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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
9・クライ
41/43

9-5 2:3→3:2

 正悟と祥子は野球場での観覧チケットを持っていなかった。花火が打ち上がっていては当日券も売り切れており、中に入ることはできない。

 花火大会も中盤に入っていよいよこれからが盛り上がる所なのだが、中にいる2人を呼び出して球場入口の前で待った。

 出てきて互いが互いに気付いて、最初に言葉を発したのが柚里香だった。

「あれ、あの時のお姉さん……どうして?」

 待っている3人の中でも頭一つ分高い祥子が目立っていた。薫子が代わりに答える。

「偶然途中で会ったのよ。それでせっかくだからということでね。それにしても柚里香、本当なの?」

「えっ、あ、うん」

 思い出したように急に下を向いた。薫子や正悟をチラ見する。わかっていても人の目の前で言うのはさすがの柚里香も恥ずかしさが勝るようだった。そこに庄太郎が口を開いた。

「俺から言うよ。……もう聞いているとは思うけど、柚里香ちゃんと付き合うことになりました」

「……ました」

 互いに友人を前にして恥ずかしさはあるだろうが、それでもいつも通りに努めている庄太郎と抑えきれない柚里香。

「正悟」

「え?」

「ごめんな」

「どうして庄ちゃんが謝るの?」

「んー、とりあえず、一応な。そっちはどうだったんだ?」

 庄太郎が成果を聞いたのを合図に思い出した柚里香も加勢した。

「あ! そうだよ、薫子ちゃん酷いよ! 私たちを置いてけぼりにしちゃってさ。大変だったんだから!」

「ごめんね、柚里香」

「で、どうだったの? 薫子ちゃんも本当は正悟くんのこと好きだったんだよね? 成功したの?」

「成功……ねぇ……。目的達成という意味では成功かな。でも柚里香が思っているような告白してOKもらったとかではないからね。振られたし」

「え? 振られた、けど成功?」

「うわっ、お前振ったのかよ!」

 2人がそれぞれに驚き、それぞれに詰め寄る。

「振られたけど成功ってどういうこと?」

 「最初から振られるのが目的だったってことよ」

  「え? どうして振られるのが目的なの? 薫子ちゃん好きじゃなかったの?」

   「柚里香が想像している好きとはちょっと違うかな」

    「えー、わかんなーい。私にわかるように教えてよ」

     「また今度ね。落ち着いたら話すから」

「おい、正悟。お前どうして振ったんだよ。振る理由なんてないだろ?」

 「うん、ちょっとね」

  「ちょっとね、じゃわかんねーよ。俺が見る限り嫌ってはなかっただろ?」

   「うん。嫌いじゃないよ」

    「じゃあ付き合えよ! せっかく告白されたってのに。度胸なさすぎだろ」

     「そう、だね。もうちょっと度胸があれば違ったのかもね」

 正悟と薫子の微妙な態度に2人は納得がいかなかった。まるで何か口裏を合わしているかのようだが、それにしても背景が全く見えてこない。

「でもね、私は柚里香が幸せになってくれてとても嬉しいよ」

 煮え切らない返事にムズムズしていた柚里香だったが、本心ととれる薫子のこの一言で簡単にいつもの姿に戻ってしまった。

「ありがと。にゅふ、じゃあ、私がもっと薫子ちゃんを幸せにしてあげるね!」

「うん。期待してるね」

 そこに最後のラストスパートで花火が一斉に打ち上がった。

 目に鮮やかな光の花が激しい音と共に次々と夜空に咲く様は今夜誕生した2人を祝福するには十分だった。



 花火大会が終了し、久しぶりの暗闇に包まれた。他の大勢の客は駅や駐車場へ向かう足でごった返していた。

「帰りましょうか」

 薫子が言った。

「そうだね。もういい時間だし」

「だな。えーと、2人は電車?」

「ううん。私たち市内だから歩いてきたの。ちょっと遠いけど」

「そうだったんだ」

「庄ちゃん、聞いてなかったの?」

「聞くも何も今日は花火が主役だったから見入ってあまり話す時間もなかったんだよ」

「まだお互いの事は色々知らないだろうから、これから色々中を深めればいいんじゃないかな。ね、柚里香?」

「うん。……そうだ、じゃあ連絡先を交換しないとね」

「ああ、そうだな」

「それもまだだったんだ……」

 そして無事に携帯の番号とアドレスを交換し合い帰ることになった。

「お姉ちゃんも電車で着たの?」

「ううん。私は車。ちょっと遠くの駐車場なんだけど」

「そっか、じゃあ庄ちゃんも一緒に乗ってく?」

「え、いいの?」

 このやり取りを薫子は見逃さなかった。

「でもせっかく恋人同士になったんだから今日は柚里香の家まで一緒に帰ったらいいんじゃない?」

「あーそっか。せっかくこっちまで来てるからな」

 庄太郎が悩んでいるのを一同が注目しているのを機に薫子は正悟の袖を引っ張り耳打ちした。

「あんたバカじゃないの。今彼女がどんな顔したのか見てた? こっちは3人で帰るからそっちは2人だけで帰りなさい。いい? 今日が最後で最大のチャンスだからね。私の告白を無駄にしないでよね」

 これまでにないドスの効いた声で薫子が本気で怒っていた。そして正悟を開放し、またいつもの表情に戻した。

「せっかくだから一緒に2人で帰った方がいいと思うな」

「え、でも薫子ちゃんが……」

「私は気にしないで。2人の斜め後ろからくすぐったくて甘い会話を聞いて1人ムフフしてるから」

「にゃ、なにそれー! ……どうする?」

「じゃあ、家まで送るよ」

「うん。ありがと」

「はい! じゃあ決まりね。じゃあ私たちはこっちへ歩きだから。お2人様は車で帰る。それでいいよね。じゃあ、帰りましょうか!」

 どうしてもこの場を早く切り上げたい薫子。自ら仕切って強引に解散をした。

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