2-2 怒りの方向
横になっていた祥子は身体を起こし、テーブルを挟んで正悟と向き合って座っていた。
「えーと、鍵はかかっていたのに祥子お姉ちゃんがいる謎を解けばいいんだよね」
祥子の希望より出された謎を正悟が解くことになった。だが既に正悟はひとつの答えを出していた。
「多分。多分だけど、もう答えは出てるんだ。だけど、この答えだとちょっと……」
「ちょっと?」
「お姉ちゃんが大人げない感じになってしまうんだけど」
「大人げないって……まぁいいわ。言ってみて」
「うん。……まずお姉ちゃんが家の鍵をもらって入った、もしくは泥棒のように入り込んだ可能性は低いから、家に誰かいる時に入ってきたと考えるのが普通だと思うんだ。それでさっきお姉ちゃんは『お母さんが買い物に行っている』って言ったよね。つまり今日お母さんに会って聞いている可能性が高い。となるとお母さんがいる時に家に来て、お母さんはお姉ちゃんを置いて買い物に行った可能性が高い。裏付けとして、あの時に『また会いに来る』と言っていたし」
正悟は自信と不安の半分ずつを見せながら推理を披露した。終わったところでしばしの間があると祥子の拍手があった。
「すごい、すごいね。私のそんな言葉だけで推理ができちゃうの? やっぱり正悟くんはかわいくてかっこいいなー」
「そんなこと、ないよ」
推理を披露する他に謙遜する正悟もかわいらしく見えたに違いない。しかし祥子は先ほどの前置きが気になっていた。
「ところで私が大人げないとかそんな事言ってなかったっけ? 今の推理には出てこなかったけど」
「えっとね、この推理で考えるとお母さんが出かけた後に1人になったお姉ちゃんは寝ていた事になるでしょ? 他人の家で寝る大人のイメージができなくて。どんな理由でお姉ちゃんが寝てい……たのか……」
語尾が詰まった。それは目の前の祥子が怒っているように見えたからであって、実際に怒っているかは不明だが、正悟は確かに表情の変化を読み取った。
「へー、正悟くんはそんな事考えていたんだー」
祥子は笑みを表に出しながらしかし確かに怒っていた。
「人のパンツをのぞき見しようとしていたのにそうか、そんな事思っていたんだー。お姉ちゃん寂しいなー」
聞いてはいけない聞こえたくない言葉が確かにあった。
「どうしてそ――」
どうしてそれを知っているのか、半分言ったところで口を押えた。しかし時既に遅し。
「どうしてそれを知っているのか、そう聞きたいの? そんなの聞かなくても正悟くんなら名探偵なんだもん、わかるよね? 起きていたからだよ。確かに寝てはいたけど、帰ってきた音で起きたの。ただ、どんな反応をするのか知りたくて寝ていたふりをしてたんだ。そうしたら正悟くんったらすごい悩んでいるみたいでさ。物音はなかったから詳しくはわからなかったけど、迫るオーラを感じていたし独り言を話していたでしょ? これは間違いなく私のパンツを見ようとしていたと名探偵祥子は考えたのよ。どう、私の推理は?」
「あぁ……ぁ……」
これ以上のない動揺を見せる正悟。どんなに素晴らしい推理を披露しても致命的な弱みを握られては元も子もない。
「あー、もう怒ったら別の事まで思い出しちゃったじゃない。あれも理解不能よ。店の商品なのに中身がないなんてどうかしてるわ!」
「……なに、それ?」
「だから、スーパー行って買い物するでしょ? でも商品の外箱だけで中身がないの。1列目だけじゃなくて全部。理解できないでしょ? それでもレジへ行けだって。何がしたいんだか。別に売れ筋商品ってわけでもないだろうし。万引き防止でもなさそうだし」
下手に祥子に反発しては何をされるかわからない。正悟は話を引き出すように聞き出した。結果的に気をそらすことができただようだ。
それにしても祥子の怒りの矛先は一見すると不思議だった。しかし正悟は言葉を語句に分解し、再び繋ぎ合わせ1つの答えらしきものを出していた。
「それってさ、その店が特別ってわけじゃないと思うよ」
「どうして?」
「多分。多分だけど、お姉ちゃんが知らなかったからだと思うよ。しばらく日本にいなかったから仕方がないとは思うけど」
「知らなかったって何を?」
さて、問題です。
祥子が体験した不思議な出来事の原因は何でしょうか?
答えを出してから次へ読んでいただければより一層楽しんでいただけるかもしれません。