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1 一日目

 まず、驚きと茫然があった。


 教室にいると思いきや、突然景色が変わったのだから当然だ。

 暗い。薄暗いと言ったらいいのか。


 明かりは中央の天井にろうそくが一本ぶら下がっている。

 心許ない。


 床や壁はおそらく、石だ。

 コンクリ? 


 いや、むき出しの石に近い。

 兎に角、今俺たちは変だ。異常だ。


 こんな事があっていいわけがない。

 

 突然移動する訳が無い。

 ここはどこだ。

 さっきまで教室にいたんだぞ。


 授業中だった。

 適当に聞き流していたとはいえ、ボケッとしていた訳じゃない。

 最低限の話は聞いていたんだ。


 俺の頭がおかしくなった?

 そんな馬鹿な。


「……」


 呆然として声も出せない。

 人間、いつの間にか居場所が変わっていると声も出せないのか。新しい発見だ。


 そうだ。

 状況を確認しろ。


 山で遭難した時には、状況を確認するのが一番だというのを聞いたことがある。

 ここ山じゃねーけど。


 ……?

 は?


 なんだこれ?

 

 何も思い出せない。

 何も?

 

 俺の名前。

 名前は。ある。そうだ。あるはずだ。俺の名前。


 なんだ。

 思い出せ。


 俺の名前は、


結城(ゆうき) 元気げんき……?」


 マジで、変な名前だな、と思った。

 そして、自分の事はユウキと呼ばれていた事も思い出した。


 ただし、それくらい。

 あとは、クラスの連中位だ。


 目の前にいる。


 俺を含めて、恐らく32名。

 欠けていはいないだろう。


 そいつらもいた。

 男子20名、女子12名の生物クラス。

 それが俺たちのいた場所だった。俺たちのクラスだった。

 だった。

 だったんだ。


 それがどうだ。

 ここはどこだ。変だ。変過ぎる。

 記憶もあいまい。

 

 俺はどこの出身?

 何歳? いや17歳。これは分かるのか。


 それ以外。こいつらの名前。

 そうだ。クラス。クラスというのもわかる。


 学校だ。


 俺たちは学校という組織に属していた。

 でも、それだけ。それだけなのかよ。


 俺が混乱していると、皆もざわつき始めた。

 この状況にのまれていて、声が出ていなかったが、呻き声くらいは出せるようになったみたいだ。


 偉そうに言っているが、俺だって何も言えていない。

 困った。


 すると、記憶が正しければ委員長がおずおずと話し始めた。

 メガネをかけている。なんとも委員長という感じだ。だから委員長なわけだけど。


 だが、その姿も陰っている。部屋の中が暗い。

 

「……どこか知ってる人?」


 そういった。

 いや、知らねーよ。知るわけないだろ。 

 俺が心の中でそういうと、女子たちがヒステリーし始めた。

 キンキン声で五月蠅い。


「知るわけないでしょ!? 委員長こそ何か知らないの!? どこよ、ここ!!」


 ここまで来ると滑稽だ。

 女子たちはお互いに抱き着き、金切り声をあげている。

 冷静になっている者は一人としていない。


 だが、嘲笑える立場じゃない。

 俺も同じ。

 みんな同じ。


 だれもこの状況を理解している人はいない。


「暗いな……」


 誰かがそう言った。

 分かっているが、まぁ、大事なことだ。

 暗い。


 閉塞されている部屋だ。

 採光窓がない。


 明かりも例のロウソク一本。

 大分でかい。あれだけデカイロウソクは初めて見た。


 あれなら長い時間燃えている事ができそうだ。


 あとは、


「なんだ、あの扉……?」


 その声が聞こえる。

 それだ。

 

 あった。


 出口だ。

 石でできたとても重そうな扉がある。

 あれは開けれるのか? 


 だが、女子たちはそう思っていない。


「男子、さっさと開けなさいよ!」


 俺たちはお前らの奴隷なのか。

 そう言いたいが、男子は黙々と扉の前に移動し始めた。


 その時、違和感がポケット辺りにあった。

 制服のズボンだ。

 右のポケット。


 重い。


 男子は全員気づいただろう。


「なんだ、これ……!?」


 なんだも糞もないだろ。

 

「ナイフ……!」


 ポケットの中には小ぶりのナイフが一本入っていた。

 本当に小さい。

 果物ナイフと変わらないのでは?


 なんでこんなものが。 

 俺は普段からこれを携帯していたのか?

 

 でも男子も全員ナイフを持ち出している。

 何て危険なクラスだったんだ。


 男子全員ナイフ持ちとは。

 恐ろしい学級だな、と思った。

 が、男子だけじゃなかった。


「何よこれ!?」


 もう、いちいち五月蠅いんだよ。

 分かるから。

 ナイフね。

 あったんだね。


 もういいよ。分かってるから。


「開けようぜ」


 男子の一人が言った。

 誰かは分からない。


 暗いから誰の口が動いたのか。

 声の質もだいたいそんな変わらないし。

 あいつかな、位しか。


 だれでもいいか。兎に角目の前の扉を開ける事だ。

 俺はナイフをポケットに舞い込み、扉の前に向かった。


 総勢20名による扉押し。

 

「ふんぬぬぬぬぬぬ……!」


 全員が一斉に押し始めた。

 20人が横並びになるくらいデカイ扉だ。

 どれだけ重いのか。


「オラァぁぁぁ!!」とか「しゃあああぁぁぁぁ!!」とか「どらぁぁぁぁぁぁ!!」とか。 

 全員気力を振り絞っている。


 密閉された空間では音が反響して、かなり五月蠅くなっている。

 だがそんな事はお構いなしに、20人の男たちは扉を押しまくる。

 押して、押して、押しまくるが。


「開かねぇ……!」


 無理だ。

 不可能だろ。

 こんな重いもの。


 重いというか、壁を押しているに等しい。

 手応えがなさすぎる。


 微塵も動いていない。扉が動く気配は全くなかった。

 これが少しでも動いていたら、男子たちのやる気は急上昇していたに違いない。

 だが、これが結果だ。


「無理だ……」


 それが共通認識。

 開くはずがない。


「すみません! 誰かいませんか!?」


 委員長が大声でそう叫んだ。

 女子たちもそれを見て、扉の前に集まる。


 男子もその様子を見て、大声を出して誰かに叫びかける。


「おーい!」「誰かぁぁ!!」「いないのか!?」「おねがい、開けて!」「おい、開けろ!」「開けろって言ってるだろ!」等など、みんな一斉に懇願を始めた。


 俺も例にもれず、叫んでいる。「あけろー」とか。

 やる気なさすぎ。


 しかし、やはりというか、反応はなかった。

 皆次第に理解していく。

 あれは開かずの扉。


 一分くらい待った。

 でもうんともすんとも言わない。

 

 皆、もといた場所に戻り始めた。


 あれは開かない。

 絶対に開けられない。


 そう思う。


「そうだろ?」


 俺の声は座る時に出た音にかき消された。




 拉致られた。

 これが見解だ。

 

 高校生32人も集まって、出た答えがこれなんだ。

 なんとも妄想癖が激しい。


 授業中にとあるテロリストでも来て、全員を拉致。

 特殊な薬剤で記憶を奪いつつ、この部屋に放り込んだ。


 意味不明。

 まぁ、予測だから。

 

 やるよね。テロリストが来たぞ、妄想?

 教室に突然テロリストが来て、それを撃退する的な?

 

 かくいう俺もやったことがある。

 恥ずかしいな。


 でも、誰でも一回はやるよね。

 この妄想は捗るし。

 暇なときにはもってこいだ。


「で、どうする?」


 身のない事を誰かが言った。

 もう、誰だよ。そんなこと言った奴。

 どうしようもなくない?


「どうしようもないでしょ」


 女子の一人がそう言った。

 その通りだ。

 どうしようもない。


 突如、密室に押し込められたと思えば、脱出手段もない。

 詰んでるわ。

 これ。


 どういう感じで脱出すればいいのかな?

 脱出ゲームスタート。


「とりあえず、部屋の中を捜索しよう」


 委員長の鶴の一声で、みんなそれぞれ散って行った。

 俺もその辺を何かないか探してみる。


 床を見たり、天井を見たり。

 暗いな。

 左ポケットに入っていたスマホを取り出して、ライトをつける。


「うわー……」

 

 なんもねー。

 石、石、石。

 石の壁。


 床から壁から天井まで、全部石。


 絨毯くらい敷いとけ。


 32名によるこの大きな空間の捜索は、大した時間もかからず終了した。

 何も収穫がなかったのだ。


 全員何もないところを捜索して、時間を浪費しただけ。


「今何時だろ?」


 スマホによると、今の時間は午前零時前。

 もうそろそろ寝る時間だった。


 現に眠そうにしている人もいる。

 

 確かに、疲れているし、お腹もすいた。喉も乾いた。


 でも食べるものも、飲むものもない。

 正直言って寝るしかする事がない。


 誰からともなく、地面に横たわり始めた。

 男子は男子。女子は女子という風に、勝手に仕切りができていた。


 それを超えると制裁が待っているのだろう。


 男子全員が集まって、地面に横たわる。


「何なんだよ、これ……!」


 誰かがそう言った。

 かなりイラついている。高校生が飯も抜きではそうなっても仕方がない。

 食べ盛りの男子だ。


 晩飯抜くだけでこうなるだろう。


 全員その男子を刺激しないように配慮する。


「なぁ、本当に誰かしらねーのか?」


 腹を立てている男子が、大声でそういった。

 しかし誰からも返答はない。


 俺も知らない。

 誰も知らない。


 そういう結果だったろ?

 俺たちは教室に居て、突然ここにいた。


 これが事実。

 真実で、動かざる状況だ。


 俺たちはこの牢獄みたいな場所にとらわれ、身動きができない。


 この状況を把握している人物は一人としておらず、状況を打破することなど到底不可能。


 俺たちに突き付けられた現実は、あまりにも重い。


「チッ……!」


 舌打ちひとつして、その男子は寝っころがった。

 ロウソクがもたらす明かりだけが光源だ。


 シルエットが動いたのが分かる。

 寝るつもりだろう。


 男子も女子もそれを合図に、全員横になった。

 できる事はない。


 命をつなぐ。

 とりあえずは、寝るしかない。


 明日。

 明日は何か起こるだろうか。


 俺たちを誘拐した連中は、何かアクションを起こすだろうか。


 分からない。

 学校からさらわれ、こんな事になってしまった。


 突然だ。頭が追い付かない。

 脳みそが現状を拒もうとしている。


 無理もない。

 学校ではこんな状況でどのように動けがいいのか教えてもらっていない。

 それに、誰も教えてはくれないだろう。


 俺たちが正解を導き出し、この状況から脱する。

 俺たちこそが答えにならないといけない。


 俺は腕枕で頭を保護する。

 背中痛い。

 

 石の上に寝転ぶことになるとは。

 せめて土の上くらいがいい。


 固すぎて眠れる気がしない。

 だが、早速寝ているやつもいだ。


 寝息が聞こえる。


 図太い神経だ。

 この状況下ではうらやましい限りだ。


 しかしできるできないではなく、やらないといけない。

 体力は温存。


 テロリストがどう動いてくるのか分からない。

 俺たちは人質だ。


 状況を冷静に、正確に把握するためにも、一度頭をリセットした方が良い。

 それが良いだろう。


 何とか寝ろ。

 寝るんだ。


 女子も男子も寝ている者がいる。

 すげぇ。

 俺も寝よう。


 背中の痛みは無視だ。


 目をきつく瞑って、意識を底に沈める。


 大分時間がたったような気がしたが、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。


 一日目、終了。

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