1-3 証拠
頬を伝う汗。果たしてその原因は背に当たる夕日かそれとも3人が自分に集める視線か。
正悟は1回つばを飲み込んでゆっくりとまず駐在に向かって話し始めた。
「おまわりさん、警察手帳を見せくれませんか?」
「手帳? いや、これはみだりに人に見せるものではないよ」
「でもさっき祥子お姉ちゃんには見せたはずですよね? この誤解を解くには必要なんです。お願いします!」
さりげなく核心をついた言葉と深々と頭を下げた正悟に面を食らい、駐在は3人に見せるように示した。正悟は自分の学校の生徒手帳を取り出して対になる様に持ち上げて見せながら話した。
「ありがとうございます。……警察手帳ってね、昔はこの生徒手帳みたいな横開きだったんだけど、今はこの上下に開くタイプなんだよ」
「え、変わってたの!?」
やっぱり、と顔で表す正悟。推理はビンゴだった。
「身分証明を求められてお姉ちゃんはおまわりさんの身分証も確認しようとしたんだよね。でもお姉ちゃんは12年間日本にいなかったわけだから変わったのを知らないと思ってさ。ほら、最近昔の刑事ドラマを放送しているけど、今と比べると映像の差もあるけど、手帳の差もあって懐かしさが増すよね。手帳が変わったせいでおまわりさんを偽物と判断するには十分かなって思って」
事実、2002年に警察手帳は新しくなっている。その場の全員が理解した。
「すごーい! すごいね、正悟くん。かわいい上に賢いなんて最強の組み合わせじゃない!」
祥子の本日2度目となる抱擁を受けた正悟。真正面から乳圧を顔で受け止めた。襲撃に備える余裕もなく再び強烈なフェロモンを吸い込んでクラクラしてきた。
「もー、照れちゃって。でもそんな正悟くんも好きだな。今度一緒に遊びに行こうね!」
そう一方的に両手を握りしめて祥子は約束を取り付けるのだった。
そんな感動的なシーンにしたい祥子の意に反して朝子が口を入れた。
「ほら、祥子ちゃん。せっかく戻ってきたんだから早く帰りなさい。もういいでしょ、平塚さん?」
「え? はい、どうぞ」
「ありがとう、おばさん。それに、正悟くん。ごめんなさいね、刑事さん。じゃあ、落ち着いたら必ず顔出しますから!」
下に置いた荷物を持ち直し、祥子は家へ向かおうと背を向けた。そしてすぐに振り返った。
「ところで、私の家ってどこでしたっけ?」
3人の呆然とする顔と1人のぶりっ子の姿がそこにあった。
1・ショウコ 完