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チュウニでショウゴ  作者: いちの くう
8・ボウソウ
36/43

8-4 顔から火が出る

 房総半島に位置する千葉県。東京湾から流れる潮風を受けるその街にある騒動が起きているお宅がありました。

 湯谷家。築15年の比較的真新しい家々が立ち並ぶ住宅地の中、この家で起きている騒動とは――


『case1 男の娘がいる家』


「きっかけは2週間くらい前かな。正ちゃんが出す水平思考の問題が解けなくて、とてもかっこよかったんだけどどこかに悔しさがあったんです。だから多少のウソはついてでも何としてでも勝ちたいと思って、あの手この手で難しい問題を用意しました」

 その日、湯谷家の中学2年生になる1人息子の正悟くんが家にいると、近所に住む匠が家にやってきました。

「正ちゃん、勝負よ!」

「えぇ!?」

 抜き打ちの先制攻撃には成功しましたが、その後見事な推理力で正悟くんが勝ち、匠は負けてしまったのです。しかし匠は諦めてはいませんでした。油断した正悟くんの言葉をきっかけに勢いを取り戻した匠は引きずり込んだのです。

「んー、サイズも完璧。私の勘も捨てたもんじゃないわね」

 なんということでしょう!

 それまで中学2年生ながら小学5年生のような小さな男の子でしかなかった正悟くんが……セーラー服を着るだけで綺麗な女の子になったではありませんか。

「正ちゃんとても似合ってる。まさかここまでとは思わなかったけど」

「あんまり見ないでよ~」

 顔を赤らめながらモジモジとする仕草もこの状況では女子力アップというもの。素材の持ち味を出すのも匠の技の見せ所です。そこでまじまじと見ながら匠はあるものを取り出しました。果たしてそれは――


「スクールバッグですかねぇ?」

「まだ女子力がアップする要素があるんじゃない? 化粧とか」

「あー、なるほど!」

「でも中学生がお化粧するかね?」

「あ、そっかー。じゃあ、何ですかね?」

「それを考えるのが仕事なんでしょ」


「ちょっ、お姉ちゃん、何それ!」

「え、コレ知らない?」

「カツラでしょ? え、それって、まさか――」

「そ。私じゃなくて、正ちゃんのウィッグよ。……せっかくだから正子ちゃんにする?」

「や! やめてよー」

 匠が取り出したのは正悟くん用のウィッグでした。小柄でまだ幼さが残る正悟くんでしたが、男の子らしい短髪がややネックに感じていました。匠はそこまでを予想してあらかじめ用意していたのです。

 二の腕にかかるまっすぐに伸びた黒髪をくすぐったそうに首を振る正悟くん。しかし既に容姿は女の子でした。

「正ちゃんって……男の子だったんだよね?」

「今も男だよ!」

 そう力説する正悟くんも自分の見慣れない姿に何度も鏡を見返します。髪の毛を気にする姿は枝毛を気にする女子そのもの。ノーメイクのウィッグだけでここまで女の子になるとは匠自身も、そして正悟くん本人も驚きを隠せません。

「なんだか正ちゃんが怖くなっちゃった。目覚めさせちゃいそう」

「そっ、こんなの好きになるわけないじゃん。変なこと言わないでよね」

「……意外と気に入ってたりしない?」

「ぜっ、絶対にない!」

 そこまで頑なに言われると匠の本気モードに火が付きました。そしてそれは正悟くんを最終進化へと迎えるフラグだったのです。


「ウィッグかー!」

「でも次にいよいよ化粧が出てきそうじゃない?」

「そうですね。次こそはそうかもしれませんね」

「だとするとセーラー服じゃなくて濃いメイクが似合いそうな服とか。2着あるって言ってたし」

「あー、それです! 絶対そうですよ!」

「さっきから君全然推理してないけどね」


「これなんかも絶対似合いそうだけどね」

 匠が取り出したのは黒ベースに白いフリルがついたゴシックワンピースでした。

「それで、化粧をしたら絶対に、どこから見ても正ちゃんだとはばれないわ」

 完成してからのお楽しみ、と匠は鏡から正悟くんを外して、バッチリメイクを始めました。特にアイメイクは重要で、それだけで30分はかける念の入れよう。そしてゴシックワンピースに袖を通させて――

 なんということでしょう!

 子供らしからぬ目力のあるギャル風の濃いメイクに黒のベースのゴシックワンピース。ケバさはありますが、それによってもう正悟くんをイメージさせるものは消えていました。

「化粧の力ってすごいね」

「もうお嫁に行けない……」

 半分ノリで、半分現実をしっかり残している正悟くんはうなだれてその場に座り込んでしまいました。



「これなら誰も正ちゃんだって気付かないよね」

「……否定はしないけど」

「……じゃあ、そのまm――」

「これ以上何かしようとしたら怒るからね」

 ちょっと、いや化粧でかなり可愛らしさが勝っているが、だいぶお怒りモードの正悟を見てこれ以上の悪ふざけはできなかった。外に出れないなら色々言ってほしい台詞もあったのだが、それも難しそうだ。そして祥子の匠タイムが終わったところで室内がいつもの空気に戻った。

 正悟は着替えて化粧を落とし、いつもの状態に戻った。

「ここまでやって言うのも何だけど、やっぱりこっちの正ちゃんが私は好きだな」

「……言うの、遅いよ」

 何はともあれ祥子の暴走も無事収まり、日は少しずつ傾いていった。




 8・ボウソウ  完

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