ダム底の地蔵(1990年)
⚫︎首坂
⚫︎像
私が通っていた大学の近くには、大きなダムがありました。大学は山の上の方にあり、最寄りの駅からでもバスで三十分はかかります。そんな場所ですから、秋には霧も出ます。雲だか霧だかわからない白い綿が誰も彼もをいっしょくたに包み込みます。
そう、危険な坂道で霧が出るとなると、自動車がよくダム底に転落してしまうのです。
人々の反応も慣れたもので「ああまたか」という表情です。
首坂という名称からして不気味で、昔から霧に乗じて消えてしまう神隠し伝説が残っているそうです。
ところが何故か地元の業者や警察はそうした車をダムから引き上げようとはしません。
何故か。
引き上げても必ず死体がなくなっていて、結局のところ事故以外に原因は考えられず無駄骨、運転者は獣や魚の群れに喰われたのだろうという結論になるからだそうです。
ダムの底にはかなりの台数が沈んでいるはずだし、それを見たいからと私の友人は潜ってみることにしました。ダイビングのライセンスを持つ彼は、そこがダムになる前の地図――つまり水に沈む前の地理ですね――をチェックして潜りました。
しばらくして彼は大興奮で上がってきました。
どうやら死体が見つかったそうなのです。彼らは全員ダム底のお堂の中にかたまっていたらしく。再び古地図を見ると、なるほど彼が言うように地蔵堂と書かれた場所があったようです。
地蔵があるのかと聞いてみましたが、彼は無かったと言います。代わりにおかしな像があるらしいのです。蛸のような足が人魚に絡みついたような像が。彼は、今度はそれを取ってくると言い残したまま行方不明になりました。
彼の死体がダムにあることは間違いないのですが、誰も確認しにいきません。
それから数年が経ちますが、今だに車の落下事故は起こりますし、死体は引き上げられず、ダムにどんどん貯まっているのです。
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