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12 ダメダメ

 あれからさらに2週間、俺のレベルは8になった。

 だが、一銭たりとも稼いではいない。


 ただ迷宮に行って、ゴブリンを倒すだけ。

 宝石は見つからず、出来るだけ戦闘は避ける。


 だめ。ダメダメだ。俺は糞だ。全く稼ぐことが出来ない。

 あぁ。どうすれば良いのだ。

 もう聞こうかな。


 宝石ってどこにありますか? 的な。でも当たり前の事聞いて、なんか怪しまれると困る。

 いや、一銭も稼げていない時点で怪しいのだが。


 今日も迷宮を歩く。

 もう義務的だ。

 あと一週間で宿代も無くなる。

 もう後金貨も一枚しか残っていない。

 それを払えば、本当に無一文になってしまう。


 早く宝石を見つけないと。


 目の前に立ちはだかるゴブリンをいつも通り切り殺す。

 もう作業に近い。


 一階層のゴブリンなら余裕だ。

 だが、あのスキル持ちはどうだろう。


 今なら倒せるだろうか。


 俺のレベルも少しだけ上がったし、この前よりは俺は強い。

 不退転の気持ちで行けば、何とかなかるのでは。


「なぁ?」


 そう。あいつは奥にいた。そしてすでに抜刀している。

 2週間ぶりの再会だ。

 俺はあの時よりやさぐれているが。


 もうな。どうにでもなれよ。

 負けないし。

 31人の命を背負っているんだよ。お前なんかに負ける訳無いだろう。

 一本突きだけで負けるほど、俺は甘くないぞ。


「ゲアアァァァァァ……!」


 宿敵にあったが如き声を上げながら、ゴブリンが突撃してきた。

 俺も盾を構えつつ、火魔法で迎撃。

 

火球(ファイヤ・ボール)……!」


 ボウッと発生した火の玉は、ゴブリンに向かってまっすぐ進む。

 だが、剣で打ち払われてしまった。

 火がそれだけで掻き消えてしまう。


 隙を作らないとだめだ。

 隙があって初めて生きるのが魔法らしい。

 この3週間の教訓だ。


 火魔法は今はダメ。

 なら使えるのは、剣と盾のみ。

 盾を前面に出して、剣を引き、いつでも反撃できる状態に移行する。


「ガラバァラァ!!」


 いつも逃げられる俺に対して、怒っているかのような攻撃だ。

 ゴブリンは今日こそ殺してやるという気迫に満ち溢れている。


 だが、そうはさせない。

 盾は完璧だ。

 防げる。

 剣と盾が撃ち合い、押し合う。ガツンガツンぶつかり合い、火花が散る。


「ギッシャ! ガジャ! バラグラァァ!!」


 一方的な剣舞が巻き起こっているが、俺の優位は変わらない。

 盾があれば恐れる事は無い。

 防げている。恐れるな。剣術があるとはいえ、俺より低い。

 俺は剣術を持っている男を殺している。

 恐れる事は無い。こいつはそいつよりは弱い筈だ。


 ゴブリンは剣を振る。振りまくる。その中には技術があり、呼吸がある。

 殺気に満ち溢れ、上下左右から剣が振られ、俺の動きもそれに従い動く。

 そして、次。


 盾受(ブロック)し続けた効果が表れた。

 単調になりつつある攻撃の隙を突き、一本突きを見舞う。


「シッ……!」

「ギア……!」


 ギリギリで躱されるが、まだだ。

 すぐさま腕を引く。

 撃て。


「二連突き……!!」


 決死の思いで突きをする。俺の半身は盾に隠れているので、ある程度は安全という仕様だ。

 ずるいよな。でも、これが闘いだと思うんだ。


 腹、腕を狙った攻撃に、ゴブリンは迎撃を行う。

 一本突きで一撃目を打ち払うが、二撃目は防ぎきれない。

 鎧でカバーしていない肘あたりを傷つけた。相当深く行った。


 肉を抉った感触が若干気味が悪い。

 かなり深かったのか、傷口から血が止まらない。 


「ギァァァ……!!」


 守り虫だった俺の反撃に、ゴブリンはその場から飛び退く。

 そっちから離れたな。

 ならば、俺は火魔法だ。追撃にはもってこいだな。遠距離攻撃こそが最強だ。


火球(ファイヤ・ボール)!」


 畳み掛けるように火の玉を打ち出す。個数は少ない。魔力がなくなってしまう可能性もある。

 二発だけ出して、ゴブリンに直進させた。


 だが、火魔法の危険性はゴブリンも承知の上だったようだ。

 一発目を剣で防ぎ、二発目はわざと鎧で受けた。


 鎧で受けたことで、ある程度は威力を減殺したようだった。しかし火だるまになりそうにはなっている。

 ゴブリンは地面を転がり消火活動に勤しんでいた。


 これは逃せない。

 これを逃せば、また反撃の憂き目にあい、俺は逃走することになる。

 もう何回も逃げるのも飽きた。今日で決めたい。


「縮地突き……!」


 移動攻撃による突き技を敢行。

 不可思議な引力にひかれるように移動を開始し、ゴブリンを一突きにせんとする。


 移動する俺に気付いたか、ゴブリンは火傷を負いつつその場から飛び退く。躱された。


 ゴブリンは右に左に惑わせながら移動を果たし、手で火を消していた。

 パンパンと手で火を払い、何とか消火を終えている。


「けど」


 かなり火傷を負ったみたいだ。

 特に顔がひどい。

 顔面の半分が赤くなっている。

 肌は緑なのに。


 赤緑色だ。


 逃走するか? なんて思ったが、ゴブリンはまだまだやる気みたいだった。


 ゴブリンは火傷を感じさせない躍動感で、俺に迫りよる。

 しかし痛い筈だ。

 どこかに違和感があるだろう。


 ゴブリンは剣を振り上げ、怒りに任せて振り下ろしてきた。

 すさまじい気合いだ。怒っている。怒り状態が、力を増幅させるのだろう。


「ガラアッァァァァァァ!!」

盾受(ブロック)……!」


 盾受(ブロック)の連発だ。

 ガツンガツン盾で防ぎまくり、相手だけを一方的に動かせる。


 しかしこれは力が自分より弱い奴限定の話だ。

 俺より力が強かったら、すぐにでも倒さないとじり貧だ。


 だが、ゴブリンは隙が少ない。

 動きもさることながら、鎧が邪魔だ。

 兜をかぶっているし、頭を砕きにくい。


 兜の上から殴っても良いが、それでは一撃必殺にはならないだろう。

 それに簡単には当たらない。


 俺だって頭に剣が飛んできたら、ぜったい盾受(ブロック)か避ける。

 こうなったら、あれしかない。

 俺の必殺の一撃。


 盾術の技。

 これならいける。使ったことないけど。ぶっつけ本番だけど。

 使わないよりはいい。これで決める。

 行くぞ。


 俺はどっしりその場で構える。

 動かないことが、この技の発動条件だ。


復讐の一撃(リベンジガード)……!」


 その技を発動した瞬間、盾と剣が光り始めた。

 それにいぶかしく思い、ゴブリンはサッと後退する。


 が、俺は追いかけない。

 その場でゴブリンを待つ。盾を構え、絶対やられないという覚悟の下、全力で相手を睨みつけた。


 来い。来てみろよ。

 やってやる。

 今日で自信をつける。


 洞窟で殺した剣術野郎は不意打ちだ。

 それにあの時は限定奪取(リミテッド・スチール)を使った。

 スキル持ちとのガチンコ勝負で俺は勝つ。


 強くなって、いつか復讐するための力とする。


「……ジャアァァ!!」


 動かない俺に対して、ゴブリンはしびれを切らした。

 剣を下段に構えつつ、右に左に移動して、的を絞らせない。


 が、俺は最後だけ見ればいい。

 惑わされるな。


 防げ。守ればいつかチャンスは来る。

 攻めるだけが能じゃない。


「ジャラァア!!」


 ゴブリンは壁走りという驚異の身体能力を見せつけながら、下段から上段へと剣を移行して攻撃を仕掛けてくる。


 これを盾でガード。

 ガツンとぶつかり合い、盾と剣の光が強くなる。

 いっそう白く光り輝き、早く放てとうるさい。


 まだだ。足りない。もっと攻撃を受けないといけない。

 

「ジャラァ……! ジャラァ……! ジャラァ……! ジャラァ……!」


 常軌を逸した猛攻をゴブリンは続けた。俺の攻撃に危険を感じ取っている。いや、ガードか。

 早く決着をつけようとしているが、この技と盾術はそれを許さない。


 何度も振るわれる剣を盾受(ブロック)して、光を強くしていく。

 打ち合いが数合、数十合になるころには、盾と剣は眩いばかりの光を放っていた。


「ガッッッジャラァァアァ!!」


 死ね、とばかりにすくい上げの剣が迫りよる。が、俺の盾受(ブロック)はそんなに(やわ)じゃない。


 一際大きな金属音が響き、全力を出して攻撃したゴブリンは技後硬直に見舞われた。

 ゴブリンは動けない。派手に攻撃し過ぎた。

 

「ギァ……!!」


 まずいと思っただろう。

 俺は剣を振りかぶる。これが俺のとっておき。一撃必殺だ。


 復讐の一撃(リベンジガード)――、


「解放……!!」


 圧縮されていた白い光が、解放され、剣が加速されて打ち出される。

 肩口から襲い掛かる剣は、ゴブリンの鎧を食い破り、鎖骨の奥深くまで侵入した。


「よし……!」


 剣を引き抜き、膝をつくゴブリンを蹴倒す。

 血が噴き出しながらも、起き上がろうとゴブリンは抵抗する。

 

 そうはさせない。


 剣を振り下ろす。頭だ。食らえ。死ね。


「ガハ……」


 肩口と頭にダメージを受け、鎖骨まで大きく切り裂かれたゴブリンは、力なく地面に倒れた。

 後は簡単だ。


火弾(ファイヤ・ボール)……!」


 ゴブリンの顔面に火球をぶつけ、怯んだところで剣を体中に叩き込む。全身くまなく斬るというより叩く。

 そこまで切れ味のいい武器でもないし、鉄で殴れば痛いだろう。

 

 ゴブリンは戦うのを諦めて、頭を抱え込み、身を丸くする。

 それでも俺は剣で攻撃するのを辞めない。


「死ね!」


 容赦なし。本当だったら、数人で囲んで殺すところだ。

 なんで一人でやっているんだ。


 ふざけんな。

 こんなところからも、皆が死んでしまったことを後悔する。

 いや、憎悪する。


 いつか復讐だ。


 今は雌伏の時。

 見つからないように、派手には動かない事だ。

 

 その前に、俺が死なないようにこいつを殺す必要がある。


 剣を振り下ろしまくり、ボッコボコのフルボッコにする。


 鎧の上からでも構わず攻撃を続けていると、ゴブリンの抵抗も止んでしまった。

 俺の勝ちだ。


 その時、カランと音がしたので、音の先を見た。


「あ、え、嘘……!」


 剣が真っ二つに折れていた。

 しまった。鎧の上から復讐の一撃(リベンジガード)を叩き込んだせいか。


 これではもう使えない。

 手入れはしていたが、もっと頑丈なものが必要らしい。


 取りあえず、ゴブリンの剣を奪ってその場を後にした。

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