10 一本突き
やった! 日間8位ですよ!
応援ありがとうございます。
引き続き10話をお楽しみください。
買い物を終えて宿に戻ると、すでに日も傾いていた。
外は暗くなり、道行く人は少なくなり始目るかなと思ったが、予想とは異なるものだった。
古い町並みにはたくさんの武装した男たちが帰還して、飲み屋に入ったり自分の宿へ行ったり。
それか換金するべくギルドへ向かっている。
その顔は一様に明るい。
すでに荷物を部屋に置いて、1階のロビーで夕食を待っている身である。
解放された扉から、続々と武装した連中が入ってきた。がタイのいい人ばかりだ。
剣や斧、俺と同じく盾を持っている人もいた。
顔こそ怖いが、口々に「ただいま」と言っている。
ギャップがある。
彼らもこの宿に泊まっているのだろう。
この宿はそれなりに高いが、部屋は狭い。
しかしたくさん人は来る。
需要があるのだなと思って、恐らくあれだろうなという推測はあった。
立地だ。
冒険者ギルドが目の前にある宿である。需要こそ大量にあって、供給は間に合いそうにない。
よくこの宿をとれともんだ。
運が悪い中でも運がいい。
茶色の肩までそろえた髪を揺らしながら、オルガが配膳をしている。
自分の分はまだかと、ボーッとしていると、突然話しかけられた。
「今日もみなさん頑張ったみたいですねぇ」
オルガが食事を運んできた。
クリームシチューみたいだ。固形のルーでもあるのだろうか? それとも一から作るのか? 作り方知らないや。
それよりも頑張ったとは何をだろう。
「どういう事?」
素で問い返してしまった後、やばいと思った。これも常識かもしれないと思ったからだ。不審に思われてしまう。
が、オルガはそうは思っていなかったみたいだ。
「ここの近くに迷宮があるんですよ。皆さんその帰りです。ユウキさんも明日から行くんですよね? 頑張ってください!」
寝耳に水だ。だが、話を合わせないと。
「あ、ああ。明日から行かないとな。金もだいぶ使っちゃたし」
これは本当だ。
1か月分の宿代は払ってあるが、金も残りは金貨1枚と銀貨数枚。
2か月生き残れない。
働かないといけないのだ。方法はある。
ギルドの綺麗な受付嬢はこういっていた。
換金するならギルド、的な事を。
何か金になるのだ。何かを採取するなりして、ギルドに提出する。
そして、目的のものは迷宮とやらにある。
「それじゃ、食べたら食器返しに来てくださいね」
オルガは忙しそうに、厨房へと戻って行った。
他にもいかついおっさんたちはたくさん居る。食事を配るべく奔走するオルガを見ながら、軽くつぶやいた。
「迷宮、ね……」
迷路か。
何があるのだろう。
お宝でもあるのか。
そこに行けば金が稼げるのだろうか。
物を持って行く?
それを換金するのだろうか。
多分そうだな。
行ってみようかな。
明日。
金は要りようだし。
「いただきます」
考え事をしていて、手が止まっていた。一口も食べていない。
おいしそうな飯をかっ食らい、飢えを満たす。
久しぶりのまともな食事に、涙しそうになった。
あっという間に平らげて、食器を厨房の受け取り口に置いていった。
奥では親父さんや女将さんが、忙しなく動いている。
それから、ギルドに向かってみる。
情報収集だ。これをしないと、明日何をすればいいのかわからない。
ギルドの扉をくぐると、多くの男たちが並んでいた。
人波を潜り抜け、端の方からカウンターを見ると、何か丸い物や欠片のようなものを出していた。宝石?
他にも何かの皮みたいなものや、牙も提出している。あれは何の獣の素材だろうか。
あれが金になるのだろうか。
しかし提出すると、受付嬢は銀貨を数枚手渡している。
おぉ。あれで銀貨数枚になるのか。
相当な稼ぎだ。
少しは物の価値は分かっている。
銀貨は結構大金だ。一枚あれば余裕で暮らせそうな額ではある。
そして、宿どまりは今のところ銀貨3枚以上を必要としている。
一枚では俺の場合、赤字になってそのうち路頭に迷ってしまうだろう。
銀貨数枚ではなく、金貨一枚もらっている奴もいた。あれはすごい。
装備からして違う。
短髪で銀髪で、やばそうだ。近寄りたくない。
他の連中も冷やかそうとはしていない。
俺に対しては、ちょっかいかける連中も、そいつにだけは話しかけるような事すらしない。
たぶん、あいつは強いんだろう。
一目置かれている。
名前こそわからないが、覚えておいて損はない。
俺はギルドから出て、最終的な結論を出した。
なかなか儲かる稼業のようだ。
それだけを確認すると、俺は宿に戻った。
次の日。
少し硬いベッドから起き上がって、昨日買った鎧を装着した。
軽いな。
一式で金貨1枚だ。安いのだろう。中古だしな。
それとローブをマントのように羽織り、カバンを持って1階に降りた。
すでにたくさんの男たちが朝食を食べている。
俺も眠そうなオルガから朝食をもらって、席に付き、急いで食事を済ませた。
歯を磨きロビーに戻ると、ちょうど数人の団体が外に出て行くところだった。
「ラッキー……」
あの後をついていけば、迷宮とやらに行けるに違いない。
あわよくば、やり方を見て手習いしよう。
男たちが宿から出て行くのを確認して、俺もその後をつけていく。
準備は万端だ。装備に加え、水。あとケツを拭く紙。
どこかいくなら紙は必需品だ。だが、質はよくない。ごわごわして肛門に悪そうだ。
あと食料はない。
ここ数日で胃がすっかり小さくなってしまったので、昼食は抜きだ。お金も少ないし、節約で行こう。
そういう風な算段をしながら、男たちの後を付いていく。
一定方向に進んでいると、おんぼろの町の外に出てしまった。
「どこに行くんだ……?」
迷宮だという事は分かっているが、そう言う風な思考になるのは仕方がない。
昨日の森とは違う場所だが、どんどん人気のないような場所に行く。
少々不安になりながらも、男たちの後ろをこそこそ付いていった。
すると、武装した男たちがどんどん集まってきた。
「ここらへんに迷宮はあるわけね……」
この奥に迷宮があるに違いない。
ごついおっさん達に囲まれながら、俺も迷宮へと目指す。
そして数分歩くと、ぽっかりと口を開けた洞窟があった。
「うっ……」
洞窟は若干トラウマだ。
しかしここで立ち止まるわけにはいかない。
すると、男連中は直方体の真黒な石がある場所まで移動した。かなり大きい。高さは腰くらいまである。
ある男が手をかざすと、その瞬間男たちは消えてしまった。
「え……!?」
しかし周りの連中は驚いている様子は全くない。
俺だけが驚いている。
俺は慌てて冷静を取り繕い、次の集団に目を送った。
やはり、直方体の石に手をかざして何事かすると、その場から消える。
それがどんどん繰り返され、後に残ったのは俺だけになった。
だいぶ出遅れた事は分かっているが、一人になった時に試してみたかったのだ。
「多分、中に入るための装置だろ」
そういう算段を付けつつ、俺も直方体の石に手をかざすが何も起こらない。
他の連中は石が光って、そのあと仲間と思しき連中がこぞって姿を消す。
俺もこの場から消えて、迷宮内に入ろうとするが、どうにもこうにも出来ない。
ペシペシと石を叩いてみても、何も変化はなかった。
「俺だけ使えない……?」
仕方がないと思いつつ、普通に入口から迷宮内に入った。
最初から入ればよかった。
中は暗いかもと予想していたが、青白く発光する壁のおかげで視界には困らなかった。
これなら大丈夫だと。
道も広い。けど、迷宮というだけあって、曲がり角がたくさんある。
中に入ってみたはいい物の、これからどうすれば良いのか。
情報収集を怠った。しかし常識らしいし、聞くに聞けない。
聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥、みたいなことわざもあるが、俺の場合あまり変な行動をしすぎると危ない気がする。
杞憂かもしれないが、警戒をしておいて損はない。
まっすぐ大きな道をひたすら進むと、昨日戦ったゴブリンが一体だけ居た。
一体か。
しかもほぼ裸。
鎧の一つすらつけていない。
防御力ゼロ。
やれない事は無い。
むしろやれる。
魔法は温存。
消費が激しいからな。ここという使いどころで行使しないといけない。
ならば、剣術と盾術の混合で方を付ける。
限定奪取は使えない。
ゴブリンでは条件が満たせないだろう。
いろいろ考えていると、あちらから俺の事を発見された。
大声で騒ぎながら棍棒を振り回し、俺に突撃してきている。
俺は盾を構え、剣を引き、防御の型を取る。
ゴブリンは大上段に棍棒を振り上げて、愚直に振り下ろした。
ちょっと前の俺なら、怖気づいていただろう。
だが、今は違う。
「盾受……!」
盾術の盾受で攻撃を受け止める。
盾受。盾受。盾受。
相手の攻撃をシャットアウトしつつ、反撃のすきを窺う。
というより、隙だらけだ。
いつでも行けるぞ。
でも逆に誘われているのか。
様子見だ。
「食らえ……!」
盾受した後、剣で頭を狙ってみる。
防御した瞬間にカウンター気味に剣を横なぎに振るってみた。
「ガッシャラァァ……!?」
今まで防御しかしてこなかったから、意表はつけたようだった。しかし、棍棒で防御はされてしまった。
これでわかった。
俺、割と強いな。
少なくともゴブリンよりは強い。限定奪取様様だ。
4つあるスキルのおかげで、優位に戦う事が可能だ。
考えていると、ゴブリンは反撃してきた。
それを正確に盾受。盾受の次に反撃して、的確に傷を増やす。
腕、腹、太ももに切り傷を付けて、ゴブリンの行動の余地を削る。
ちまちました攻撃だが、一対一だし。
援軍が来るようするもない。
道も広いから、大胆に動きつつ、相手をけん制。
盾で防ぎ、次に剣で攻撃。
単純だが、良い手じゃないか?
「ギラッシャラバァ……!!」
逆上したのかゴブリンは、今まで強い一撃を振り下ろしてきた。
両手で棍棒を握っての、全力だ。
ここだ。
盾受するが、今までとは違う。
受け流す。
正面からの攻撃を左方向に受け流し、俺は体を開き、剣を振りかぶる。
ゴブリンは慌てて逃げようとしているが、泳いだ体では逃げる事も出来ない。
俺に背中をさらして、不格好な体勢から、俺はゴブリンを切りつけた。
「ガヘェ……!」
間抜けな声だ。
だが、今のでは死なない。
浅かったか。
ならば。
剣術の一つである。
「一本突き……!」
気合一閃。剣術の基本中の基本技。一本突きでさらに背中に追撃を加えた。
この剣術を奪った経験則から、この技が有効であることは肌で感じ取っている。
背中から剣でぶち抜かれ、腹から剣が飛び出している。
刀身はぬらぬらと血に輝いていた。気持ち悪いな。
「ギィィィィィッィィ……!!」
激痛にゴブリンは絶叫する。棍棒も取り落として、腹から飛び出した剣を掴んで必死に抜こうとしている。
俺はさせまいとさらに深く剣を突き刺す。刺すだけじゃなくて、上下左右に剣を揺れ動かして、さらに苦痛を与えた。
「ガザラバラァ……」
「なんだって!?」
律儀に聞き返すも、どんどんゴブリンの動きは悪くなっていく。
背中から刺さっている剣をグイグイ動かし、さっさと死ねと心の中で呪う。
だが、ゴブリンの抵抗は激しい。
肘でガンガン突いてくるし、俺の頭を引っ張ってくる。
髪の毛は皮の兜に守られているから、引っ張られる事は無い。
買っておいてよかった。
「オラァァァ……!!」
剣をねじり、動かし、より深く刺す。
だんだん弱ってきた。
ゴブリンの足ががくがくしている。
出血多量だ。力が入っていない。
「おらよ!」
足払いをかける。
ゴブリンはあっさりと地面に転がった。
俺はゴブリンの上に乗りかかり、再度違うところに剣を突き刺す。
「シネェェェエl!!」
容赦するな。
やれ。殺さなければ、こっちが死ぬ。
31人の死を無駄にするな。
俺の命を狙うやつを許すな。
剣で刺すだけじゃなく、余った片手でゴブリンの頭を地面にたたきつける。
「ギャバ……!」
何かが砕けた感触と、それを確認する牙が転がっている。
右手の剣と左手の頭を掴む手で、絶対死を与える。
死ね。死んでしまえ。
「ギ……! ブァ……! ギャベ……! ァ……! アァ……!」
打ち付け、突き刺し、踏み潰す。
骨を砕き、肉を抉る。
「死んでねーだろ!!」
この程度で死んでたまるか。
生物は死ににくい。
これで死んだら、殺してやる。
死んでも殺してやる。
「死――!」
そこでハッと気づいた。もう動いていない。
抵抗がやんだと感じたところで、剣を引き抜いた。ゴブリンは崩れ落ちる。
動く気配はない。
「死んだか……」
この程度かよ。
俺は立ち上がり、もってきた布で血を拭う。
しかしこれからどうすれば良いのか。
この稼業は、ゴブリンを倒すだけでいいのか?
「そんな訳無いか」
昨日ギルドを見た限りでは、宝石のようなものを提出する必要がある。
周りを見てもそんな物はない。
「探しに行こうか」
そうなるとゴブリンは邪魔者だな。
あまり関わらないようにしよう。
ゴブリンの死体は迷宮に飲み込まれ、消えていた。
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