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14 ばれますた

 受付嬢さんは笑顔で限定奪取(リミテッド・スチール)を指さしている。

 ばれた。

 すぐだった。

 

 何もしなかった俺が悪いのか。

 その前にギルドに等入ってしまった俺が悪いのか。

 俺が悪いのか。


 そうだな。

 俺の間抜けと言っておこう。


「最初に見た時から思ってたんですけど、これ何です? 限定奪取? 聞いたことありませんね。教えてもらえませんか?」


 俺はきりっと顔を正して、真面目になる。そう、俺はいつでもまじめ。

 本気の表情には、本気で返さなければならない。


 先手を打たれたが、後手必殺。

 食らうがいい。


「駄目です」

「そうですか。まぁいいです」


 俺はソファーの上でずっこけた。

 コントみたいだ。


「あれ? もっと深く聞かないんですか?」

「言いたくないことの一つや二つくらいはあるでしょう。特殊系統のスキルは特別ですし。言いたくない人とかいるんですよ」


 勝手に納得してくれたみたいだ。

 確かに俺の限定奪取(リミテッド・スチール)は、簡単に人に教えていいものではない。

 むしろすでに限定奪取リミテッド・スチールの存在がばれている時点で、この場から逃げ出したいくらいだ。


 しかしながら、受付嬢さんの態度は淡白だ。


「それが何なのか知りませんが、ギルド側はそれをおいそれと漏らす事は無いので」


 ていうかさ。

 さっきから受付嬢さんの言動おかしくない?

 俺の勘違いか。

 でも、おかしいな。


 さっきの会話を思い出すと、俺と知っている情報が異なっている。

 聞いてみよう。


「……あれ? そういうと、前からこれの事知ってたんですか?」

「あ……」


 受付嬢さんは舌打ち一つして、部屋から出て行った。

 俺は取り残され、個人情報が筒抜けであるこのギルドとやらの警備に不安を持つのだった。



 宿にもどって、飯を食い、体を拭いて、ベッドに潜り込む。

 これが最近の俺の生活習慣だ。

 これ以外にする事が無い。


 金も少なくなっているので、飲み食いも出来ず、娯楽も少ない。

 しかし明日からは違うぞ。


 魔宝石というものの正体が判明したのだ。

 ゴブリンの心臓。

 もっと言うなら魔物の心臓らしい。


 本当に悔やまれる。

 今まで殺したゴブリンは数十匹には上るはずだ。もしかしたら百匹は殺しているかもしれない。

 その魔宝石をすべて回収していないなんて、とんだタダ働きだ。


 迷宮の魔物を殺すことで、町の平和にある程度貢献しているのにもかかわらず、その報酬がゼロではやっていられないのは、普通だろう。

 日々、迷宮に危険排除しに行ったのに、何もせずに帰ってくる。


 端から見ても馬鹿だ。見なくても馬鹿だ。


 けど、明日からは違う。

 

 ゴブリンを殺したら、肉を抉り、骨の隙間から魔宝石を回収するのだ。


「グロ……」


 想像したらあまりやりたくない作業であることに気づいた。

 え? 心臓っすか? 脳みそじゃないだけマシってか? うるさいわ。


 おいおいおい。心臓なんて剥ぎ取った事ねーよ。

 大丈夫か俺。この稼業やっていけるか? でも生きるためには金を稼がないといけない。


 そうなれば冒険者として、迷宮に行くのが一番手っ取り早い。

 金貨は残り一枚。

 宿は後一週間程度しかいることが出来ない。


「明日は稼ぐぜ……!」


 決意を新たに、俺はさっさと眠りについた。



 翌日、早速起き上がって、装備を整える。

 朝食をいただき、さっさと迷宮に向かう。


 もう道も覚えたし、一人で行っても問題はない。

 というより、俺は単独行動の冒険者だ。一人だし。最初から一人だと世界の中心で叫んでやってもいい。


 小走りで迷宮に向かうと、洞窟が見えた。


 縦横に大きく口を開けている入口が俺を出迎える。

 やるぞ。


 今日の俺は昨日と違う。


 何といっても情報がある。 

 それに俺は聖騎士。


 カッコいい。

 聖という響きと騎士という文字。


 もう最強すぎる。


 迷宮に入って数分。

 最初のゴブリンさんが来てくれた。

 垂涎だ。

 涎が止まらないぜ。


 あいつの心臓が高く売れるのだ。

 歩く宝石さんですね。


 ぐふふのふ。

 昨日な、俺は変わったんだよな。


 無職(ノージョブ)から聖騎士へ。

 聖騎士ですよ。


 無職でも倒していたゴブリンさんなんて鼻毛引き抜きながらでも倒せるわ。

 言い過ぎた。

 油断せずに行けば、無傷で倒せる。


 そしてな。

 何よりな。

 すんげー強くなってるよ。俺。


 クラスが変わっただけで、俺の内なる才能が目覚めた的な?

 聖騎士です。俺は聖騎士です。

 もう一度言います。聖騎士です。


「ギャシャラダラララ……」


 俺の余裕を感じ取りつつも、ゴブリンは単独で俺に攻撃を仕掛ける。

 盾でぱーんと弾いて、一本突き。

 左肩を貫いた。

 

 やはり、昨日とは動きが違う。

 俺は一段階進化したと言っていい。


 ゴブリンは貫かれた拍子に逃走に移った。

 もう勝てないと判断したらしい。


 俺は息を大きく吸い込んで、それを阻止する盾術を行使。


「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉおおおぉおぉ……!!」


 挑発(ウォークライ)

 連発はできないが、目の前の敵をくぎ付けにする効果と、怯えさせる効果がある。

 使いどころを謝らなければ、相当有効な技だ。


 大音声を聞いたゴブリンはつんのめった。

 逃げる事も出来ないし、突然大きな音にビックリしたのだ。


 背中側を見せながら硬直している。

 俺は剣を構えて、次なる手に出た。


「縮地突き……!」


 剣術レベル3である縮地突きを用いて、背中からゴブリンを貫く。

 左胸を貫き、ゴブリンは絶命した。


 ゴブリンから剣を引き抜くと、ドバドバと血があふれ出した。

 ゴブリンは地面に落ちて、そのまま物言わぬ躯と成り果てた。


 ここからが正念場だ。

 俺は、ナイフを取り出して、地面にしゃがみ込んだ。


 ゴブリンをあお向けにさせて、粗末な服ごと貫いた。


「うぇ……」


 剣でやるのとナイフでやるのでは、生々しさが違う。

 剣でやっているときは生き死にをかけているからしょうがない。 

 でも今やっているのは、死体打ちに等しい。


 だが、これをやらないと俺が逆に死んでしまう。

 餓死してしまう。

 金が重要なのは、百も承知だ。


 やりたくはないが、力がある以上使わない手はない。


 ぐりぐりナイフを動かして、開胸した。


 するとやや透明な欠片が、胸骨の裏側にあった。

 これか。

 

 ゴブリンの粗末な服で手を覆い、体の中に手を突っ込んだ。

 血にはできるだけ塗れたくない。


 器用に手を動かしていると、コツンと指先に固い感触がした。

 これだ。


 指でそれをつまんで、取り出す。


 おお。これが。


「魔宝石だ……!」


 感慨もひとしおである。

 かれこれ三週間稼ぐことが出来なかったのだ。


 誰かに聞けばよかったなんて思うが、今更だ。

 今日からちゃんと稼いでいこう。

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