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死闘

「ゴキブリマンだと……?」


 訳がわからない、といった様子でドリバンスが言った。


「そうだ、今の俺はもはやコックローチロイドなどではない……。この世界の自由と平和を守る戦士、ゴキブリマンだ!!」


 対してゴキブリマンは、先ほどの名乗りと同じように、力強い声で答えた。


「何を血迷ったことを……今のバル星に守る価値などない、身勝手な人間の跋扈する今のバル星は、我々によって統一されるべきなのだ!」


「……ドリバンス、確かに今のバル星……いや地球は、人間による環境破壊や他の生命体の虐殺などの問題を抱えている…………しかしだ」


 ゴキブリマンの赤い複眼がギラリときらめき、有無を言わせぬ口ぶりで言った。


「人間には未来への『可能性』がある。それを証明することはできないが、人間も決して愚か者だけではないことを、どうかわかってほしい……」


「…………」


 ドリバンスはしばし無言でいた。

 その間は周りのビーロイド達もなにもせず、ただドリバンス言葉を待っていた。


「フッ、フフフ……フクククククク!!」


 ドリバンスが笑い出す。そして──


「くだらんなァ! ええい、貴様も敵だ。この場で抹殺してやる、裏切り者めいッ!」


「ドリバンス……!」


 ゴキブリマンの意志はドリバンスの心には届かなかった。もとよりそのつもりではあったが、結果的にはドリバンスの火に油を注ぐことになってしまったようだ。

 ドリバンスが右手を上げると、ビーロイドの弓兵が八体、ドリバンスの前に横一列に並び弓を構た。


「射てッ!」


 憎悪さえ感じとれる号令と共に、ゴキブリマンへ向けて一斉に矢が放たれた。

 が、矢が飛んでいく先にその姿はなく、八本の矢は本来標的がいたはずの位置で重なり、乾いた音とともにアスファルトの路面に落ちた。

 刹那、ドリバンスの前に横一列に並んだビーロイド達が、弾かれたように吹っ飛んだ。


「な……何ッ!?」


 驚きの声を上げ、一歩後ずさるドリバンス。

 その前には、黒く長い触角を風になびかせながら、ゴキブリマンが低い体勢で彼を見つめていた。


「ゴキブリのスピードを、甘くみるなよ」


 その呟きを聞いて、彼は今目の前で起こったことを即座に理解した。

 矢が放たれる瞬間、ゴキブリマンは身体を屈めて駆け出し、弓兵ビーロイド達の前まで距離をつめてきていたのだ。

 そこから相手に自分が近づいたことを気付かせる間も与えず、一気に回し蹴りで蹴散らしたのだった。


「おのれ……!」


 ドリバンスの声からは焦りがうかがえる。

 全身をわなわなと震えさせ、ついにやけになって叫んだ。


「こうなれば全員でかかれ! 奴を袋叩きにするのだァッ!!」


 その声による命令に、他のビーロイド達は何かに駆られたかのように、皆ゴキブリマンへと向かっていく。

 前後左右上方、死角なしに迫り来るビーロイド達。対してゴキブリマンは冷静に構えて備える。


「……ぉぉおぉおおッ!」


 ゴキブリマンが気合いを込めた雄叫びを上げた。

 次々と襲いかかってくるビーロイド達の攻撃を紙一重でかわしながら、一体一体にパンチやキックやチョップを叩き込んで確実に仕留めていく。

 そしてついに、すべてのビーロイドが倒され、残ったビーロイドは隊長のドリバンスだけになっていた。


「こ……こんな…………こんなバカなッ!?」


「……残るは、お前だけだな」


 ゴキブリマンが右手を上げ、うろたえているドリバンスを指差す。


「ぬうう……おのれ、おのれおのれッ! 貴様だけはッ、絶対に殺してやるッ!!」


 憤怒に満ちた叫びと共に、ドリバンスの体にある変化が現れた。

 両脇腹が不気味な形に歪み、次の瞬間、ブチャァッ! という皮膚を突き破る音と共に、脇腹から二本の腕が新たに生えてきたのだ。

 そして小さく息を吐いた後、さっきまでとは変わって落ち着いた声で言った。


「昆虫の本来の腕の本数は六本、ということは貴様も知っているな。ならば、これが意味することもわかるな?」


「つまりは……本気で来るということか」


 ゴキブリマンは緊張感を覚えながらも構える。

 その様子に、ドリバンスは疑問を持った。


「お前はならないのか? この真形態に」


 その問いに対しては、一体化したコックローチロイドが大悟の意識を一旦借りて答えた。


「生憎と、私はお前達と違ってたった一人でこの星に来たのでな。見ての通り人間と一体化しなければこの姿にさえなれなかったほどだ。だから今の私には、ここまでが限界なのだ」


 嘘ではない。コックローチロイド一体化している大悟は、それを感じとっていた。

 肉体を共有したことによって、お互いの思考さえも共有されていたのだ。


「フン、そうか……ならば! これで貴様を嬲り殺しにできるというものだッ!!」


 ドリバンスがそう言った直後、彼の四本の手にそれぞれ細長い光が差し、光が消えるとすべての手に剣が握られていた。

 どれも日本刀に似たもので、陽光を受けて銀色の刀身がギラギラと輝いている。


「 切り刻んでやるッ! フッシャアァァァァァァ!!」


 狂ったように四本の剣を振りまわしながら、ドリバンスはゴキブリマンに向けて突進してきた。


「クッ、こっちは丸腰だが……いけるか!?」


 ゴキブリマンも体勢を低くして高速で駆け出す。

 そのまま、一気にドリバンスの間合いにまで飛び込んだ。


「バカめッ! 自ら八つ裂きにされに来るとはなッ!」


 勝利を確信したような口ぶりで言うドリバンス。

 だが、彼の振るう四本の剣は、ゴキブリマンにかすりもしなかった。


「なっ……どういうことだ!?」


 驚愕のあまりドリバンスの手が止まる。

 その隙をついて、ゴキブリマンの拳がドリバンスの胸板に叩き込まれた。


「ぐぅ……! な、何故だ……!?」


 痛みに膝をつきながら、ドリバンスが言う。


「言ったはずだ。ゴキブリのスピードを甘くみるなとな……」


「な、なんだと!? まさか貴様、今の太刀筋をすべて見切っていたというのか!?」


「その通りだ! そしてお前は、心の中に本気を出せない相手に全力で戦うということへの気の迷いがあったッ!」


 言いながら、ゴキブリマンはアッパーを繰り出した。

 それによってドリバンスの身体は空中に打ち上げられる。


「ぬおッ!?」


 するとドリバンスは、すぐさま背中にある蜂の半透明の羽根を羽ばたかせ、空中で体制を整えた。

 そのままゴキブリマンを見下ろしながら言う。


「……フン。確かに貴様の言う通り、私には本気を出せない相手に全力で戦うということに躊躇があったようだ…………だがッ!」


 次の瞬間、ドリバンスは急降下してゴキブリマンに迫っていた。


「もう躊躇いはない! 遠慮呵責なく行かせてもらうッ!」


 繰り出される、四本の剣による斬撃の嵐。

 それも宙を飛び回りながら四方八方から攻めてくるため、いくらゴキブリマンでも避けきれるものではなかった。

 少しずつ、光沢のある焦げ茶色のボディに斬撃の傷跡が刻まれていき……


「グッ……!」


 ついにゴキブリマンが膝をついた。


「もらったァ!!」


 それを好機と見て、ドリバンスは相手を確実に仕留めるために四つの剣先を一つにまとめて、ゴキブリマンの頭部目掛けて一気に突き出して突撃した。

 ゴキブリマンの今の状態から、それを避けることは不可能だ。


「勝ったッ!」


 ドリバンスは今度こそ勝利を確信して叫んだ。


「…………」


 その時、ゴキブリマンの体が、ゆらりと前のめりに傾いた。

 そのまま倒れてしまうのかと思いきや、そうではなかった。

 倒れていく途中で足首をひねって上半身を大きく反らした状態になり、ちょうど飛んできたドリバンスの腹面と重なった。


「これまでだ、ドリバンス!」


 次の瞬間、ゴキブリマンの鉄拳の一撃がドリバンスの腹部に炸裂し、ドリバンスを空中高く打ち上げた。

 まさに一瞬の出来事だった。


「このッ!」


 ドリバンスはすぐに体勢を立て直すが、それまでだった。

 その時すでに、地上より迫るものがあったのだ。


「コックロォォォォォォォォチッ!」


 雄叫びのように自らの繰り出す技の名を唱えながら、ライフル銃から発射された弾丸の如く迫るものが……


「キィィィィィック!!」


 叫びが終わるとほぼ同時に、ゴキブリマンの必殺キックがドリバンスに叩き込まれ、ドリバンスの身体を貫通した!


「ウ……オオ…………」


 かすかな唸り声を残して、ドリバンスの体は空中で砂のように崩れていき、消えた。

あらかた書き込みましたこの戦い、戦闘員ビーロイド達との戦いがやっつけになってしまった感はありますが、そこはまあご愛嬌(汗)

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