表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/87

15 2階層

「ちょ、これだけですか!?」


 魔宝石の回収の仕方を学んだ俺は、意気揚々とギルドに足を運んでいた。

 最初に対応してもらった受付嬢さんに、魔宝石をいくつも提出した。


 これで何とかなると思っていた。

 しかし現実は無常である。

 

 受付嬢さんが受け皿に数枚の銀貨を出してきた。

 これだけ。

 たったこれだけ。


 もっというなら、


「そうですよ。これだけです」

「ていったって、これ3シルバーしかないじゃないですか!」

「それが適正価格です」

「そんな……」


 俺はがっくりと肩を落とす。

 3シルバー何て、宿一泊にも足りていない。

 今と待っている宿は、一泊3シルバー以上かかる。

 これではただの赤字だ。

 十数個は魔宝石を運んできたというのに、これでは骨折り損だ。


「魔宝石の価格は大きさと魔物の危険度で決まっています」


 受付嬢さんが俺を憐れんで説明してくれるようだ。


「迷宮から出て来る魔物の事前排除。これはあなたたちの仕事であるわけですが、弱いモンスターを倒しても、そこまであなた方の儲けにはなりにくいです。分かりますよね?」

「はい……」


 初めて聞いたが、頷いておく。


「それと魔宝石の完成度です。俗にいうスキル持ちの魔宝石は金貨一枚から買い取りをしています」

「えっ!?」


 じゃあ、あの強いゴブリンから回収していたら金貨一枚ももらえたのか。


 なんて惜しい事をしてしまったんだ。悔やまれる。

 さらに受付嬢さんは説明を続けた。

 その言葉はよどみない。


「階層の深い魔物ほど買い取り価格は高くなっています。どうせ、一階層でちまちま狩っていたんでしょう?」

「そ、そうですよ……。それが何か……?」

「レベル10とはいえ、魔法も使えるのです。2階層や3階層でも行けるでしょう。明日はそうしてみてください」


 罵倒されたと思ったら、アドバイスをくれた。

 ツンデレのようだ。


「階層が深ければ、魔物のレベルも高くなり、スキル持ちも強くなります。せいぜい死なないように」


 上げて落とす。良いやり方だ。

 俺はゴクリとつばを飲み込み、自分に喝を入れる。


「……そうですか。分かりました。明日は二階層に行ってみます」

 

 それだけ言って、三枚の銀貨を握りしめて宿に戻った。

 今日は稼げた。それだけでも十分だ。



 宿にもどりいつも通り、オルガから飯を受け取る。

 そのオルガから話しかけられた。


「今日は気分がよさそうですね」


 今の俺はそう見えるようだ。まぁ、赤字とはいえ稼ぐことが出来たからな。

 死んでいった皆にも顔向けができるというものだ。


「良い事があったんだ」

「ふーん。そうですか。それじゃ、また」


 オルガはそれだけ言って、厨房に戻っていった。忙しそうだ。

 俺も明日に向けて、英気を養う。




 今日はいつもと違い、作った地図の一番奥へと向かっている。

 迷宮は階段で下に降りることが出来る。


 この階段を見つけるのが苦労するわけだが、3週間地図を作っていた俺はすでに発見済みだ。

 ここまで来るのにも、数匹のゴブリンの魔宝石を回収しておいた。

 これだけでも端数位の稼ぎにはなる。


 今日からは二階層だ。


 危険度が増すらしい。強くなるのだろうか。ゴブリンか。それとも違うものか。

 ゴクリと喉が鳴る。


 何が居るのか。

 情報収集すべきだった。

 これくらいは聞いておいても良かったのでは?


 軽く後悔しながら階段を降りた。

 カツカツと薄暗い階段を下りながらも、警戒を怠らない。

 そんなに時間もかからず、二階層に降りることが出来た。

 3週間かかったステップアップだ。


 武装は少し更新されている。

 剣が折れたから、ゴブリンが使っていた少し小ぶりの剣だ。スキル持ちが持っていたとあって、悪くはないのだが、前使っていた剣の方が使いやすい。

 

 一応は、監禁されていたときのナイフも持っているが、あれはほとんど護身用だ。

 戦闘用ではない。

 

 またその内剣は買わないといけない。

 盾はまだまだ現役だ。酷使しているから傷はたくさんあるけど、穴が開いているなんて言う事もない。

 

 中々大きいし、俺をガッチリ守ってくれる。


 テクテクと歩きながら、何が出るのか緊張していると1本の木が生えていた。

 通せんぼでもしているかのようだ。


「……?」


 迷宮に木はおかしいなと思って、回り道しながら通り過ぎようとすると、突如木が動き出した。

 枝がすごいスピードでスイングされている。


「がはっ……!」


 奇襲に近い攻撃に、俺は避けることが出来なかった。

 顔面にぶっとい枝が直撃した。俺の装備は頭は守っているが、顔は守っていない。

 これはいたい。

 鼻がジンジンする。

 鼻血も出ていた。


 急いで距離を取りつつ、右手を鼻に当てた。


癒し手(キュア)……!」


 手で触れた個所を治す光魔法レベル1の魔法だ。

 だんだん痛みが引いていくのを感じていると、1本の木が動き出した。


 根っこをバタバタさせながらゆっくりとではあるが、確実に動いている。


「トレント……?」


 そんな単語が出る。

 そうだ。トレントだ。

 木の魔物。


 これはいい。

 俺と相性がいいぞ。


火球(ファイヤ・ボール)!」


 二個の火球が二体のトレントに向かってまっすぐ飛んでいく。

 トレントは動きが遅いのか、避けきれないようだ。


 当たった。見事直撃だ。


「オオオォォォォォ……」


 なんて声を出しながら、トレントは燃え尽きた。 

 弱。


 ゴブリンの方が強い。

 いや、火魔法との相性がいいのだ。


 相手は木だ。

 火を撃つだけで勝手に燃えてくれる。


 これはいい。

 火魔法のレベル1である火球(ファイヤ・ボール)の一撃で倒れてくれる。

 これは稼ぎどころだ。


 魔力の残存に気を付ければ、どんどん安全に金を稼げる。


 そうとわかれば、荒稼ぎだ。


 二階層の地図を作りつつ、歩いているといつもの奴がいた。


「ゴブリンも居るのかよ」


 地図をしまって抜刀。

 盾を構えると、ゴブリンが走ってきた。

 心なしか、一階層の奴より動きが良い。


「ジャアアァ……!」

「うぉ……!?」


 やはりそうだ。

 きれっきれだ。

 上のゴブリンより強い。


 俺は盾を構えて、絶対に攻撃は通さないと思いつつ、盾受(ブロック)を連発する。

 聖騎士になってからというもの、盾術や剣術の調子が良い。


 レベルも4だ。

 一つ上の剣技を見せてやろう。


 俺は盾受(ブロック)の連発からの、あえて盾を引いて敵の攻撃を間延びさせた。

 タイミングが若干狂うゴブリン。


「ゲヒッ……!」


 まずいと思ったか、無理やりゴブリンは下がる。

 縮地突きでもいいが、レベル4の剣技を見よ。


「撫で斬り……!」


 剣術で初めての横なぎの攻撃だ。

 今までは点攻撃、突きの技しかなかったので、これは使える。


 右からの横なぎ攻撃をゴブリンは腹を切り裂かれる羽目になった。

 だが、やはり突きの方が強い。

 しかし選択肢が増えたという事を考えれば、別段悪くない。


 レベルが上がったことで、他の技のキレもいい。


 ゴブリンは斬られた腹をかばいながらも、攻撃を続ける。

 盾受(ブロック)。腕にきつい衝撃がのしかかるが、ガッチリと受け止める。

 これを怠ればけがするのは俺だ。

 しっかりと攻略するべく、ガードする。


 ゴブリンの動きは3週間のうちで慣れた。

 もう予測に近い。

 最初こそは攻撃を受けては、光魔法で直していたが、スキル持ちでもない限り、俺の敵ではない。

 盾受(ブロック)盾受(ブロック)盾受(ブロック)。からの、


「一本突き!」

「ゲヘェア……!」


 さらに腹を貫かれたゴブリンは、完全に膝を屈した。

 剣を引き抜いて、頭をかち割るべく、連続で剣を振り下ろしまくった。


「げ、アベ、ギャ、ブフゥ……」


 ゴブリンは頭をかばうが、それではどうにもならない。

 倒れた時点で俺の勝ちだ。


 手を休めず、頭ばかりを攻撃する。

 残酷だとは思わない。

 俺たちはもっと危ない目にあった。

 31人の仇だと思えば、こんな奴の頭を砕くなんて余裕だ。


 いつか、本当の復讐対象を見つける。

 

評価や感想を待っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ