シードマスターからの使者
「……うん? どこだここは……?」
目を開けた大悟の目に飛び込んできたのは、一面暗闇の空間だった。
しかし、暗闇の中であるにも関わらず、自分の姿ははっきりと見えている。
「そういえばさっき、矢が背中に刺さって……俺は死んでしまうのか?」
「そうではない……君はまだ死ぬには早すぎる……」
「だ、だれだッ!?」
闇の中で響いた謎の声に、大悟は驚愕して叫んだ。
すると、大悟の目の前に、ぼうっと人影が現れた。
しかしその姿は人ではない。光沢を放つ焦げ茶色の体、おぼろげに光る赤い目、頭には長い触覚――――そう、その姿はまさに『ゴキブリ男』と呼ぶに相応しいものだった。
「な、なんだお前は! ハチの怪物の次はゴキブリの怪物か!?」
怯える大悟に、ゴキブリ男は優しく言った。
「安心してくれ……私は敵ではない……君を助けたいのだ……」
「俺を……助けるだって?」
不審に思いながらも、大悟はこのゴキブリ男が敵でないという事は信じて、詳しい話を聞こうとした。
「あんたは、あの怪物達の事を知っているのか?」
その問いに、ゴキブリ男は深く頷くと、長話になるがと事前に言ってから話し出した。
「ちょうど一週間前になる……我々は、君たちが地球と呼んでいるこの星、『バル星』で我々の子孫達がどのように暮らしているのかを映像で見たのだ。
ところが映し出された映像には、環境汚染によってゴミの浮かぶ海や、汚染による影響で奇形となってしまった動物が映っていたのだ……。
そのため、我ら『シードロイド』の仲間達は怒り狂い、間違った考えを持ってしまった。
それは自分達の子孫以外の生命体を滅ぼし、自分達とその子孫だけの星にしようという、恐るべきものだった……」
大悟は、そこまでの話を黙って聞いていた。
ゴキブリ男はさらに続ける。
「そして、とうとう奴等はやって来てしまった……君がさっき出会った怪物は、『ビーロイド』というハチの祖先の者達で、この星に一番先にたどり着いたシードロイドだ。
私は止めに入ろうとしたが、できなかった……。私は地球に降り立った影響で、体力を大きく消耗していたのだ。
だから活動する為に、この星の生命体と一体化する必要があった。
そこで偶然見かけたのが、一人ビーロイド達と戦う、君の姿だったのだ……」
そう言うとゴキブリ男は、大悟に手を差し出してきた。
「このままでは君は死んでしまう……だが私と一体化して、共に奴等と戦ってくれるなら、まだ生き続けられる……。
さあ、時間は無い。君の答えを聞こう……」
その言葉に、大悟は戸惑いの色を隠せなかったが、しばらく考えた後、彼は答えを出した。
「……わかった、やってやるよ。奴等を放っておけば、もっと罪の無い人が死んでしまう!」
そう言って大悟は、ゴキブリ男の手を強く握った。
ゴキブリ男は、それに彼なら大丈夫という確信を持った。
「ありがとう……やはり私の思ったとおり、君のその強い正義感があれば大丈夫だ……」
ゴキブリ男がそう言うと、大悟は急に目の前が真っ白になっていった――。