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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
3・ドライブ
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3-2 緑と黄

 正悟の上着1着だけを買って戻ってきた。

 色々な店を見てまわったが祥子がこれだと思う服はなく、代わりに正悟の服を買ってショッピングは終わりにした。お昼はフードコートで県内の有名店のラーメンを食べた。

 まだお昼を少し過ぎたところ。時間はある。

「じゃあ、ドライブに行こうか。ちょっと行ってみたいところがあるんだ」

「どこに?」

「ひみつ。行けばわかるよ!」

 車は郊外から徐々に山の中へと入っていった。店や家が立ち並ぶ景色から次第に田畑が目立つようになり、急な上り坂や杉林に囲まれるようになった。

 途中にちらりと現れるHOTELの看板は見て見ぬふりをして正悟は素直に景色を楽しんだ。祥子とは中学校の話で盛り上がった。次第に1つの看板が正悟の目につくようになった。



 臼辺(ウスベ)渓谷。県内では知られた観光地だ。夏でも冷たい水が流れる沢が広がり、周辺にはキャンプ場や散歩コースなどがある。

 アウトレットほどではないがここも駐車場が結構うまっていた。

「やっぱりここもいっぱいね」

「みたいだね。時々テレビでも紹介されるし名前は知っていたけど、こんなに人気があるとは思ってなかったよ」

 駐車場から数分歩くと沿う様に川が流れていた。同時に木々のトンネルも現れた。

「涼しいねー」

「でしょ? でもまだ先があるのよ。この先に滝があって、そこはマイナスイオンの宝庫ですごく気持ちがいいの。小学生の時に行った以来だけど、今でもあれは忘れられないなー」

 祥子がひどく懐かしむように見上げた。どこか楽しそうでもあった。

 滝へと続く道はコンクリートの道からそれ、石段と木の橋で整備されていたが3人で並んで歩くのが限界くらいの幅だった。上空を囲む緑の傘のおかげでひんやりと感じることができ、地面は濡れていた。

 案の定2人は手を取り合って歩いていたのだが、それはカップルというより年齢差から別のものに見えた。

「あ、見えてきた」

 ゴール地点には小さな集団ができており、方法は違えど全員が滝の音と水しぶきの自然を満喫していた。

「すごーい」

 10m程の高さから落ちる滝はしかしながら水量が多く、叩き落されて発生したしぶきが見えない霧状になって風に乗る。木々に遮られて冷やされた微風が正悟たちの方に流れていた。

「こうしていると今までの辛い事とか忘れそうだね」

「そうだね」

「正悟くんは何かある?」

「え?」

 つられて頷いたものの、具体的にこれというものは思い浮かばなかった。

「ほら、例えば誰かに何かしている所を見られた話とか」

「……いや、それって僕が忘れたところで、お姉ちゃんは一生忘れないよね?」

「それもそうだね。ま、残念がることはないよ。生きていればいいこともあるから」

 自分が言うな、そうつっこみたくなる衝動を抑えるのに必死な正悟だった。



 滝を見終えた2人はひと通り周辺を見て、水で遊び、木陰で休んだ。お昼のラーメンだけでは物足りなかったので、出店で鮎の塩焼きを買うことにした。

「すみませーん、2つ下さい」

「はいよ、1000円ね」

 祥子が野口さんと店のおやじから鮎の塩焼き2本を交換しようとした時に後ろから声がかかった。

「すみません、2つ下さい」

 結構人気なんだな、そう思いながら正悟が後ろを振り向くとどこかで見たことのある2人の男女がいた。緑のTシャツを着た男性と薄黄色のシャツをかけた女性。どこかでどこかでを何度か繰り返したところでようやく思い出した。

「あっ!」

 思わず声をあげて、2人の注目を浴びた。

「どうかしたの?」

 祥子が正悟の目の前の2人のカップルを見つめる。

 男性の緑、女性の黄色、これで赤いワンピースの祥子が加われば信号の完成、そうあの時覚えていたので忘れる事はなかった。

「ほら、あのアウトレットで前の車にいた……」

「……あぁ!」

 カップルが何事かと正悟と祥子を見た。

「ごめんなさい。もしかしてさっきまでアウトレットにいませんでしたか?」

 祥子の問いに緑のTシャツを着た男性、通称グリーンマンが少し驚いた。

「ええ、いましたけど……どこかでお会いになりましたっけ?」

「いえ、直接お話はしなかったんですが、駐車場へ入るまでの行列で私の車の前にそちらがいたもので」

「ああ、あの時……そうだったんですね。そんなに俺たち特徴ありました?」

 何とも答えにくい質問を笑いながらグリーンマンがしてきた。まさかキス騒動の事をこの場で言うわけにもいかないだろう。祥子が答えに悩んでいると正悟が助け舟を出した。

「そんな大事ではないんだけど、お兄ちゃんたちがどこから来たのかとか何泊の旅行なのかとかそんな事を話していたんだ」

「え、よく旅行中だってわかったね。訛っていたかな、って聞こえないか」

「ううん。すぐに見てわかったよ」

 いきなり何を言うのか、そう感じた祥子も目を丸くした。まさかでたらめで言ったわけではないようだが。






 さて、問題です。

 グリーンマンたちが旅行者だと考えたポイントはどこだったでしょうか?

 答えを出してから次へ読んでいただければより一層楽しんでいただけるかもしれません。

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