士団と冒険者では身分が違う。
あっちは貴族というか、そっち系列の人たちだ。
身分制度がある事に驚きだが、そういう世界らしい。
ここにいる以上、それは受け入れるしかない。
みんなが死んだように、起こったことを後悔していたらきりがない。
いつまでも落ち込んでいたら死ぬのは俺だ。
前を向いて、復讐しよう。
とにかく、割と人数がいる。
騎士団は100人は優に超えていそうだ。
騎士団の仕事は街の警護であるが、商隊が襲われている状況を見過ごすことはできないに違いない。
このまま盗賊団の好きにさせていては、町を守護する騎士団の面目が潰れてしまう。
今までの被害を考えたら、こうするしかないのだろうか。
いや、盗賊団がそれだけ大きな規模なのだろうか。
格下に見ている冒険者にも要請するほどである。
盗賊団の人数が思ったより多いのかもしれない。
俺は一人いろいろ考えていると、後ろからスキンヘッドのおっさんに話しかけられた。
三日前に見た人だ。
覚えている。
スキンヘッドなんてなかなかいないから、印象に残っていた。
デカい斧を持って、金属鎧を装着している。
兜はつけない派らしい。
皮の帽子をかぶっている俺と比べると、大胆な人だと思った。
「よぉ、坊主、元気してるか!?」
「えぇ、まぁ、少し眠いくらいです……」
この人のテンションは一回会っただけだが、少しわかる気がする。
常にマックスだ。
「俺は今日はハイパゥワーだ!!」
「そうっすか」
スキンヘッドのおっさん、略してスキンはガッツポーズをして、やる気をその体で表す。
やる気満々なのはいいが、大声はやめてほしい。
みんなに見られている。
仲間だと思われてしまうだろう。
そんなスキンは素敵すぎる提案を俺にしてくれた。
「坊主、俺と組まないか!? 今日はほかの仲間は来なくてな! 今日は一人なんだ! どうだ!? どうだ!? やるよな! そりゃやるよ! 一人は危ない! それは誰でも分かる事だ! そうだろう!? 坊主も一人、俺も一人! それはもう運命! 俺たちは今日コンビを組む運命にあったんだ!」
2m近い体を近づけながら、スキンは熱烈にお礼アピールをかます。
周りの目が痛い。
さっさとその男と黙らせろと言っているかのようだ。
助け舟位出してくれよ。
でも、関わりたくないよな。
俺も嫌だが、一人が危ないというのは賛成だ。
それにスキンは強そうだ。
ムッキムキだし、体がデカい。
頼りになりそうだ。
こういう奴隷が欲しい。
そのためにも今日は生き残り、金を稼ぐ必要がある。
スキンと仲間と思われるのは嫌だが、スキン自体は有用だ。
スキン。強い。多分。
装備からもそれがうかがえる。
俺とは違って、質のいい金属鎧。装飾の入った斧。
レベルが違うとはこの事だ。
「おっさん、レベルは?」
「34だ! すごいだろう!?」
それはすごい。俺の3倍近くある。
本当は知らないが。嘘を言っている可能性もある。
「クラスは?」
「戦士と重戦士だ!」
なんだそりゃ。
重戦士なんてあるのか。
しかし名前からでも強そうなクラスだな。重戦士。軽戦士もあるのだろうか。
強そうだ。
いや、実際強い。
俺より強い。
ガチンコ勝負では勝ち目なしか。
そんな事ないか。
分からんだろ。限定奪取があるからな。
知られていないなら、素直に答えてくれそうだ。
無暗やたらに奪うつもりはない。
相手を選びつつ、むかつく奴から奪う。
スキンはいいやつだ。
多分。
新兵の俺を気にかけてくれている。
周りの連中もそれで手を出さないに違いない。
そう思わないと、このウザさにはうんざりだ。
「っす、よろしくっす」
「おお! そうか! ならば今日限り、俺たちはコンビだ。頑張って賞金首を打ち倒そう!!」
おい、待て。
この前は手を出すなって言ってただろう。
心配になってきた。
内心ため息をつきながら、周りを見てみる。
騎士団は固まり、冒険者は三々五々に散っている。
それでも数名の塊で居るのだから、あれが普段活動しているパーティーだろう。
騎士団と合わせて150というところか。
騎士団100、冒険者50。目算だけど。
150人で作戦って結構難しいんじゃ?
作戦概要がスキンから伝えられた。
最初は騎士団が伝える予定だったそうだが、大声で喋り倒すスキンを見て、その仕事を丸投げしたみたいだ。
灯台の下で、スキンは作戦概要が書かれた紙を広げて大声で冒険者たちに伝え始めた。
「うむ! なになに!? なんと!? そんな事が! うーむ、あってはならんな! これはどうやって攻略するのだろうか!? ふむふむ、うん。おおう、何!? なんと!? そう言う事か! なるほど! 皆の衆これで大丈夫だ!」
「いや、分かんない」
義務的に近くにいる俺が突っ込みを入れる。
「何を言うか、坊主!! 今や、俺たちは異体同心! 俺の事は何でも分かるだろう!? それ、言ってみなさい! 作戦を! ほら! 言って言って! みんな待ってるよ!」
うるせーんだよ。
そう思って、無視していると、スキンが紙を押し付けてきた。
「は?」
何で紙が手元にあるのか分からない。
顔を上げて、スキンの顔まじまじと見た。
スキンはサムズアップして、良い笑顔だ。
「俺、こういうの苦手」
小さい声でスキンはそう囁いた。
それだけ言って、スキンは群衆の中に紛れてしまった。
「おい! ふざけんな……」
最初こそ大きな声でスキンを咎めようとしたが、突き刺さる目線の多さにしり込みしてしまい、言葉が萎んでしまった。
お前でいいからさっさと言え、と言われた。
仕方ない。
少し声を張って、作戦を伝えた。
「えーと、盗賊団は放棄された砦にいます」
丁寧語で言おう。
「砦は四方を壁で囲まれていて、簡単に中に入れないようになっています。砦の周りにはキャンプがあって、見張りとして盗賊団の一部が見張っているらしいです。残りは中でのんきに酒でも飲んでると」
そこで、冒険者の中で怒り声が出た。
酒飲んでんじゃねーよ、ボケ! みたいな。
俺は続ける。
「見張りもボケはじめる明朝に一気に攻め込みます。正面口は騎士団。東西を自分たちが攻め込みます」
どうやって入るんだ? という声が出た。
「梯子があるようです。その場で組み立てて、外部から立てかける。内部に侵入したら砦の中に入って、掃討戦に入ってください。作戦開始は太陽が昇ると同時。時計なんて高価なもんなんてないだろ、と書いてあります。補足ですが、敵の数は不明です。かなり多い事だけは予想されているそうです。以上」
俺は紙を持ってその場を離れた。要らないくだりがあって、数人が騎士団を睨みつけている。
これだけの説明で分かっただろうか。
そこで、待ったがかかった。
「おい、誰が梯子持って行くんだ?」
誰が言ったのか。
確かに、重要な問題だ。
「それに、東西攻めるって言ってるけど、誰がどっちに行く?」
ざわざわし始めた。
どうするんだろう。
するとスキンが大声を出した。皆そっちに注目した。
「落ぉぉち着けぇぇぇぇい!! よかろう! 俺が班決めをしてやろう! お前! お前! お前! お前! お前! お前らは東。同じパーティーの奴らも東だ! 残りは西! 東連中は頑張って誰かが梯子を持って行け。西の奴らは俺と坊主が一組梯子を持って行こうじゃないか!」
しーん……。
まぁいいよ。
「じゃ、それでも良いですか? 別にどこだって変らないですし。主導は騎士団なんで」
申し訳なさげに俺がそういうと、皆散っていった。
それで良いらしい。
出発は一時間後。
ここから数キロはなれた山まで行かない解けない。
最後に装備の確認と諸々の荷物を点検する。
今日の装備というか、いつもの装備だ。
剣、盾、防具、あとナイフ。
ステータスカードを見る。
レベルが1上がっている。
12だ。
新兵だな。まごうことなきルーキーだ。
俺がステータスカードを見ていると、スキンが覗き込んできた。
突然の巨体の出現に、俺は距離を取った。
スキンは何も思っていないようで、そのまま大声で喋り続ける。
「ぬっ!? 12!? まだまだだぞ、坊主!!」
「おい! 言うなよ! 恥ずかしいだろ」
周りとみると失笑を買っていた。
12かよ、みたいな。
恥ずかしい。顔から火が出そうだ。
スキンは悪びれることなく、俺の肩を掴んだ。
んだよ。その手を払ってやりたい。
「大丈夫だ。俺が守ってやる。それに、聖騎士だろ。恥ずかしい事じゃない。誰もがなれるクラスじゃないぞ。俺の事も守ってくれ」
ステータスカードにはクラスも表示されている。スキンに見られたか。
それに、こいつ。何急に真面目になってるんだよ。
まっすぐ見つめてくる。さっきまでの馬鹿みたいに大声を出しているスキンじゃない。
一端の、ベテランの雰囲気を醸し出している。
一人の大人だ。
くそ。鬱陶しんだよ。
何が守ってやるだ。
守ってくれるなら、俺たちが監禁されてる時に助けろ。
くそ。ふざけんな。
なんで、俺は今から人を殺しに行かなくちゃいけないんだ。
「お、おい、どうした、坊主……!?」
知らず涙が流れる。
優しい言葉に、守るという言葉に反応したのか。
心が弱い。
「うっせぇ。鬱陶しいんだよ。一人でやれる。光の加護だけかけてやるから、勝手にやってろよ……」
ちょっとだけ出た涙を拭い、スキンの腹を軽く殴った。
「な、なんだ……!?」
「来るのが、おせーんだよ……」
こいつが、あの時、近くにいたら。
助けてくれただろうか。
他の31人は、死なずに済んだだろうか。
あいつら。
あの俺たちをここに呼んだだろう奴ら。
スキンみたいなやつもいれば、あいつらみたいな糞もいる。
俺は少しだけ、世界の見方を変えた。
良い奴はいる。
でも、スキンだって何か裏があるかもしれない。
この目を白黒させているおっさんも、腹の中では何か画策しているのだろうか。
分からないな。
心が分かれば。
何を考えているのか分かれば、人生なんて余裕なのに。
いいんだ。
それが無理位わかっている。
今はそんな事じゃない。
さっきはちょっと心の弱さが出た。
人を殺す。
盗賊団だ。
殺して喜ばれる。
悪いのはあっちだ。
街にとって害悪でしかない。
奴らは獣だ。
害虫駆除。
その心意気だ。
凍てついた湖の水面のように心を保て。
真っ暗な中俺は目を閉じる。
復讐のためには、金が要る。
手っ取り早く稼ぐには、今は人を殺すのが良い。
金貨一枚はもらった。
俺は盗賊狩りをする。
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