彼は彼の障害を取り除くだけ・中編
魔王城を後にして半年。
今、俺はとある街にいた。
逃げ出した魔王の居場所を知っているという魔族が、この街に潜伏しているという情報を手にいれたからだ。
しかし、街について一週間。
成果は上がっていなかった。
今日はどこを探そうか?
そんな事を考えながら、人気のない裏路地の片隅に座り込み、パンを食べていた。
「その首輪。あなたも地球の人ですよね?」
女が話しかけてきた。
地球、という単語に少しだけ興味を持って、ちらりと横目で見ると、その女も首輪をしていた。
俺以外にも、呼び出されたやつがいたのか。
しかし、だからどうした。
俺には関係ない事だ。
興味を失った俺は、無言でパンを食べ続ける。
俺に無視された女は、しかしめげずに話を続ける。
突然地球から呼び出され、簡素な武器一つ渡されて、この異世界に放り出された事。
それからどれだけ苦労したのか。
女の身で、どんな事をされてきたのか。
興味のない話を横でベラベラと続ける。
「俺に構うな」
うっとおしくなった俺は、素直にそう伝えた。
しかし、女の話は終わらない。
なんなんだこいつは?
その後も横でベラベラと喋り続ける女。
俺は応じる事なく黙っていたが、その話の中に興味を惹かれる話題がいくつかあった。
他にも何人か首輪の勇者がいるらしい事。
その勇者たちと今、手を取り合い仲間として組んでいる事。
この首輪を解除できるかもしれないという事。
それは魔王の力があれば可能かもしれないという事。
そして、最も興味を惹かれた話題が、今、この街に、魔王そのものがいるという事だ。
魔王がいる。
この情報だけで、他の事は全てどうでも良いと思った。
「お前、俺にはもう構うな。
ただ、ここに魔王がいる、という情報だけは感謝する」
俺はそう言って、脇に転がしていた抜き身の剣を手に取り立ち上がる。
この街に魔王がいる。
ならば、どうやって魔王を炙り出すか。
考えを巡らしていたが、女はしつこく食い下がってくる。
なんでも、魔王は人間が思っている程悪い存在じゃないとか。
自分が死にそうだった時、助けてもらっただとか。
首輪を外せたら、みんなで力を合わせて、この国から逃げようだとか。
なんなんだ、この女は?
俺にはそんな事、関係ないだろう?
「もう一度だけ言う。俺に構うな」
うっとおしい。
興味のない話をいつまでもいつまでも。
ああ、そうか、こいつは俺に仲間になれと。
魔王を殺すのをやめろと言いたいのか。
そうか……こいつは、俺の邪魔をする障害なのか。
「ですから、そうなれば魔王さんと、魔族全てを連れて国を出て、お互いに不干渉の共存を−−」
女がまだ何か言っていたが、もう続く事はない。
俺の剣がその首を貫いたから。
声にならない音を立てながら、女が倒れる。
少しだけ返り血を浴びてしまった。
「き、貴様っ! なんて事を!」
ふと気がつくと、何人かの男に囲まれていた。
その中には首輪を付けた男もいる。
こいつも召喚された勇者か。
この状況。
つまり、こいつらはこの女の仲間で、俺の邪魔をする障害という訳だ。
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死体が積み重なった裏路地から、俺は街の中央にある時計台を見る。
あそこなら、この街全てが見渡せる。
一足飛びで時計台に飛び移る。
これから魔王を炙り出す。
俺は普段大声をあげるタイプではないが、別に殺人鬼というわけでもない。
だから、この位の事はする。
俺は深く息を吸い込み、喋った。
「この街の全ての住人よ! 聞こえるか!?
俺はこれからこの街を消す!
死にたくなければ、今すぐこの街から出ていけ!
そして魔王! 今すぐ俺の前に出て来い!
住人に紛れて逃げようとしても無駄だ!
一目みれば、俺は必ず貴様が魔王だとわかるぞ!」
こんなに大声で喋ったのは、生まれてはじめてかもしれないな。
俺は魔王をまだ見た事がないが、さっき言った事は本当だ。
理由はないが、わかると確信している。
時計台から街の様子を見て見るが、ざわついているだけで、誰も逃げようとはしていなかった。
俺は勧告した。
逃げないのは、住人の自由だ。
だから、俺は街の一方向に向けて、剣を振るった。
そうすると、その方向のにある区画は全て消し飛ぶ。
それを何回か繰り返す。
それだけで、街はこの時計台周辺を残し、姿を消した。
瓦礫の中から生き残り、首輪の勇者や、魔族なんかが姿を表す。
そして、俺に向かってくる。
なぜ、こいつらは向かってくるのだろう?
俺の目的は魔王だと、今さっき言ったのに。
理解出来ない。
だが、向かってくる障害ならば排除するだけだ。
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首輪の勇者といえども、ピンキリなのか、俺の相手になるヤツはいなかった。
俺以外、動くものが無くなった頃。
そいつはようやく姿を表した。
魔王だ。
確信出来る。
その姿を確認し、俺は魔王に近づいて行く。
魔王は何か言っていた。
街をこんな風にする事はなかっただの。
同じ地球から呼び出された同胞をなぜ殺しただの。
ああ、うるさいな。
そんな事と、これから俺が、お前を殺す事に何の関係があるんだ?
理解出来ない。
そして俺は、障害を排除した。
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魔王の首を抱え、俺は戻ってきた。
俺を呼びたした城に。
王とやらの前に、魔王の首を放り投げる。
「言われた事は果たした。首輪を外せ。
それから、一つ頼みが−−「この化け物めっ! 死ぬが良い!」
俺の言葉の途中で王が叫ぶ。
化け物?
誰が?
死ぬ?
誰が?
そう思った時、俺の首輪が爆発した。