表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
9・クライ
38/43

9-2 暗くなって

 日は落ち、周囲は暗闇に支配された。それでも屋台の強烈な灯りと人々の熱気が会場を盛り上げていた。

 そんな人で混みあっている中を縫うように歩き続ける2つの人影があった。

「ねえ、どこに行くの?」

 1人は143cm、もしかしたら現在期待を込めてもう少しは伸びているかもしれない湯谷正悟。

「ひみつ」

 そして正悟の前を歩き、手を引っ張っているのは身長差10cm以上ある小宮薫子だった。


 少し前まで、正悟、庄太郎、柚里香、薫子の4人はトイレに向かっていた。

「混んでるから集合はあの街灯にしましょ」

 薫子がそう言って、男女2人ずつに別れた。

 男サイド。大でなければ並んでもいない。2人は並んで小便器の前に立った。

「お前、いつの間にあんなかわいこちゃんたちと仲良くなったんだよ」

「あそこまで仲良くなった覚えはないんだけど……」

「柚里香ちゃん、だっけ? 絶対惚れてるよな。それに薫子ちゃん……だっけ? 彼女も気があるよな。ありゃ、不貞腐れている顔だよ」

 鋭すぎて正悟は何も言えない。庄太郎の方が名探偵なのではないかと思ってしまう。

「詳しい話は知らないけど、一つだけ言えることがある」

「?」

「二股はやめとけよ」

「しないよ! っていうか、そんなんじゃないよ!」

「あははは」

 見事にからかわれている正悟だった。2人は手を洗い、シャツで手を拭いて、目的地に向かう途中――

「……ちょっと、大きい方もしたくなった」

「ん? じゃあ、先に行って待ってるよ」

「お願い。ごめん」

正悟がトイレに留まり、庄太郎が集合場所へ向かった。

 一方、女性サイド。前に6人並んでおり、7・8番目に加わった。

「今日は忘れられない花火大会になったんじゃない?」

「うん! 正悟くんに会えるなんて本当についてるよね!」

「柚里香は彼のことが好きなんだね」

「んー、あの時はよくわからなかったんだ。助けてくれた感謝の気持ちというか、ヒーローみたいでかっこよかったというか、すごいなーって気持ちでいっぱいで夢中だったんだけど、こうして再会してみるとその時の気持ちの整理ができて、あの時会ってから謎を解いているのを見ているうちに好きになっちゃったんだなーって思ったの」

「柚里香はどんなところが好きなの?」

「えっと、かわいくて、かっこよくて、やさしいところ!」

「そっか。確かに彼はそうだもんね」

「……薫子ちゃんは?」

「私?」

「薫子ちゃんも正悟くんのことが好きなんだよね?」

 そこでようやく自分以外の気持ちに気付いた顔をした柚里香。今かよ、というツッコミはさておき、それほど柚里香は自分の気持ちに素直なのだ。好きだから近くにいたい、もっとお話をしたい。結果的に薫子を置いてけぼりにしたが、こんな純な子も今時めずらしい。

「そんな風に見える?」

「んー、だってあの時さ、私すごくびっくりしたんだよ? 薫子ちゃんがあそこまで積極的になったの初めて見たもん」

「アレは……どうかしてたのよ。うん、あんな非日常な場所でどうかしてたの。だから今は柚里香のために頑張るから」

「え? う、うん。ありがとう」

 事実を認めつつその気はなかった発言と応援発言、2つの告白に柚里香は戸惑いをみせながらも礼を言った。

 そして順番が回ってきて、柚里香が先に個室に入ったのを見ると薫子は1人黙ってその場を離れた。入口を出ると「小宮さん」陰から声をかけられ、期待していた主が姿を見せた。「ねえ、これって――」続ける正悟の手を取り、薫子はそのまま街灯とは別方向に歩き始めた。


 最初は引っ張られていた正悟だったが、道幅が広がると後ろから横に並んで歩いた。2人は会場を後にした。花火の打ち上げ時間が刻々と近づいており、人の流れに逆流しているが2人の間は絶対に通さない。汗ばむ手を握り返すことなく、会話もなく、ただ歩き続ける。

 正悟の目に映るは薫子の後姿とこちらに向かって足を進める群衆。人々の熱気と磯の香を乗せた潮風。そして会場を出て10分ほど経ち、1つの目的地と思われる場所に着いた。

「……神社?」

 10分ぶりに見た薫子は無表情とも何かの感情を出しているとも言えない顔をしていた。黙って縦にうなずく。

 そこで正悟の携帯が鳴った。見ると庄太郎からだ。こうやって2人で抜け出したわけだから掛かってくるのは当然だ。電話に出ようとした正悟の腕を薫子がつかんだ。

「ダメ。切って」

「え……でも……」

「お願い。切って」

 奪って切るわけでも声を上げるわけでもなく懇願する姿に押されて正悟は鳴り続ける携帯を切った。

「ありがとう」

 それだけでひどく感謝してくる薫子の姿に正悟はドキリとした。これから何が起こるのか。膨らむ不安の中、2人は階段を上がった。



「……切られた」

 携帯片手に庄太郎がつぶやく。

「え!? ……薫子ちゃんのも通じない!」

 抜け駆けした2人に置いてけぼりにされたのは庄太郎と柚里香。街灯の下で待つも一向に現れない正悟に電話をするも切られてしまった。いくらトイレが長いといっても10分はかからないはず。そして一緒に並んでいた薫子も同様でトイレだけなら長すぎる。集合場所を決めていたわけだから迷う事もないだろう。となるとそうではないと願いたいが、考えられる答えは1つしかない。

 しかし、それにしても常に4人一緒で行動していたのにどうやって互いに落ち合うことができたのだろうか。話を聞いていると、先にトイレを出ることができたのは正悟のはず。庄太郎を先に出させて、別の所に隠れて、1人で出てきた薫子を捕まえるといった作戦だろうが、そんな情報伝達を――

「あっ」

 庄太郎が何かを思い出した。それはちょっとだけ不思議に思っていたパペットの件だった。トイレに行く途中で薫子が正悟のパペットに気付いた。どうやらゲーセンの事件でもあのクマがキーになっていたらしい。そのパペットを借りて、先に柚里香が、次に薫子がつけた後正悟に返した。そのパペットに紙なんかを忍び込ませて、何か入っている正悟に気付かせてこっそり読ませる――それなら十分何かを伝えることができる。

 正悟が積極的に行動するとは思えない。この騒動も薫子が計画したはずであれば、この作戦が可能な犯人は薫子だけである。つまり、薫子は正悟と2人きりになりたいがためにこんな仕掛けを――

「マジかよ」

 そこまで考えて、大人しそうにしているが虎視眈々と狙っていた薫子に恐怖を覚えた。そして切られた携帯が意図しているのは……かなり危ないことが起きるのを予知している。柚里香が散々アプローチしているのを見て、妬んだ薫子が大胆な行動に移しているのかもしれない。正悟は押しに弱そうだから何かされたらきっと流されるがままに――

「ねえ、さっきからどうしたの?」

「えぇ!?」

「とても怖い顔して考えちゃって。どうしたの?」

 察するに、柚里香はまだそこまで考えるに至っていない。

「正悟くんもそうだけど、薫子ちゃん遅いよね。……あれ、これってもしかして……?」

 訂正。もう柚里香は勘づいている。

「あのさ、ちょっと向こうで休憩しようか?」

「え、だって……。ねえ、もしかして薫子ちゃんたちって、もしかして今2人でいるのかな?」

「えーと、どう、なの、かなぁー?」

 自然とわからなそうな演技もこの場では辛い。流石の柚里香も庄太郎の反応に気付いたようだ。

「ねえ、何か知ってるの? 教えてよ。ねえ、教えて!」

 必死になる柚里香の顔をこれ以上見ないわけにもいかず、庄太郎は1つの仮説を話した。なんだか想像できる判決結果をあえて口にしなければいけないのがまことに耐えがたい。聞いているうちに柚里香の表情も硬くなっていった。

「――という可能性があるかもしれない」

 可能性。あるかもしれない。そんな言葉を最後に添えた所で何かが和らぐわけではない。友達に裏切られたわけだから、ここで何をされても仕方がないと思っていた。しかし故里香の最終的な結論は意外なものだった。

「そっか。やっぱり薫子ちゃんも正悟くんのことが好きだったんだね。にゃはは、見事に一本とられたなー。薫子ちゃんって私より頭いいから、頭がいい同士でお似合いなのかもしれないね」

 笑っていた。それがとても強引なものであるのもすぐにわかったが、柚里香はこの選択肢にしたようだ。目の前で覚悟していた庄太郎はいずれにせよ選んだ答えを受けとめるつもりだった。

「でも小野さんとの2人で話していた時の正悟も楽しそうだったよ? 俺は見ていてめちゃくちゃ羨ましいと思ったよ」

「ありがとう。庄太郎くんはやさしいね」

「よくわかったね。そうなんだよ、よく言われるんだ」

「もう! 私ナルシストの人嫌いなの!」

「あはは。ごめんごめん」

 つたない冗談にもうまく乗ってくれた。気持ちは完全に折れてない。

「ありがとうね。わざわざ気遣ってくれて。……よーし、こうなったらこっちも頑張るしかないね!」

「え?」

 頑張って何をするのか。そんな質問が庄太郎の頭の中をよぎった。

「あ、んーとね、さっきとっておきの場所があるって言ったでしょ? 実は野球場なんだ。応援席を開放してるの」

「でも、そこって有料じゃないの?」

「そうなんだけど、私たちはもうチケット持ってるの。それとお父さんが係員をしてるからちょっとお願いで貰っちゃおうというわけ。だから、しっかり花火見ようね!」

 なんだ、花火ね。言葉にしにくいことを考えてしまった庄太郎は自分自身をひどく叱るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ