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名呑町のゑべす像(2010年)

・像

・ゑべす

・ヒトラシキ

・名呑浜

・名呑高校

・乾より子(27歳)

 え~まず初めに注意事項です。最近――というか、いつものことらしいけど行方不明者が出てま~す。名呑町と雨多ノ島の間、あの細い内海で小船が消えたそうで~す、えへ。注意してくださいね~。はいはいはい、それじゃ改めまして皆さん、乾より子です――えへ。この高校では日本史を教えることになります。

 大学では民俗学や文化人類学をかじったり地域史をかじったりしてました。とはいってもまだこの名呑町はあんまり知らないんだけど……えへ、調べがいがありそう。そうそう、こっちに来て思い出したけど「海難法師」というのを知ってるかしら。

 伊豆七島付近では一月二十四日前後に物忌みをして、その日は絶対に海を見てはいけないの。海難法師って民話にカテゴライズされてるんだけど、その日は海から「何か」がやってくるらしいのよ。

 実際、そこにフィールドワークに行った人から聞いた話だと、その日に海を見ると精神に異常をきたしたり、外出した人が死んだりしたらしいの。しかも「何か」に食い散らされた跡があったって。

 海は「異界」。海には「何か」がいる。

 別に怖がらせようなんて思ってないんだからね――えへ。注意してほしいだけ。海はまだ全然わかってないことが多いから、予期せぬことが起きるんだって。

 この町だって二十年くらい前にも、名呑浜にヒトラシキというのが流れ着いていたそうじゃない。みんなそんなこと無かったみたいに暮らしてるけど、あれだって結局なんだったのかわかんないままだしね。ご老人たちは「ゑべすさん」って言ってて、漂着死体をまつる寄り神信仰との関わりも興味深いところで――あ、みんなはつまんないか、えへ。

 さて海にまつわる伝説は色々あるけど、この町にたくさんあると言えば「ゑべす(エビス)像」よね。ちょっと変わった、人魚にタコみたいな独特の触手が絡まったような造形。そうね、ちょっとポケモンのモンジャラみたいね。やっぱりここは海運と漁業の町で昔からタコがよく取れたらしいから崇められてきたのもわかるんだけど、エビス信仰は日本中にあるのよね~。

 日本は島国だから、漂着する伝説が多い。神が来たり化け物が来たり――つまり海の向こうには永遠の世界、常世の国があって、そこから「人ならざるもの」がやってくる。

 エビス様も同様。海に流れ着いた神だって説が濃厚。さて、ここで問題。

 流れ着いたのはエビス様。では海に流された神と言えば何でしょう。ヒントは日本神話で出来損ない、見た目が醜いと言われている神。

 ん? ノア? 惜しい、なんて失礼なこと言わないの、えへ。

 正解は、ヒルコ。日本の国を作ったイザナギとイザナミの子。でも出来損ないだったから流された。

 エビスって漢字で書くと、大体はまあ、こうかしら。


『恵比寿』


 でもエビスってこうも書くのよ。


『蛭子』


 現在、この町では独特の「ゑべす像」がたくさんあり、なんとなく信仰されています。でも皆が信じている「それ」は、いったい何なんでしょうね?

 遠い何処かから来た醜悪な何か?

 深海生物?

 神様?

 そして内海では、昔からいつも行方不明者が出てます。町の人は慣れてしまってるようだけど。

 この町には「何」がいるんでしょうね。

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