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16 油断

 二階層は俺との相性がいい。


 10シルバー程度を稼ぐことが可能だ。

 一階層にいる時より安全だし、火魔法一撃で死んでくれる。


 気に心臓何てあるのかと思ったが、適当に幹を切り開くと輝く魔宝石があった。

 それを回収すれば、金になるのだ。


 こんな簡単な仕事はない。

 だが、物足りないのん。


 作業ゲームに近い。

 気を見つけたら火魔法。

 見つけたら火魔法。


 飽きるわ。

 レベルも1上がって、11になっている。

 大丈夫じゃないだろうか。


 深い階層に行った方が魔宝石も高く売れるらしいし、10日も同じことをしていたら、頭がおかしくなってきた。

 トレントばっかり相手にしすぎだ。


 今は泊まるだけなら問題ない。

 宿にもコンスタントに宿泊しているし、儲けもちゃんとある。


 ステップアップの時だ。

 

 3階層に行こう。

 こう言う事もあろうと、3階層のモンスターの情報は手に入れている。


 コボルトだ。

 犬のような外面をしているが、2足歩行をしているらしい。

 それに剣や棍棒、鞭何て持っている奴がいるらしい。


 まだ3階層なので単独行動しているコボルトだが、危険を悟ると仲間を呼ぶ性質がある。

 これが厄介らしいから、すぐに倒すことが肝要だ。


 俺は迷宮の入り口にある直方体の石に手を当てた。

 これは転移石と呼ばれている。


 自分が言ったことがある階層に飛ばしてくれる優れものだ。

 迷宮は人を食べたいので、割と便利な機能がある。


 帰るのにも困らない。

 深く潜りすぎても帰り道のための転移石も設置されている。

 ただし、その転移石のほうはどこにあるかは、分からないので注意が必要だ。


 俺は二階層まで行ったことがあるので、そこまで飛ばしてもらう。


「……と」


 軽くふらつきながら転移石で、2階層まで飛ばしてもらった。

 ここからは徒歩で3階層に向かう。


 移動中に合うトレントは無視だ。

 走ってトレントの横を通り過ぎて、火魔法による魔力の消費をしないようにする。


 コボルトの強さが分からない以上、火魔法は温存しておきたい。

 2階層の地図も制作してあるし、3階層への道を突き進む。


 トレントを回避しつつ階段を発見すると、すぐに3階層に降りた。

 これで入口の転移石から、いつでも3階層に向かうことが出来る。


 迷宮は変わりざましない。

 相変わらず壁が僅かに発光して、ぼんやりと明るい光を出している。

 視界には困らない。


 3階層の支道を行きつつ、コボルトを探す。

 対策はどうするか。

 最近レベルも上がり始めている。11だが。


 火魔法で牽制してみるか。それは普通だな。

 聖騎士になってから魔力が増えた。

 明らかに魔法を使える回数が増えた。それに使っても魔力が少なくなっている感じがあまりしない。


 火魔法は俺の中軸になりつつある。

 トレントでたくさん火魔法を使ったおかげかもしれない。

 魔力が増えたのかな?


 分からないが、もう考えるのは終わりだ。


 コボルトだ。


 あっちも気づいたようだ。

 ワンワン吠えている。ワンワンではないな。ウォンウォンかな。

 野太い。少しだけ尻込みしそうだが、コボルトと思しきモンスターは剣を片手に駆け寄ってきた。


 盾を構えつつ、火魔法で牽制球。

 が、身軽なのかサッと火球は躱されてしまった。

 犬のように4足歩行に切り替わって、かなり機敏に動いている。


 速い。

 だが、4足歩行では攻撃はできない。

 と思っていたら、そのまま飛びかかってきた。


「縮地――!」


 突き、まで言う事が出来ず、技による移動で飛びかかりを回避する。

 剣を突き出した姿勢から、盾を構える。


 あの飛びかかりは危ない。

 のしかかれられたら、俺ではあらがえないかもしれない。


 スピードで翻弄されれば、やられるのは俺だ。

 だが、どうする。


 と思っていると、コボルトは2足歩行に切り替えて、突っ込んできた。


「うぉるふっ! ふぉぉう……!」


 盾受(ブロック)。ただ単に剣を振り下ろしてくるだけだ。だが、出が早い。

 スピード型とみて問題ない。

 だが力はそれほどでもない。

 体格も小学6年生程度。


 対応できる。

 焦らず、じっくり、盾受(ブロック)様子を見る。

 コボルトはわっほ、わっほ言いながら剣を振りまわす。

 力が弱いと言ったが、それでも3階層という事はある。


 どんどん魔物の強さも上がっている。

 気を抜いたらやばいな。


 盾に身を隠しつつ、攻撃の合間に盾でコボルトをぶん殴った。


「ぎゃん……!」


 本当に犬を殴ったような声がして、気が引ける。

 だが相手は魔物。モンスター。金蔓。殺してしまえ。


 のけぞって、口を押えているコボルトに剣術レベル3の技を叩き込みまくる。


「おららっららっらららっららら……!!」


 乱れ突き。

 ラッシュだ。

 一本突きや2連突きを際限なく出し続けるだけ。

 だが、効果は絶大。


 一本突きでも死んでしまうような相手には、少々オーバーキルだっただろうか。


 きゃんきゃん泣き喚くコボルトに対して、乱れ突きを叩き込み続ける。

 切っ先がコボルトの肉を抉り、血の花を咲かせる。

 穴だらけになるコボルトに容赦なく、さらに穴をあける。


 10秒ほど抉り続けていると、ようやくコボルトは倒れてくれた。

 ゴブリンから奪った剣は、あまり切れ味がよくない。

 斬るというより、叩くに近いため一撃必殺は狙いにくい。


 そういう理由からも、点攻撃である突き技は有効ではある。

 殺したコボルトから魔宝石を回収する。欠片だ。

 スキル持ちの物は完全な丸らしい。


 金貨1枚という大金が手に入る機会をそうは逃せない。

 スキル持ちが出たら奇襲して殺してやる。


 なんて思っていた。

 調子に乗っていた。


 これまで。

 今日この日まで。

 俺は完全に調子に乗っていた。


 31人が殺されたことはいつも思い出してはいたが、それも遠い日のように感じていたことは否めない。

 毎日、迷宮に潜って、それなりに上手くやる日々。


 調子に乗っていたのか?


 うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!


 物陰からコボルトが顔をのぞかせていた。

 そのコボルトが俺の視線に気づいた途端、遠吠えを上げた。


 そして、連鎖的に迷宮中から遠吠えが上がり始めた。


 うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!! 


 うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!


 うぉぉぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん……!!


 まずい。

 まずいぞ。

 きた。

 来てる。


 コボルトの軍勢だ。

 基本単独行動である3階層ではありえない数だ。


 やばい。これはどうする。

 戦うのか。

 いや、ありえない。

 もうコボルトしか見えない。


 まて。横からも。


「ウオォォン……!」

盾受(ブロック)!」


 魔だ俺は冷静だ。

 盾受(ブロック)している。

 その後は反撃。倒す必要はない。


 腕を切りつけて、奴らの気を削ぐ。傷を受けたコボルトはギャンギャン言って、その場から逃走する。

 しかし後ろの数は半端ない。


 今も遠吠えを上げて、俺を殺すための軍勢を整えている。

 ここにいたら死が待っている。


 まずい。

 限定奪取(リミテッド・スチール)の恩恵は、魔物では無理だ。

 この場を切り抜けるには、本当の意味で逃走する必要がある。


「行くぞ……!」


 自分に言い聞かせて、3階層を脱出するべく走るのを開始した。

 剣をしまい、カバンをぐっと掴んで揺れないようにする。


 後ろ。早い。

 

 しまった。

 4足歩行している。


 ダダダッとコボルトはすごいスピードで、走っている。

 これは無理だ。


火弾(ファイヤ・バレット)!」


 初速に優れる火弾をお見舞いして、先頭を走るコボルトが退場した。

 あれだけでは死にはしないが、あいつはもう追ってこない。かもしれない。


 しかし焼け石に水だ。


 たった一匹が居なくなったところで、あいつらの俺殺しは終わらない。

 走れ、走るんだ。


 死にたくなければ、走り続けるしかない。


 後ろを振り返れば、何十匹にも見えるコボルトたちが俺を追いかけている。


 やばい。どうしよう。

 それだけが俺の頭を埋め尽くす。


「やばいって……!」


 前にも何匹かコボルトが現れはじめた。

 援軍だ。

 やばいって。あれはまずい。

 止まる事は出来ない。


 俺は盾で頭を守りながら叫んだ。


強固な守り(ライズガード)!」


 剣や棍棒で体中を殴られながらも、前方にいたコボルトたちの包囲網を潜り抜けた。

 いってぇ。


 光魔法。


癒光(ヒール)……! もういっちょ、光の加護プロテクション!!」


 光魔法のレベル4時に覚える光の加護を使う。

 これは身体能力を底上げする魔法だ。

 6人までがその対象だ。


 迷宮に入るときからかけていたが、そろそろ時間的に切れる頃合いだった。

 ていうか効果は切れていた。


 気づかなかった。

 だが、それでもあの軍勢はダメだ。

 多勢に無勢という言葉もある。


 今の状態がまさにそれだと俺は思うんだ。

 もう突っ切るしかない。

 

 目の前から続々出てくる敵には、牽制球として火球を数発叩き込んで道を開かせる。

 後ろから来るなら、剣を引き抜いて縮地突きでより前方に早く移動する。


「縮、縮地! しゅっ! 縮地! しっ! 縮! 火球(ファイヤ・ボール)!!」


 という風な感じだ。

 前方のコボルトたちは俺が猛スピードで通り過ぎる時に、剣や棍棒で殴りつける。

 それが割と痛い。


 聖騎士になった俺にはまだまだ大丈夫なのだが、所々血が滲み始めた。

 痛い。痛い。いやだ。何でこんなことやってるんだよ。


 くそ。見誤った。

 俺の実力はまだまだここに来るべきではなかったという事だ。


 しかもなんだよ。あいつ。

 デカすぎだろ。


 2mはあるんじゃないのか?

 目が真っ赤で血走っているし、涎がダラダラ出して、俺を殺す気満々という風だ。

 やばい。 

 何がやばいって武器がやばい。

 めっちゃデカい剣を持っていてやばい。

 めちゃくちゃでかい。ゴブリンくらいの大きさだ。あれを操る筋力なんて考えたくない。

 あいつはやばい。

 やばすぎる。

 間違いない。


 スキル持ちだ。


 前方にいたスキル持ちコボルトは剣をもって、ひたすら俺に駆け寄ってくる。

 後ろにいたコボルトはそれを見て急ブレーキだ。


 あいつに巻き込まれたくないのか。

 それとも同族殺しでもしているのか。


 しかしこれはチャンスだ。


 あれを通り抜ければ、帰れる。

 戦うなんてもってのほかだ。


 たかがレベル11であるところの俺が、あのデカいコボルトを倒せるわけがない。

 一人でやれるような相手じゃない。


 何人もの人間で一斉にやらないとだめだ。


 剣を持ったままデカコボルトに向かっていく。

 失敗は許されない。


「ハッハッハッハッ……!!」


 コボルトは犬のように息を荒げつつ、剣を振りかぶっている。

 あれ食らったら死ぬ。

 怖い。

 でも殺されないぞ。


 光魔法。


閃光(フラッシュ)!」


 ポンと小さな玉がデカコボルトに飛んでいくと、弾けた。

 カッと光る。


「ギャン!?」


 俺も目を閉じていたので、どうなったかは分からないが、成功のようだった。

 閃光手榴弾のような魔法だ。


 まともに光を浴びたら、目が潰れる。

 今のあいつの視界は皆無だろう。


「今だ……!」


 倒すことは考えない。

 俺も目を閉じていたとはいえ、少し目がおかしい。

 後ろのコボルトも目をやられているようだ。


 デカコボルトの横を通り過ぎたその瞬間。デカコボルトは俺の追跡を目を閉じ居た状態で開始した。


「なんで!?」


 何故俺の居場所がわかる。

 目はつぶした。

 今奴の視界はない筈なのに。


 後ろを振り返り、徐々に迫るデカコボルトの姿に恐怖する。

 すると、しきりに鼻が動いているのに気付いた。


 そうか。

 臭いか。

 それはダメだろ。

 反則だろう。


 こうなれば、どれだけ早く移動できるかにかかっている。

 縮地突きのオンパレードで奴からどんどん離れる。


 しかしデカコボルトも負けていない。


 4足歩行で俺を追いかける。

 速い。縮地突きと変わらないスピードで走っている。


 まだか。

 まだ2階層への階段は見つからないのか。

 いや、あった。


 あれだ。

 あれならいける。


 俺は階段に駆け込み、魔法を行使。


火炎壁(ファイヤ・ウォール)!」


 唯一の出入り内を塞いで安心した。

 これで奴は来れない――!?


「わっほぅぅぅ……!!」


 え、うそ、火炎壁(ファイヤ・ウォール)を突入してきた。

 くそ。

 マジか。

 俺は階段を駆け上り、二階層に戻る。

 デカコボルトも来る。


 くそ。階段は奴の方が早い。

 俺は階段の上で盾を構え、強固な守り(ライズガード)で迎え撃つ。防御力上昇の技だ。

 タイミングを合わせろ。見ろ見ろ見ろ。

 観察するんだ。


「うぉるふぉぉ!!」


 デカコボルトは上段からの斜め振り下ろしの攻撃を選択した。

 迫りくる剣を目に、俺は対応する。

盾受(ブロック)で受け止めるのではなく、弾く。

 バーン、と大きな音がして足場が不安定な両者はふらつく。


 もっとも、階段下でふらつくデカコボルトは大きな影響を受けた。

 階段を踏み外し、そのまま下まで転げ落ちる。


 その隙に階段を上りきると、帰りの転移石まで一直線だ。


 トレントは邪魔だから、火魔法を打ち込んで殺しておく。

 何かあってからでは遅い。


「うおぉぉぉぉっぉん!!」


 雄たけびをあげながら突撃してくるコボルト。

 速く。


「縮地突き!」


 移動攻撃の移動で早く移動する。

 とにかく連続で移動して、前に発見しておいた転移石の前まで来た。


 俺は石に触り、表示される出口にタッチする。他には1階層と三階層が表示されたが、今は予定はない。

 後ろを見るともうすぐそこにまで、コボルトは着ていた。


「逃げるわ」


 転移石が光り輝き、俺は迷宮から脱出した。

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